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エピローグ
031 エピローグ─画家の決断─
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こんなに近くにいるのに離れるのは、寂しさで押し潰されそうだった。何年も会っていなかった期間があるのに、おかしなものだ。
三十歳手前の成人男性を妖精と呼ぶ春日は、鼻歌を歌いながら画材の準備を始めている。さっきまで幸一とやりあっていたのが嘘みたいだ。
僕を脱がせようとする春日、それは許さないと断固拒否を繰り返す幸一。風呂場で裸を見られるのと目的があって見られるのとでは話が違う。
「妖精さんってどこ住まい?」
「北海道だよ」
「幼なじみの彼も?」
「まあ……そうだね」
同じ家に住んでいます、とは言えない。
「東北と北海道か……わりと近いな。出身も北海道?」
「いや、東京だよ。仕事の都合で北海道にいるだけで。北は自然が豊かなところが多くて、僕は好きだ」
「判るよ、うん。都会に住むと、急に田舎が恋しくなるんだよねえ。これから戦争が起こるとも限らないし、田舎が安全だよ」
「物騒だけど、僕もそう思う。それに田舎は魚を釣ったりするが好きなんだ」
横顔を描きたいという彼の要望に応え、椅子に腰掛けたまま窓の外を見つめる。
子供たちの笑い声、鳥のさえずり、葉が擦れる音。どれをとっても幼少期に聴いたオペラより心が求めている。
僕自身、田舎の暮らしがこんなにも馴染むとは思わなかった。愛する人が側にいて、これ以上の贅沢はない。
「あ」
「なに? どうかした?」
「今の顔がいい。もう一回」
「今の顔? ……どんな顔だよ」
「説明できない。さっきの顔。ほら、早く」
「判らないよ」
「八重澤先生に描いてもらってるときみたいに」
「だからモデルじゃないってば」
春日の説明は抽象的すぎて、理解できなかった。
花の蜜のような顔だとか、感覚を大事に生きる彼らしい表現だ。
昼休憩を挟んで再度続けることになったが、時間が経つたびに春日の眉間には皺が刻まれていく。
春日は筆を投げてしまった。次第に子供のように駄々をこね始めてしまう。
「やっぱり裸じゃないとダメなんだよ。君が脱ぐのに幼なじみの許可なんて要らないだろ?」
「必要ないといえばないけれど、いきなり脱ぐのは抵抗がある。それに服を着ていても僕自身には変わりないよ」
扉が少し強めに叩かれ、春日が動くより先に僕が扉を開けた。
幸一が目の前にいて、心底ほっとする。甘い麻薬じゃないかと思った。
「どう? 描けた?」
遠慮もなしに、幸一は勝手に部屋へ入ってきた。
春日の描いている絵を見て、顎を何度か撫でている。
僕も覗いてみるが、ミミズのような線がうねっているだけだった。
「全然描けていない……」
「妖精さんがさっきみたいな顔をしてくれたら描けるって!」
「何の話?」
「よく判らないんだ。僕の表情が気に入らないのか、ずっと違う違う連呼している感じ」
「モデルが自分の描きたい表情をしてくれると思ったら大間違いだぞ。描き手が引き出さないといけないんだ」
「俺が?」
「服を着ているとか裸体だとか、何も関係がない。一方的に思いをぶつけたって、困惑するだけだ。妖精はそこに座って」
幸一に言われるがままに、椅子に座る。幸一が側にいると、自然と肩の力が抜けた。
「……可愛いよ」
幸一と目が合う。画家の目になっている。見つめられると喉がからからになり、内股が微かに震えた。
十分と経たないうちに、幸一は鉛筆を置いた。
「うわ…………」
春日は小さな悲鳴を上げる。感嘆の交じる声に、僕も覗き込む。
「これだよ……こんな顔……どうして君には見せるんだ」
「春日君、君は絵を描く才があると思うよ。でも画家はそれだけじゃ足りない。画家は筆を持って絵を描くことだけを考えていると思ったら大間違いなんだ」
部屋はすでにもぬけの殻で、僕は駅まで走った。
「春日」
ぼんやりと空を見上げている彼の名前を呼び、横へ座る。
「妖精さん……どうかしたの?」
「こっちの台詞だ。電車にはまだ早い時間だろう。もう帰るのか?」
「なんとなく、もうあそこに居たくなくなった。俺ってこんなに弱っちいんだなあ」
「精神的に?」
「うん。ちょっと痛む。自分の才能の無さを見せつけられたみたいで」
「あいつは元々絵が上手かった。でも生まれつきじゃないんだ。授業中でも休憩時間でも、息を吸うようにいつも絵とともに過ごしていた。本人は努力と思っていないかもしれないが、ずっと描き続けてきたんだ」
「八重澤虎一先生って、あんなすごい人だったんだな」
「……やっぱり気づいていたんだな」
幸一も途中から画家であることを隠そうとしなかった。真剣に春日と向かい合っていた。画家として放っておけないところもあったんだろう。
「これ、電車で食べてくれ」
「ありがとう。妖精さんのおにぎりだ。感激。……八重澤先生の絵を見て、もっと描こうとも思ったし比べてしまって描くのを止めようとも思ったんだ。療養のために湯治へ来たのもあるけど、未来への不安のせいで心が板挟みになっていて、どちらかというと精神的に参っていた」
「来てよかった? それとも後悔してる?」
「後悔なんてするわけがないよ。やっぱりちょっと落ち込んではいるけど」
「百人いれば百通りの絵ができるものだろうけれど、比べてしまうんだな。技術の部分?」
「そうだね。彼の足元にも到達していないって思う。言語化するのが難しいんだが、はっきりと差を見せつけられたよ」
「僕は春日の絵が好きだ。いつか個展でみたいと思うし、応援もしている」
「っ……ありがとう。八重澤先生によろしく。最後にさ、名前教えてもらってもいいかな?」
僕は迷い、覚悟を決めた。
「本田……虎臣」
春日は驚愕し、固まっている。
これがもう一つの秘密だ。同じ「虎」を持つ名前に、いろいろと察したんだと思う。
「八重澤先生が虎臣を描け理由も判ったよ。また……いつか」
「ああ。いつか会おう。また春日の絵を見せてくれ」
春日と固い握手を交わして、彼と別れた。
絵を描く彼を見ていると昔の幸一を思い出し、放っておけなかった。
春日は電車から大きく手を振っている。僕もそれに答えた。
ふと、従兄弟の肇が頭をよぎった。彼は船に乗ったら、顔も出さずそのまま乗っていってしまった。
元気にしているだろうか。彼の仕事が落ち着いたら、会いたいと願う。
部屋に戻ると幸一が絵を描いていた。僕が寝ているところの絵で、色を塗っている最中だった。
急に切ない気持ちが生まれた。こんなに近くにいるのに、遠い存在に感じられて、僕はどうしようもなくなった。
「どうした?」
やけに優しい声色なものだから、後ろから張りついた。
「新婚旅行だよな、これ」
「そうだよ。こういうのも、想い出になっていくさ。ふたりきりはもちろんいいが、それだけを望むなら北海道に帰ればふたりになれる。俺は虎臣といろんなことを体験したい」
「明日こそ、川へ行こう」
「乗り気になったのか?」
「別に嫌だったわけじゃない。子供たちがたくさんいる中で、大人の僕たちが遊んだらおかしな目で見られないか心配だっただけだ」
「おかしな奴だなあ。俺なら喜んで川中飛び回るのに」
「ついでに釣りもしたい」
「ああ、そうしよう。他にやりたいことはあるか?」
「……抱き合いたい」
幸一は真顔になり、筆を置いた。
こういうときの幸一は切り替えが早い。地団駄と踏む子供がお菓子で釣られて、一気に泣き止んだみたいだ。
「春日、八重澤先生によろしくだって」
「他の男の話か?」
「ふふ……幸一だって彼を気に入ってたんじゃないのか?」
「昔の俺みたいだと思ったんだ」
「僕もそう思うよ。お前はいつも飄々としていたけどな」
「俺が? 毎日余裕がなかったさ。絵で食っていけるのかとか、お前が他の男に取られやしないかとか」
「絵の悩みは尽きないだろうけれど、僕に関しては悩むことはないだろ」
「なんで? 俺にしか気持ちが向いていないから?」
照れ隠しに唇を塞いでやった。
三十歳手前の成人男性を妖精と呼ぶ春日は、鼻歌を歌いながら画材の準備を始めている。さっきまで幸一とやりあっていたのが嘘みたいだ。
僕を脱がせようとする春日、それは許さないと断固拒否を繰り返す幸一。風呂場で裸を見られるのと目的があって見られるのとでは話が違う。
「妖精さんってどこ住まい?」
「北海道だよ」
「幼なじみの彼も?」
「まあ……そうだね」
同じ家に住んでいます、とは言えない。
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「いや、東京だよ。仕事の都合で北海道にいるだけで。北は自然が豊かなところが多くて、僕は好きだ」
「判るよ、うん。都会に住むと、急に田舎が恋しくなるんだよねえ。これから戦争が起こるとも限らないし、田舎が安全だよ」
「物騒だけど、僕もそう思う。それに田舎は魚を釣ったりするが好きなんだ」
横顔を描きたいという彼の要望に応え、椅子に腰掛けたまま窓の外を見つめる。
子供たちの笑い声、鳥のさえずり、葉が擦れる音。どれをとっても幼少期に聴いたオペラより心が求めている。
僕自身、田舎の暮らしがこんなにも馴染むとは思わなかった。愛する人が側にいて、これ以上の贅沢はない。
「あ」
「なに? どうかした?」
「今の顔がいい。もう一回」
「今の顔? ……どんな顔だよ」
「説明できない。さっきの顔。ほら、早く」
「判らないよ」
「八重澤先生に描いてもらってるときみたいに」
「だからモデルじゃないってば」
春日の説明は抽象的すぎて、理解できなかった。
花の蜜のような顔だとか、感覚を大事に生きる彼らしい表現だ。
昼休憩を挟んで再度続けることになったが、時間が経つたびに春日の眉間には皺が刻まれていく。
春日は筆を投げてしまった。次第に子供のように駄々をこね始めてしまう。
「やっぱり裸じゃないとダメなんだよ。君が脱ぐのに幼なじみの許可なんて要らないだろ?」
「必要ないといえばないけれど、いきなり脱ぐのは抵抗がある。それに服を着ていても僕自身には変わりないよ」
扉が少し強めに叩かれ、春日が動くより先に僕が扉を開けた。
幸一が目の前にいて、心底ほっとする。甘い麻薬じゃないかと思った。
「どう? 描けた?」
遠慮もなしに、幸一は勝手に部屋へ入ってきた。
春日の描いている絵を見て、顎を何度か撫でている。
僕も覗いてみるが、ミミズのような線がうねっているだけだった。
「全然描けていない……」
「妖精さんがさっきみたいな顔をしてくれたら描けるって!」
「何の話?」
「よく判らないんだ。僕の表情が気に入らないのか、ずっと違う違う連呼している感じ」
「モデルが自分の描きたい表情をしてくれると思ったら大間違いだぞ。描き手が引き出さないといけないんだ」
「俺が?」
「服を着ているとか裸体だとか、何も関係がない。一方的に思いをぶつけたって、困惑するだけだ。妖精はそこに座って」
幸一に言われるがままに、椅子に座る。幸一が側にいると、自然と肩の力が抜けた。
「……可愛いよ」
幸一と目が合う。画家の目になっている。見つめられると喉がからからになり、内股が微かに震えた。
十分と経たないうちに、幸一は鉛筆を置いた。
「うわ…………」
春日は小さな悲鳴を上げる。感嘆の交じる声に、僕も覗き込む。
「これだよ……こんな顔……どうして君には見せるんだ」
「春日君、君は絵を描く才があると思うよ。でも画家はそれだけじゃ足りない。画家は筆を持って絵を描くことだけを考えていると思ったら大間違いなんだ」
部屋はすでにもぬけの殻で、僕は駅まで走った。
「春日」
ぼんやりと空を見上げている彼の名前を呼び、横へ座る。
「妖精さん……どうかしたの?」
「こっちの台詞だ。電車にはまだ早い時間だろう。もう帰るのか?」
「なんとなく、もうあそこに居たくなくなった。俺ってこんなに弱っちいんだなあ」
「精神的に?」
「うん。ちょっと痛む。自分の才能の無さを見せつけられたみたいで」
「あいつは元々絵が上手かった。でも生まれつきじゃないんだ。授業中でも休憩時間でも、息を吸うようにいつも絵とともに過ごしていた。本人は努力と思っていないかもしれないが、ずっと描き続けてきたんだ」
「八重澤虎一先生って、あんなすごい人だったんだな」
「……やっぱり気づいていたんだな」
幸一も途中から画家であることを隠そうとしなかった。真剣に春日と向かい合っていた。画家として放っておけないところもあったんだろう。
「これ、電車で食べてくれ」
「ありがとう。妖精さんのおにぎりだ。感激。……八重澤先生の絵を見て、もっと描こうとも思ったし比べてしまって描くのを止めようとも思ったんだ。療養のために湯治へ来たのもあるけど、未来への不安のせいで心が板挟みになっていて、どちらかというと精神的に参っていた」
「来てよかった? それとも後悔してる?」
「後悔なんてするわけがないよ。やっぱりちょっと落ち込んではいるけど」
「百人いれば百通りの絵ができるものだろうけれど、比べてしまうんだな。技術の部分?」
「そうだね。彼の足元にも到達していないって思う。言語化するのが難しいんだが、はっきりと差を見せつけられたよ」
「僕は春日の絵が好きだ。いつか個展でみたいと思うし、応援もしている」
「っ……ありがとう。八重澤先生によろしく。最後にさ、名前教えてもらってもいいかな?」
僕は迷い、覚悟を決めた。
「本田……虎臣」
春日は驚愕し、固まっている。
これがもう一つの秘密だ。同じ「虎」を持つ名前に、いろいろと察したんだと思う。
「八重澤先生が虎臣を描け理由も判ったよ。また……いつか」
「ああ。いつか会おう。また春日の絵を見せてくれ」
春日と固い握手を交わして、彼と別れた。
絵を描く彼を見ていると昔の幸一を思い出し、放っておけなかった。
春日は電車から大きく手を振っている。僕もそれに答えた。
ふと、従兄弟の肇が頭をよぎった。彼は船に乗ったら、顔も出さずそのまま乗っていってしまった。
元気にしているだろうか。彼の仕事が落ち着いたら、会いたいと願う。
部屋に戻ると幸一が絵を描いていた。僕が寝ているところの絵で、色を塗っている最中だった。
急に切ない気持ちが生まれた。こんなに近くにいるのに、遠い存在に感じられて、僕はどうしようもなくなった。
「どうした?」
やけに優しい声色なものだから、後ろから張りついた。
「新婚旅行だよな、これ」
「そうだよ。こういうのも、想い出になっていくさ。ふたりきりはもちろんいいが、それだけを望むなら北海道に帰ればふたりになれる。俺は虎臣といろんなことを体験したい」
「明日こそ、川へ行こう」
「乗り気になったのか?」
「別に嫌だったわけじゃない。子供たちがたくさんいる中で、大人の僕たちが遊んだらおかしな目で見られないか心配だっただけだ」
「おかしな奴だなあ。俺なら喜んで川中飛び回るのに」
「ついでに釣りもしたい」
「ああ、そうしよう。他にやりたいことはあるか?」
「……抱き合いたい」
幸一は真顔になり、筆を置いた。
こういうときの幸一は切り替えが早い。地団駄と踏む子供がお菓子で釣られて、一気に泣き止んだみたいだ。
「春日、八重澤先生によろしくだって」
「他の男の話か?」
「ふふ……幸一だって彼を気に入ってたんじゃないのか?」
「昔の俺みたいだと思ったんだ」
「僕もそう思うよ。お前はいつも飄々としていたけどな」
「俺が? 毎日余裕がなかったさ。絵で食っていけるのかとか、お前が他の男に取られやしないかとか」
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