何も無い僕が貴方の完璧を守る

ゆきりんご

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二十八話:解散

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 放課後。リカルドはハレー先輩に用事があると言って、しばらくヴァイゼと二人だけになった。一見、勉強に熱心な風を装っていたが、ちらちらと僕を見る様子から、何か気にかかることがあるのだろうと思った。

「何かありましたか?」
「その、違っていたら悪いんだが、二人は――シルヴァとリカルドは付き合っているのか?」

ペンを落としてしまった。

「つ、付き合ってません」

今のところは、と心の中で付け加えた。
自惚れかもしれないが、もし本当にリカルドと付き合うことになったら、リカルド意外と二人だけになる状態はやめるように言われる気がする。自惚れかもしれないが。

「しかし、リカルドはシルヴァが好きだと思う」
「な、なぜそう思ったんですか?」
「シルヴァが私に話しかけるたびに不機嫌になっていってるのが表情に出てたからな。目線で牽制もされていたように思う」
「実を言えば告白はされているんです」

ヴァイゼのペンが止まった。

「ミブ殿下からの好意を断って、リカルドからの好意も断って、シルヴァは一体誰が好きなんだ?」

いません、と答える前にノートに影が落ちた。

「シルヴァ君、好きな人いるの?」

姿を見るまでもない。リカルドだ。

「いないよ」
「だよね。良かった。もう俺以外のとこにはお嫁にいけないもんね」
「ちょっと、変な言い方しないで」

はっ、と口を閉じたが、またしても学校司書に見つかってしまい追い出されることになってしまった。

「ごめん、ヴァイゼ。なんかこういうのばっかりだ」
「いや、私にも非はある。その……ほんとに付き合ってないのか?」
「聞いてよヴァイゼ。シルヴァ君ってばどんなに俺がアプローチしても躱すんだ」
「ミブ殿下からの好意も断ってると聞いたが」
「ああ、それなら俺が断るように言ったからだね」

ヴァイゼが頭を抱えた。

「こんなに可愛いのに自覚はないし。困ってるんだよ」

ヴァイゼに申し訳ないからリカルドには止まってほしい。とういうか、お昼休みのことがあったのに、なぜリカルドはこんないつも通り飄々としていられるんだ。

「挙句の果てには次の試験で俺が勝ったらお試しで付き合ってもいいとか言いだすし」
「ちょっとリカルド」
「ああ、それで俺に声をかけたのか。すまないがシルヴァ、明日からの勉強会は無しでいいか?」
「すみません。動機が不純すぎました」

僕だったら嫌だ。

「ああ、そんな悲しい顔をするな。リカルドに怒られる。そうじゃなくて」

う~ん、とヴァイゼが唸った。

「リカルドは嫉妬深い。私はリカルドに喧嘩を売りたくはない」

そういうことだ、とヴァイゼは言った。理解しがたいが、頷いておいた。

「ご迷惑をおかけしてすみません」

せっかく勇気を出して声をかけたのに一週間もたたずに勉強会の集まりは解散になってしまった。

「そういうわけでシルヴァ君。自力で頑張ってね」

何がそういうわけで、だ。

「他の人に頼んでも俺は全力で妨害するから」
「ハレー先輩やサロモア嬢でも?」
「もちろん」

ずるい。これでリカルドと勉強しようものなら、間違ったことを教えられるんじゃないかと疑いたくなるレベルだ。

「変なことに巻き込んですまないね。それじゃ俺たちはこれで」

リカルドに腕を引っ張られてヴァイゼのもとを後にした。まだ馬車の迎えが来るまでには一時間以上もあるのに。どこへ行くというんだ。
 リカルドに引っ張られるままに着いたのは玄関だった。外にカレンベルク家の馬車が止まっているのが見える。まさか。

「家まで送るよ。迎え遅くしてもらってるんでしょ」
「そうだけど」
「ほら乗って乗って」

押し込まれるようにして馬車に乗った。リカルドは僕の腰を掴んで、僕はリカルドの膝の上に座ることになった。

「俺さ、シルヴァ君ともっとくっつきたいし、えっちなこともしたい。付き合ってないから互いの家に呼んで泊まるのも難しい。未成年だから宿にも行けない。早く大人になりたい。シルヴァ君を俺だけのものにしたい」
「昼休みのは……」
「足りない」

そう言ってリカルドは僕の太ももをやわやわと触りながら、首もとに口づけた。ちゅうっと吸われて、ぴりっと僅かな痛みが走る。

「ちょっと……」

今日のリカルドはいささか暴走ぎみだ。

「はあ、このまま家に連れていけたらいいのに」
「駄目です」
「分かってる」
「これ以上したら嫌いになるよ」

そう言うとぴたりと手が止まった。

「ごめん。今日もお昼休みのはちょっとやり過ぎたかなと思ってさ、終わったらすごい後悔した。自分の欲を押し付けたら駄目だって分かってるのに。もう学院ではしない。お願いだから嫌いにならないで」

リカルドの声があまりにも弱弱しくて、うっかり許しそうになった。そんなんだからいつも流されてしまうんだ。

「抱きしめるのだけは許して」

家につくまで僕はずっとリカルドの腕の中にいるはめになった。
それを拒めない僕も僕だ。
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