何も無い僕が貴方の完璧を守る

ゆきりんご

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二十二話:一生恨む

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 お昼になり、校舎裏の庭に向かおうとすると、ユージーンに腕を掴まれた。

「どこに行くの?」

僕よりも小さいのに、意外と力が強く話せない。

「あ、リカルド様。お二人でご昼食を食べられるんですか」
「そうだよ。シルヴァ君からその手を離してくれるかな」

冷たい声だった。しかしユージーンは臆することもなく口を開いた。

「僕もご一緒させてくれませんか」
「え、普通に嫌だけど」
「どうしてリカルド様はシルヴァ君を特別扱いするんですか」

ユージーンが言葉を続けるほどにリカルドの目は冷たくなっていった。鋭い目つきを向けられながらもユージーンはリカルドから目を逸らさずにいた。リカルドは黙ってユージーンの手を僕の腕から離した。

「野暮なことを聞くね。そんなこと分かりきってるだろう?」
「わかりません……苗字を持たないことも、本が好きなことも僕だって同じなのに!」

ユージーンが大きな声を出したことで、クラス中の視線が僕たちに向けられる。嫌だ、目立ちたくない。僕だけ先にこそっとこの場から抜け出せないだろうか。

「少なくともシルヴァ君はキミのように喚くことはしない」
「……僕じゃ駄目なんですか」
「残念だけどね」
「シルヴァ君に何があるって言うんですか」
「教えなきゃ気づけないような人にわざわざ教えようとは思わない」

ユージーンはなおも食い下がろうとしたが、先にリカルドが言葉を続けた。

「これ以上時間を取らせるな」

リカルドは僕の手を取った。そのまま歩を進めるかと思った刹那、体が浮いた。女子の黄色い悲鳴が聞こえる。
俗に言う、お姫様抱っこをされている。

「ちょっと、リカルド」
「キミが目立ちたくないって思ってるのは承知してるんだけどね」

少し見せつけてやらないと、とリカルドは言った。
無理だ。恥ずかしさで死ねるものなら今この場で死んでしまいたい。
 外に出るとリカルドは僕をおろした。

「シルヴァ君軽すぎ。もっと食べないと駄目だよ」

僕は何も話したくなかった。

「目立つことをしたから拗ねてるの?」

黙って僕はベンチに座ってお弁当を広げる。リカルドは隣に腰をおろした。

「どうしたら許してくれる?」

急にリカルドが弱気になったのがなんだか滑稽だった。さきほどまで、いつもの柔和さはどこへやら、ユージーンに対して怒っていた人とは思えない

「今、笑った? 笑ったよね、気のせいじゃないよね」

必死に聞いてくるものだから余計おかしくて、笑いをこらえることはできなかった。

「ふふっ、急に弱気になったのがなんだかおかしくって」

「キミの笑いのツボは不思議だ。許してくれた?」
「それとこれは別。一週間僕と学院で関わるのをやめてくれたら許す」

先程までのできごとで確信した。リカルドと関わるから目立つはめになる。

「それなら許されなくていいや。一生恨んでるといい」

うへぇ、と僕は苦い顔を作った。

「それで、朝、何を言われたの。僕のほうが相応しい、みたいなこと?」
「そんなことだったら別に僕は気にしない。それは正しいことだから。そうじゃなくて、普通の平民じゃないよね、って聞かれて、なんて返せばいいか分からなかった」
「ちょっとまって、ユージーンのほうが相応しいなんてことはない」
「それは本題じゃない。迂闊だった。一般市民には手を出しづらい本を気にせず教室で読んでたり、二頭立ての馬車に乗ったりしてたから。それで変だと思われてる」
「本についての言い訳は簡単だ。俺から貰ったって言えばいい」

それはそれでさっきみたいな面倒なことになるのではとも思ったが、代替案が何も思いつかない。

「でも、馬車は難しいな。家の紋章に詳しい奴に知られたらごまかしようがない。もういっそ家柄を明かせば楽になるんじゃない? ミブ殿下に目をつけられてるのなら、俺といるときよりもずっと人目につく機会が増えるだろうし」
「そうかな……」
「父に頼んでモーグ家のご当主当てに手紙を送ろうか?」
「いや……自分から話してみる」
「シルヴァ君、変わったね」
「そう?」
「ああ。少し強くなった」

リカルドのおかげかも、と言うのは悔しいから言わないでおくことにした。なんたって、一生恨む相手なのだから。
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