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9-発展
50 発展
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ふたりは今、都内にある一等地のお宅へお邪魔している。人工的に作られた泉水の回りには待雪草が囲んでいる。可憐で小さな花は花言葉通りに、寒気が押し寄せる中に咲く希望の花だ。
出迎えた初老の男は、立ち振る舞いから一目で洋館の主だと悟る。
「初めまして。ルカ・フロリーディアと申します」
「景森悠です」
「娘が大変世話になった。星野竜成と申します」
玄関まで出迎えた男は握手を求め、悠は緊張しながら手を握った。
廊下には絵画が飾られ、日本のものではなかった。あくまで洋風にこだわり抜いた建物は、リビングでも発揮されていた。棚には、ティディベアが数多く並んでいる。
「こちらは一九二〇年代のドイツ製のティディベアですね」
「君たちはアンティークショップの店員らしいね。娘の杏から聞いているよ」
「左様でございます。特徴的な鼻と手足の長さが際立っておりますね。状態も良い」
「流石だ」
「お褒めに預かり光栄でございます」
惚れ惚れするほど無駄のない動きで、ルカはお辞儀をする。
「有名なんですか?」
「ええ。ですが一九三九年に第二次世界大戦が起こり、会社が破綻に追い込まれたのです。それ以降、製造は難しくなりました」
「悲しい過去ですね」
「まったくです」
竜成は興味深そうに顎を撫でた。
「娘が子供の頃、ティディベアが好きだったんだ。だが年齢を重ねるごとに興味が無くなって、今じゃただの置物状態なんだよ」
「私からすれば、想いのこもる宝の数々でございます」
家政婦が食事の準備が整ったと伝え、ふたりは食堂に案内された。杏も手伝っていて、悠たちを見ては嬉しそうに駆け寄ってきた。
「本当は母にもご紹介したかったんですが、あいにく旅行に行ってしまったんです。一人で旅行が趣味な人で」
「ぜひまた今度紹介して下さい。僕も会いたいです」
洋食中心にチキンステーキとコーンスープ、サラダなどが並び、食事にまでこだわりを見せている。
「今日はバーベキューをする予定だったんだ。だが急遽変更させてもらった。君たちがとても大事な話があると娘から聞いたのでな」
ルカはナイフとフォークを置くと、ナプキンで口元を拭いた。
「あなたは、フロリーディアという名を聞いたことはございますか?」
「フロリーディア?」
独り言のようにぶつぶつと呟き、竜成は何度か繰り返した。
「君の名字という意味以外に何かあるのか?」
「正確に申しますと、フロリーディアと口走った方を捜しています。娘さんから、あなたの知人の方が電話でフロリーディアの名を口にした記憶があると聞いたもので」
「いつの話だ?」
竜成は娘に問う。
「数年前だったと……思う。電話がかかってきて、フロリーディアさん?と口にして慌てた様子で廊下に移動していたから記憶が残ってるの。確かお父さんの誕生日パーティーだったかと。写真をみんなで撮ったと思うけど残ってないかしら?」
竜成は訝しんだ顔をし、ルカに質問を投げかけた。
「失礼だが、なぜルカさんはその人を捜しているんだ?確かに写真は残っている。だが家に招く人間は私の友人たちであり、危険に晒したり仲間を売るような真似はしたくないんだ。もちろん、娘を救ってくれた君たちが悪人とは思っていない」
ルカは小さく息を吐き、重い口を開いた。
「数年前、イタリアでフロリーディアの名を持つ私の知人が殺されました」
「なんと……それは」
「犯人は未だ捕まっておりません。亡くなる直前、彼は日本、または日本人と掠れる声を絞り出しました。語尾がはっきりせず、曖昧ですが、私は日本人だと聞き取りました。当時の私は日本語が堪能ではなく、曖昧です」
「とても辛い思いを抱えていたんですな。心中察します」
竜成は娘の杏にアルバムを持ってくるように言い、グラスの水を飲み干した。
「すると君は偽名なのか?」
「はい。ですが本名は名乗りたくはないのです。殺人犯を捜しておりますので、皆様にご迷惑をおかけする恐れがございます」
「ならば、私も君をルカ・フロリーディアと思うよ」
言えない理由はそれだけではなく、ルカはドキュスティーヌの名前を語りたくはなかった。
昼食を終え、リビングで杏が持ってきたアルバムを開いた。杏がページを捲り、竜成は真剣な眼差しで写真を見つめる。室内にはコーヒーの啜る音だけが響いた。
「あった。これです」
アルバムを向けられ、ふたりは一緒に覗き込んだ。
「こちらの男性です」
黒いスーツに身を包み、食堂で淡々と食事をしている男がいる。回りと談笑する様子もなく、たった一場面からでも孤独を表していた。
「思い出しました。この方はなぜ印象深かったかと言うと、カメラに写りたがらなかったのです。ほら、この写真も」
ワイングラスを片手に竜成たちは会話をしているが、黒スーツの男は後ろを向いている。他の写真も見切れているものや、顔をハンカチで拭いているものなどがあった。写真を撮ったのは杏のようで、ほとんど写っていない。
「こちらの男性のお名前は?」
「確か、西湖秋良だったと思う」
悠はメモ帳にまとめていく。
「思い出したよ。製薬会社で働いている人だ。友人だと紹介されたんだ。声も小さく、あまり良い印象を持たなかったよ」
「ルカさん、捜せそうですか?」
ルカは写真に指を置き、対象となる人物に視線を注いだ。
「駄目ですね。はっきり顔が写っていない」
「捜す?」
「実はアンティークショップ経営は本当ですが、人捜しもしているのです」
「なんと。探偵のようなものかね?」
「少々霊感がございまして、霊魂を辿り、人や物を捜し当てます」
「実力はどれほどなんだ?」
「生死問わず、百発百中です」
竜成はさらに一驚した。
「しかし本人がはっきり写っている写真や、肌身離さず大事に持っていた物などが必要となります」
「ふむ……」
竜成は顎を撫で、視線を宙に投げた。
「私はこちらの製薬会社の社長と知り合いだ。連絡を取り、西湖秋良と連絡を取れる可能性を握っている。一つ、君たちに条件を出したい。いや、条件と言っては失礼だな。お願いしたいの間違いだ」
「伺いましょう」
竜成はアンティークの棚から封筒を取り出すと、それをルカに差し出した。
「私は紅茶の店を出していて、茶葉はスリランカからも取り寄せているんだ」
「素晴らしいですね。私は紅茶が大好きなのです」
紅茶好きのルカにとっては堪らない話だ。
「スリランカには知り合いがいて、いつもそこで買い付けを行っている。独自のブレンドもお願いしているんだ。だが農園で働く男性が行方不明になってしまった」
「その男性を捜してほしいとのご依頼ですか?」
「ああ。こちらからのお願いであるから、飛行機代、ホテル代はすべて出す」
「承ります」
「ルカさん、僕も」
「悠は勉学に励んで下さい。講義があるでしょう」
断られると予想していたが、こうもばっさり切り捨てられると心にくるものがあった。竜成はふたりのやりとりを見て、顎を撫でた。考え事をすると、顎に触れる行為は癖のようだ。
「君は大学生か?」
「はい。そうです」
「学科はどこだ?」
外国語を主に学んでいると話すと、にんまりと笑い大きく頷いた。
「君はスリランカは何語を話すか知っているか?」
「英語、シンハラ語、それと……えーと」
「タミル語ですね」
答えられない悠に代わり、ルカが答えた。
「国が変われば話す言葉の癖も変わる。スリランカで英語力を身につけるのも勉強のうちだ。大学の勉強がすべてではない。ルカさん、そう思いませんか?」
竜成は悠にウィンクをした。悠は心の中で感謝し、ルカの答えを待った。
「……確かに。私にも経験がございます」
「あなたの考えとしては巻き込みたくはないでしょう。ですが彼の目をご覧なさい。全力でルカさんを心配している。心に懸けられているあなたは幸せ者だ。だがそれに気づかないあなたは不幸者でもある」
いつも涼しい顔をしているルカは俯き、数回瞬きをした。心なしか目が潤んでいるようにも見えた。
「お手数おかけ致しますが、往復チケットを二枚、お願い出来ますか?」
「ホテルもすぐに手配しよう」
土産にと竜成から渡された紅茶を入れるべく、さっそく悠は簡易キッチンに立った。
タクシーの中ではルカとは一切会話をせず、冷戦状態にある。ルカの背後をついて行くと、そこはSHIRAYUKIのソファーだった。力ない心苦しさが溜まっていき、分量を間違えた紅茶は少し濃いめの出来になった。
テーブルに無言で紅茶を置く。ルカは棚からクッキーを取り出し、カゴに飾り付けると真ん中に置いた。花咲いたような並べ方だ。
「悠、隣に来て下さい」
テーブルの向こう側に座ろうとしていたが、ティーカップを移動させた。
「言葉が……上手く見つかりません」
ぽつりとルカは呟いた。
「怒りたいこと、謝りたいこと、お礼、いろんな感情が渦巻き、何をあなたに伝えたらいいのか分からないのです」
「言葉にしなきゃ伝わらないです。でも、僕は言葉にしなくても伝わるものもあるんだと、ルカさんと一緒にいて学びました。僕がバイトで疲れていると、甘めのお茶請けにしてくれたりとか、好きなドーナツを覚えていてくれてさり気なく出してくれたりとか」
「茶渋のついたカップを綺麗にしてくれたり、五階の部屋を掃除してくれていたりですね」
「ルカさんにたくさんの気持ちを頂きました。変わらないのは、この先どんなことが待っていようと僕はルカさんの側にいます。僕が将来どんな道を歩んでも、それはきっと変わらないです」
「あなたの優しさはとても残酷です。きっと私の思いとはかけ離れています」
「どういうことですか?」
「あなたの慈しみはとても尊い。ですが私の想いは、ほんの少しのスパイスが利いている、ということです。レモンのような酸っぱさもあります」
「少なくとも嫌いじゃないって、とってもいいですか?」
「嫌いどころか真逆です。あなたがとても大切で、言葉にするのが難しい」
ルカは伸びかけの悠の髪を弄り、破顔一笑した。
出迎えた初老の男は、立ち振る舞いから一目で洋館の主だと悟る。
「初めまして。ルカ・フロリーディアと申します」
「景森悠です」
「娘が大変世話になった。星野竜成と申します」
玄関まで出迎えた男は握手を求め、悠は緊張しながら手を握った。
廊下には絵画が飾られ、日本のものではなかった。あくまで洋風にこだわり抜いた建物は、リビングでも発揮されていた。棚には、ティディベアが数多く並んでいる。
「こちらは一九二〇年代のドイツ製のティディベアですね」
「君たちはアンティークショップの店員らしいね。娘の杏から聞いているよ」
「左様でございます。特徴的な鼻と手足の長さが際立っておりますね。状態も良い」
「流石だ」
「お褒めに預かり光栄でございます」
惚れ惚れするほど無駄のない動きで、ルカはお辞儀をする。
「有名なんですか?」
「ええ。ですが一九三九年に第二次世界大戦が起こり、会社が破綻に追い込まれたのです。それ以降、製造は難しくなりました」
「悲しい過去ですね」
「まったくです」
竜成は興味深そうに顎を撫でた。
「娘が子供の頃、ティディベアが好きだったんだ。だが年齢を重ねるごとに興味が無くなって、今じゃただの置物状態なんだよ」
「私からすれば、想いのこもる宝の数々でございます」
家政婦が食事の準備が整ったと伝え、ふたりは食堂に案内された。杏も手伝っていて、悠たちを見ては嬉しそうに駆け寄ってきた。
「本当は母にもご紹介したかったんですが、あいにく旅行に行ってしまったんです。一人で旅行が趣味な人で」
「ぜひまた今度紹介して下さい。僕も会いたいです」
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「今日はバーベキューをする予定だったんだ。だが急遽変更させてもらった。君たちがとても大事な話があると娘から聞いたのでな」
ルカはナイフとフォークを置くと、ナプキンで口元を拭いた。
「あなたは、フロリーディアという名を聞いたことはございますか?」
「フロリーディア?」
独り言のようにぶつぶつと呟き、竜成は何度か繰り返した。
「君の名字という意味以外に何かあるのか?」
「正確に申しますと、フロリーディアと口走った方を捜しています。娘さんから、あなたの知人の方が電話でフロリーディアの名を口にした記憶があると聞いたもので」
「いつの話だ?」
竜成は娘に問う。
「数年前だったと……思う。電話がかかってきて、フロリーディアさん?と口にして慌てた様子で廊下に移動していたから記憶が残ってるの。確かお父さんの誕生日パーティーだったかと。写真をみんなで撮ったと思うけど残ってないかしら?」
竜成は訝しんだ顔をし、ルカに質問を投げかけた。
「失礼だが、なぜルカさんはその人を捜しているんだ?確かに写真は残っている。だが家に招く人間は私の友人たちであり、危険に晒したり仲間を売るような真似はしたくないんだ。もちろん、娘を救ってくれた君たちが悪人とは思っていない」
ルカは小さく息を吐き、重い口を開いた。
「数年前、イタリアでフロリーディアの名を持つ私の知人が殺されました」
「なんと……それは」
「犯人は未だ捕まっておりません。亡くなる直前、彼は日本、または日本人と掠れる声を絞り出しました。語尾がはっきりせず、曖昧ですが、私は日本人だと聞き取りました。当時の私は日本語が堪能ではなく、曖昧です」
「とても辛い思いを抱えていたんですな。心中察します」
竜成は娘の杏にアルバムを持ってくるように言い、グラスの水を飲み干した。
「すると君は偽名なのか?」
「はい。ですが本名は名乗りたくはないのです。殺人犯を捜しておりますので、皆様にご迷惑をおかけする恐れがございます」
「ならば、私も君をルカ・フロリーディアと思うよ」
言えない理由はそれだけではなく、ルカはドキュスティーヌの名前を語りたくはなかった。
昼食を終え、リビングで杏が持ってきたアルバムを開いた。杏がページを捲り、竜成は真剣な眼差しで写真を見つめる。室内にはコーヒーの啜る音だけが響いた。
「あった。これです」
アルバムを向けられ、ふたりは一緒に覗き込んだ。
「こちらの男性です」
黒いスーツに身を包み、食堂で淡々と食事をしている男がいる。回りと談笑する様子もなく、たった一場面からでも孤独を表していた。
「思い出しました。この方はなぜ印象深かったかと言うと、カメラに写りたがらなかったのです。ほら、この写真も」
ワイングラスを片手に竜成たちは会話をしているが、黒スーツの男は後ろを向いている。他の写真も見切れているものや、顔をハンカチで拭いているものなどがあった。写真を撮ったのは杏のようで、ほとんど写っていない。
「こちらの男性のお名前は?」
「確か、西湖秋良だったと思う」
悠はメモ帳にまとめていく。
「思い出したよ。製薬会社で働いている人だ。友人だと紹介されたんだ。声も小さく、あまり良い印象を持たなかったよ」
「ルカさん、捜せそうですか?」
ルカは写真に指を置き、対象となる人物に視線を注いだ。
「駄目ですね。はっきり顔が写っていない」
「捜す?」
「実はアンティークショップ経営は本当ですが、人捜しもしているのです」
「なんと。探偵のようなものかね?」
「少々霊感がございまして、霊魂を辿り、人や物を捜し当てます」
「実力はどれほどなんだ?」
「生死問わず、百発百中です」
竜成はさらに一驚した。
「しかし本人がはっきり写っている写真や、肌身離さず大事に持っていた物などが必要となります」
「ふむ……」
竜成は顎を撫で、視線を宙に投げた。
「私はこちらの製薬会社の社長と知り合いだ。連絡を取り、西湖秋良と連絡を取れる可能性を握っている。一つ、君たちに条件を出したい。いや、条件と言っては失礼だな。お願いしたいの間違いだ」
「伺いましょう」
竜成はアンティークの棚から封筒を取り出すと、それをルカに差し出した。
「私は紅茶の店を出していて、茶葉はスリランカからも取り寄せているんだ」
「素晴らしいですね。私は紅茶が大好きなのです」
紅茶好きのルカにとっては堪らない話だ。
「スリランカには知り合いがいて、いつもそこで買い付けを行っている。独自のブレンドもお願いしているんだ。だが農園で働く男性が行方不明になってしまった」
「その男性を捜してほしいとのご依頼ですか?」
「ああ。こちらからのお願いであるから、飛行機代、ホテル代はすべて出す」
「承ります」
「ルカさん、僕も」
「悠は勉学に励んで下さい。講義があるでしょう」
断られると予想していたが、こうもばっさり切り捨てられると心にくるものがあった。竜成はふたりのやりとりを見て、顎を撫でた。考え事をすると、顎に触れる行為は癖のようだ。
「君は大学生か?」
「はい。そうです」
「学科はどこだ?」
外国語を主に学んでいると話すと、にんまりと笑い大きく頷いた。
「君はスリランカは何語を話すか知っているか?」
「英語、シンハラ語、それと……えーと」
「タミル語ですね」
答えられない悠に代わり、ルカが答えた。
「国が変われば話す言葉の癖も変わる。スリランカで英語力を身につけるのも勉強のうちだ。大学の勉強がすべてではない。ルカさん、そう思いませんか?」
竜成は悠にウィンクをした。悠は心の中で感謝し、ルカの答えを待った。
「……確かに。私にも経験がございます」
「あなたの考えとしては巻き込みたくはないでしょう。ですが彼の目をご覧なさい。全力でルカさんを心配している。心に懸けられているあなたは幸せ者だ。だがそれに気づかないあなたは不幸者でもある」
いつも涼しい顔をしているルカは俯き、数回瞬きをした。心なしか目が潤んでいるようにも見えた。
「お手数おかけ致しますが、往復チケットを二枚、お願い出来ますか?」
「ホテルもすぐに手配しよう」
土産にと竜成から渡された紅茶を入れるべく、さっそく悠は簡易キッチンに立った。
タクシーの中ではルカとは一切会話をせず、冷戦状態にある。ルカの背後をついて行くと、そこはSHIRAYUKIのソファーだった。力ない心苦しさが溜まっていき、分量を間違えた紅茶は少し濃いめの出来になった。
テーブルに無言で紅茶を置く。ルカは棚からクッキーを取り出し、カゴに飾り付けると真ん中に置いた。花咲いたような並べ方だ。
「悠、隣に来て下さい」
テーブルの向こう側に座ろうとしていたが、ティーカップを移動させた。
「言葉が……上手く見つかりません」
ぽつりとルカは呟いた。
「怒りたいこと、謝りたいこと、お礼、いろんな感情が渦巻き、何をあなたに伝えたらいいのか分からないのです」
「言葉にしなきゃ伝わらないです。でも、僕は言葉にしなくても伝わるものもあるんだと、ルカさんと一緒にいて学びました。僕がバイトで疲れていると、甘めのお茶請けにしてくれたりとか、好きなドーナツを覚えていてくれてさり気なく出してくれたりとか」
「茶渋のついたカップを綺麗にしてくれたり、五階の部屋を掃除してくれていたりですね」
「ルカさんにたくさんの気持ちを頂きました。変わらないのは、この先どんなことが待っていようと僕はルカさんの側にいます。僕が将来どんな道を歩んでも、それはきっと変わらないです」
「あなたの優しさはとても残酷です。きっと私の思いとはかけ離れています」
「どういうことですか?」
「あなたの慈しみはとても尊い。ですが私の想いは、ほんの少しのスパイスが利いている、ということです。レモンのような酸っぱさもあります」
「少なくとも嫌いじゃないって、とってもいいですか?」
「嫌いどころか真逆です。あなたがとても大切で、言葉にするのが難しい」
ルカは伸びかけの悠の髪を弄り、破顔一笑した。
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