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第一章 ふたりの恋路

010 本来の目的

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「ラーメン!」
「第一声がそれか? ん?」
「あけましておめでとうございます。本年もどうぞお願い申し上げます」
「よくできました。あけおめことよろ」
 秋継のワゴン車へ乗り込んだ。二段重ねの鏡餅が飾られている。
 凜太は餅をつついた。しっかり固定されている。
「カレーとラーメンどちらがいいか聞こうと思ったが、その必要はないみたいだな」
「東京ってラーメン激戦区なんでしょ? 池袋とか」
「少し歩けばラーメン屋なんて山ほどあるぞ。どれがいいのか決めたか?」
「味噌ラーメンがいい。寒いと味噌ラーメンが食べたくなる」
「味噌か……」
 秋継は端末で検索し始めた。凜太もラーメンのサイトをいくつか回ってみた。
「今って全国各地のラーメン食べられるんだ……。宅配してくれるサイトがある」
「家で食べたいか?」
「別の意味でアキさんの家には行きたい」
「別の意味ってなんだよ。やらしいな」
「やらしい意味で言ってんの」
 秋継は大いに笑った。つられて凜太も声を上げる。
 それに対して秋継は返答しなかったが、来るなとも言わなかった。
 車の中では主に正月の話をした。秋継の家も同じようで、代わる代わる来る親戚からは見合いの話をすすめられ、愛奈を盾に逃げ切ったらしい。
 池袋と書かれた標識が見える。秋継はそのまままっすぐに進んだ。
「車でえっちってやばいかな」
「……っ…………お前な、アクセル強く踏むところだったぞ。人に見られたら公然わいせつ罪になる。やばい」
「やっぱりそうなんだ。ならホテルだね」
「急にどうしたんだよ。そんなこと言ってなかっただろ」
「アプリ内でそういう話をすると、停止処分くらっちゃうんだ。ってかアキさん、したくないわけ?」
「そんなわけないだろう」
「じゃあなんで誘ってくれないの?」
「お前に身体目的だと思われたくないからだ」
「……ちょっときゅんとした」
「魅力的すぎて身体優先になりそうだから」
「うわあ」
「お前で何度も抜いた」
「ちょ、ちょっとどうしちゃったの? 熱ある?」
「至って普通だ。ラーメン食べたらホテルに行くぞ」
「やった」
「あまり長居はできないからな」
 今日は祖母の帰りが遅い。親戚への挨拶回りをしている日だ。凜太としてもチャンスで、今日こそは誘おうと心に決めていた。
 ネットで高評価のラーメン屋へ入った。揺らぐ湯気に混じって味噌の香りがする。
 奥のソファー席へ座り、さっそくお品書きを開く。
「餃子は? 食べる?」
「やめとく」
「なに気にしてんだよ」
「男心判ってよ」
 身体の関係を持つということは、体臭や口臭の問題も出てくる。好物でもあったが、なんとかこらえた。
「野菜増量とかしないのか?」
「動けなくなるかも」
「お、積極的だな」
「まあね。任せて」
 レギュラータイプの味噌ラーメンを注文した。
「途中でドラッグストアとか寄る?」
「いろいろ持ってるから心配しなくていい」
「結局やる気満々じゃん!」
 真っ白な湯気の立つ麺を豪快にすすった。チャーシューは肉厚であり、口内ですぐに崩れる。
 卵は半熟で、チャーシューに黄身をつけると濃厚になった。
「僕、家でラーメンって食べた経験ほとんどないかも」
「麺類自体は食べるのか?」
「そばとかうどんは食べるよ。年越しそばも食べたし。アキさんは実家に戻った?」
「ああ。すぐマンションに戻ったけど。挨拶回りがどうも俺には合わん」
「でもお年玉もらえるじゃん」
「リンは学生だからだろ。俺はあげる側だ。お年玉で何か買うものでもあるのか?」
「今日、お金多めに持ってきてる。あわよくばコンドームとか買おうかなって思ってた」
「お年玉でコンドーム? なに考えてんだよ」
「そりゃあえっちなことだよ」
 秋継はげんなりとした表情でチャーシューを食べている。
「そんなもの買おうなんて考える学生は全国探してもお前くらいだ。貯めておけよ。いずれ必要なときがくるから」
 ラーメンを食べ終え、ふたりで外に出た。
 吐く息は白く、指先が氷に触れたみたいに冷たい。
「さっさと行こう」
 秋継は凜太の手を握り、歩き出した。
 車までの距離は近く、わずか数秒の夢物語だ。
 エンジンをつけ、秋継は端末でまた何か調べ物をしている。
「もしかしてホテル調べてる?」
「そう。いい感じのホテル知ってるか?」
「ラブホなんてこの前行ったきりだよ」
「それは良かった。……近場にするか」
 誰とも合わないだろうが、心臓が力強く鼓動を鳴らしている。落ち着けと胸の辺りを何度も撫でた。
 雰囲気の良いホテルを探すよりも、早く一つになりたかった。それは秋継も同じようで、なんとなくそわそわしているようにも見える。
 フロントは無人であり、凜太は安堵した。働く人間は慣れているだろうが、見られるのは少々抵抗がある。
「部屋、どこでもいいか?」
「うん。全部似たり寄ったりだね」
 音漏れはしないだろうが、秋継は隣に人がいない部屋を選んだ。
 気分の問題で、凜太も同じように隣り合っていないところ選択するだろう。
 部屋は普通のビジネスホテルだった。施錠されたとたん、後ろから抱きしめられ、影が覆い被さる。触れていたくて、凜太も後ろ手に彼の腰を掴んだ。
 大きな手が布地を弄り、中へ入ってきた。
「ベッドに行きたい」
 秋継の返事はないが、代わりに腕を引かれベッドへ沈んだ。
 枕も布団も硬く、寝心地は良くない。けれど極上に思えた。
「んっ…………」
 秋継の指先は冷たかった。衣服を脱がされ、肌の表面をかすめると、触れられた箇所に鳥肌が立つ。
 秋継はキス魔だ。息をするのも許さないほど、とにかく十秒に一回はしたがる。
 口内を荒らされ、唾液が絡まり、飲み込めと押し込まれる。
 溢れた唾液は口の端を伝うが、秋継に舐め取られた。
 全裸に向かれ、柔い光が身体に当たると白さが一際目立つ。
 白い裸体をひっくり返すと、秋継はチューブ状のクリームを絞り、ふっくらした臀部に触れた。
 割れ目に沿って指が這い、親指を引っかけて外側へ押しやった。
「どっちが……ほんとのアキさん?」
「どっち? どういう意味?」
「優しい……優しいよ。普段は意地悪なことばっかり言うのに……」
「さあ、どうだろうな。意地悪なのが本当の俺じゃないか?」
 嘘だ、と心の中で叫んだ。
 こんなに優しい人はいたことがない。けれど意地悪な秋継も本物であり、好きなことに変わりなかった。
 秘部が愛撫と圧迫を求め、伸縮し始めた。
 中指が狭い窄みを突き破る。痛みによる懐かしさと切なさで指を締めつけた。
「あっ……あうっ………あ、………」
 切ない声に媚薬が混じったような甘い声に変わり、さらにもう一本増やされる。
「熱いな……」
 うっすら目を開けると、性器がへそにつくほど勃ち上がっている。お互いにだ。腹部が透明な液で濡らし、シーツへ流れ落ちている。
「もういいから……」
 仰向けに転がり、凜太は自ら足を開いた。
「もっと開いて」
 胸に足を押さえつけられると、秘部の肉襞がむき出しになる。
 長い、長い時間に思えた。ひくつく秘部を割られ、コンドーム越しでも判るほど熱くて硬いものが押し当てられる。
 肉襞が割られると、凜太は蠢く性器を呑み込んだ。
「……ッ…………、すごいな……中が蕩けてる」
 粘膜が擦れ、卑猥な音を響かせる。
 律動はしばらくすると激しくなり、粘る音が鳴り渡った。
「気持ちいいか?」
「あ、あっ……ん、いい…………!」
 切なさが声に溢れ、やがて果てた。
 腹に水たまりのようになる体液を、秋継はタオルで触れた。
 凜太の目尻からは涙が溢れる。
「ああ、出そうだ」
 秋継は苦し紛れに呟くと、隔たりの中で絞り出した。
 秋継は凜太の頬に触れ、唇を貪った。
 腸襞が意識とは裏腹に蠢き、秋継を中へと誘う。
 奥が疼いて仕方なかった。
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