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三十四話:デート2
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案内されたのは、今まで入ったことのないカジュアルなお店だった。
「貴族の間で人気だとか流行ってるだとかのお店とも迷ったんだけど、シルヴァ君はそういうの苦手そうだなと思ってね。格式ばったところでマナーを気にして食べるよりも、楽しんで食べられるところが合ってるかなと思ったんだけど……どう?」
「いい、凄くいい」
リカルドが自信なさげに聞いてくるものだから、僕は力強く肯定した。僕が披露目会やお茶会で散々こういうのは苦手だ、と思っていたのが伝わってしまっていたらしい。まさかそんなことをくみ取ってくれるとは。
お店の中で貴族らしい人は僕たちのほかには見当たらない。給仕の人が運んでいるものを見ると、頼んだものが全て一緒に出てくるシステムであるらしいことが伺える。普段の食事は一品ずつ出てくるし、披露目会の時のビュッフェ形式とも違う。新鮮だ。
通されたのは、お店の奥の半個室席だった。
「良い雰囲気だね」
「気に入ってもらえたようで安心したよ。食事は頼んだら全部出てくるよ。お昼時にはセットメニューがあって、メインとスープが一緒になってるんだ。好きなメイン料理と三種類のスープから選べるみたいだね」
「へえ、面白い。コースと違って選ぶのが少なくて楽だね」
メニューを見るだけでもわくわくする。
「デザートもあるよ。シルヴァ君、甘いもの好きだよね。お茶会の時結構食べてたから」
「ばれてた?」
あの後ラルフにちょっと怒られたのだ。リカルドは何も気にしてないように見えたけど、あれではいけませんと言われて、殿下とのお茶会の時にはかなり自制した。
「可愛いなと思って見てた」
「殿下とのお茶会の時は控えたよ。もう次からは我慢するって決めたから」
「俺とのお茶会だったら我慢しなくていいのに」
「ラルフに怒られたんだよ」
「へえ、優しいだけじゃないんだ」
「ラルフは言う時は言うよ。でもそのほうがありがたいな。駄目なことは駄目って言ってくれないと、知らない間にモーグ家の評判を落とすかもしれないから」
「確かに。良い執事に恵まれたね」
決めたメニューを給仕に伝えると、また他愛もない話をした。毎日会っているのに、話の種は尽きない。僕はわりと話下手な自覚があるから、不思議なものだなと思う。殿下とのお茶会の時には、殿下が話題を提供してくださっていて、自分の会話能力の無さに絶望した。
運ばれてきた料理は出来立てで暖かかった。僕が頼んだのはオムレツにソースがかけられたもの。お皿の端っこにジャガイモとニンジン、ブロッコリーが添えられている。一皿に料理がまとまっているのは目新しい。そしてトマトスープ。こちらにも野菜が沢山入っていて健康的だ。
「美味しそう。リカルドのはお肉?」
「そう。ハンバーグというのは、ひき肉をまとめて焼いたものらしいね。普段食べる肉はそのままの塊ばかりだから楽しみだ」
食前の祈りを捧げて、フォークを手に取る。口に運ぶ。
「「美味しい」」
声が揃った。
「卵の味付けとソースの味の組み合わせがいいよ。シンプルだけど美味しい」
「よく父上に連れていかれるお店よりずっと手頃なのに肉が柔らかくてふわふわしててすごいよ、これ。一口食べてみる?」
リカルドがお肉のささったフォークを僕の前に差し出す。
「良いの?」
「どうぞどうぞ」
フォークを受け取ろうとしたが、リカルドはフォークを離さなかった。そのまま食べさせるつもりらしい。仕方なく口を開ける。瞬間、じゅわっとお肉が口の中に広がった。
「どう?」
「美味しい」
「だよね。シルヴァ君の可愛い顔を見れて俺も満足」
瞬く間に料理は胃の中に消えていった。綺麗に空になったお皿が下げられ、デザートを頼む。
「それで、あんまり聞きたくないんだけど、学院を卒業したあとシルヴァ君はどうするの?」
「ディミニスに留学しようと思ってる。まだ父上を説得してる途中だけど、多分前向きに考えてくれていると思う」
「それでさっき書店でディミニス語の本を見てたんだ。魔術研究のため?」
「うん、まあ……」
「そっかぁ。てっきりシルヴァ君は王立図書館を目指すものだと思ってたけど。あるいは文官とかね。留学ねぇ」
「その後はまだ考えてないんだけどね。ディミニスの魔術塔に入るか、ヴァドワールに戻ってきてこっちの魔術塔に入るか」
「どちらにせよ魔術塔を目指してるんだ」
「うん。難しいとは思ってるんだけど」
「きっとシルヴァ君なら大丈夫だよ」
そこまで話すとデザートが運ばれてきた。イチゴとチョコレートのパフェ。リカルドはどうするの、とは聞きづらくなってしまった。またこの前みたいにはぐらかされてしまうような気もした。
「貴族の間で人気だとか流行ってるだとかのお店とも迷ったんだけど、シルヴァ君はそういうの苦手そうだなと思ってね。格式ばったところでマナーを気にして食べるよりも、楽しんで食べられるところが合ってるかなと思ったんだけど……どう?」
「いい、凄くいい」
リカルドが自信なさげに聞いてくるものだから、僕は力強く肯定した。僕が披露目会やお茶会で散々こういうのは苦手だ、と思っていたのが伝わってしまっていたらしい。まさかそんなことをくみ取ってくれるとは。
お店の中で貴族らしい人は僕たちのほかには見当たらない。給仕の人が運んでいるものを見ると、頼んだものが全て一緒に出てくるシステムであるらしいことが伺える。普段の食事は一品ずつ出てくるし、披露目会の時のビュッフェ形式とも違う。新鮮だ。
通されたのは、お店の奥の半個室席だった。
「良い雰囲気だね」
「気に入ってもらえたようで安心したよ。食事は頼んだら全部出てくるよ。お昼時にはセットメニューがあって、メインとスープが一緒になってるんだ。好きなメイン料理と三種類のスープから選べるみたいだね」
「へえ、面白い。コースと違って選ぶのが少なくて楽だね」
メニューを見るだけでもわくわくする。
「デザートもあるよ。シルヴァ君、甘いもの好きだよね。お茶会の時結構食べてたから」
「ばれてた?」
あの後ラルフにちょっと怒られたのだ。リカルドは何も気にしてないように見えたけど、あれではいけませんと言われて、殿下とのお茶会の時にはかなり自制した。
「可愛いなと思って見てた」
「殿下とのお茶会の時は控えたよ。もう次からは我慢するって決めたから」
「俺とのお茶会だったら我慢しなくていいのに」
「ラルフに怒られたんだよ」
「へえ、優しいだけじゃないんだ」
「ラルフは言う時は言うよ。でもそのほうがありがたいな。駄目なことは駄目って言ってくれないと、知らない間にモーグ家の評判を落とすかもしれないから」
「確かに。良い執事に恵まれたね」
決めたメニューを給仕に伝えると、また他愛もない話をした。毎日会っているのに、話の種は尽きない。僕はわりと話下手な自覚があるから、不思議なものだなと思う。殿下とのお茶会の時には、殿下が話題を提供してくださっていて、自分の会話能力の無さに絶望した。
運ばれてきた料理は出来立てで暖かかった。僕が頼んだのはオムレツにソースがかけられたもの。お皿の端っこにジャガイモとニンジン、ブロッコリーが添えられている。一皿に料理がまとまっているのは目新しい。そしてトマトスープ。こちらにも野菜が沢山入っていて健康的だ。
「美味しそう。リカルドのはお肉?」
「そう。ハンバーグというのは、ひき肉をまとめて焼いたものらしいね。普段食べる肉はそのままの塊ばかりだから楽しみだ」
食前の祈りを捧げて、フォークを手に取る。口に運ぶ。
「「美味しい」」
声が揃った。
「卵の味付けとソースの味の組み合わせがいいよ。シンプルだけど美味しい」
「よく父上に連れていかれるお店よりずっと手頃なのに肉が柔らかくてふわふわしててすごいよ、これ。一口食べてみる?」
リカルドがお肉のささったフォークを僕の前に差し出す。
「良いの?」
「どうぞどうぞ」
フォークを受け取ろうとしたが、リカルドはフォークを離さなかった。そのまま食べさせるつもりらしい。仕方なく口を開ける。瞬間、じゅわっとお肉が口の中に広がった。
「どう?」
「美味しい」
「だよね。シルヴァ君の可愛い顔を見れて俺も満足」
瞬く間に料理は胃の中に消えていった。綺麗に空になったお皿が下げられ、デザートを頼む。
「それで、あんまり聞きたくないんだけど、学院を卒業したあとシルヴァ君はどうするの?」
「ディミニスに留学しようと思ってる。まだ父上を説得してる途中だけど、多分前向きに考えてくれていると思う」
「それでさっき書店でディミニス語の本を見てたんだ。魔術研究のため?」
「うん、まあ……」
「そっかぁ。てっきりシルヴァ君は王立図書館を目指すものだと思ってたけど。あるいは文官とかね。留学ねぇ」
「その後はまだ考えてないんだけどね。ディミニスの魔術塔に入るか、ヴァドワールに戻ってきてこっちの魔術塔に入るか」
「どちらにせよ魔術塔を目指してるんだ」
「うん。難しいとは思ってるんだけど」
「きっとシルヴァ君なら大丈夫だよ」
そこまで話すとデザートが運ばれてきた。イチゴとチョコレートのパフェ。リカルドはどうするの、とは聞きづらくなってしまった。またこの前みたいにはぐらかされてしまうような気もした。
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