薫る薔薇に盲目の愛を

不来方しい

文字の大きさ
上 下
13 / 32
第一章 盲目の世界

013 新しい世界

しおりを挟む
 作り物とはいえ、京都と言われば雰囲気は確かに京都を思わせる風情があった。
「んっ…………」
 バスローブの下には真っ白な肌が隠れていて、小さな突起に触れると身体が揺れる。
 初めてキスしたときもそうだったが、彼は不慣れだ。熱を分かち合う行為は初めてなのだろう。彼が一途に思い続けた代償だ。いまだに誰とも熱を分かち合っていない。
 乳暈を撫でながら突起に吸いつく。固く凝り、薄い胸が上下に動く。
 下へ手を這わせると、脚が閉じようとし、隙間に入れた。
「怖い?」
「ちょっと……恥ずかしいだけです……」
「気持ちいいって思ってもらえたら、うれしい」
 脚の力が抜けるまで待った。すると蓮は自ら脚を開き、顔を背ける。
 バスローブを開くと、薄い陰毛が薄暗い明かりに照らされて光っている。少年から青年へ変わったが、大人になりきれておらず、かえっていやらしさが増す。
 ぬめった先端を口に含み、窄みの間に舌を入れながら唇に力を込めた。
「……っ、は……あっ…………」
 太股をがっしりと押さえつけながら、舌を強めに裏筋に当てる。
 蓮は苦悶に満ちた表情で額から汗を流し、短く息を吐く。
「悦んでるよ、ここ」
「あ、もう……だめっ……いっちゃう……」
 口の中に濁液の独特の苦みが広がった。
 迷わず受け止めながら喉に追いやり、口元に残った残液を拭う。
「ごめんなさい……」
「どうして謝るの? 気持ちよかった?」
「はい……とても」
「後ろも触っていい?」
 紅葉色に染まる身体は反転し、尻が高く持ち上がる。
 バスローブをすべて取り除き、かずと自身もベッド下へ落とした。
 指にたっぷりと潤滑剤をつけて、割れ目に親指をかけて開いた。
「力抜いてごらん」
 破瓜の跡すらない窄まりに中指を押し当てる。
 指一本すら入らない小さな穴は、気持ちとは裏腹に拒絶している。
 奥へ向かう皺をなぞり、切なそうに震え後孔に息を吹きかける。
「ああっ…………!」
 触れてもいないほっそりとした先端から濁液が勢いよく飛び出て、布団を濡らした。
 力を抜けた瞬間に指を滑り込ませる。蠢く肉襞は先へ先へと誘い、簡単に指が埋まっていく。
 強いられているわけではない。身体も心も開いた瞬間だった。
「ああうっ……ああ……っ!」
 悦びの悲鳴が聞こえ、もっと鳴かせてやりたくなった。
 突起を素早くかすめれば、再び赤く凝り始める。要求してくる快楽に応えようと、かずとは口に含んだ。
 指技で丹念に鳴らし、すでに天井高くそそり立つ猛りで割れ目をなぞる。
 愛らしい青年の破瓜を堪能できると、興奮しきっていた。理性はすでにきかなくなっている。
「挿れていい?」
 かずとは彼の肢体をひっくり返して、仰向けにした。
 蓮は目を泳がせる。拒否ではない。これが終われば、別れを意味するのだ。最初で最後の愛の証。
 蓮の目尻から涙が零れ落ちた。かずとは唇を当て、涙をすする。
 蓮の下肢を胸につくほど押し、かずとは乗りかかった。
 ぼってりと膨れ上がった亀頭を窄まりに当て、肉襞を割りながら奥へと進めていく。
 蓮からは苦悶の唸り声が聞こえるが、歓喜の悲鳴も入り混じっている。
「んんっ……は、……ああっ……」
「………っ……ん…………」
 蓮の下肢が濡れている。怪しく光る先端を包んで扱くと、肉襞に収縮が起こった。
 絶頂を最奥で放つと、蓮も甲高い声を上げて自ら吐き出した精で胸元を濡らした。
「せんせ……好き…………」
 蓮は意識を手放した。返事をしたくても、できなかった。
 どちらの体液かも判らないほど、特に下肢は濡れている。
 後始末をし、かずとは横になった。火照った肌に触れ、そっと唇を重ねた。



 起きると、隣に寝ていたはずの蓮はいなくなっていた。



 ベッド脇の棚にはお札が置かれていて、少し多めのホテル代だ。
 熱もゴミ箱の残骸も残っているのに、彼は颯爽と消えていった。
 いかに彼が本気だったのか痛感した。だからこそ、何も残そうとしなかった。
 しばらくベッドで放心のままでいると、ロビーから電話がかかってきた。
 何時に彼は出ていったかと尋ねると、一時間以上も前らしい。
 寝たふりをして、かずとが眠った後で一人で出たのだ。
 虚しく着替えている間も、悲しみが背中に突き刺さる。
 彼はいつもこんな思いをしていたのだ。連絡先の交換もせず、家族や暮らしも何も話していない。向こうからすれば、何も知らないのと一緒だ。
「なんてひどい男なんだ……俺は」
 謝罪しても彼にはもう届かないし、むしろ謝罪なんて求めていないのかもしれない。
 狸寝入りを決めた彼でも、まぶたを閉じる直前に「好き」と言ったのは、本心であると信じたかった。



 大学四年生になり、桜吹雪が身体を包んだ。
 春は別れの季節でもあり、出会いの季節でもある。一番仲良くなった小泉は卒業し、彼女は教師という道を歩んだ。面倒見のいい彼女なら、きっといい先生になれるだろう。
──お互い、良い出会いをしようね!
 がっしりと握手をして、彼女と別れた。
 彼女が負った傷も大きいが、卒業式では笑顔だった。思いやりのある先輩と出会え、蓮にとっては宝物だ。
「れんれんって、卒業したらどうすんの?」
「やりたいことはあるけど、いろいろ困ってる」
 久しぶりに母親から連絡が来た。大学を入り直して医者を目指さないかという地獄の誘いだった。彼女も病院へ通い、ノイローゼが治ったのかと思いきや相変わらずだった。
 母親は家族が医者の家系だというブランドにしがみついている。蓮は早く抜け出したかった。
「時間ないけど、お互い頑張ろうな」
「うん、そうだね」
 天文サークルの同僚とは、すっかり打ち解けている。秋になれば忙しくなるので、蓮も紅葉の時期にはほとんど顔を出せなくなるだろう。
「その前に文化祭かあ。喫茶店続いてて別のものをやりたいって思うけど、評判いいからまたやりたいんだよな」
「僕は喫茶店でも全然良いけど。クッキー作ったりするの楽しいし」
 小泉たちもいなくなった今、後輩を引き連れて頑張らなければならない立場だ。どちらかというと楽しみよりプレッシャーが大きく、就職も控えているためにのしかかるものも大きい。
 蓮は家へ帰ると、庭から音がした。祖父が古くなった鹿威しを新調している。
「おじいちゃん、ただいま。すんごい良い音になったね」
「おー、おかえり。こーんこーんって、良い音だろう? おじいちゃんが作ったんだ」
 得意げに言うと、祖父の目尻に皺が寄る。
「うん、とっても素敵だよ。毎日聞くの楽しみなんだ。おじいちゃんか作ってくれたんだし、すごく嬉しい」
「そうかそうか。よかったなあ。中に入って、お茶でも飲もうか」
 人の命を救い続けた手は、今は傷と泥だらけになっている。
  父も母も祖父も医者だ。祖母は看護の仕事をしていた病院で、祖父と知り合った。二人が言うには昔にしては珍しく恋愛結婚だったらしい。穏やかな二人は誰が見てもお似合いだ。
「おじいちゃんって、医者になるの嫌じゃなかった?」
「人を救う仕事に嫌もないよ。生きることも食べるものも必死だったからなあ。みんなが感謝してくれて、手術した人が長生きしてくれて、こんな嬉しいことはない」
 今日のお茶請けは春らしく、桜餅だ。しっかりと二種類用意されているのは、祖父が選べなかったためだろう。和菓子コーナーで唸る祖父の顔が浮かぶ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

処理中です...