黄金色の星降りとアキの邂逅

不来方しい

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第一章 ふたりの恋路

06 火花の散り合い

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 和服で登場した春は美しいと何度も声をかけられていて、春は優雅に微笑んでいる。
 大広間には続々と人が集まっていた。家元の人と人を繋ぐ力には感心する。
 春が腕を掴んできた。
「どうかした?」
「ねえ、あの人って」
 春の目線の先にいたのは、相沢秋継だ。家元に挨拶をしている。向こうもこちらに気づいてやってきた。
 だが彼が向いたのは凜太ではない。
「愛奈さん、お久しぶりです」
「まあ、秋継さん。お元気でしたか?」
「はい。愛奈さんもお元気そうで何よりです。本日を心待ちにしておりました」
 会えた嬉しさ、会えなかった寂しさ、いろんな感情が沸き起こり、最終的には「許さない」という気持ちが勝った。どちらも猫被りな二人の本性をばらしてやりたい。
「初めまして。桜田春と申します」
 なぜか春が一歩前に躍り出た。
「あなたが桜田さんですか。存じ上げておりますよ。私は相沢秋継と申します」
「ありがとうございます。とっても嬉しいわ」
 猫被り三人目の春だ。とてつもなく禍々しい空間である。
「もうご存じでしょうけれど、こちらは愛奈さんの弟の凜太さんです。私の婚約者ですの」
「………………へえ」
 禍々しい空間が猛吹雪状態だ。心なしか雹まで降り、心を突き刺す。
 秋継の眉毛がひくりと動き、目元がまったく笑っていない。
「奇遇ですね。私も愛奈さんと仲良くさせて頂いていますので」
「あら、そういう仲でしたか。それは知りませんでしたわ」
 家元の一声で、お茶会が始まった。普段の厳粛な雰囲気とは異なり、和やかでありながら笑い声で包まれた。
 時折愛奈と一緒にいる秋継と目が合う。何か言いたそうで、責めるような目を向けてくる。
「ちょっと、なんであんなこと言ったのさ」
 凜太は春を問いつめた。
「寂しい想いをさせてたんでしょ。これくらい言っても罰は当たらないわ。それにいずればれるでしょうよ。あとで知られて面倒なことになるより、堂々と言うべき」
「……確かにそうかもしれないけど、ずっと僕を睨んでる」
「ふん。本当にほしかったら私から奪えばいいだけ。それとこのお菓子美味しいわ」
「僕の分食べる?」
「もらう」
 春のお気に召した主菓子は練り切りで、白あんをゼリーで包んだものだ。暑くなった今の季節にはちょうどいい。
「足りない」
「僕の部屋に来る? プラネタリウムの件もあるし、こっそりチョコ隠してあるし」
「そうしようかしら」
 大人たちは談笑していて、こちらに見向きもしない。
 凜太たちは自室へ行き、さっそくプラネタリウムの電源を入れた。ついでに隠してあったチョコレートを出す。
「なかなかね」
「良いでしょう? 星たちは踊ってるみたいで、お気に入りなんだ」
「チョコ美味しい」
「あ、そっち?」
「星たちもなかなか楽しそうに見える。踊るっていいわね」
「ゴミはこっちに入れて。後で処分するから」
「こんなことも怒られるの?」
「こっそり食べてるとね、やっぱり家元がうるさいし」
 大きなゴミ箱は言わばブラフだ。机の中にビニールを広げて、こちらに見せられないゴミを入れる。
「プラネタリウムだけど、どれがいい?」
「けっこう長めのがいいかも」
「最新のが一番長いかな。しかもスイッチを切り替えるとオーロラが見える。これと二番目に長いのにしようか」
 扉が強めに叩かれた。すぐさま机の引き出しを閉め、部屋の電気を明るくする。
「はい、今開けます」
 扉の叩き方からして、家政婦でも家元でも母でもない。
 先に踏み出そうとする春の手を引き、凜太は取っ手に手をかけた。
「……………………」
「こんにちは」
 非常に気まずい。なぜか相沢秋継が目の前にいた。
「ごきげんよう、相沢さん」
「桜田さんもご一緒でしたか」
 ばちばちと火花が散る。火の勢いが強すぎて焼け死にそうだ。
「どうしたのですか?」
「いやあ、お手洗いをお借りしようかと思いましたが、広いお屋敷で道に迷ってしまいまして」
「あら、では私がご案内致しましょうか? 凜太さんの家には幼少の頃から何度も来ていますから、慣れておりますの」
「さすがに女性の手をお借りするのは。凜太君に案内を頼みたいのですが、よろしいですか?」
「……構いません」
「では私は先に広間へ戻っていますね。凜太さん、プラネタリウムの件、くれぐれもお願いしますね」
「かしこまりました」
 春の足音が遠退いてから、秋継は振り返った。
「全部説明しろ」
「何を?」
「何じゃないだろ。許嫁なんて聞いてない。それにプラネタリウムの件ってなんだ」
「許嫁は僕らが生まれてまもなくの頃に、家元が勝手に向こうの家と決めたんだよ」
「で、それを二人は律儀に守っていると?」
「都合がいいんだ。もし僕が春と結婚しないなんて言ったら、どの道ほかの女性をあてがわれるだけだし。春も同じ立場だよ。だから僕らは忠実に守ってる。そもそも春は僕が男の人が恋愛対象って知ってるし」
「プラネタリウムって?」
「なんか、今日のアキさん怖い。ずっと怒ってる」
 久しぶりに会ったのに、と付け足した。
 秋継は息を呑むと、ベッドに座る。
「……悪かった。確かにそうだ。久しぶりに会った。おいで」
 手招きされ、凜太も横に座った。
 後頭部に手を置かれ、いいこいいこと撫で回される。
「それ、飾ってるんだな」
「ミーアキャット? たまに一緒に寝てる」
「……八つ裂きにしてやりたくなった」
「なんでっ。アキさんが買ってくれたのにっ」
 頭を撫でる手は止まらない。気持ちが良くて、つい身を委ねてしまう。
「プラネタリウムは、夏の文化祭の出し物で使うんだよ。部屋を借りてミニチュアプラネタリウムを作る予定なんだ」
「俺も行っていいか?」
「来てくれるの? 忙しいんじゃない?」
「一日くらい休みは取れる。プラネタリウム同好会なのか?」
「星空散歩同好会」
「なんでまた星空と散歩の同好会なんだ?」
「あー、うん……そこはまあ、いろいろあるんだよ。来てくれる約束だよ」
 小指を差し出した。すると撫でている手ではなく、空いている手で小指を絡めてきた。
「そうだ。チョコあげる。さっき春と一緒に食べてたんだけど、これ本当に美味しいんだ」
「食わせて」
 秋継は口を開けて待っている。ひと粒放り込むと、不服そうな表情を見せた。
「普通は口移しだろ?」
「普通はしーまーせーん」
「ほら、してよ」
「仕方ないなあ」
 ガラスに映る顔がにやけている。自分の顔ではないみたいで、奇妙だった。
 チョコレートを口に入れると、すぐさま唇で塞がれた。すぐに溶ける。抹茶の味がした。
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