55 / 67
第二章 フィアンセとバーテンダー
055 ナンナの憂鬱
しおりを挟む
カフェに入ると、空いている席はあるのにナンナは座ろうとせず、案内されるまま廊下をそのまま突き進む。
何人かの客は彼女に釘付けになっていた。あれだけの美人だ。サングラスをかけていても目立ちすぎる。
「個室なんですか?」
「私ね、お茶をするのがとっても大好きなの。でも個室でないと嫌。たまには外でのんびりしたいわ」
「はあ…………」
「ほら、早く座って。何がいい?」
「ハーブティーと、何がおすすめですか?」
「うふ、なら私が好きなものを頼むわね。さっきたくさん踊ったし、お腹が空いちゃったわ」
大きなサングラスを外すと、これまた大きな目が現れる。
身近なフランス人といえばルイで、いかに彼がゆっくり丁寧に話してくれていたか身に染みる。時折フランス語で交じるナンナの質問に、答えるのがやっとだ。しかも早い。ルイに会いたい。ルイをここに連れてきたい。
ワゴンで運ばれたスイーツの数々に、俺は言葉を失った。タルトが食べたいと言っていた気がするが、量がまずおかしい。一口サイズのタルトが敷きつめられ、焼き菓子やメレンゲ菓子も並ぶ。マリー・アントワネットになった気分だ。
「南フランスはハーブも有名ですよね」
「ええ、そうよ。コーヒーも好きだけれど、お肌のことを考えるとハーブティーをよく飲むの。さあ、食べて。どれも美味しいわ」
「ありがとうございます。夕食もあるので、少し頂きます」
「少しだけ? 小食なのね」
あえて選んだのか、テーブルに並ぶスイーツは重みのあるものばかりだ。
タルトは甘く、バターがしっかりと利いている。砂糖の入れていないハーブティーと飲むとちょうどいい。
彼女はとにかく良く食べた。美味しい美味しいと言いながら、本当に美味しそうに食べるものだから、スイーツを作ったパティシエも感無量だろう。俺だったら泣いて喜ぶ。
「あなたは今、大学生かしら?」
「そうです。よく分かりましたね。今年で就職先を決めなきゃいけないんですけど、悩んでます」
「それなら、フランスにいらっしゃい。美味しいものもあるし風景もとっても素敵よ。フランス語の音も綺麗でしょう? 私、世界で一番美しい言語だと思うの」
「俺もフランス語は好きです。就職先は海外って手もあるのか」
「そうよ。私みたいにいろんな国を渡るのも楽しいわ」
「アルバイト先で就職も考えてるんです。考えておいてほしいって言われて。恵まれすぎてます」
「あなたは優秀なのね。羨ましいわ」
「優秀なんてものじゃないですよ。人手が足りないみたいで」
美味しくて、けれどもう一つタルトを食べたら夕食が入らない。なるべく軽そうなフィナンシェに手を伸ばした。
「けれど、あなたがいなくなったらフィアンセの方は悲しむわ」
「うーん……自信がないです。さっきも触れましたけど、人質みたいな関係性なので」
「あなたはとても優しくて気が利いて、とっても残酷なのね」
残酷と言われた。どういう意味だろう。
「優しくてハンサムで、隣を歩いていて誇らしくなるくらい。人を好きにさせる天才よ。本当よ? 今日初めて会ったのに、私はあなたを好きになったもの」
「光栄です。でも、残酷って、」
「人を好きにさせておいて、簡単に置いて去っていく。罪深い人」
ナンナは大きな目を伏せ、フランス語で何か呟いた。
「私は置いていかれるのは嫌よ。好きな人は側にいてほしい。なのに、私が好きな人はみんな私の元から離れていく。旦那も、息子たちも。成長と呼べるわね。でも私は、側にいてほしいの。理屈じゃないの」
「ナンナは、寂しがり屋なんですね」
「そうかしら? 私は私よ? みんな口に出さないだけで、実際はそう思っているでしょう?」
確かにそうだ。祖母が亡くなったときも、離れていく彼女を思い、悔しくて寂しくて何度も泣いた。
「あなたのフィアンセも、あなたが離れていくと知ったらきっと寂しがるわ。物分かりのいい良い子ちゃんだから、また会いましょうですんなり身を引くんでしょうけど。私はそんなの嫌よ。だからみんなが離れていく前に、私が離れるの。そうすれば、気は紛れるわ」
考え方が女王様だ。でも彼女の気持ちも分かる。俺が一人暮らしをずっと希望して都会に出たがったのは、今思うとこういう理由もあったからかもしれない。姉も結婚すれば離れていくし、子供もできればますます構ってもらえなくなる。
彼女に対し寂しがり屋と言ったが、人間のあるべき感情だ。
「お願いがあるの」
「はい、なんでしょう」
「シキのフィアンセが寂しいと言ったら、できるだけ側にいてあげて。遠くにいたら、すぐにでも近くに寄り添ってあげて。私にはできないから」
「分かりました。約束します。必ず力になります」
いつの間にか、残りはタルト一つだけだ。小さな身体に入る胃袋はどんな大きさなのだろう。
食べて下さいと告げると、遠慮なく美味しそうにかじりついた。チョコレートがふんだんに使われたタルトだ。
あっという間に皿が綺麗になり、俺はごちそうさまと手を合わせる。またもや新しいおもちゃを発見したと、ナンナも同じ仕草をしては、どんな意味があるのか、いつもするのか、など質問の波が押し寄せた。波を避けるより、サーファーになったつもりで受けた方が彼女との会話はうまくいく。
お茶代は彼女がカードで支払ってくれた。
「次は俺が払います」
「ええ、お願いね。あなたとはまた会えるから」
「また会える?」
「会えるわ。私の勘は当たるもの」
帰りはなぜかフロアを通らず、裏口から出た。外に出る前に彼女はまたもや大きなサングラスをかけ、鼻歌を歌いながら上機嫌にスキップをする。
「うふふ、今の私はね、とっても機嫌がいいの。天気もいいし、お菓子も食べたし、ハーブティーも美味しかったわ。だからあなたにキスしてあげる」
「え?」
ナンナは俺を抱きしめ、頬に軽く生暖かいものが触れる。
リップ音が聞こえ、どう反応していいのか分からず固まるしかった。
「あなたにお出迎えが来ているわ」
ナンナの視線の先には、SPが助手席から降りてくるところだった。
「またね、シキ。好きよ」
「あ、はい。俺もです」
「ふふ……残酷な人。でも好き」
別れ際に何度も好きだと連呼し、今度は反対側の頬にキスをしてくる。俺もしようかと思ったが、彼女がそれを望んでいるようではなかったので、止めておいた。男性が女性にするのは御法度のような気がした。
ハニーブロンドの髪が揺れ、甘い香水の香りが漂う。彼女もまた香水に強いこだわりがある。
「どちらでお知り合いに?」
「森の湖です」
「ああ……あそこで」
今までは日本語で話していたのに、今は英語でのやりとりだ。俺の腕を受け入れて話していると信じ、少しは自信を持っていいだろう。
ゆっくりとした運転で外の風景を楽しみつつ、ドルヴィエ家に戻ってきた。
「ディミトリ様は執務室です」
「分かりました」
一度部屋に戻り、荷物を取りにいってから執務室へ行き、扉をノックした。返事の後にドアノブに手をかけると、未だスーツ姿のまま資料を眺めているディミトリ氏がいた。
「こんにちは! 志樹です。チケットありがとうございました。今日からお世話になります」
「久しぶりだな。状況はどうだ?」
力のこもった渾身のフランス語に、さらっとフランス語で返ってきた。
「これ、お土産です。日本の空港で買ったものですけど」
「頂戴しよう。状況は?」
「ベルナデットさんのことは話しましたよね? 今は日本にいます」
「それで?」
「遺産ですけど、とりあえずブレスレットは見つけました。というより、持っている人から接触をしてきたんですけど」
「なんだと?」
「後で返してくれるそうです。いろいろ協力してほしいとは言われました」
「金はいくら必要だ?」
「いやいや、お金で動く組織じゃないですって! 国を守る警察です。遺産を持っている悪い組織を戦おうとしているんです」
「お前の次の任務は、ベルナデットと接触をすること。警察の取り調べは受けているだろうが、お前にしか話さないこともあるだろう」
「俺、彼女とほぼ面識ゼロなんですけど……」
「ルイよりはお前が適任だ」
果たして何をもって適任と言えるのか。
「お前はルイの能力を買っているようだが、私からすればお前の方がはるかに非凡な才を持っている」
「よく暴走癖があるって言われるし……」
「だろうな。暴走の結果、まさか婚約を結ぼうとは思わなかった」
ディミトリ氏とこれほど長い会話をしたのは初めてだった。内容がちょっと骨肉の争いめいたものだけれど。
「ベルナデットは殻に閉じこもっている。それは昔から変わらない。彼女の心を開くのは、ルイでは無理だ。昔から相性が悪かった」
「相性が悪くて、許婚として選んだんですか」
「ああ、そうだ」
何か問題でも、と実に事務的な言い方だ。
「相性で言えば君たちの方がよほど良いと見える」
「その件なんですけど、」
タイミングが悪すぎる。背後の扉からノックが聞こえ、夕食を告げる声がした。
「続きは夕食のときにでも」
「あまり楽しい話じゃないと思いますけど。悩み相談ですし」
「お前の思う楽しい話とは?」
「テストで百点取ったとか、褒めてほしいとか?」
「百点程度当然の点数だろう。そんなものが嬉しいのか?」
心底呆れたと顔に書いてある。嬉しいものは嬉しい。テストをルイに見せたときの目を細めた顔は、何度見たって幸せになれる。
「俺、ディミトリさんと話しているのも楽しいですよ」
「早く来い」
ディミトリ氏は少し早いフランス語で投げかけると、優雅とは言えない足取りでさっさと出ていってしまった。
何人かの客は彼女に釘付けになっていた。あれだけの美人だ。サングラスをかけていても目立ちすぎる。
「個室なんですか?」
「私ね、お茶をするのがとっても大好きなの。でも個室でないと嫌。たまには外でのんびりしたいわ」
「はあ…………」
「ほら、早く座って。何がいい?」
「ハーブティーと、何がおすすめですか?」
「うふ、なら私が好きなものを頼むわね。さっきたくさん踊ったし、お腹が空いちゃったわ」
大きなサングラスを外すと、これまた大きな目が現れる。
身近なフランス人といえばルイで、いかに彼がゆっくり丁寧に話してくれていたか身に染みる。時折フランス語で交じるナンナの質問に、答えるのがやっとだ。しかも早い。ルイに会いたい。ルイをここに連れてきたい。
ワゴンで運ばれたスイーツの数々に、俺は言葉を失った。タルトが食べたいと言っていた気がするが、量がまずおかしい。一口サイズのタルトが敷きつめられ、焼き菓子やメレンゲ菓子も並ぶ。マリー・アントワネットになった気分だ。
「南フランスはハーブも有名ですよね」
「ええ、そうよ。コーヒーも好きだけれど、お肌のことを考えるとハーブティーをよく飲むの。さあ、食べて。どれも美味しいわ」
「ありがとうございます。夕食もあるので、少し頂きます」
「少しだけ? 小食なのね」
あえて選んだのか、テーブルに並ぶスイーツは重みのあるものばかりだ。
タルトは甘く、バターがしっかりと利いている。砂糖の入れていないハーブティーと飲むとちょうどいい。
彼女はとにかく良く食べた。美味しい美味しいと言いながら、本当に美味しそうに食べるものだから、スイーツを作ったパティシエも感無量だろう。俺だったら泣いて喜ぶ。
「あなたは今、大学生かしら?」
「そうです。よく分かりましたね。今年で就職先を決めなきゃいけないんですけど、悩んでます」
「それなら、フランスにいらっしゃい。美味しいものもあるし風景もとっても素敵よ。フランス語の音も綺麗でしょう? 私、世界で一番美しい言語だと思うの」
「俺もフランス語は好きです。就職先は海外って手もあるのか」
「そうよ。私みたいにいろんな国を渡るのも楽しいわ」
「アルバイト先で就職も考えてるんです。考えておいてほしいって言われて。恵まれすぎてます」
「あなたは優秀なのね。羨ましいわ」
「優秀なんてものじゃないですよ。人手が足りないみたいで」
美味しくて、けれどもう一つタルトを食べたら夕食が入らない。なるべく軽そうなフィナンシェに手を伸ばした。
「けれど、あなたがいなくなったらフィアンセの方は悲しむわ」
「うーん……自信がないです。さっきも触れましたけど、人質みたいな関係性なので」
「あなたはとても優しくて気が利いて、とっても残酷なのね」
残酷と言われた。どういう意味だろう。
「優しくてハンサムで、隣を歩いていて誇らしくなるくらい。人を好きにさせる天才よ。本当よ? 今日初めて会ったのに、私はあなたを好きになったもの」
「光栄です。でも、残酷って、」
「人を好きにさせておいて、簡単に置いて去っていく。罪深い人」
ナンナは大きな目を伏せ、フランス語で何か呟いた。
「私は置いていかれるのは嫌よ。好きな人は側にいてほしい。なのに、私が好きな人はみんな私の元から離れていく。旦那も、息子たちも。成長と呼べるわね。でも私は、側にいてほしいの。理屈じゃないの」
「ナンナは、寂しがり屋なんですね」
「そうかしら? 私は私よ? みんな口に出さないだけで、実際はそう思っているでしょう?」
確かにそうだ。祖母が亡くなったときも、離れていく彼女を思い、悔しくて寂しくて何度も泣いた。
「あなたのフィアンセも、あなたが離れていくと知ったらきっと寂しがるわ。物分かりのいい良い子ちゃんだから、また会いましょうですんなり身を引くんでしょうけど。私はそんなの嫌よ。だからみんなが離れていく前に、私が離れるの。そうすれば、気は紛れるわ」
考え方が女王様だ。でも彼女の気持ちも分かる。俺が一人暮らしをずっと希望して都会に出たがったのは、今思うとこういう理由もあったからかもしれない。姉も結婚すれば離れていくし、子供もできればますます構ってもらえなくなる。
彼女に対し寂しがり屋と言ったが、人間のあるべき感情だ。
「お願いがあるの」
「はい、なんでしょう」
「シキのフィアンセが寂しいと言ったら、できるだけ側にいてあげて。遠くにいたら、すぐにでも近くに寄り添ってあげて。私にはできないから」
「分かりました。約束します。必ず力になります」
いつの間にか、残りはタルト一つだけだ。小さな身体に入る胃袋はどんな大きさなのだろう。
食べて下さいと告げると、遠慮なく美味しそうにかじりついた。チョコレートがふんだんに使われたタルトだ。
あっという間に皿が綺麗になり、俺はごちそうさまと手を合わせる。またもや新しいおもちゃを発見したと、ナンナも同じ仕草をしては、どんな意味があるのか、いつもするのか、など質問の波が押し寄せた。波を避けるより、サーファーになったつもりで受けた方が彼女との会話はうまくいく。
お茶代は彼女がカードで支払ってくれた。
「次は俺が払います」
「ええ、お願いね。あなたとはまた会えるから」
「また会える?」
「会えるわ。私の勘は当たるもの」
帰りはなぜかフロアを通らず、裏口から出た。外に出る前に彼女はまたもや大きなサングラスをかけ、鼻歌を歌いながら上機嫌にスキップをする。
「うふふ、今の私はね、とっても機嫌がいいの。天気もいいし、お菓子も食べたし、ハーブティーも美味しかったわ。だからあなたにキスしてあげる」
「え?」
ナンナは俺を抱きしめ、頬に軽く生暖かいものが触れる。
リップ音が聞こえ、どう反応していいのか分からず固まるしかった。
「あなたにお出迎えが来ているわ」
ナンナの視線の先には、SPが助手席から降りてくるところだった。
「またね、シキ。好きよ」
「あ、はい。俺もです」
「ふふ……残酷な人。でも好き」
別れ際に何度も好きだと連呼し、今度は反対側の頬にキスをしてくる。俺もしようかと思ったが、彼女がそれを望んでいるようではなかったので、止めておいた。男性が女性にするのは御法度のような気がした。
ハニーブロンドの髪が揺れ、甘い香水の香りが漂う。彼女もまた香水に強いこだわりがある。
「どちらでお知り合いに?」
「森の湖です」
「ああ……あそこで」
今までは日本語で話していたのに、今は英語でのやりとりだ。俺の腕を受け入れて話していると信じ、少しは自信を持っていいだろう。
ゆっくりとした運転で外の風景を楽しみつつ、ドルヴィエ家に戻ってきた。
「ディミトリ様は執務室です」
「分かりました」
一度部屋に戻り、荷物を取りにいってから執務室へ行き、扉をノックした。返事の後にドアノブに手をかけると、未だスーツ姿のまま資料を眺めているディミトリ氏がいた。
「こんにちは! 志樹です。チケットありがとうございました。今日からお世話になります」
「久しぶりだな。状況はどうだ?」
力のこもった渾身のフランス語に、さらっとフランス語で返ってきた。
「これ、お土産です。日本の空港で買ったものですけど」
「頂戴しよう。状況は?」
「ベルナデットさんのことは話しましたよね? 今は日本にいます」
「それで?」
「遺産ですけど、とりあえずブレスレットは見つけました。というより、持っている人から接触をしてきたんですけど」
「なんだと?」
「後で返してくれるそうです。いろいろ協力してほしいとは言われました」
「金はいくら必要だ?」
「いやいや、お金で動く組織じゃないですって! 国を守る警察です。遺産を持っている悪い組織を戦おうとしているんです」
「お前の次の任務は、ベルナデットと接触をすること。警察の取り調べは受けているだろうが、お前にしか話さないこともあるだろう」
「俺、彼女とほぼ面識ゼロなんですけど……」
「ルイよりはお前が適任だ」
果たして何をもって適任と言えるのか。
「お前はルイの能力を買っているようだが、私からすればお前の方がはるかに非凡な才を持っている」
「よく暴走癖があるって言われるし……」
「だろうな。暴走の結果、まさか婚約を結ぼうとは思わなかった」
ディミトリ氏とこれほど長い会話をしたのは初めてだった。内容がちょっと骨肉の争いめいたものだけれど。
「ベルナデットは殻に閉じこもっている。それは昔から変わらない。彼女の心を開くのは、ルイでは無理だ。昔から相性が悪かった」
「相性が悪くて、許婚として選んだんですか」
「ああ、そうだ」
何か問題でも、と実に事務的な言い方だ。
「相性で言えば君たちの方がよほど良いと見える」
「その件なんですけど、」
タイミングが悪すぎる。背後の扉からノックが聞こえ、夕食を告げる声がした。
「続きは夕食のときにでも」
「あまり楽しい話じゃないと思いますけど。悩み相談ですし」
「お前の思う楽しい話とは?」
「テストで百点取ったとか、褒めてほしいとか?」
「百点程度当然の点数だろう。そんなものが嬉しいのか?」
心底呆れたと顔に書いてある。嬉しいものは嬉しい。テストをルイに見せたときの目を細めた顔は、何度見たって幸せになれる。
「俺、ディミトリさんと話しているのも楽しいですよ」
「早く来い」
ディミトリ氏は少し早いフランス語で投げかけると、優雅とは言えない足取りでさっさと出ていってしまった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
【完結】生贄娘と呪われ神の契約婚
乙原ゆん
キャラ文芸
生け贄として崖に身を投じた少女は、呪われし神の伴侶となる――。
二年前から不作が続く村のため、自ら志願し生け贄となった香世。
しかし、守り神の姿は言い伝えられているものとは違い、黒い子犬の姿だった。
生け贄など不要という子犬――白麗は、香世に、残念ながら今の自分に村を救う力はないと告げる。
それでも諦められない香世に、白麗は契約結婚を提案するが――。
これは、契約で神の妻となった香世が、亡き父に教わった薬草茶で夫となった神を救い、本当の意味で夫婦となる物語。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい
凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる