アルカポネとただの料理人

AAKI

文字の大きさ
上 下
16 / 39

Menue2-5

しおりを挟む
 白熱した会議で疲弊し焼き付いた場を、たった一枚のピザがアンジェラを含めてほぐし再結集させしまう。それはまるで、様々な食材を一個の世界観にまとめることのできるピザ。

「まぁ、空腹には敵わんというわけですな」

 次に流れを理解したのは、顔立ちこそ他の兄妹に似ているが冷静な目をした男だ。長男ピーターであり、その冷静沈着な瞳に最凶の知性を秘めている。

 そんなピーターがピザを手にとって食べ始めたので、他の兄妹も何も言えず各々が手に取る。

「では、ご堪能ください」

 鼻息を吐いて、エポナは満足げに言うのだった。

 持ち上げるだけでドロリと垂れる生地と、滴り糸を引くプロセスチーズ。それらは乙女の柔肌の感触を思わせ、流れ出る雫のように思える。

 こう説明すると食欲を無くしそうなのでほどほどにして、各食材ごとの評を見ていこう。

 まずシンプルにサラミとトマト。

「なんというか、暴力的だな。いや、不味くはないんだけどよ」

「チーズとトマトが合うのに、さらに肉とトマトも手をつないでいて、美味しいの嵐が……!」

 カポネとトーリオの評価は上々で、彼らの口内で味覚の三合会が手を取り合い仲良くゴールを決めた。

 続いてはオバニオンが食べているジャガイモと卵のスペースで、もったりとした食感と格闘している。

「ジャガイモと茹で卵か。凄いボリュームだ。後、マヨネーズかこれは?」

 オバニオンは童顔をハムスターのように膨らませて、モゴモゴと言った。なんだかんだで手のひらサイズはあるであろう1ピースを平らげた。

 サラミ・アンド・トマトもだが、ピザというのはカロリーの塊である。

「男どもが顔を突き合わせてるんだ。ピッツァのようなお高く止まったものじゃ満足できないだろ」

 だが、それが良い。時には、こうした不健康なものを楽しむのも良いではないか。

「そうだな。いやぁ、悪くないな。淡白な2つの素材をマヨネーズががっちり掴んで離さない」

 オバニオンは納得したように答えた。どいつもこいつも素直に褒めないなと、エポナは内心で呆れる。

 特に、ジェンナ兄妹などどうだ。

「……」「……」

 長男ピーターと次男サムは、冷ややかな目をしながらも度々うなずいている。貝とピーマン、玉ねぎのピースをお気に召したようだ。

「んん、ん、うん」

 言葉こそ無いが、三男ジェームズは貝の不思議な食感に舌鼓を打っている。

「いや、これは。うーん、しかし……」

 四男トニーは、それぞれを少しずつ分けてもらって食べ比べのようである。認めたくはないが、それでも本能は正直だと言ったところか。

 その奇妙なせめぎ合いは見ていてい滑稽で、ニヤけてしまうのを堪えるのが大変だった。。

「ケッ」

 態度は悪いものの、なんだかんだで1ピースをペロッと食べ終えて2つ目に手を伸ばしているあたり、五男マイクもなんだかんだで気に入っているらしかった。

「むぅ~ッ! どれも選び難いね! あぁぁぁぁぁッ!」

 そんな中で、3種類を交互に貪り人一倍喜んでいるのが末子アンジェラ。奇声まで発して食べる様はいささか怖い。

 それでも喜んで食べてくれるのは嬉しいわけで、エポナはちょっと表情をほころばせて見つめる。すると、アンジェラも視線に気づいて見てくるのだ。

「エポナだっけ? イヤリングとかもだけど、女みたいだね」

 女性のアンジェラにそう評されるのだから、どことなく雰囲気を出してしまっていたのだろう。しかし、ここまで欺いてきてバレるわけにもいかなかった。

 エポナはなんとか誤魔化そうとして口を開く。

「女っぽくて悪いかよ」

「ヒュッヒュヒュ。そうは言わない、というかそうだったら良かったなぁって」

 エポナが少し威嚇するように言うと、アンジェラから思わぬ返事がきて拍子抜けしてしまった。

「こんな美味しいご飯を作れるなら、友達になりたかったんだけどね。いや、別に男でも良いからお友達になろうよ」

 続く言葉もあっけらかんとしており、エポナはさらに言葉が出なくなる。

「お前……友達は選べって。そいつは人参頭だぞ?」

 率先してそれを気にするのはマイクだった。見た目を馬鹿にするという、最もやってはいけない忠告まで入れて。

 友達申請してくれているアンジェラの前でなければ、彼女の兄であってもこの場で殴り飛ばしていたかもしれない。

「クヒュヒュッ。マイクにーちゃん、そりゃケチってもんだよ。裏通りのおばさんがやってるお店ぐらいケチくさいよ」

「ぐぬ。あそこと比べるかよ……」

「え、あそこってそんなにケチなのか? あぁ、いや、続けてくれ」

 アンジェラの指摘に、マイクとエポナは別々の反応を示した。直ぐに気を取り直すも、奇妙な視線を受ける羽目にはなった。

 近場にある小売店なので行く予定だったのだが、店員の態度が悪いなら考えものである。妹の方が何かと立場が強いようで、マイクも引き下がらざるを得ないらしい。

「チッ……アンジェラが言うなら仕方ねぇ。けどな、妹に手ぇ出してみろ!」

「お、おう……」

 妹思いと言うべきか、手を出せばどうなるかぐらい言われずともわかっていた。

「当然だ。私だって顔の穴を増やされたくはないからな」

 毎度の同じようにエポナは両手を上げて、聖書に手を添えて宣誓したい気持ちで答えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

紫苑の誠

卯月さくら
歴史・時代
あなたの生きる理由になりたい。 これは、心を閉ざし復讐に生きる一人の少女と、誠の旗印のもと、自分の信念を最後まで貫いて散っていった幕末の志士の物語。 ※外部サイト「エブリスタ」で自身が投稿した小説を独自に加筆修正したものを投稿しています。

なよたけの……

水城真以
歴史・時代
「思い出乞ひわずらい」の番外編?みたいな話です。 子ども達がただひたすらにわちゃわちゃしているだけ。

華闘記  ー かとうき ー

早川隆
歴史・時代
小牧・長久手の戦いのさなか、最前線の犬山城で、のちの天下人羽柴秀吉は二人の織田家旧臣と再会し、昔語りを行う。秀吉も知らぬ、かつての巨大な主家のまとう綺羅びやかな光と、あまりにも深い闇。近習・馬廻・母衣衆など、旧主・織田信長の側近たちが辿った過酷な、しかし極彩色の彩りを帯びた華やかなる戦いと征旅、そして破滅の物語。 ー 織田家を語る際に必ず参照される「信長公記」の記述をふたたび見直し、織田軍事政権の真実に新たな光を当てる野心的な挑戦作です。ゴリゴリ絢爛戦国ビューティバトル、全四部構成の予定。まだ第一部が終わりかけている段階ですが、2021年は本作に全力投入します! (早川隆)

戦国乱世は暁知らず~忍びの者は暗躍す~

綾織 茅
歴史・時代
戦国の世。時代とともに駆け抜けたのは、齢十八の若き忍び達であった。 忍び里への大規模な敵襲の後、手に持つ刀や苦無を筆にかえ、彼らは次代の子供達の師となった。 護り、護られ、次代へ紡ぐその忍び技。 まだ本当の闇を知らずにいる雛鳥達は、知らず知らずに彼らの心を救う。 しかし、いくら陽だまりの下にいようとも彼らは忍び。 にこやかに笑い雛と過ごす日常の裏で、敵襲への報復準備は着実に進められていった。 ※他サイトにも投稿中です。 ※作中では天正七年(1579)間の史実を取り扱っていくことになります。 時系列は沿うようにしておりますが、実際の背景とは異なるものがございます。 あくまで一説であるということで、その点、何卒ご容赦ください。

思い出乞ひわずらい

水城真以
歴史・時代
――これは、天下人の名を継ぐはずだった者の物語―― ある日、信長の嫡男、奇妙丸と知り合った勝蔵。奇妙丸の努力家な一面に惹かれる。 一方奇妙丸も、媚びへつらわない勝蔵に特別な感情を覚える。 同じく奇妙丸のもとを出入りする勝九朗や於泉と交流し、友情をはぐくんでいくが、ある日を境にその絆が破綻してしまって――。 織田信長の嫡男・信忠と仲間たちの幼少期のお話です。以前公開していた作品が長くなってしまったので、章ごとに区切って加筆修正しながら更新していきたいと思います。

焔の牡丹

水城真以
歴史・時代
「思い出乞ひわずらい」の続きです。先にそちらをお読みになってから閲覧よろしくお願いします。 織田信長の嫡男として、正室・帰蝶の養子となっている奇妙丸。ある日、かねてより伏せていた実母・吉乃が病により世を去ったとの報せが届く。当然嫡男として実母の喪主を務められると思っていた奇妙丸だったが、信長から「喪主は弟の茶筅丸に任せる」との決定を告げられ……。

東海敝国仙肉説伝―とうかいへいこくせんじくせつでん―

かさ よいち
歴史・時代
17世紀後半の東アジア、清国へ使節として赴いていたとある小国の若き士族・朝明(チョウメイ)と己煥(ジーファン)は、帰りの船のなかで怪しげな肉の切り身をみつけた。 その肉の異様な気配に圧され、ふたりはつい口に含んでしまい…… 帰国後、日常の些細な違和感から、彼らは己の身体の変化に気付く――― ただの一士族の子息でしなかった彼らが、国の繁栄と滅亡に巻き込まれながら、仙肉の謎を探す三百余年の物語。 気が向いたときに更新。

密会の森で

鶏林書笈
歴史・時代
王妃に従って木槿国に来た女官・朴尚宮。最愛の妻を亡くして寂しい日々を送る王弟・岐城君。 偶然の出会いから互いに惹かれあっていきます。

処理中です...