11人の贄と最後の1日─幽閉された学園の謎─

不来方しい

文字の大きさ
上 下
24 / 66
第一章 贄と学園の謎

024 教祖の企み

しおりを挟む

 本当に、そんなことできるの? ケイ兄さんも知らなさそう。

 魔石を媒介にして、声や映像を残す技術は確かにある。それを、遠くにいる存在に直接届ける魔法具も存在する。

 とはいえ、スタンピードの時に使っていた通信の魔法具の使用距離は、精々二十キロが限度。それ以上高性能な魔法具は知らない。

 ちなみに、セルシストの森から聖王国までは、荷馬車で有に三か月は掛かる僻地の中の僻地だ。

「誰にも内緒だよ。森の民特有のスキルみたいなものかな」

 そう言いながら、モアさんは裏庭を進んで行く。私とケイ兄さん、そして狼さんもその後を付いて歩いていた。キルはお留守番。鶏さんは警備担当。モアさん、ドアに鍵閉めないから。

 少し歩くと、少し空気が変わったのを感じた。肌寒い。私はケイ兄さんを見上げる。ケイ兄さんは小さく頷いた。

「さすがだね、二人とも。ここは、セルシストの森の最深部。いや、中心部って言った方がいいかな。セルシストの森は、ここを護る城壁みたいなものだから」

「モアさん、そんな大事なこと言っちゃっていいの!? 信用されてるのはうれしいけど」

「大丈夫」

 モアさんはあっけらかんと笑って答える。

「でも、心配になるよ。私の我儘のせいで、モアさんが禁忌を犯してるかもしれないし。すくなくとも、部外者を聖域に入れたことは間違いないから、罰があるんじゃないの……」

「犯してはいないし、罰もないから安心して。この場所に二人を招いたのも、ちゃんと理由があるから」

「理由?」

「魔法の媒介に必要なものが、この奥にあるんだ。それをアキに取って来てもらいたい」

 モアさんの台詞に、ケイ兄さんの眉間にしわ
が。それを無視して、私はモアさんに尋ねた。

「必要なもの?」

 言い終わらないうちに、視界がひらけた。そこには、湖と呼ぶには小さい真っ青の色をした池があった。

 近付いて気付く。水の色は空の色だって。水の透明度がずば抜けてるだね、空の色を反射してこの色に見えてるだけ。

「綺麗……」

「でしょ。それで、アキにしてもらいたいのは、この水底にある精霊石を取って来て欲しいんだ。そんなに深くはないから。危険な魔物は存在しない。ただ、主はいるけどね」

 主か……

 魔石ではなく、精霊石ね……納得だわ。通常の魔石では負荷が掛かり過ぎて耐えきれないよね。

「主に攻撃はしない方がいいよね」

「できれば。それに、今のアキでは勝てないよ」

 水中戦だから当然か……完全に私はアウェイだ。

「攻撃してくる可能性はあるよね」

「絶対にないとは言えないね」

 モアさん、素直。じゃあ、準備しようかな。水魔法で私の周りに膜を張れば、水中でも呼吸はできる。風魔法を靴に掛けていれば、速く潜れるわ。膜を張れば、時間制限はあるけど、一応濡れないし。問題は、水魔法が切れた時のこと。念のためにローブは脱いだ方がいいわね。防御力は下がるけど、身体に張り付いたら重いし、さらに動きにくくなる。

 躊躇ちゅうちょすることなく、ローブを脱ぎ始めると、ケイ兄さんか慌てて止めに入った。

「アキにそんなことさせられるか!! 必要なら、俺が取ってくる!!」

「ケイには無理だよ」

「何故だ!?」

「そもそも、その水に触れることができないからだよ。この水に触れることができるのは、神聖魔法のスキルを持っているか、精霊王の加護がある者だけだ。ケイはどちらも持っていないだろ」

 なるほど、だから、私はこの水に触れることができるんだ。モアさんは両方持ってそうだね。

「なら、やっぱり、俺が直接聖王国に行けばいいだけだ!!」

 そんな言い争いをしているうちに、私は軽く腕を伸ばして屈伸してから、スタンピードの時に使っていた通信用の魔法具をモアさんに投げて渡した。私も耳に装着する。

 準備万端。

「アキ!!」

 ケイ兄さんが手を伸ばしてくる。私はそれをさらりとかわした。そのまま、「じゃあ、行って来ます」と二人と狼さんに声を掛け、池に飛び込んだ。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。 「優成、お前明樹のこと好きだろ」 高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。 メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?

処理中です...