ロスト・ワールド

さのさかさ

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10話 変化

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  ―ニックはルスの叫び声で目が覚める。

「兄さん。ねえ!返事をしてよ」
 
 意識が覚醒し始め、ニックは周囲を見回す。
 未だに部屋の中ではごうごうと強い風が吹いて、周囲のモノをことごとく吹き飛ばしていた。
 俺は夢を見ていたのか?
 さっきのは一体なんだったんだ……。
 考えても考えても、答えなんて出る筈もなく、ニックにはさっきの事が夢のように思えてならなかった。

「兄さん。ねえ!」

 ニックの胸の中でルスが暴れる。
 そうだ。今はそんなことを考えている場合ではない。

「わ……悪い。大丈夫、心配すんな」

「心配すんなって、さっきの叫び声はなんだったの?」

「叫び声?」

 自分が叫び声を上げたという記憶が一切残っていなかった。

「覚えてないの?やっぱりおかしいよ。というか怪我は?ガラスが刺さったりとかしてないの?」

 ルスがニックの胸を離れ背中に回り込むと、ペタペタと背中に怪我が無いか確認し始めた。

「おいやめろよ、ルス。大丈夫だって」

「ほんとだ……すごい」

 ルスは漏らすように感嘆する。
 しかし部屋の中では嵐のように風が吹き荒れており、いつ怪我をしても可笑しくない状況は続いていた。
 ルスはベッドの毛布を急いで持ってくると、ニックと自分の体に巻き付けた。

「これで、少しは防御できる……と思う」

「ああ、ありがとう」

 ニックは礼を言うと窓に視線を向けた。
 さっきまであったガラスの竜巻はなくなり、今は簡単に外に出られそうだ。
 しかし、風が邪魔をして上手く立ち上がることが出来ない。

「ゆっくり、窓の方へ行こう」

「うん。僕もそう思っていた所だよ」

 二人は微笑み合うと、胸をぺたりと床に付けうつ伏せの状態でゆっくりと窓に近づいていった。
 時間をかけて窓の下までたどり着くと二人は体に巻き付けた毛布を脱ぎ捨て、ガラスの無くなった木の窓枠に手をかけ、そのまま勢いよく外に飛び出した。

 二人が外に飛び出すと、家の外は嵐が去ったかのように森閑としていた。
 さっきまでいた自分たちの部屋に目を向けると、部屋の中はぐちゃぐちゃで見るに堪えない有様になっていた。自分たちがさっきまで、こんな所にいてたなんて信じられない。

「部屋の中、大変な事になってるね」

 ルスがぼそりと言う。

「ああ、すっごく楽しそうだ」

 ニックが皮肉交じりに吐き捨てると、二人は森の奥に視線を移し、そのまま走り出した。

「兄さん、これからどうするの?」

「わかんねえ。でも逃げないと、俺は殺されちまうからな」

 ニックは後ろをちらちらと何度も確認しながら森の中に向かって走り続ける。

「あのフードの男は何者なんだろう」

 ニックの後ろでルスが言う。

「それを言うなら俺らの母さんもだ。いったいあいつらは何者なんだよ。なんで今まで俺たちを育ててたんだ?なんで指輪をはめたやつを殺したがるんだ?それにあの部屋の中の嵐も意味わかんねえし」

「兄さん、ちょっと待って!」

 焦ったようにルスが叫ぶ。

「なっ、何だよ急に。あいつらが追ってきたのか?」

「ち、違うよ……その目……その目いったいどうしたんだよ……」

「えっ……?」







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