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七話:放課後の密談
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「なあ、リカルド。最近昼休みどこに行ってるんだ?」
クラスメイトの1人が聞いてくるが、答える義理はない。
「さあ、どこだろうね」
「あれか、秘密の逢瀬ってやつか」
また別の者が言う。
「そうとも言うね」
「そう揶揄ってやるな。こいつ初恋なんだ」
せっかく俺がのらりくらりと躱していたのに、幼馴染による裏切りで爆弾が投下される。
「へえ、リカルドが初恋ですか」
「さ、散った散った」
俺を中心に作られた人の輪が消えると、一つ年上の幼馴染――ハレー・フォン・ユーグは耳打ちをしてきた。
「で、本当のところどうなんだ?」
「場所を移そうか」
校舎二階の図書室は当番の生徒のほか人はいなかった。王立図書館を気軽に使える貴族や膨大な蔵書を持つ家の生徒が多いこの学院では図書室利用者は少ない。
「それで、あの子だろ?」
「まあね」
「俺相手にはぐらかすなよ。本当に好きなのか」
「ユーグ家に招待状は届いた?」
「話を変えるな。最近昼休みにいないのは、あの子――シルヴァ君と一緒だからだろ?」
「そうだね」
ハレーは何事にも真っ直ぐだ。これと決めたら道を逸れるということを知らない。つまり、俺との相性は最悪だ。
「シルヴァ君のことどう思ってるんだ」
「大切な友達。誰かが見てないとすぐ消えそうで気が気じゃないよ」
「まあ、言いたいことは分かる。でもお前、博愛主義なとこあるだろ。誰でも平等に優しい。それで勘違いした女子は告白して玉砕する。勘違いする方も悪いっていうのはあるが、お前の場合は質が悪すぎる。どうするんだ、もしシルヴァ君がお前に告白してきたら」
ハレーのいうことはまったくもって正論だ。ぐうの音も出ない。ただ、シルヴァ君が俺に告白してきたら、というのは杞憂だ。
「彼は俺を友達とすら思ってなかったよ」
ハレーは眉をあげた。
「それは驚いたな。ここずっと昼休みは一緒にいたんだろ?」
「そうだね。単刀直入に聞いたんだ。どういう風に思ってるのか。でも答えてくれなかった。分からないって」
「あんまり人付き合い得意じゃなさそうだもんな。急にお前みたいなやつに距離を詰められたら混乱もするだろう」
「今度彼は社交界デビューをする。俺の家にも招待状が届いた。それなのに招待されたのは父だけで俺は呼ばれてなかったんだ」
「それで今日の朝、珍しく落ち込んでたのか。それにしても今日は驚きの連続だな。まさかシルヴァ君が貴族だったなんてな。まあ庶民らしくない所作だとは思っていたが」
「もう一度確認するけど、ユーグ家に招待状は届いた?」
「どうだろうな。まだ聞いてないが……シルヴァ君の苗字ってお前知ってるか?」
「彼がキミに教えてないなら言えない」
「そうか」
「これで話は終わり。帰ろうか」
立ち上がると、今日何度目か分からないため息がもれる。俺、嫌われてないかな。あとで招待状を送ってくれるとは言っていたから嫌われてはいないと思いたい。これでハレーが招待されていたら暫く立ち直れない自信がある。
階段を降りると、話にのぼっていたシルヴァ君の姿が見える。珍しい。放課後すぐに帰っていないなんて。すぐ向こうにサロモア嬢が手を振っている。シルヴァ君とサロモア嬢が話をしていたのか……?
放課後。
リカルドを招待するのであれば、応援すると告げたサロモア嬢のことも招待した方が良いのでは、と思い聞いてみることにした。
「あ、あの」
「あ、シルヴァ君。どうしたの?」
「実は今度お披露目会をするんです。リカルド君を招待したので、貴方も招待しようと思うのですが、どうですか」
「お披露目会?」
何の、と彼女――サロモア・フォン・リーデンは聞いた。あ、そうか。苗字を明かしていないからサロモア嬢は僕がモーグ家の人間であるのを知らないんだった。
「あー、人のいるところだと言いづらいので場所を移しませんか」
「何か訳ありみたいね。リカルド様絡みならちゃんと聞いておきたいな。この校舎の端の階段であれば、放課後は人が少ないはず」
なるほど、サロモア嬢の言う通り、校舎の端の階段には人の気配は無かった。いつも放課後は真っ直ぐ家に向かうため、知らなかった。
「それで?」
「信じて貰えない話だとは思うんですが、僕はモーグ家の次男なんです」
「魔術師御三家の、あのモーグ家?」
「そうです」
「確かにシルヴァ君の所作は庶民らしくないとは思ってたけど……驚いたな。それでカレンベルク様とも親しいの?」
「まあ、そんなところです。訳あって学院では苗字を明かしていなかったのですが」
訳について聞かれるかと思い、言い訳も用意していたが特に聞いてくる様子はない。良かった。
「つい最近、お父様が僕の存在を明らかにすることにしたそうで、お披露目会を開くことになったんです。あの、どうか僕がモーグ家の人間であることは学院では秘密にしてくれませんか」
「もちろん秘密は守るよ。その招待受けたいな。敵から塩を送られるみたいでなんかもやっとするけど、これでチャラね」
とびっきりの恰好で行くから覚悟してて、と一方的な宣戦布告をしてサロモア嬢は去っていった。
クラスメイトの1人が聞いてくるが、答える義理はない。
「さあ、どこだろうね」
「あれか、秘密の逢瀬ってやつか」
また別の者が言う。
「そうとも言うね」
「そう揶揄ってやるな。こいつ初恋なんだ」
せっかく俺がのらりくらりと躱していたのに、幼馴染による裏切りで爆弾が投下される。
「へえ、リカルドが初恋ですか」
「さ、散った散った」
俺を中心に作られた人の輪が消えると、一つ年上の幼馴染――ハレー・フォン・ユーグは耳打ちをしてきた。
「で、本当のところどうなんだ?」
「場所を移そうか」
校舎二階の図書室は当番の生徒のほか人はいなかった。王立図書館を気軽に使える貴族や膨大な蔵書を持つ家の生徒が多いこの学院では図書室利用者は少ない。
「それで、あの子だろ?」
「まあね」
「俺相手にはぐらかすなよ。本当に好きなのか」
「ユーグ家に招待状は届いた?」
「話を変えるな。最近昼休みにいないのは、あの子――シルヴァ君と一緒だからだろ?」
「そうだね」
ハレーは何事にも真っ直ぐだ。これと決めたら道を逸れるということを知らない。つまり、俺との相性は最悪だ。
「シルヴァ君のことどう思ってるんだ」
「大切な友達。誰かが見てないとすぐ消えそうで気が気じゃないよ」
「まあ、言いたいことは分かる。でもお前、博愛主義なとこあるだろ。誰でも平等に優しい。それで勘違いした女子は告白して玉砕する。勘違いする方も悪いっていうのはあるが、お前の場合は質が悪すぎる。どうするんだ、もしシルヴァ君がお前に告白してきたら」
ハレーのいうことはまったくもって正論だ。ぐうの音も出ない。ただ、シルヴァ君が俺に告白してきたら、というのは杞憂だ。
「彼は俺を友達とすら思ってなかったよ」
ハレーは眉をあげた。
「それは驚いたな。ここずっと昼休みは一緒にいたんだろ?」
「そうだね。単刀直入に聞いたんだ。どういう風に思ってるのか。でも答えてくれなかった。分からないって」
「あんまり人付き合い得意じゃなさそうだもんな。急にお前みたいなやつに距離を詰められたら混乱もするだろう」
「今度彼は社交界デビューをする。俺の家にも招待状が届いた。それなのに招待されたのは父だけで俺は呼ばれてなかったんだ」
「それで今日の朝、珍しく落ち込んでたのか。それにしても今日は驚きの連続だな。まさかシルヴァ君が貴族だったなんてな。まあ庶民らしくない所作だとは思っていたが」
「もう一度確認するけど、ユーグ家に招待状は届いた?」
「どうだろうな。まだ聞いてないが……シルヴァ君の苗字ってお前知ってるか?」
「彼がキミに教えてないなら言えない」
「そうか」
「これで話は終わり。帰ろうか」
立ち上がると、今日何度目か分からないため息がもれる。俺、嫌われてないかな。あとで招待状を送ってくれるとは言っていたから嫌われてはいないと思いたい。これでハレーが招待されていたら暫く立ち直れない自信がある。
階段を降りると、話にのぼっていたシルヴァ君の姿が見える。珍しい。放課後すぐに帰っていないなんて。すぐ向こうにサロモア嬢が手を振っている。シルヴァ君とサロモア嬢が話をしていたのか……?
放課後。
リカルドを招待するのであれば、応援すると告げたサロモア嬢のことも招待した方が良いのでは、と思い聞いてみることにした。
「あ、あの」
「あ、シルヴァ君。どうしたの?」
「実は今度お披露目会をするんです。リカルド君を招待したので、貴方も招待しようと思うのですが、どうですか」
「お披露目会?」
何の、と彼女――サロモア・フォン・リーデンは聞いた。あ、そうか。苗字を明かしていないからサロモア嬢は僕がモーグ家の人間であるのを知らないんだった。
「あー、人のいるところだと言いづらいので場所を移しませんか」
「何か訳ありみたいね。リカルド様絡みならちゃんと聞いておきたいな。この校舎の端の階段であれば、放課後は人が少ないはず」
なるほど、サロモア嬢の言う通り、校舎の端の階段には人の気配は無かった。いつも放課後は真っ直ぐ家に向かうため、知らなかった。
「それで?」
「信じて貰えない話だとは思うんですが、僕はモーグ家の次男なんです」
「魔術師御三家の、あのモーグ家?」
「そうです」
「確かにシルヴァ君の所作は庶民らしくないとは思ってたけど……驚いたな。それでカレンベルク様とも親しいの?」
「まあ、そんなところです。訳あって学院では苗字を明かしていなかったのですが」
訳について聞かれるかと思い、言い訳も用意していたが特に聞いてくる様子はない。良かった。
「つい最近、お父様が僕の存在を明らかにすることにしたそうで、お披露目会を開くことになったんです。あの、どうか僕がモーグ家の人間であることは学院では秘密にしてくれませんか」
「もちろん秘密は守るよ。その招待受けたいな。敵から塩を送られるみたいでなんかもやっとするけど、これでチャラね」
とびっきりの恰好で行くから覚悟してて、と一方的な宣戦布告をしてサロモア嬢は去っていった。
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