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第一章 大学生とバーテンダー
035 名は体を表す
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人はにやけるとおかしな行動を取り始める。唇を動かしてみたり、手をぶらぶらさせてみたり、気合いを入れようと拳を握ってみたり。
さすがにリムジンに戻る頃には落ち着きを取り戻していたけれど、もう一度名を呼ばれたら取り乱す自信がある。
「グラースまで」
ルイが行き先を告げると、車はゆっくりと発進した。
「グラース?」
「ここから三十分ほどで着く。どのような街かは、着いてからのお楽しみだ」
「記念に写真でも撮ろうかなあ。あっ」
大事なことを思い出した。
「ルイのスマホってどうなってんの?」
「返してもらっている」
「やっぱり手元になかったんだな。既読はついてたけど、いつものルイらしくなかったからおかしいとは思ったんだよ。変なもの送らなくて良かった」
「変なものとは?」
「変顔とか」
「ネット社会において、拡散されたら一瞬で広まるだろうな」
「本当に良かったよ。ドルヴィエ家の大恥になるとこだった」
くだらないことでじゃれあっていたら、あっという間に着いた。
ドアが開いた瞬間、独特の香りが鼻腔をくすぐった。俺が悩みの種を蒔き散らした妄想の香りではなく、本当に清々しい香りがするのだ。何かの花か、フルーツか。
ルイは一緒についてこようとする男性と何か話をしている。
「どうしたんだ?」
「来なくていいと言ったんだ」
「それで?」
「断られた」
「あー、それは無理じゃないかな……」
ルイが姿を現すと、道を歩く人々は立ち止まり、無遠慮の視線を向ける。綺麗だけで見ているわけではないだろう。近くを通る人がドルヴィエという名を口にした。
「有名人なんだな」
「良かったな。こんな私がフィアンセとは鼻が高いだろう」
「目鼻顔立ちがはっきりしてるし、シュってしててかっこいいよ」
鼻で笑われた。どういう意味の笑いだそれは。
駐車場から離れて街に出ると、男性たち一定の距離を空けてしっかりとついてくる。ルイも苦笑いだ。
「なあ、なんでこんなに良い匂いがしてんの?」
「グラースは香水の街とも言われている。フランスの香水のおよそ三分の二がここで作られているんだ」
「それでかあ。街と田舎がうまく調和した街だな。映画で恋人同士がきゃっきゃしてるイメージの街だよ。中世っぽい」
「どんな映画を観たんだ」
何度か来たことがあるのか、ルイの歩き方に迷いはない。坂の多い道を上ったり下ったり繰り返し、たまに通る車にはルイは止まっていちいち俺を背後に寄せる。女性じゃあるまいしなぜこんなことをするのだろうと思ったら、庇われているのは車からではなく、向こうからカメラを向ける女性からだ。女性と目が合うと、あなたには用はないのよと目が笑っていない営業スマイルだ。
白い花で覆われたカフェに入った。生花も飾っていて瑞々しい香りがする。ルイは店員に何か告げると、店員は本物の営業スマイルで何か話しかけてくる。
「なんだって?」
「奥に来いと言っている」
「ユーリさんにも言われたけど、本当に英語通じないんだな。通じても俺と会話が成り立つか分かんないけどさ」
「私とお前は離れられない運命にある。これからは側でみっちりと英語、フランス語、ドイツ語を教えてやろう」
「そういえば、ドイツ語でレポートを書かないといけないんだった! いやあ、ドイツ語も難なく話せるフィアンセがいて良かったなあ!」
「私は師匠に甘いと言われる。突き放して教えることも大事だと。私の好む教え方ではないが、一理あると思っている。メニュー表を渡されるから、好きなものを注文しておけ」
「ええー、待って。本当に?」
「後で迎えにくる。何か会ったらメールを」
ルイは手を上げ、店員と何か話していなくなってしまった。後ろを振り向かず、すんなりと姿が見えなくなる。
ショーウインドウに飾られたマネキンの気分で、ガラス越しの街を歩く人々を見る。時間を忘れて見入っていると、観光客なのか美しい街に住む人々なのかはっきり見えてくるので面白い。
「あ、どうも」
メニュー表を受け取って、試しに英語は話せますかと聞いてみるが、ノンと返ってきた。
どこまでもフランス語しか使われていない。でもルイとの会話や、大学である程度の知識を得たおかげか分かる単語もある。用もないのにルイに自慢の電話をしたくなってきた。
メニュー表の中で、多く使われている単語がある。それは『クレーム』という単語だ。クレーム・ド・カシスやクレーム・ド・カカオなど、リキュールの瓶で何度も目にしてきた。糖分が高いことを意味する。『cafe creme』とは、おそらくカフェオレだろうと予測はつく。まさかここで酒の知識が役に立とうとは。自慢の電話をしたい。
せっかくなので、クレームカラメルなるものも注文してみた。
あらためて、外の風景を眺める。サングラスの男性たちは端にいてくれたおかげで、美しい街並みが目に入ってくる。
ぼんやりと人通りを眺めていると、テーブルに頼んだ二品が置かれた。思った通り、クレームカラメルはプリンのことだ。日本でよく見かけるプリンと大差なかった。頼んだカフェオレも正解だ。写真を撮ってルイに送っておこう。
「…………あま」
クリームたっぷりのカフェオレと甘いプリン。エスプレッソにすれば良かったと後の祭りだ。
食べ終わる頃にはルイから「もうすぐ行く」とメールが入る。十分ほどでルイは戻ってきた。
「……大丈夫か? 浮気した人みたいになってるぞ」
「浮気だと?」
「他人の匂いがぷんぷんする。日本だと匂いや服についた化粧品で浮気がばれたりするんだよ」
「浮気などするわけがないだろう。私は愛した人は死ぬまで愛す。ちゃんと注文できたみたいだな」
「だろ?」
鼻高々に、クレームについてルイにしたり顔で説明した。ルイにとっては常識の話でも、耳を傾けてくれるあたり優しさの固まりだ。
「カフェ・クレームってカフェオレのことじゃないの?」
「厳密に言うと違う。ミルクを混ぜたものがカフェオレ、スチームしたミルクを入れたものがカフェ・クレームだ」
ルイはカフェを注文した。クレームドがついていないので甘みのないコーヒーが出てくると予想して、俺も二杯目の注文をさせてもらう。
「…………エスプレッソ?」
俺が思っていたものと違う。カフェはコーヒーのことなのに、エスプレッソが出てきた。
「カフェと注文すればエスプレッソが出てくる。エスプレッソを注文すれば、エスプレッソが出てくる」
「アメリカンコーヒーはないの?」
「あるが、フランスではあまり飲まん。まあ、私はどちらでもいいが。カフェインを摂りたいときにコーヒーを飲む程度だからな」
「苦い……」
「砂糖を入れて飲め。なぜそのまま飲むんだ」
「ルイは? 砂糖どう?」
「いらん。どうせほとんど味は分からない」
カフェを注文したら、ソーサーにクッキーが添えられていた。
「今までどこに行ってたんだ? その紙袋はなに?」
「お前にやる」
「プレゼント? 開けてもいい?」
「ああ」
重みのある箱だ。リボンを解きふたを開けると、貼られている茶色の小瓶が出てきた。
「もしかして、香水?」
「先ほど作ってきた」
「うわあ……すごい……どうしよう、めちゃくちゃ感動してる。考えることは一緒なんだな」
「どういうことだ?」
「池袋に置いてきたんだけど、俺もルイに香水のプレゼントがあるんだよ。実家で姉ちゃんが考案したものらしいんだけど、けっこう良い香りなんだ。戻ったら渡すよ」
「……楽しみにしている」
隣に座る老夫婦は笑いながら何か言っている。フェリシ……なんとか。どうもどうもと俺もお礼を言った。言葉も大事だが、気持ちが通じ合えばいいのだ。ルイは咳払いをしている。喉がつっかえたのか?
「グラースに来たかったのは、香水を作りたかったから?」
「ああ。お前は普段、香水をあまりつけていないようだったから」
「フランス人って香水好きだよな。ルイのお兄さんもつけてたし。威厳があって王様っぽい匂いがした」
「香水をつけなくても王様のようなお人だからな」
「ルイの家族にも挨拶したかったなあ。会えなくて残念」
「墓の管理の仕事があるため、ヨーロッパ中を回っている」
「本当に今さらだけど、すごい家系だな」
「私からすれば、造り酒屋の方が大層珍しい家柄だと思うが」
「そうか? 実家に遊びに来たらいいよ。姉さんたちも喜ぶと思う」
せっかくなので香水を数滴つけてみたら、柔らかい甘さが残る香りがした。
「何を混ぜたんだ?」
「メインはミモザとジャスミン。あとは秘密」
ルイは時間を確認し、そろそろ行こうと促す。
ここからは駅までリムジン生活だ。滅多に乗れない経験なのでいろいろ楽しみたかったが、空港までぐっすり寝てしまった。
帰りのチケットはルイが買ってくれ、ミニハウスのような席だった。ソファーを伸ばせばベッドになるし、足を伸ばせるって最高だ。
ルイはさっさと寝る体勢になっている。
俺もベッドを作り、早々に横になった。
ここ数日はいろいろありすぎた。ひとりで海外にやってきて、ルイの兄貴と会って、幽閉状態のルイをどうやって救うか首が戻らないのではないかというほど頭を捻った。ディミトリ氏との約束、俺なんかと婚約を結んでしまったルイの想い、牢獄から解放しただけで、運命の渦に呑まれている。ひとりで抱えるにしては重すぎる。
やれるのか? ルイを救って、無事にベルナデット嬢も助ける。宿命から逃げ続ける彼女はどんな想いでいるのだろうか。想像しただけで、胸がズタズタにされる。彼女は友人も家族にも会えていないのだ。
メールが来た。隣にいるのに、わざわざ送ってくるなんて。
──寝ろ。
そうだ、今の俺に何ができる。身体を休めて、体調を万全にしておくことが優先順位の一番になる。
──ボンニュイ!
カタカナ語で送ると、フランス語で返ってきた。ひとまず休戦といこう。
さすがにリムジンに戻る頃には落ち着きを取り戻していたけれど、もう一度名を呼ばれたら取り乱す自信がある。
「グラースまで」
ルイが行き先を告げると、車はゆっくりと発進した。
「グラース?」
「ここから三十分ほどで着く。どのような街かは、着いてからのお楽しみだ」
「記念に写真でも撮ろうかなあ。あっ」
大事なことを思い出した。
「ルイのスマホってどうなってんの?」
「返してもらっている」
「やっぱり手元になかったんだな。既読はついてたけど、いつものルイらしくなかったからおかしいとは思ったんだよ。変なもの送らなくて良かった」
「変なものとは?」
「変顔とか」
「ネット社会において、拡散されたら一瞬で広まるだろうな」
「本当に良かったよ。ドルヴィエ家の大恥になるとこだった」
くだらないことでじゃれあっていたら、あっという間に着いた。
ドアが開いた瞬間、独特の香りが鼻腔をくすぐった。俺が悩みの種を蒔き散らした妄想の香りではなく、本当に清々しい香りがするのだ。何かの花か、フルーツか。
ルイは一緒についてこようとする男性と何か話をしている。
「どうしたんだ?」
「来なくていいと言ったんだ」
「それで?」
「断られた」
「あー、それは無理じゃないかな……」
ルイが姿を現すと、道を歩く人々は立ち止まり、無遠慮の視線を向ける。綺麗だけで見ているわけではないだろう。近くを通る人がドルヴィエという名を口にした。
「有名人なんだな」
「良かったな。こんな私がフィアンセとは鼻が高いだろう」
「目鼻顔立ちがはっきりしてるし、シュってしててかっこいいよ」
鼻で笑われた。どういう意味の笑いだそれは。
駐車場から離れて街に出ると、男性たち一定の距離を空けてしっかりとついてくる。ルイも苦笑いだ。
「なあ、なんでこんなに良い匂いがしてんの?」
「グラースは香水の街とも言われている。フランスの香水のおよそ三分の二がここで作られているんだ」
「それでかあ。街と田舎がうまく調和した街だな。映画で恋人同士がきゃっきゃしてるイメージの街だよ。中世っぽい」
「どんな映画を観たんだ」
何度か来たことがあるのか、ルイの歩き方に迷いはない。坂の多い道を上ったり下ったり繰り返し、たまに通る車にはルイは止まっていちいち俺を背後に寄せる。女性じゃあるまいしなぜこんなことをするのだろうと思ったら、庇われているのは車からではなく、向こうからカメラを向ける女性からだ。女性と目が合うと、あなたには用はないのよと目が笑っていない営業スマイルだ。
白い花で覆われたカフェに入った。生花も飾っていて瑞々しい香りがする。ルイは店員に何か告げると、店員は本物の営業スマイルで何か話しかけてくる。
「なんだって?」
「奥に来いと言っている」
「ユーリさんにも言われたけど、本当に英語通じないんだな。通じても俺と会話が成り立つか分かんないけどさ」
「私とお前は離れられない運命にある。これからは側でみっちりと英語、フランス語、ドイツ語を教えてやろう」
「そういえば、ドイツ語でレポートを書かないといけないんだった! いやあ、ドイツ語も難なく話せるフィアンセがいて良かったなあ!」
「私は師匠に甘いと言われる。突き放して教えることも大事だと。私の好む教え方ではないが、一理あると思っている。メニュー表を渡されるから、好きなものを注文しておけ」
「ええー、待って。本当に?」
「後で迎えにくる。何か会ったらメールを」
ルイは手を上げ、店員と何か話していなくなってしまった。後ろを振り向かず、すんなりと姿が見えなくなる。
ショーウインドウに飾られたマネキンの気分で、ガラス越しの街を歩く人々を見る。時間を忘れて見入っていると、観光客なのか美しい街に住む人々なのかはっきり見えてくるので面白い。
「あ、どうも」
メニュー表を受け取って、試しに英語は話せますかと聞いてみるが、ノンと返ってきた。
どこまでもフランス語しか使われていない。でもルイとの会話や、大学である程度の知識を得たおかげか分かる単語もある。用もないのにルイに自慢の電話をしたくなってきた。
メニュー表の中で、多く使われている単語がある。それは『クレーム』という単語だ。クレーム・ド・カシスやクレーム・ド・カカオなど、リキュールの瓶で何度も目にしてきた。糖分が高いことを意味する。『cafe creme』とは、おそらくカフェオレだろうと予測はつく。まさかここで酒の知識が役に立とうとは。自慢の電話をしたい。
せっかくなので、クレームカラメルなるものも注文してみた。
あらためて、外の風景を眺める。サングラスの男性たちは端にいてくれたおかげで、美しい街並みが目に入ってくる。
ぼんやりと人通りを眺めていると、テーブルに頼んだ二品が置かれた。思った通り、クレームカラメルはプリンのことだ。日本でよく見かけるプリンと大差なかった。頼んだカフェオレも正解だ。写真を撮ってルイに送っておこう。
「…………あま」
クリームたっぷりのカフェオレと甘いプリン。エスプレッソにすれば良かったと後の祭りだ。
食べ終わる頃にはルイから「もうすぐ行く」とメールが入る。十分ほどでルイは戻ってきた。
「……大丈夫か? 浮気した人みたいになってるぞ」
「浮気だと?」
「他人の匂いがぷんぷんする。日本だと匂いや服についた化粧品で浮気がばれたりするんだよ」
「浮気などするわけがないだろう。私は愛した人は死ぬまで愛す。ちゃんと注文できたみたいだな」
「だろ?」
鼻高々に、クレームについてルイにしたり顔で説明した。ルイにとっては常識の話でも、耳を傾けてくれるあたり優しさの固まりだ。
「カフェ・クレームってカフェオレのことじゃないの?」
「厳密に言うと違う。ミルクを混ぜたものがカフェオレ、スチームしたミルクを入れたものがカフェ・クレームだ」
ルイはカフェを注文した。クレームドがついていないので甘みのないコーヒーが出てくると予想して、俺も二杯目の注文をさせてもらう。
「…………エスプレッソ?」
俺が思っていたものと違う。カフェはコーヒーのことなのに、エスプレッソが出てきた。
「カフェと注文すればエスプレッソが出てくる。エスプレッソを注文すれば、エスプレッソが出てくる」
「アメリカンコーヒーはないの?」
「あるが、フランスではあまり飲まん。まあ、私はどちらでもいいが。カフェインを摂りたいときにコーヒーを飲む程度だからな」
「苦い……」
「砂糖を入れて飲め。なぜそのまま飲むんだ」
「ルイは? 砂糖どう?」
「いらん。どうせほとんど味は分からない」
カフェを注文したら、ソーサーにクッキーが添えられていた。
「今までどこに行ってたんだ? その紙袋はなに?」
「お前にやる」
「プレゼント? 開けてもいい?」
「ああ」
重みのある箱だ。リボンを解きふたを開けると、貼られている茶色の小瓶が出てきた。
「もしかして、香水?」
「先ほど作ってきた」
「うわあ……すごい……どうしよう、めちゃくちゃ感動してる。考えることは一緒なんだな」
「どういうことだ?」
「池袋に置いてきたんだけど、俺もルイに香水のプレゼントがあるんだよ。実家で姉ちゃんが考案したものらしいんだけど、けっこう良い香りなんだ。戻ったら渡すよ」
「……楽しみにしている」
隣に座る老夫婦は笑いながら何か言っている。フェリシ……なんとか。どうもどうもと俺もお礼を言った。言葉も大事だが、気持ちが通じ合えばいいのだ。ルイは咳払いをしている。喉がつっかえたのか?
「グラースに来たかったのは、香水を作りたかったから?」
「ああ。お前は普段、香水をあまりつけていないようだったから」
「フランス人って香水好きだよな。ルイのお兄さんもつけてたし。威厳があって王様っぽい匂いがした」
「香水をつけなくても王様のようなお人だからな」
「ルイの家族にも挨拶したかったなあ。会えなくて残念」
「墓の管理の仕事があるため、ヨーロッパ中を回っている」
「本当に今さらだけど、すごい家系だな」
「私からすれば、造り酒屋の方が大層珍しい家柄だと思うが」
「そうか? 実家に遊びに来たらいいよ。姉さんたちも喜ぶと思う」
せっかくなので香水を数滴つけてみたら、柔らかい甘さが残る香りがした。
「何を混ぜたんだ?」
「メインはミモザとジャスミン。あとは秘密」
ルイは時間を確認し、そろそろ行こうと促す。
ここからは駅までリムジン生活だ。滅多に乗れない経験なのでいろいろ楽しみたかったが、空港までぐっすり寝てしまった。
帰りのチケットはルイが買ってくれ、ミニハウスのような席だった。ソファーを伸ばせばベッドになるし、足を伸ばせるって最高だ。
ルイはさっさと寝る体勢になっている。
俺もベッドを作り、早々に横になった。
ここ数日はいろいろありすぎた。ひとりで海外にやってきて、ルイの兄貴と会って、幽閉状態のルイをどうやって救うか首が戻らないのではないかというほど頭を捻った。ディミトリ氏との約束、俺なんかと婚約を結んでしまったルイの想い、牢獄から解放しただけで、運命の渦に呑まれている。ひとりで抱えるにしては重すぎる。
やれるのか? ルイを救って、無事にベルナデット嬢も助ける。宿命から逃げ続ける彼女はどんな想いでいるのだろうか。想像しただけで、胸がズタズタにされる。彼女は友人も家族にも会えていないのだ。
メールが来た。隣にいるのに、わざわざ送ってくるなんて。
──寝ろ。
そうだ、今の俺に何ができる。身体を休めて、体調を万全にしておくことが優先順位の一番になる。
──ボンニュイ!
カタカナ語で送ると、フランス語で返ってきた。ひとまず休戦といこう。
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