何も無い僕が貴方の完璧を守る

ゆきりんご

文字の大きさ
上 下
34 / 37

三十四話:デート2

しおりを挟む
案内されたのは、今まで入ったことのないカジュアルなお店だった。

「貴族の間で人気だとか流行ってるだとかのお店とも迷ったんだけど、シルヴァ君はそういうの苦手そうだなと思ってね。格式ばったところでマナーを気にして食べるよりも、楽しんで食べられるところが合ってるかなと思ったんだけど……どう?」
「いい、凄くいい」

リカルドが自信なさげに聞いてくるものだから、僕は力強く肯定した。僕が披露目会やお茶会で散々こういうのは苦手だ、と思っていたのが伝わってしまっていたらしい。まさかそんなことをくみ取ってくれるとは。

 お店の中で貴族らしい人は僕たちのほかには見当たらない。給仕の人が運んでいるものを見ると、頼んだものが全て一緒に出てくるシステムであるらしいことが伺える。普段の食事は一品ずつ出てくるし、披露目会の時のビュッフェ形式とも違う。新鮮だ。
 通されたのは、お店の奥の半個室席だった。

「良い雰囲気だね」
「気に入ってもらえたようで安心したよ。食事は頼んだら全部出てくるよ。お昼時にはセットメニューがあって、メインとスープが一緒になってるんだ。好きなメイン料理と三種類のスープから選べるみたいだね」
「へえ、面白い。コースと違って選ぶのが少なくて楽だね」

メニューを見るだけでもわくわくする。

「デザートもあるよ。シルヴァ君、甘いもの好きだよね。お茶会の時結構食べてたから」
「ばれてた?」

あの後ラルフにちょっと怒られたのだ。リカルドは何も気にしてないように見えたけど、あれではいけませんと言われて、殿下とのお茶会の時にはかなり自制した。

「可愛いなと思って見てた」
「殿下とのお茶会の時は控えたよ。もう次からは我慢するって決めたから」
「俺とのお茶会だったら我慢しなくていいのに」
「ラルフに怒られたんだよ」
「へえ、優しいだけじゃないんだ」
「ラルフは言う時は言うよ。でもそのほうがありがたいな。駄目なことは駄目って言ってくれないと、知らない間にモーグ家の評判を落とすかもしれないから」
「確かに。良い執事に恵まれたね」

決めたメニューを給仕に伝えると、また他愛もない話をした。毎日会っているのに、話の種は尽きない。僕はわりと話下手な自覚があるから、不思議なものだなと思う。殿下とのお茶会の時には、殿下が話題を提供してくださっていて、自分の会話能力の無さに絶望した。

 運ばれてきた料理は出来立てで暖かかった。僕が頼んだのはオムレツにソースがかけられたもの。お皿の端っこにジャガイモとニンジン、ブロッコリーが添えられている。一皿に料理がまとまっているのは目新しい。そしてトマトスープ。こちらにも野菜が沢山入っていて健康的だ。

「美味しそう。リカルドのはお肉?」
「そう。ハンバーグというのは、ひき肉をまとめて焼いたものらしいね。普段食べる肉はそのままの塊ばかりだから楽しみだ」

食前の祈りを捧げて、フォークを手に取る。口に運ぶ。

「「美味しい」」

声が揃った。

「卵の味付けとソースの味の組み合わせがいいよ。シンプルだけど美味しい」
「よく父上に連れていかれるお店よりずっと手頃なのに肉が柔らかくてふわふわしててすごいよ、これ。一口食べてみる?」

リカルドがお肉のささったフォークを僕の前に差し出す。

「良いの?」
「どうぞどうぞ」

フォークを受け取ろうとしたが、リカルドはフォークを離さなかった。そのまま食べさせるつもりらしい。仕方なく口を開ける。瞬間、じゅわっとお肉が口の中に広がった。

「どう?」
「美味しい」
「だよね。シルヴァ君の可愛い顔を見れて俺も満足」

瞬く間に料理は胃の中に消えていった。綺麗に空になったお皿が下げられ、デザートを頼む。

「それで、あんまり聞きたくないんだけど、学院を卒業したあとシルヴァ君はどうするの?」

「ディミニスに留学しようと思ってる。まだ父上を説得してる途中だけど、多分前向きに考えてくれていると思う」
「それでさっき書店でディミニス語の本を見てたんだ。魔術研究のため?」
「うん、まあ……」
「そっかぁ。てっきりシルヴァ君は王立図書館を目指すものだと思ってたけど。あるいは文官とかね。留学ねぇ」
「その後はまだ考えてないんだけどね。ディミニスの魔術塔に入るか、ヴァドワールに戻ってきてこっちの魔術塔に入るか」
「どちらにせよ魔術塔を目指してるんだ」
「うん。難しいとは思ってるんだけど」
「きっとシルヴァ君なら大丈夫だよ」

そこまで話すとデザートが運ばれてきた。イチゴとチョコレートのパフェ。リカルドはどうするの、とは聞きづらくなってしまった。またこの前みたいにはぐらかされてしまうような気もした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

処理中です...