13 / 17
第一章 幽閉
013 誰しも心に悪魔がいる
しおりを挟む
藤裔家が裕福に見えて、実はスポンサーによって成り立っている。
父の足下に置かれた茶封筒の意味は、何らかの契約の証であり、僕は人柱のような存在。だからこそ、こんな大事な話をするときでさえ、血の繋がった母を外したのだろう。
そして司馬さんは、僕と藤裔家の関係性を調べ尽くしているはずだ。多額のお金をちらつかせれば、父も味方になってくれると思っている。
「今すぐに返事は出さないで下さい。私も、心の準備ができていないのですよ。断られることを承知の上で、参りましたから」
「なずなも返答に困るでしょう。そうだろう、なずな?」
「はい…………」
「なずな君、君の好きそうなお菓子を買ってきたからぜひ食べてね」
爽やかな笑顔の裏にある脅威に、立ち上がることもできず、見送りは父のみが行った。
今の僕にはお菓子すら刃物に見える。不法の何か。ひと口でも食べるなと、心の声が囁いてくる。
「なずなが人助けをしているとは知らなかった。自慢の息子だ」
「……ありがとうございます」
戻ってきて父は褒めるが、もう何を言われても嘘っぱちにしか聞こえなかった。
「なずなの人生だ。ゆっくり考えるといい」
「はい」
そう、これは僕の人生だ。父のために、藤裔家のために何かしなくたっていい。唯一自由なのは、僕が家を継がなくていいということだ。才能がなくて心底良かった。チュパカブラを編み出した僕を心底褒めたい。
リビングに戻って話せる力が残っていなかったので、部屋に戻った。
スーツケースの中身もまだ片づけていない。それよりも眠かった。現実を忘れて寝てしまいたかったが、引き戻したのはスマホのメールだ。
画面が明るく光り、名前が浮かぶ。
──お疲れ様でした。忘れられない北海道の旅になりました。なずな君の考古学に対する姿勢に、とても勉強させて頂きました。できることなら……と名残惜しく感じてしまいます。家族のことも、君がいたから大きな一歩を踏み出せました。僕が北海道へ行く件ですが、なずな君を惑わせてしまいましたね。まずはゆっくり休みましょう。
淡い気持ちを胸に、強く唇を噛み締める。そうしないと、溢れる想いで溺れそうになってしまう。
ふんわりした将来設計図が胸に宿るも、今は勇気が出ず行動にも移せない。
──京介さん、北海道へ行ってしまうんですか?
返事を待たず、僕は眠りについてしまった。
起きると次の日の朝で、父はもうすでに仕事へ向かっていなかった。
顔を合わせづらかったので、これには助かった。
足の調子も良かったので、僕は大学に行くことにした。
研究室に行くと、同じゼミの子たちが驚いたように目を見開いている。
「藤裔さん……おはようございます」
「おはようございます」
同じ年代であるのにもかかわらず、こうして距離を離されると心には曲がりくねった砂利道ができる。まっすぐにも歩けないし、足元も覚束ない。
なんだろう。いつもよりも距離が遠ざかっている気がする。残念ながら、僕には聞く術がない。
「佐藤教授は?」
「諏訪准教授と、何か話してます。生徒だけで進めてくれって言われてます」
「分かりました」
ちょうど入ってきたのは、諏訪准教授だ。佐藤教授はいない。
背中がしょんぼりと小さくなり、いかにも落ち込んでいますと後ろ姿が語っている。あまり良い話ではなかったようだ。聞こうにも、他の生徒の目があるため、何も声をかけられなかった。
「諏訪准教授、何かあったんですか?」
勇気のない僕の代わりに、他の生徒が口にする。
「僕だって落ち込みますよ……はあ」
本当に元気がないようだ。
諏訪准教授は僕に気づくと、何でいるのという動揺を見せるが、一瞬で消す。それよりも傷心が勝っているようだ。
「二重も三重も嫌なことが重なりました」
「うわ、気になるう」
「では特別に一つだけ。来る途中にコンビニでソフトクリームを購入したんですが、カップの蓋を開けたとたん、ざっくり半分逝ってしまいました」
「なになに? カップについちゃったの? あれってたまに起こりますよねえ」
「カップについただけならいいんですが、そのカップについたアイス部分が下に落っこちてしまいました。見ていた野良猫が集まってきてしまいましたし」
「あげたらいいじゃん」
「だっだめです! 猫に人間のおやつは与えられません!」
「そうなんですか? 知らなかった」
「あとは言えません。僕を研究に没頭させて下さい」
かきむしった頭部は鳥の巣状態になっていた。優しく撫でたくても、生徒がいる以上どうしようもない。
僕は僕で、研究に集中することにした。
夕方になり、生徒もまばらになってくる。諏訪准教授となんとか話をしたくて残ろうとするも、他の生徒は佐藤教授と話が盛り上がっている。これでは当分帰りそうにない。
「それでは……僕はこれで」
諏訪准教授は一瞬だけ僕を見やる。
「……ココアが飲みたい」
僕にしか聞こえないくらいの小さな声で独り言を言うと、さっさと片づけて帰ってしまった。
「……ココア」
優しくて甘くて、なんていい響き。諏訪准教授とも何度もココアを飲んだ。彼の好みに染まってしまったのか、僕ひとりでもココアを飲むようになった。
発した一言がどうしても気になり、僕は帰るふりをして諏訪准教授の研究部屋まで行くと、廊下まで甘ったるい香りがした。
ノックをしてみると、控えめな返事が聞こえる。
「僕です。藤裔なずなです」
「どうぞ」
ドアの向こうは対して驚いた声でもなく、僕は遠慮がちにドアを開けた。
「あっ」
「来てくれると信じてました。もし来てくれなかったら……カロリーオーバーです」
湯気の立つマグカップを二つ持ち、諏訪さんは片方を横に置いた。
「お話がしたいです」
「……僕も」
何度もふたりきりになってきたはずなのに、今日は緊張しかない。
「メールありがとうございました。返せなくてすみません」
「いいえ……ちょっと悲しかったですけど」
「そうですか。でもね、なずな君。僕はもっともっと悲しかったですよ」
「アイスを落としたから?」
「違います。いえ、それもあります。どうして話してくれなかったんですか?」
「話す?」
「……養子に行くかもしれないって話です」
「えっ……どうしてそれを諏訪さんが?」
「やっぱり……本当だったんですね。藤裔家の長男が養子に行く話が浮上しているってネットニュースになっていました。デマの可能性が高いですが、でも火が出ているのは何かしら火種はあるかもしれないと」
「もう出てるんですか? でもそれは僕はOKしたわけじゃないです。確かにそんな話はされましたけど……。落ち込んでいる理由はそれですか?」
「それ、です」
「可愛い人ですね」
「なんで笑うんですか、もう」
いつもよりココアが甘い。気のせいかと思ったが、諏訪さんが一口飲んで首を傾げたので、気のせいではないのだろう。
「動揺してたみたいです」
「やっぱり可愛い」
「三十歳を超えた人に可愛いって……そんなこと言うのは、なずな君だけです」
相変わらず笑うと眉毛がハの字になる。
恋愛初心者なのは、僕も諏訪さんも変わらない。
恋愛の駆け引きもできないし、先へ進むには何をすべきかも分からない。
「まだ母とも話していないんです。朝は会わなかったし。今日、帰ったら話してみるつもりです」
諏訪さんも会ったことがある人だとは言わなかった。余計な気を使わせたくなかった。
「諏訪さんは、北海道にいつ行くか……」
最後まで言葉が出なかった。
びくりと身体を震わせ、いかにも聞かないでほしいと言わんばかりで、僕は言葉を詰まらせた。
「なずな君」
諏訪さんは僕の手を握ると、今度は身体が跳ねたのは僕だった。
「北海道へ、行くことになりました」
諏訪さんは改めて事実を伝え、僕を突き放す。けれど離れてほしくないと、掴んだ手に力を込めた。
「いつからですか?」
「それは…………」
諏訪さんの手が震え、僕にも振動が伝わってくる。
「来月からです」
「来月…………」
「あちらから連絡があったんです。できれば早めに来てほしいと」
いくら何でも早すぎだ。想像していた以上だった。
「諏訪准教授は、答えを出したんですね」
「なずな君……僕は…………」
「あなたからはたくさんのことを学びました。たった数か月でも、勉強させて頂きました」
「なずな君、待って」
「ココア、美味しかったです。ありがとうございました」
勇気のない、哀れで滑稽な自分に嫌気が差した。
別れを告げられるのが嫌で、逃げた弱虫な僕。勇気を振り絞って伝えてくれた諏訪さんと僕は、相応しくない。
大学を出ると、なぜちゃんと話をしなかったのだろうと罪悪感で満たされた。けれど戻る勇気すらなく、諏訪さんはこんな僕を呆れているに違いない。
流れる涙をそのままに、ただひたすら無心で歩き続けた。
父の足下に置かれた茶封筒の意味は、何らかの契約の証であり、僕は人柱のような存在。だからこそ、こんな大事な話をするときでさえ、血の繋がった母を外したのだろう。
そして司馬さんは、僕と藤裔家の関係性を調べ尽くしているはずだ。多額のお金をちらつかせれば、父も味方になってくれると思っている。
「今すぐに返事は出さないで下さい。私も、心の準備ができていないのですよ。断られることを承知の上で、参りましたから」
「なずなも返答に困るでしょう。そうだろう、なずな?」
「はい…………」
「なずな君、君の好きそうなお菓子を買ってきたからぜひ食べてね」
爽やかな笑顔の裏にある脅威に、立ち上がることもできず、見送りは父のみが行った。
今の僕にはお菓子すら刃物に見える。不法の何か。ひと口でも食べるなと、心の声が囁いてくる。
「なずなが人助けをしているとは知らなかった。自慢の息子だ」
「……ありがとうございます」
戻ってきて父は褒めるが、もう何を言われても嘘っぱちにしか聞こえなかった。
「なずなの人生だ。ゆっくり考えるといい」
「はい」
そう、これは僕の人生だ。父のために、藤裔家のために何かしなくたっていい。唯一自由なのは、僕が家を継がなくていいということだ。才能がなくて心底良かった。チュパカブラを編み出した僕を心底褒めたい。
リビングに戻って話せる力が残っていなかったので、部屋に戻った。
スーツケースの中身もまだ片づけていない。それよりも眠かった。現実を忘れて寝てしまいたかったが、引き戻したのはスマホのメールだ。
画面が明るく光り、名前が浮かぶ。
──お疲れ様でした。忘れられない北海道の旅になりました。なずな君の考古学に対する姿勢に、とても勉強させて頂きました。できることなら……と名残惜しく感じてしまいます。家族のことも、君がいたから大きな一歩を踏み出せました。僕が北海道へ行く件ですが、なずな君を惑わせてしまいましたね。まずはゆっくり休みましょう。
淡い気持ちを胸に、強く唇を噛み締める。そうしないと、溢れる想いで溺れそうになってしまう。
ふんわりした将来設計図が胸に宿るも、今は勇気が出ず行動にも移せない。
──京介さん、北海道へ行ってしまうんですか?
返事を待たず、僕は眠りについてしまった。
起きると次の日の朝で、父はもうすでに仕事へ向かっていなかった。
顔を合わせづらかったので、これには助かった。
足の調子も良かったので、僕は大学に行くことにした。
研究室に行くと、同じゼミの子たちが驚いたように目を見開いている。
「藤裔さん……おはようございます」
「おはようございます」
同じ年代であるのにもかかわらず、こうして距離を離されると心には曲がりくねった砂利道ができる。まっすぐにも歩けないし、足元も覚束ない。
なんだろう。いつもよりも距離が遠ざかっている気がする。残念ながら、僕には聞く術がない。
「佐藤教授は?」
「諏訪准教授と、何か話してます。生徒だけで進めてくれって言われてます」
「分かりました」
ちょうど入ってきたのは、諏訪准教授だ。佐藤教授はいない。
背中がしょんぼりと小さくなり、いかにも落ち込んでいますと後ろ姿が語っている。あまり良い話ではなかったようだ。聞こうにも、他の生徒の目があるため、何も声をかけられなかった。
「諏訪准教授、何かあったんですか?」
勇気のない僕の代わりに、他の生徒が口にする。
「僕だって落ち込みますよ……はあ」
本当に元気がないようだ。
諏訪准教授は僕に気づくと、何でいるのという動揺を見せるが、一瞬で消す。それよりも傷心が勝っているようだ。
「二重も三重も嫌なことが重なりました」
「うわ、気になるう」
「では特別に一つだけ。来る途中にコンビニでソフトクリームを購入したんですが、カップの蓋を開けたとたん、ざっくり半分逝ってしまいました」
「なになに? カップについちゃったの? あれってたまに起こりますよねえ」
「カップについただけならいいんですが、そのカップについたアイス部分が下に落っこちてしまいました。見ていた野良猫が集まってきてしまいましたし」
「あげたらいいじゃん」
「だっだめです! 猫に人間のおやつは与えられません!」
「そうなんですか? 知らなかった」
「あとは言えません。僕を研究に没頭させて下さい」
かきむしった頭部は鳥の巣状態になっていた。優しく撫でたくても、生徒がいる以上どうしようもない。
僕は僕で、研究に集中することにした。
夕方になり、生徒もまばらになってくる。諏訪准教授となんとか話をしたくて残ろうとするも、他の生徒は佐藤教授と話が盛り上がっている。これでは当分帰りそうにない。
「それでは……僕はこれで」
諏訪准教授は一瞬だけ僕を見やる。
「……ココアが飲みたい」
僕にしか聞こえないくらいの小さな声で独り言を言うと、さっさと片づけて帰ってしまった。
「……ココア」
優しくて甘くて、なんていい響き。諏訪准教授とも何度もココアを飲んだ。彼の好みに染まってしまったのか、僕ひとりでもココアを飲むようになった。
発した一言がどうしても気になり、僕は帰るふりをして諏訪准教授の研究部屋まで行くと、廊下まで甘ったるい香りがした。
ノックをしてみると、控えめな返事が聞こえる。
「僕です。藤裔なずなです」
「どうぞ」
ドアの向こうは対して驚いた声でもなく、僕は遠慮がちにドアを開けた。
「あっ」
「来てくれると信じてました。もし来てくれなかったら……カロリーオーバーです」
湯気の立つマグカップを二つ持ち、諏訪さんは片方を横に置いた。
「お話がしたいです」
「……僕も」
何度もふたりきりになってきたはずなのに、今日は緊張しかない。
「メールありがとうございました。返せなくてすみません」
「いいえ……ちょっと悲しかったですけど」
「そうですか。でもね、なずな君。僕はもっともっと悲しかったですよ」
「アイスを落としたから?」
「違います。いえ、それもあります。どうして話してくれなかったんですか?」
「話す?」
「……養子に行くかもしれないって話です」
「えっ……どうしてそれを諏訪さんが?」
「やっぱり……本当だったんですね。藤裔家の長男が養子に行く話が浮上しているってネットニュースになっていました。デマの可能性が高いですが、でも火が出ているのは何かしら火種はあるかもしれないと」
「もう出てるんですか? でもそれは僕はOKしたわけじゃないです。確かにそんな話はされましたけど……。落ち込んでいる理由はそれですか?」
「それ、です」
「可愛い人ですね」
「なんで笑うんですか、もう」
いつもよりココアが甘い。気のせいかと思ったが、諏訪さんが一口飲んで首を傾げたので、気のせいではないのだろう。
「動揺してたみたいです」
「やっぱり可愛い」
「三十歳を超えた人に可愛いって……そんなこと言うのは、なずな君だけです」
相変わらず笑うと眉毛がハの字になる。
恋愛初心者なのは、僕も諏訪さんも変わらない。
恋愛の駆け引きもできないし、先へ進むには何をすべきかも分からない。
「まだ母とも話していないんです。朝は会わなかったし。今日、帰ったら話してみるつもりです」
諏訪さんも会ったことがある人だとは言わなかった。余計な気を使わせたくなかった。
「諏訪さんは、北海道にいつ行くか……」
最後まで言葉が出なかった。
びくりと身体を震わせ、いかにも聞かないでほしいと言わんばかりで、僕は言葉を詰まらせた。
「なずな君」
諏訪さんは僕の手を握ると、今度は身体が跳ねたのは僕だった。
「北海道へ、行くことになりました」
諏訪さんは改めて事実を伝え、僕を突き放す。けれど離れてほしくないと、掴んだ手に力を込めた。
「いつからですか?」
「それは…………」
諏訪さんの手が震え、僕にも振動が伝わってくる。
「来月からです」
「来月…………」
「あちらから連絡があったんです。できれば早めに来てほしいと」
いくら何でも早すぎだ。想像していた以上だった。
「諏訪准教授は、答えを出したんですね」
「なずな君……僕は…………」
「あなたからはたくさんのことを学びました。たった数か月でも、勉強させて頂きました」
「なずな君、待って」
「ココア、美味しかったです。ありがとうございました」
勇気のない、哀れで滑稽な自分に嫌気が差した。
別れを告げられるのが嫌で、逃げた弱虫な僕。勇気を振り絞って伝えてくれた諏訪さんと僕は、相応しくない。
大学を出ると、なぜちゃんと話をしなかったのだろうと罪悪感で満たされた。けれど戻る勇気すらなく、諏訪さんはこんな僕を呆れているに違いない。
流れる涙をそのままに、ただひたすら無心で歩き続けた。
1
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

[完結]閑古鳥を飼うギルマスに必要なもの
るい
BL
潰れかけのギルドのギルドマスターであるクランは今日も今日とて厳しい経営に追われていた。
いつ潰れてもおかしくないギルドに周りはクランを嘲笑するが唯一このギルドを一緒に支えてくれるリドだけがクランは大切だった。
けれども、このギルドに不釣り合いなほど優れたリドをここに引き留めていいのかと悩んでいた。
しかし、そんなある日、クランはリドのことを思い、決断を下す時がくるのだった。

紅(くれない)の深染(こそ)めの心、色深く
やしろ
BL
「ならば、私を野に放ってください。国の情勢上無理だというのであれば、どこかの山奥に蟄居でもいい」
広大な秋津豊島を征服した瑞穂の国では、最後の戦の論功行賞の打ち合わせが行われていた。
その席で何と、「氷の美貌」と謳われる美しい顔で、しれっと国王の次男・紅緒(べにお)がそんな事を言い出した。
打ち合わせは阿鼻叫喚。そんななか、紅緒の副官を長年務めてきた出穂(いずほ)は、もう少し複雑な彼の本音を知っていた。
十三年前、敵襲で窮地に落ちった基地で死地に向かう紅緒を追いかけた出穂。
足を引き摺って敵中を行く紅緒を放っておけなくて、出穂は彼と共に敵に向かう。
「物好きだな、なんで付いてきたの?」
「なんでって言われても……解んねぇっす」
判んねぇけど、アンタを独りにしたくなかったっす。
告げた出穂に、紅緒は唐紅の瞳を見開き、それからくすくすと笑った。
交わした会話は
「私が死んでも代りはいるのに、変わったやつだなぁ」
「代りとかそんなんしらねっすけど、アンタが死ぬのは何か嫌っす。俺も死にたかねぇっすけど」
「そうか。君、名前は?」
「出穂っす」
「いづほ、か。うん、覚えた」
ただそれだけ。
なのに窮地を二人で脱した後、出穂は何故か紅緒の副官に任じられて……。
感情を表に出すのが不得意で、その天才的な頭脳とは裏腹にどこか危うい紅緒。その柔らかな人柄に惹かれ、出穂は彼に従う。
出穂の生活、人生、幸せは全て紅緒との日々の中にあった。
半年、二年後、更にそこからの歳月、緩やかに心を通わせていった二人の十三年は、いったい何処に行きつくのか──
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。

雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる