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十七話:披露目会7
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個別に話をするべき人達への対応が終わり、あとの頑張りどころは舞踏のみとなった。ミブ殿下のお相手を務めなければならないと思うと気が重い。
ミブ殿下の姿を探して辺りを見渡していると、殿下と目が合った。
「シルヴァ、挨拶は終わったようだな」
「ええ、つつがなく終わりました」
「では、相手をしてくれるか?」
差し出された殿下の手に己の手を伸ばすと、どこからか名前を呼ぶ声が聞こえた。思わず、伸ばしていた手が止まる。声の聞こえた方を向くと、リカルドがいる。やや距離が離れていたが、一度認識すると、はっきりと分かる。つかつかと靴音を立てて、真っ直ぐに僕のもとに向かってくる。貼り付けたような笑顔は見たことのない表情だ。
「シルヴァ、ひどいな。先に俺が誘っていたのに」
「リカルド?」
僕に近づくと、耳元で「断りたいなら話を合わせて」と囁いた。そして殿下に向き直る。
「ミブ殿下、お久しぶりですね。カレンベルク家長男のリカルドです」
「無論、覚えている。何用だ」
一体、リカルドは何をするつもりなのだろう。殿下との踊りの約束を断れるものなら断りたい。ただ不敬になってしまわないかが心配だ。
「殿下は今日の会では最も位が高いのでシルヴァ君を一番先に誘ったものだとお思いになるのも無理はございません。が」
「確認はしたぞ。先約がいるか否か」
「ええ、殿下はお気遣いできる方でしょう。しかし、シルヴァは先約がいるからといって、王族からの誘いを断るといったことができないほど気の弱い性格なんです。見た目の線の細さそのままに、気も細いのです」
リカルドの口ぶりは上品さを失わない範囲に収まっているが、どこか鬼気迫るものを感じた。いつもとは話し方が異なる。
「こういった会に出るのも初めてですから、お手柔らかにお願いします、殿下」
「そこまで気が回らず、申し訳なかった。それで、お前が先に誘っていたから待ったをかけにきた、ということだな」
「お話が通じたようで何よりです。シルヴァと私は同い年で、同じ学院に通う身ですから。招待を受けたその日に申し出たのです」
リカルドは僕に目線を映した。頷け、という合図のようだ。僕は黙って頷いた。
「そういうことであれば、割って入るのは良くないからな。今回は身を引くとしよう。ただ、私は諦めが悪いのだ。心しておいておくのだな」
殿下は気を悪くされた風もなく、どこか楽しげに笑みを浮かべた。
「リカルド」
殿下がリカルドを呼び、何やら小声で伝えた。一瞬、リカルドの笑みが崩れる。何が起きたのか分からないまま、殿下は立ち去ってしまった。リカルドが僕へ向き直ったときには、崩れた笑顔は戻っていた。
「何を言われたの」
「秘密。さ、踊ろう」
差し出された手に、今度こそ僕は手を重ねた。
ミブ殿下の姿を探して辺りを見渡していると、殿下と目が合った。
「シルヴァ、挨拶は終わったようだな」
「ええ、つつがなく終わりました」
「では、相手をしてくれるか?」
差し出された殿下の手に己の手を伸ばすと、どこからか名前を呼ぶ声が聞こえた。思わず、伸ばしていた手が止まる。声の聞こえた方を向くと、リカルドがいる。やや距離が離れていたが、一度認識すると、はっきりと分かる。つかつかと靴音を立てて、真っ直ぐに僕のもとに向かってくる。貼り付けたような笑顔は見たことのない表情だ。
「シルヴァ、ひどいな。先に俺が誘っていたのに」
「リカルド?」
僕に近づくと、耳元で「断りたいなら話を合わせて」と囁いた。そして殿下に向き直る。
「ミブ殿下、お久しぶりですね。カレンベルク家長男のリカルドです」
「無論、覚えている。何用だ」
一体、リカルドは何をするつもりなのだろう。殿下との踊りの約束を断れるものなら断りたい。ただ不敬になってしまわないかが心配だ。
「殿下は今日の会では最も位が高いのでシルヴァ君を一番先に誘ったものだとお思いになるのも無理はございません。が」
「確認はしたぞ。先約がいるか否か」
「ええ、殿下はお気遣いできる方でしょう。しかし、シルヴァは先約がいるからといって、王族からの誘いを断るといったことができないほど気の弱い性格なんです。見た目の線の細さそのままに、気も細いのです」
リカルドの口ぶりは上品さを失わない範囲に収まっているが、どこか鬼気迫るものを感じた。いつもとは話し方が異なる。
「こういった会に出るのも初めてですから、お手柔らかにお願いします、殿下」
「そこまで気が回らず、申し訳なかった。それで、お前が先に誘っていたから待ったをかけにきた、ということだな」
「お話が通じたようで何よりです。シルヴァと私は同い年で、同じ学院に通う身ですから。招待を受けたその日に申し出たのです」
リカルドは僕に目線を映した。頷け、という合図のようだ。僕は黙って頷いた。
「そういうことであれば、割って入るのは良くないからな。今回は身を引くとしよう。ただ、私は諦めが悪いのだ。心しておいておくのだな」
殿下は気を悪くされた風もなく、どこか楽しげに笑みを浮かべた。
「リカルド」
殿下がリカルドを呼び、何やら小声で伝えた。一瞬、リカルドの笑みが崩れる。何が起きたのか分からないまま、殿下は立ち去ってしまった。リカルドが僕へ向き直ったときには、崩れた笑顔は戻っていた。
「何を言われたの」
「秘密。さ、踊ろう」
差し出された手に、今度こそ僕は手を重ねた。
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