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第一章 探偵として
007 バラバラだったパズルのピース
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「朝からラブコールが来るとは思わなかったよ」
無視は許さないと強い意思のこもった電話だった。
出るまで止むことを知らないとは、ついに壊れたのかもしれないと電話を取る。
「ハロー?」
電話をかけてきた主は、すぐに察した。
布か何かを被せているのか、擦れるような音がし、静寂と嫌みな音が交じって心臓へ負担がかかる。どうしてくれる。
「ハロー」
『…………、……………………』
「ハロー?」
『……っ………………っ』
怒鳴ってしまいたかったが、あえて知らないふりをして背後の様子を耳で伺う。
家からの電話ではなさそうだ。複数の子供の泣き声が聞こえる。いや、家族持ちという可能性もある。
もう一度ハローと言う前に、電話は切れてしまった。
端末を投げ出し、二度寝しようと思った矢先、今度はインターホンが鳴る。電話以上に心臓に岩がぶつかった気分だ。
画面にはガタいの良い男が、不機嫌そうな様子で壁に寄りかかっている。
「なんで僕の休日を理解しているんだ……」
『お前の相棒に聞いた』
今日は私服だ。ラフな格好で入ってきては勝手気ままにソファーへ腰掛け、コーヒーと一言呟く。
「朝食は?」
「食べた」
「僕は勝手に食べるよ」
シリアルにバナナをトッピングして、ミルクをかける。簡単でいい。
インスタントではないコーヒーを入れて、彼の分にはミルクもつける。
「なに? その顔」
「まさかそれが朝食か?」
「そっちは朝からハンバーガーでも食べてそうだな」
「ピザでもいける」
「シリアルは食べないのか?」
「食べるが量が少なすぎる」
聞いているだけで胃がおかしくなりそうだ。
「タイミングが良すぎてロス刑事様が犯人なんじゃないかと疑ったよ」
「何の話だ?」
「さっき電話がかかってきた。呼びかけても返事はないし、泣き叫ぶ声が凄まじい」
「泣き叫ぶ声?」
「子供の泣き声がしたんだよ。あと息遣いがした」
「……まさか妻子ある身か? かけ直すなよ」
「しないよ。非通知だし。言い忘れてたけど、何しに来たんだよ」
「会いに」
「それは嬉しいね。僕の家族ですら会いにきたことは一度もないのに」
ギルバート刑事はたっぷりと入れたコーヒーを飲み、美味いと呟く。
「一週間くらい前に、イアン・チャーチ氏の元へ訪ねたか?」
「行ったよ。けど会ってない。留守だったんだ。なんで?」
「死んだ」
ホラー映画でいきなりサイコパスが現れたときのような衝撃を受けた。いくらホラーが好きと言っても、あれはない。
「死んだ」と軽く告げられるのは二度目だが、慣れたくはない感情だ。
「突然死。心臓に病を抱えていたらしい。外傷はないし、事件性はほぼないと見ている」
「僕に関わる人間は、」
「俺もジローも死んじゃいない」
ギルバート刑事はきっぱりと言う。自分が一番正しいと、譲らない精神は見習いたい。
「お前の指紋が検出された」
「ノッカーだろ? 確かに触った。何度もね」
「俺はお前を疑っているのは数パーセントと話したが、警察はそうは見ていない。おとなしくしてろと言わなかったか?」
「疑問なんだけど、なんでそんなに僕に構う?」
「……お前を救うのも牢にぶち込むのも俺の役目だ。それとカーネーションの件だが、」
「まさか調べてくれたのか?」
「あくまで、俺個人でだ。こんなことじゃあ警察は動かない。ロサンゼルス刑事様は忙しいんだ」
「それは……お疲れ様です」
「頭に叩き込んでおけよ。いいか、」
間を置いて彼はこの前の出来事を話し始める。
僕から連絡を受け際、すぐにフラワーショップへ行き、画像を元に送った人を判別しようとしたらしい。警察手帳という権力をフルに行使し、防犯カメラの映像を見せてもらった。
「この男を見たことがあるか?」
モニターをそのまま撮影した携帯には、斜め上からのやせ細った男性が映っていた。
「この日に黄色のカーネーションを買ったのはこの男だけだそうだ」
「待ってくれ……見たことがある……」
「どこで?」
「カメラだよ。リサのバーで見せてもらったんだ」
文句を言いたげな男を無視し、端末のデータフォルダを開いて彼の画像と見比べてみる。
「一応、動画も撮ってきた」
細身の男は当たりを見渡し、店員と何か話した後、カーネーションを指差している。
彼は紙を渡されて何か書いている。住所と宛先だ。だが近くにいた店員に何か告げ、もう一度紙をもらっている。
「残念な話、ゴミはすべて処分してしまっていて実物を確認できていない。だが近くにいた店員が見ていたそうだ」
「よく覚えていたな」
「倒れそうなくらい顔色が悪かったらしい。そんな人が花なんて買いにくるかと言っていた」
「確かに。日用品ならともかく、花は急ぎで買うものじゃない」
「名前にHがつく人物。Hと一文字だけを書き、男は新しい紙をもらっていた。心当たりは?」
「なさすぎるしありすぎる。Hから始まる人物なんてその辺を歩いていてもばったり会う」
「学生時代には似た男の記憶は?」
脳を絞り出すくらい頭を捻る。そもそも卒業してからだいぶ時間が経つ。顔と名前が一致しない人、当時太っていても痩せた人、または逆、元気だったのに病気になった人と、様々だ。人生なんて分からない。
「僕の学生時代の人だと思ってるのか?」
「可能性の話な。ずっと見ていただの、お前の過去を知っている人なんじゃないかと考えていた」
「過去……」
コール音が鳴り、とちらの端末かと顔を見合わせた。忙しい刑事様の端末ではなく、残念ながら僕のものだ。
さらに残念な話、画面には『非通知』と出ている。「モテモテで困るね」。
「お前には人を惹きつける魅力があるんだろうな」
口を挟みつつ、ギルバート刑事はポケットから何やら機材を取り出した。小型のもので、線が連なり先にはイヤホンもついている。
僕の端末に差し込むと、ギルバート刑事はイヤホン部分を耳に差し入れた。「出ろ」。
一回目出たときよりも、二回目の今の方が手が震えている。弱さを見せたくないのに。
ギルバート刑事は僕の手を掴み、安心させるように頷いた。普段の笑わない刑事の顔ではなく、父が幼かった僕を抱っこする直前の顔と重なった。
「ハロー?」
『……そこに、誰かいるだろう?』
初めて声を聞いた。濁声で人間の声とは思えない。微かに声が震えていた。
頼れる刑事を見やると、首を横に振った。
「いや、誰もいない」
『嘘を吐くな。側にいるだろう』
またもや頭を振る。
「いや、いないよ。見てもいないのに、なぜいると断言できる?」
『…………、…………っ』
独り言を何か話しているが、何を言っているか理解不能。
何か放送のようなものが聞こえる。こちらもはっきりとは分からない。すぐに止み、今度は足音も流れてくるが、外にいる様子ではなかった。
『お前は嘘吐きだ。大人になっても、何も変わっちゃいない。なぜ先に行こうとする? なぜ俺を置いていこうとする? ずっと信じていたんだ』
「嘘吐き? いつ君に嘘を吐いたんだ?」
『何年も前の話さ。俺は最後の仕上げに取りかかろうと思う』
──とにかく相手に話をさせてくれ。
メモ帳には頼もしい一文が書いてある。
「何をする気だ?」
言われた通り、質問を繰り返した。
『お前の家族を殺す。そうすればお前は悲しむ。俺に振り向いてくれる』
「僕の家族を殺したって、君には絶対に振り向かない」
思考回路が意味不明すぎる。狂っているとしか言いようがない。同時に、屈託のない笑みを零す母スミレの顔が浮かぶ。腰がぶるりと震えて、端末を持つ手にまで振動が起こる。
──相手を否定するな。
やや小汚い字。OK、理解した。
「君は僕の家族を知っているのか?」
『母親と、父親と、妹だ』
やや間があって、男は答える。
名前までは分からないのか? 自信がないのか、そこまでは答えなかった。
『住んでいる場所も知っている』
こちらは自信があるためか、すらすらと僕の住む住所を言い始めた。
「落ち着け。今、どこにいる?」
『一緒に神の元へ行こう。神は平等なんだ。病気に苦しむ俺も君も、平等に連れていってくれる』
眉間を寄せたのは僕だけじゃない。病気という新しく出たキーワードは、ギルバート刑事に緊張感を漂わせた。
少し遠いところで女性の声がする。電話越しの男は慌てて切る。
ツーツー、と虚しい音が鳴ったところで、僕は端末の明かりを消した。
「男の言っていた住所だが、」
「確かに僕の住んでいた住所だ」
「住んでいた?」
ギルバート刑事は訝しみ、過去形で聞き返す。
「連れ子なんだよ。父親は僕が十五歳のときに亡くなって、母親は今の旦那と出会って再婚した。僕は今の父親と血が繋がっていない」
「……そうだったな」
僕の家族構成も調べ尽くしているのだろう。ギルバート刑事は目を伏せ、顎を撫でた。
「昔のお前を知っているが、今のお前は知らない……というところか」
「住所が変わったのは大学生時代だ。僕は学生寮だったから家を出ていってから母親は再婚して引っ越しした」
「お前が出ていってから結婚したのか」
「ああ。新しい家にはそこまで慣れてないんだよ。母は帰ってこいって言うんだけどね」
僕は肩をすくめる。
「ストーカーは僕が高校生のときで時間が止まっている。じゃあ誰だとは聞くなよ? まったく分からないんだから」
「本当に? バラバラのパズルは、一度は組まれていたものだ」
「……それ………………」
パズルが散らばっているのは、僕の記憶だ。
僕は、過去に似た言葉を聞いたことがある。
誰が言ったのか、よく思い出せないが、楽しい過去ではないことだけは確かだ。
「なあ、それって刑事はよく口にするのか?」
「パズルか? まあ、よく例えられたりはするな」
「ふうん」
過去を掘り出すのはやめておこう。今回の時間とは、関係ないのだから。
無視は許さないと強い意思のこもった電話だった。
出るまで止むことを知らないとは、ついに壊れたのかもしれないと電話を取る。
「ハロー?」
電話をかけてきた主は、すぐに察した。
布か何かを被せているのか、擦れるような音がし、静寂と嫌みな音が交じって心臓へ負担がかかる。どうしてくれる。
「ハロー」
『…………、……………………』
「ハロー?」
『……っ………………っ』
怒鳴ってしまいたかったが、あえて知らないふりをして背後の様子を耳で伺う。
家からの電話ではなさそうだ。複数の子供の泣き声が聞こえる。いや、家族持ちという可能性もある。
もう一度ハローと言う前に、電話は切れてしまった。
端末を投げ出し、二度寝しようと思った矢先、今度はインターホンが鳴る。電話以上に心臓に岩がぶつかった気分だ。
画面にはガタいの良い男が、不機嫌そうな様子で壁に寄りかかっている。
「なんで僕の休日を理解しているんだ……」
『お前の相棒に聞いた』
今日は私服だ。ラフな格好で入ってきては勝手気ままにソファーへ腰掛け、コーヒーと一言呟く。
「朝食は?」
「食べた」
「僕は勝手に食べるよ」
シリアルにバナナをトッピングして、ミルクをかける。簡単でいい。
インスタントではないコーヒーを入れて、彼の分にはミルクもつける。
「なに? その顔」
「まさかそれが朝食か?」
「そっちは朝からハンバーガーでも食べてそうだな」
「ピザでもいける」
「シリアルは食べないのか?」
「食べるが量が少なすぎる」
聞いているだけで胃がおかしくなりそうだ。
「タイミングが良すぎてロス刑事様が犯人なんじゃないかと疑ったよ」
「何の話だ?」
「さっき電話がかかってきた。呼びかけても返事はないし、泣き叫ぶ声が凄まじい」
「泣き叫ぶ声?」
「子供の泣き声がしたんだよ。あと息遣いがした」
「……まさか妻子ある身か? かけ直すなよ」
「しないよ。非通知だし。言い忘れてたけど、何しに来たんだよ」
「会いに」
「それは嬉しいね。僕の家族ですら会いにきたことは一度もないのに」
ギルバート刑事はたっぷりと入れたコーヒーを飲み、美味いと呟く。
「一週間くらい前に、イアン・チャーチ氏の元へ訪ねたか?」
「行ったよ。けど会ってない。留守だったんだ。なんで?」
「死んだ」
ホラー映画でいきなりサイコパスが現れたときのような衝撃を受けた。いくらホラーが好きと言っても、あれはない。
「死んだ」と軽く告げられるのは二度目だが、慣れたくはない感情だ。
「突然死。心臓に病を抱えていたらしい。外傷はないし、事件性はほぼないと見ている」
「僕に関わる人間は、」
「俺もジローも死んじゃいない」
ギルバート刑事はきっぱりと言う。自分が一番正しいと、譲らない精神は見習いたい。
「お前の指紋が検出された」
「ノッカーだろ? 確かに触った。何度もね」
「俺はお前を疑っているのは数パーセントと話したが、警察はそうは見ていない。おとなしくしてろと言わなかったか?」
「疑問なんだけど、なんでそんなに僕に構う?」
「……お前を救うのも牢にぶち込むのも俺の役目だ。それとカーネーションの件だが、」
「まさか調べてくれたのか?」
「あくまで、俺個人でだ。こんなことじゃあ警察は動かない。ロサンゼルス刑事様は忙しいんだ」
「それは……お疲れ様です」
「頭に叩き込んでおけよ。いいか、」
間を置いて彼はこの前の出来事を話し始める。
僕から連絡を受け際、すぐにフラワーショップへ行き、画像を元に送った人を判別しようとしたらしい。警察手帳という権力をフルに行使し、防犯カメラの映像を見せてもらった。
「この男を見たことがあるか?」
モニターをそのまま撮影した携帯には、斜め上からのやせ細った男性が映っていた。
「この日に黄色のカーネーションを買ったのはこの男だけだそうだ」
「待ってくれ……見たことがある……」
「どこで?」
「カメラだよ。リサのバーで見せてもらったんだ」
文句を言いたげな男を無視し、端末のデータフォルダを開いて彼の画像と見比べてみる。
「一応、動画も撮ってきた」
細身の男は当たりを見渡し、店員と何か話した後、カーネーションを指差している。
彼は紙を渡されて何か書いている。住所と宛先だ。だが近くにいた店員に何か告げ、もう一度紙をもらっている。
「残念な話、ゴミはすべて処分してしまっていて実物を確認できていない。だが近くにいた店員が見ていたそうだ」
「よく覚えていたな」
「倒れそうなくらい顔色が悪かったらしい。そんな人が花なんて買いにくるかと言っていた」
「確かに。日用品ならともかく、花は急ぎで買うものじゃない」
「名前にHがつく人物。Hと一文字だけを書き、男は新しい紙をもらっていた。心当たりは?」
「なさすぎるしありすぎる。Hから始まる人物なんてその辺を歩いていてもばったり会う」
「学生時代には似た男の記憶は?」
脳を絞り出すくらい頭を捻る。そもそも卒業してからだいぶ時間が経つ。顔と名前が一致しない人、当時太っていても痩せた人、または逆、元気だったのに病気になった人と、様々だ。人生なんて分からない。
「僕の学生時代の人だと思ってるのか?」
「可能性の話な。ずっと見ていただの、お前の過去を知っている人なんじゃないかと考えていた」
「過去……」
コール音が鳴り、とちらの端末かと顔を見合わせた。忙しい刑事様の端末ではなく、残念ながら僕のものだ。
さらに残念な話、画面には『非通知』と出ている。「モテモテで困るね」。
「お前には人を惹きつける魅力があるんだろうな」
口を挟みつつ、ギルバート刑事はポケットから何やら機材を取り出した。小型のもので、線が連なり先にはイヤホンもついている。
僕の端末に差し込むと、ギルバート刑事はイヤホン部分を耳に差し入れた。「出ろ」。
一回目出たときよりも、二回目の今の方が手が震えている。弱さを見せたくないのに。
ギルバート刑事は僕の手を掴み、安心させるように頷いた。普段の笑わない刑事の顔ではなく、父が幼かった僕を抱っこする直前の顔と重なった。
「ハロー?」
『……そこに、誰かいるだろう?』
初めて声を聞いた。濁声で人間の声とは思えない。微かに声が震えていた。
頼れる刑事を見やると、首を横に振った。
「いや、誰もいない」
『嘘を吐くな。側にいるだろう』
またもや頭を振る。
「いや、いないよ。見てもいないのに、なぜいると断言できる?」
『…………、…………っ』
独り言を何か話しているが、何を言っているか理解不能。
何か放送のようなものが聞こえる。こちらもはっきりとは分からない。すぐに止み、今度は足音も流れてくるが、外にいる様子ではなかった。
『お前は嘘吐きだ。大人になっても、何も変わっちゃいない。なぜ先に行こうとする? なぜ俺を置いていこうとする? ずっと信じていたんだ』
「嘘吐き? いつ君に嘘を吐いたんだ?」
『何年も前の話さ。俺は最後の仕上げに取りかかろうと思う』
──とにかく相手に話をさせてくれ。
メモ帳には頼もしい一文が書いてある。
「何をする気だ?」
言われた通り、質問を繰り返した。
『お前の家族を殺す。そうすればお前は悲しむ。俺に振り向いてくれる』
「僕の家族を殺したって、君には絶対に振り向かない」
思考回路が意味不明すぎる。狂っているとしか言いようがない。同時に、屈託のない笑みを零す母スミレの顔が浮かぶ。腰がぶるりと震えて、端末を持つ手にまで振動が起こる。
──相手を否定するな。
やや小汚い字。OK、理解した。
「君は僕の家族を知っているのか?」
『母親と、父親と、妹だ』
やや間があって、男は答える。
名前までは分からないのか? 自信がないのか、そこまでは答えなかった。
『住んでいる場所も知っている』
こちらは自信があるためか、すらすらと僕の住む住所を言い始めた。
「落ち着け。今、どこにいる?」
『一緒に神の元へ行こう。神は平等なんだ。病気に苦しむ俺も君も、平等に連れていってくれる』
眉間を寄せたのは僕だけじゃない。病気という新しく出たキーワードは、ギルバート刑事に緊張感を漂わせた。
少し遠いところで女性の声がする。電話越しの男は慌てて切る。
ツーツー、と虚しい音が鳴ったところで、僕は端末の明かりを消した。
「男の言っていた住所だが、」
「確かに僕の住んでいた住所だ」
「住んでいた?」
ギルバート刑事は訝しみ、過去形で聞き返す。
「連れ子なんだよ。父親は僕が十五歳のときに亡くなって、母親は今の旦那と出会って再婚した。僕は今の父親と血が繋がっていない」
「……そうだったな」
僕の家族構成も調べ尽くしているのだろう。ギルバート刑事は目を伏せ、顎を撫でた。
「昔のお前を知っているが、今のお前は知らない……というところか」
「住所が変わったのは大学生時代だ。僕は学生寮だったから家を出ていってから母親は再婚して引っ越しした」
「お前が出ていってから結婚したのか」
「ああ。新しい家にはそこまで慣れてないんだよ。母は帰ってこいって言うんだけどね」
僕は肩をすくめる。
「ストーカーは僕が高校生のときで時間が止まっている。じゃあ誰だとは聞くなよ? まったく分からないんだから」
「本当に? バラバラのパズルは、一度は組まれていたものだ」
「……それ………………」
パズルが散らばっているのは、僕の記憶だ。
僕は、過去に似た言葉を聞いたことがある。
誰が言ったのか、よく思い出せないが、楽しい過去ではないことだけは確かだ。
「なあ、それって刑事はよく口にするのか?」
「パズルか? まあ、よく例えられたりはするな」
「ふうん」
過去を掘り出すのはやめておこう。今回の時間とは、関係ないのだから。
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