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1話目・いやいや潜入取材とか聞いてないですよ!ちょっと特ダネを取れたことがあるからって過信し過ぎですって。これだから男の人って・・・。
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「潜入取材、ですか?」
沖 真清が目の前の男性に返事できたのはそれだけだった。他にも単語は並んでいたはずだが、印象に残った中で拾い出せたのはその言葉だけである。
まだ学生のようにさえ見える小柄で童顔な少女。いや女性には、似つかわしくない単語ではないだろうか。
「そうだ」
真清を呼びつけた男は雑誌社の編集長である。短いセリフで理解を手助けしようとしてくれるくらいには、体育会系な見た目に似合わず優しい人物だ。
どうやらゴシップ雑誌の表紙を飾るうすらボケた文字列に類するものではないらしい。真清は、生まれつき細い目蓋に隠れた視線をややパーテーションの向こうにあるオフィスへとやった。
「女性専用特区の、な」
「檻……いえ、“バステス”でしたか」
編集長の口から改めてその名前が出て、真清は蔑称の方を答えてしまう。直ぐに俗称に訂正。
1年前、首都郊外に作られた『女性だけの街』のことだ。
騒ぎとなった反面、一部からは権利構造にうるさい女性を隔離してくれることから『檻』ないしは『オリク』などと呼ばれている。
表向きは男性からの暴力を受けた人たちの駆け込み寺みたいなものという話だが、内情の黒い部分もなんだかんだとウワサになっている。
「名前はさておき、ホントのところはどうなってるのか皆、興味津々さ」
編集長の言うところはわかった。しかし疑問も残る。
「どうして私なんでしょう?」
真清は外していた視線を正面に戻して素直に聞いた。意図をくんでそこまで説明してくれる気配がなかったからである。
ゴシップ系がメインの雑誌とは言えマスコミ業界でも中堅会社だ。女性の記者だっていくらかいるというのに、なぜネットで活動していた程度のフリージャーナリストに声がかかったのか。『オリク』についてのウワサ自体が、精神障害者の与太話である可能性もあるからだろう。
「そりゃ、なんつーか、持ってると思ってよ」
「……」
予想違いだった。いや、勘と言えば何でも許されるわけではない。真清は内心で編集長の答えに毒づいた。
「この前のことなんでしょうけど、あれは私一人でやったわけでは……」
真清に思い当たるのは、この会社との縁ができるようになった記事の一件だ。
「仕事を回してくださってありがたいんですが、そのぉ」
無根拠な期待をどう躱そうかと思案するも、詳しいことを話せない。とりあえず、運やツキを掴み取るまでの時間をどうするかというのも実力だということなのだろう。
「まぁまぁ、ヤバいと思ったら普通に取材してくりゃ良いからさ。頼む、この通り」
編集長は年寄り臭い片手を上げて拝む姿勢をとって、真清に頼んできた。
「はぁ……わかりました」
頭を下げられた程度で引き受けてしまったのは、まだ楽観的に考えていたのかそれとも好奇心が勝ったからだろうか。
沖 真清が目の前の男性に返事できたのはそれだけだった。他にも単語は並んでいたはずだが、印象に残った中で拾い出せたのはその言葉だけである。
まだ学生のようにさえ見える小柄で童顔な少女。いや女性には、似つかわしくない単語ではないだろうか。
「そうだ」
真清を呼びつけた男は雑誌社の編集長である。短いセリフで理解を手助けしようとしてくれるくらいには、体育会系な見た目に似合わず優しい人物だ。
どうやらゴシップ雑誌の表紙を飾るうすらボケた文字列に類するものではないらしい。真清は、生まれつき細い目蓋に隠れた視線をややパーテーションの向こうにあるオフィスへとやった。
「女性専用特区の、な」
「檻……いえ、“バステス”でしたか」
編集長の口から改めてその名前が出て、真清は蔑称の方を答えてしまう。直ぐに俗称に訂正。
1年前、首都郊外に作られた『女性だけの街』のことだ。
騒ぎとなった反面、一部からは権利構造にうるさい女性を隔離してくれることから『檻』ないしは『オリク』などと呼ばれている。
表向きは男性からの暴力を受けた人たちの駆け込み寺みたいなものという話だが、内情の黒い部分もなんだかんだとウワサになっている。
「名前はさておき、ホントのところはどうなってるのか皆、興味津々さ」
編集長の言うところはわかった。しかし疑問も残る。
「どうして私なんでしょう?」
真清は外していた視線を正面に戻して素直に聞いた。意図をくんでそこまで説明してくれる気配がなかったからである。
ゴシップ系がメインの雑誌とは言えマスコミ業界でも中堅会社だ。女性の記者だっていくらかいるというのに、なぜネットで活動していた程度のフリージャーナリストに声がかかったのか。『オリク』についてのウワサ自体が、精神障害者の与太話である可能性もあるからだろう。
「そりゃ、なんつーか、持ってると思ってよ」
「……」
予想違いだった。いや、勘と言えば何でも許されるわけではない。真清は内心で編集長の答えに毒づいた。
「この前のことなんでしょうけど、あれは私一人でやったわけでは……」
真清に思い当たるのは、この会社との縁ができるようになった記事の一件だ。
「仕事を回してくださってありがたいんですが、そのぉ」
無根拠な期待をどう躱そうかと思案するも、詳しいことを話せない。とりあえず、運やツキを掴み取るまでの時間をどうするかというのも実力だということなのだろう。
「まぁまぁ、ヤバいと思ったら普通に取材してくりゃ良いからさ。頼む、この通り」
編集長は年寄り臭い片手を上げて拝む姿勢をとって、真清に頼んできた。
「はぁ……わかりました」
頭を下げられた程度で引き受けてしまったのは、まだ楽観的に考えていたのかそれとも好奇心が勝ったからだろうか。
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