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第二章 フィアンセとバーテンダー
062 復讐の道、引き返す道
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冒険者たちは南下を始めたので領主としての活動に戻った。
彼らは三日ほど南下し、一日掛けて食料を適当な陸地に埋める。そして戻ってからどうするかを話し合うという旅程なので、一週間ほどは確実に予定が空く。食料はもう少し持たせているが、未知の領域だけに何が起きるか判らないのだ。
そこまで心配することも無いと思うが、最初はそのくらいの方が良いと思う。
「上納額が千枚に到達しそうですね。おめでとうございます」
「よせよアレクセイ。ゴーレム建造の労力を俺が払っているからで、実際にはまだまだだ。綿花に関しても一応は育ってるだけだしな」
男爵は金貨三百枚だが、伯爵は千枚ほどだ。
一応は伯爵を名乗れるくらいにはオロシャ国へ上納できそうだが、内情は普通の貴族と全く異なる。店主が料理長や職人を務める零細企業が、社長が自分で稼ぐから下が育ってなくても食っていけると言う様な物だ。俺が領主であり、その労力を割くことを前提に金額を定め、国に収めるゴーレムの代金を形状したに過ぎない。実際には千枚払ったのではなく、千枚分の貢献を行ったに過ぎないのだ。
しかも、ゴーレムに関する数値は年月が経つにつれて減って行くだろう。
「当然ながらゴーレム創造魔法からゴーレム魔術に置き換わり、術師が増えてきたらそいつらの仕事だ。領主に頼む代金と、一介の術師に支払う金額じゃ違って居て当然だからな。弟子を数人育てて工房を作る頃には、配備数が落ちついて需要自体が減ってるよ」
「まだまだ先の話だと思いますが……目途は立ったのでしたっけ?」
「ああ。一応な」
ゴーレム創造魔法が過渡期の産物なので、ゴーレム魔術は遠くはない。
俺は土の魔力から保存エネルギーを補充する修理呪文を作り上げているし、同じ土の系統にある防御の瞬間強化もいずれ完成するだろう。そうなれば土系統自体が把握できるし、そうなって来れば他の系統にも手が延ばせるかもしれない。そう思った所で、思わぬ横槍が入ったのだ。
エリーの奴がダメージの瞬間強化を成し遂げ、もう直ぐ動力強化も完成するという。
「ヨセフ伯の所でも開発してるからな。しかも基礎技術は共有してその他の工夫に関しては隠すって路線なら、俺が嫌だという訳には行かないだろうな。向こうの技術もあればこっちの研究も進むし、十年以内にゴーレム魔術師とゴーレムライダーは誕生すると見て間違いない。後は何かのきっかけでそれが早くなるか、それとも遅れるかの差でしかない」
「その時までには綿花や豆が増産できるようにしたいものですね」
敵対者が歩み寄るというのは、それだけで交渉の手札足り得る。
向こうは遅れてい部分の技術の代わりに、基礎技術提携を上げた。総合的な運用に関しては俺の方が得意だし、先行しているから大幅に上回っている。だが、基礎技術に関してはある程度おざなりになっている部分もあった。他にゴーレム創造魔法の使い手が居ないという、ある種のブルーオーシャン市場だったからである。そこを突かれたと言う訳だな。
ただ、この横槍に関しては俺にとっても得だと言える。
これまで培った技術が持って行かれるのは痛いが、それにしたって限度があるだろう。例えば多重関節は一部をフレームの上から肉に当る様に様々な素材や装甲で覆って居るが、それ以外は関節があるという時点で想像出来てしまうものだ。後は向こうがそれを努力して探すか、それとも技術提携+@で即座に補うかの差でしかなかった。
「豆に関してはこのまま増産して市場に流せ。無いとは思うが買占めがあったら市井向けのみ安くすること。綿花は陛下の要望通りに王都近郊の商人に売りつけるとして、種の方は当面増やして植える以外に無いな。油を採るような余裕がない」
「育ったというのが凄いだけであって順調ではありませんからね」
残念ながら豆も綿花も育成は芳しくない。
以前から植えている豆はそれなりに増えて来たが、それでも町の市場に出すのが精々だった。あくまで領民が安く食べられる雑穀という程度でしかなく、油を搾るどころではない。他の地域の商人が買い占めて領民が困らないようにするのが限界だろう。綿花に至っては、種を増やすだけdめお一苦労と言う有様だった。もはや油を搾る以前の問題である。
だが、この状況が必ずしも悪いわけではない。
「確認するが、豆と同じ感じ流れなんだな?」
「はい。綿花も育ちが悪いですが、豆を最初に植えた時に似ています。こちらの環境に慣れればマシになる可能性がありますし、蔦や葉っぱを燃やした草木灰の効果も確認できましたので、来年とは言いませんが次の五か年計画の頃には軌道に乗るのではないかと思います」
低調な滑り出しだが、必ずしも悪いわけではないそうだ。
留守が多くて詳細を確認し続けているわけでもないが、ゴルビーの大地が痩せており、乾燥したオロシャの中でも更に乾いている事を考えれば、それなりの成果は出ているのだとか。数年単位で経過を見守らねばならないが、やがて多くの実を付けるのかもしれない。
とりあえず、これに関しては条件を変えて検証するくらいだな。
「なら綿花に関しては三つの試験を同時に行う。一つ目は水を撒く料を増やした場所。二つ目は肥料を多くした場所。三つ目はその両方だ。肥料に関しては商品にならない雑魚を干して追加する」
「贅沢ですねぇ。アンドラから草木灰を運んでくるので交換しませんか?」
「向こうで食い物にするのか? 悪くないが実験してからな」
人件費が安い時代だが、人間も居ないので作業量に限りがある。
干物や塩漬けに出来ないような小魚は、まとめて乾かすだけ乾かしてから肥料行きである。もちろんイリコが出汁やらおつまみになるくらいだから、普通に食べることも出来る。しかし、今からソレをやっても儲けに比べて実入りが少ないし、かといって数を取ろうと思ったら面倒くさい上に、際限がないから何処かで魚が枯渇しかねなかった。
正確には近くで採れる、浅い海に生息する魚が減るという意味だけどな。少なくとも魚を大々的に採るには、もっと大きな港と広い海が必要だろう。
「魔物の数は順調に減ってるようだな。ここは終端だから当然とはいえ、アンドラでも同様かな?」
「はい。やはり流通が活発化したのが大きいですね」
新街道と環状構想で道を増やし、人々の往来が増えた。
それに伴い護衛が出て来た亜人種を討伐したり、大規模な集落だと領主が先んじて討伐したりする。やはり人々の目があると、見て見ぬ振りをするよりも、協力を募って討伐してしまった方が早いからだ。
暫くすれば人の行き来は固定化され、『何処に隠れたら安全か?』を亜人達も学習するだろう。だが、逆説的に言えば連中が表に出て来なくなるとも言える。
「このまま何事もなく時間が過ぎて行けば良いのですけどね」
「お前……この状況でフラグ建てんなよ。オロシャはともかくな……」
「判ってますよ。だからこそ平和を祈りたいんじゃないですか」
この国は平和になりつつある。峠を越えれば暫く問題ない。
だが、諸外国はそうでは無いのだ。安定している西はともかく、南も東も北も怪しい。続報が無いだけに良くなっているとも悪くなっているともつかない。
だが、皮肉なことに状況の変化はしたが、その何処でも起きなかった。
「てえへんだ! 海が荒れて魚人どもがヤベエらしい!」
変化の報は南下した冒険者たちからもたらされたのだった。
冒険者たちは南下を始めたので領主としての活動に戻った。
彼らは三日ほど南下し、一日掛けて食料を適当な陸地に埋める。そして戻ってからどうするかを話し合うという旅程なので、一週間ほどは確実に予定が空く。食料はもう少し持たせているが、未知の領域だけに何が起きるか判らないのだ。
そこまで心配することも無いと思うが、最初はそのくらいの方が良いと思う。
「上納額が千枚に到達しそうですね。おめでとうございます」
「よせよアレクセイ。ゴーレム建造の労力を俺が払っているからで、実際にはまだまだだ。綿花に関しても一応は育ってるだけだしな」
男爵は金貨三百枚だが、伯爵は千枚ほどだ。
一応は伯爵を名乗れるくらいにはオロシャ国へ上納できそうだが、内情は普通の貴族と全く異なる。店主が料理長や職人を務める零細企業が、社長が自分で稼ぐから下が育ってなくても食っていけると言う様な物だ。俺が領主であり、その労力を割くことを前提に金額を定め、国に収めるゴーレムの代金を形状したに過ぎない。実際には千枚払ったのではなく、千枚分の貢献を行ったに過ぎないのだ。
しかも、ゴーレムに関する数値は年月が経つにつれて減って行くだろう。
「当然ながらゴーレム創造魔法からゴーレム魔術に置き換わり、術師が増えてきたらそいつらの仕事だ。領主に頼む代金と、一介の術師に支払う金額じゃ違って居て当然だからな。弟子を数人育てて工房を作る頃には、配備数が落ちついて需要自体が減ってるよ」
「まだまだ先の話だと思いますが……目途は立ったのでしたっけ?」
「ああ。一応な」
ゴーレム創造魔法が過渡期の産物なので、ゴーレム魔術は遠くはない。
俺は土の魔力から保存エネルギーを補充する修理呪文を作り上げているし、同じ土の系統にある防御の瞬間強化もいずれ完成するだろう。そうなれば土系統自体が把握できるし、そうなって来れば他の系統にも手が延ばせるかもしれない。そう思った所で、思わぬ横槍が入ったのだ。
エリーの奴がダメージの瞬間強化を成し遂げ、もう直ぐ動力強化も完成するという。
「ヨセフ伯の所でも開発してるからな。しかも基礎技術は共有してその他の工夫に関しては隠すって路線なら、俺が嫌だという訳には行かないだろうな。向こうの技術もあればこっちの研究も進むし、十年以内にゴーレム魔術師とゴーレムライダーは誕生すると見て間違いない。後は何かのきっかけでそれが早くなるか、それとも遅れるかの差でしかない」
「その時までには綿花や豆が増産できるようにしたいものですね」
敵対者が歩み寄るというのは、それだけで交渉の手札足り得る。
向こうは遅れてい部分の技術の代わりに、基礎技術提携を上げた。総合的な運用に関しては俺の方が得意だし、先行しているから大幅に上回っている。だが、基礎技術に関してはある程度おざなりになっている部分もあった。他にゴーレム創造魔法の使い手が居ないという、ある種のブルーオーシャン市場だったからである。そこを突かれたと言う訳だな。
ただ、この横槍に関しては俺にとっても得だと言える。
これまで培った技術が持って行かれるのは痛いが、それにしたって限度があるだろう。例えば多重関節は一部をフレームの上から肉に当る様に様々な素材や装甲で覆って居るが、それ以外は関節があるという時点で想像出来てしまうものだ。後は向こうがそれを努力して探すか、それとも技術提携+@で即座に補うかの差でしかなかった。
「豆に関してはこのまま増産して市場に流せ。無いとは思うが買占めがあったら市井向けのみ安くすること。綿花は陛下の要望通りに王都近郊の商人に売りつけるとして、種の方は当面増やして植える以外に無いな。油を採るような余裕がない」
「育ったというのが凄いだけであって順調ではありませんからね」
残念ながら豆も綿花も育成は芳しくない。
以前から植えている豆はそれなりに増えて来たが、それでも町の市場に出すのが精々だった。あくまで領民が安く食べられる雑穀という程度でしかなく、油を搾るどころではない。他の地域の商人が買い占めて領民が困らないようにするのが限界だろう。綿花に至っては、種を増やすだけdめお一苦労と言う有様だった。もはや油を搾る以前の問題である。
だが、この状況が必ずしも悪いわけではない。
「確認するが、豆と同じ感じ流れなんだな?」
「はい。綿花も育ちが悪いですが、豆を最初に植えた時に似ています。こちらの環境に慣れればマシになる可能性がありますし、蔦や葉っぱを燃やした草木灰の効果も確認できましたので、来年とは言いませんが次の五か年計画の頃には軌道に乗るのではないかと思います」
低調な滑り出しだが、必ずしも悪いわけではないそうだ。
留守が多くて詳細を確認し続けているわけでもないが、ゴルビーの大地が痩せており、乾燥したオロシャの中でも更に乾いている事を考えれば、それなりの成果は出ているのだとか。数年単位で経過を見守らねばならないが、やがて多くの実を付けるのかもしれない。
とりあえず、これに関しては条件を変えて検証するくらいだな。
「なら綿花に関しては三つの試験を同時に行う。一つ目は水を撒く料を増やした場所。二つ目は肥料を多くした場所。三つ目はその両方だ。肥料に関しては商品にならない雑魚を干して追加する」
「贅沢ですねぇ。アンドラから草木灰を運んでくるので交換しませんか?」
「向こうで食い物にするのか? 悪くないが実験してからな」
人件費が安い時代だが、人間も居ないので作業量に限りがある。
干物や塩漬けに出来ないような小魚は、まとめて乾かすだけ乾かしてから肥料行きである。もちろんイリコが出汁やらおつまみになるくらいだから、普通に食べることも出来る。しかし、今からソレをやっても儲けに比べて実入りが少ないし、かといって数を取ろうと思ったら面倒くさい上に、際限がないから何処かで魚が枯渇しかねなかった。
正確には近くで採れる、浅い海に生息する魚が減るという意味だけどな。少なくとも魚を大々的に採るには、もっと大きな港と広い海が必要だろう。
「魔物の数は順調に減ってるようだな。ここは終端だから当然とはいえ、アンドラでも同様かな?」
「はい。やはり流通が活発化したのが大きいですね」
新街道と環状構想で道を増やし、人々の往来が増えた。
それに伴い護衛が出て来た亜人種を討伐したり、大規模な集落だと領主が先んじて討伐したりする。やはり人々の目があると、見て見ぬ振りをするよりも、協力を募って討伐してしまった方が早いからだ。
暫くすれば人の行き来は固定化され、『何処に隠れたら安全か?』を亜人達も学習するだろう。だが、逆説的に言えば連中が表に出て来なくなるとも言える。
「このまま何事もなく時間が過ぎて行けば良いのですけどね」
「お前……この状況でフラグ建てんなよ。オロシャはともかくな……」
「判ってますよ。だからこそ平和を祈りたいんじゃないですか」
この国は平和になりつつある。峠を越えれば暫く問題ない。
だが、諸外国はそうでは無いのだ。安定している西はともかく、南も東も北も怪しい。続報が無いだけに良くなっているとも悪くなっているともつかない。
だが、皮肉なことに状況の変化はしたが、その何処でも起きなかった。
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