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四話:父
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家の中の空気はいつものように重たい。
「ただいま戻りました」
「おかえり、シルヴァ」
兄さんがいつものように出迎えてくれる。これだけが僕の心の支えになっている。
「父上がシルヴァを呼んでる」
「え、僕、何か失態があったでしょうか」
ああ、生きていること自体が失態だったな、なんて他人事のように思った。
「私も付いていこうか」
「お忙しいのにすみません……お願いします」
「これくらい何てことないよ。ねえ、シルヴァ。一つ聞いてもいいかな」
「何でしょうか」
「最近、シルヴァから強い魔力の匂いがするの気のせいじゃないよね?」
「ああ……気づきましたか」
「こんな質の高い魔力すぐ気づくよ」
「すみません」
「責めてるわけじゃない。嬉しいんだ。シルヴァがまだ生きることを諦めていなかったことが。私が魔力を移そうとしてもいつも拒んでいたから……」
「でも兄さんは僕の食事に魔力増進剤を混ぜてくれていました。おかげで僕の命は繋がっています」
「気づかれてたか。多分、父上も気づいてるはずだけど怒られたことは無いんだ。シルヴァの顔が亡くなったお母様とそっくりだから、父上もきっと迷いがあるんだ。父上は母上のことを一途に思っていたからね」
初耳だった。僕を産んだのちすぐに亡くなってしまった母上の顔を僕は知らない。僕を産んだことで母上は亡くなったのかもしれない。父上はそれもあって僕のことを疎んでいるだろうか。
「父上は何だかんだ言いながらシルヴァを見殺しにはしない。学院にも通わせている。今は辛いだろうけど……」
兄さんは僕を優しく抱きしめた。
「もしかしたら父上は私を退室させるかもしれない。何かあった時のために、これを」
兄さんは小さな石を取り出した。
「録音スフィアだよ。ほんの少し魔力を流すと振動して録音が始まる。三分だけ録音できる」
僕の胸ポケットに兄さんはスフィアをいれた。録音スフィアは魔力増進剤よりもずっと高価なはずだった。
「良いんですか」
「ああ。さ、お父様の所へ行こうか」
「はい」
書斎で父が煙草片手に待っていた。
「来たか。その年にもなってまだ兄の付き添いが必要か?」
「父上」
兄が前へ出るが、父は冷たく言い放つ。
「お前は下がれ。私はシルヴァに話があるのだ」
兄さんの予期していたとおり、父は兄さんの退室を言い渡す。
「……失礼しました」
ここからは、僕一人で父と対峙しなければならない。深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。胸ポケットに手を当て、録音スフィアを軽く握る。お守りのように思えた。
「座れ」
「はい」
腰をおろすと、父はテーブルの上に小包みを差し出した。贈り名は、トール・フォン・カレンベルク。カレンベルク家当主だ。
「カレンベルク家とはつかず離れずの関係だ。小包など珍しいと思ってみたらこんなものが入っていた」
小包から出てきたのは数本の小瓶。
「これが何だか分かるか?」
嫌な予感がした。また胸ポケットに手を当て、魔力を少し流す。振動があったので恐らく無事に録音が始まったとはずだ。初めて魔力を使ったが上手くいったようだ。
「魔力増進剤だ。お前の恥のことは隠しておいたのに、なんてことだ! お前の匂う魔力もカレンベルク家の倅のものだろう! 魔術師御三家たる我が家の顔に泥を塗りよって! 今にも貴族界のスキャンダルにされる。どう責任を取ってくれる。お前のことを隠すために披露目にも出さず、家の名も出さずにいろと命じたのに……どこでばれた!」
聞かれたところで、僕にも何が起きているのか分からなかった。一つだけ分かるのは、リカルドから伝わったのだろうということ。
「学院で、同じクラスにカレンベルク家の三男、リカルド様がいらっしゃいます。魔力がない事に気づかれ……彼から魔力……増進剤を貰いました。しかし、彼には苗字を名乗っていません。なぜ僕がモーグ家のものだと気づかれたのか、僕にも分からないのです」
何とか言いたいことは言えた。父はこめかみに手をあて、深くため息をつく。
「お前の言い分は全て本当か?」
父の視線が突き刺さる。魔力増進剤ではない。僕が本当に貰ったのは……。
「……やはりお前は早くに死んでいれば良かったんだ」
「ただいま戻りました」
「おかえり、シルヴァ」
兄さんがいつものように出迎えてくれる。これだけが僕の心の支えになっている。
「父上がシルヴァを呼んでる」
「え、僕、何か失態があったでしょうか」
ああ、生きていること自体が失態だったな、なんて他人事のように思った。
「私も付いていこうか」
「お忙しいのにすみません……お願いします」
「これくらい何てことないよ。ねえ、シルヴァ。一つ聞いてもいいかな」
「何でしょうか」
「最近、シルヴァから強い魔力の匂いがするの気のせいじゃないよね?」
「ああ……気づきましたか」
「こんな質の高い魔力すぐ気づくよ」
「すみません」
「責めてるわけじゃない。嬉しいんだ。シルヴァがまだ生きることを諦めていなかったことが。私が魔力を移そうとしてもいつも拒んでいたから……」
「でも兄さんは僕の食事に魔力増進剤を混ぜてくれていました。おかげで僕の命は繋がっています」
「気づかれてたか。多分、父上も気づいてるはずだけど怒られたことは無いんだ。シルヴァの顔が亡くなったお母様とそっくりだから、父上もきっと迷いがあるんだ。父上は母上のことを一途に思っていたからね」
初耳だった。僕を産んだのちすぐに亡くなってしまった母上の顔を僕は知らない。僕を産んだことで母上は亡くなったのかもしれない。父上はそれもあって僕のことを疎んでいるだろうか。
「父上は何だかんだ言いながらシルヴァを見殺しにはしない。学院にも通わせている。今は辛いだろうけど……」
兄さんは僕を優しく抱きしめた。
「もしかしたら父上は私を退室させるかもしれない。何かあった時のために、これを」
兄さんは小さな石を取り出した。
「録音スフィアだよ。ほんの少し魔力を流すと振動して録音が始まる。三分だけ録音できる」
僕の胸ポケットに兄さんはスフィアをいれた。録音スフィアは魔力増進剤よりもずっと高価なはずだった。
「良いんですか」
「ああ。さ、お父様の所へ行こうか」
「はい」
書斎で父が煙草片手に待っていた。
「来たか。その年にもなってまだ兄の付き添いが必要か?」
「父上」
兄が前へ出るが、父は冷たく言い放つ。
「お前は下がれ。私はシルヴァに話があるのだ」
兄さんの予期していたとおり、父は兄さんの退室を言い渡す。
「……失礼しました」
ここからは、僕一人で父と対峙しなければならない。深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。胸ポケットに手を当て、録音スフィアを軽く握る。お守りのように思えた。
「座れ」
「はい」
腰をおろすと、父はテーブルの上に小包みを差し出した。贈り名は、トール・フォン・カレンベルク。カレンベルク家当主だ。
「カレンベルク家とはつかず離れずの関係だ。小包など珍しいと思ってみたらこんなものが入っていた」
小包から出てきたのは数本の小瓶。
「これが何だか分かるか?」
嫌な予感がした。また胸ポケットに手を当て、魔力を少し流す。振動があったので恐らく無事に録音が始まったとはずだ。初めて魔力を使ったが上手くいったようだ。
「魔力増進剤だ。お前の恥のことは隠しておいたのに、なんてことだ! お前の匂う魔力もカレンベルク家の倅のものだろう! 魔術師御三家たる我が家の顔に泥を塗りよって! 今にも貴族界のスキャンダルにされる。どう責任を取ってくれる。お前のことを隠すために披露目にも出さず、家の名も出さずにいろと命じたのに……どこでばれた!」
聞かれたところで、僕にも何が起きているのか分からなかった。一つだけ分かるのは、リカルドから伝わったのだろうということ。
「学院で、同じクラスにカレンベルク家の三男、リカルド様がいらっしゃいます。魔力がない事に気づかれ……彼から魔力……増進剤を貰いました。しかし、彼には苗字を名乗っていません。なぜ僕がモーグ家のものだと気づかれたのか、僕にも分からないのです」
何とか言いたいことは言えた。父はこめかみに手をあて、深くため息をつく。
「お前の言い分は全て本当か?」
父の視線が突き刺さる。魔力増進剤ではない。僕が本当に貰ったのは……。
「……やはりお前は早くに死んでいれば良かったんだ」
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