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リーダーという名の奴隷

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 学校は夏休みに入った。しかし、そんなの知るかと言わんばかりにどのクラスも文化祭の準備に明け暮れている。

 我がクラスもグラウンドの運動部の掛け声と、どこからともなく聴こえてくる吹奏楽の演奏をBGM代わりにして作業に勤しんでいた。劇に出る役者、大道具やら小道具の作成、それぞれの役割を割り振られ、みんな忙しなく教室でワイワイとしている。

「これでしょっぼい手抜き展示会とかしてたら絶対浮いてたよな……。演劇って提案してくれた佐藤にはマジ感謝だわ」
「そりゃどうも。はいこれ頼まれてたガムテ」
「サンキュー」

 他のクラスの熱の入りようを見てぼくにそう言ってきたのは、めんどくさいから展示会にしようと提案してきた男子だった彼は大道具担当になった。今日も盛り盛りな髪型をしている。この髪型、朝とかセットに何時間かけてるんだろうか。

 そういえばぼくは、リーダーとは名ばかりの奴隷、雑用係になっている。結局実質的にクラスを仕切っているのは演技面で指導してくれる春風さんと、台本の各場面の説明する大助と、まとめ役の金髪イケメンの三人だった。

 まあ、今の所文化祭の準備は順調に進んで……はいないか。

「小川さん……今日も来なかったね……」

 春風さんが、なんともいえない表情でつぶやいた。

 そう。小川さんがまったく練習に来ないのである。そりゃあ、自由参加ではある。ただ小川さんは推薦されて、結構出番の多いキャラを割り振られている。だから、練習に来ないと合わせができなくて困るのだ。幸い、まだそれぞれのセリフや振りを覚えるので精一杯だからいいが……。

「連絡しようにも小川さん、チャットのグループ入ってないんだよね」

 春風さんがスマホを眺めてそう呟いた。

「グループ……?」
「そう。クラスの連絡用グループ」

 ちなみにそれ、多分ぼくも入ってないんですけど……。

「あ、えっと……佐藤くんも入る?」

 ぼくが未登録ということに気づいた春風さんが、遠慮がちにスマホを取り出した。そしてぼくはクラスの連絡グループへと入った。でもなんだろう。とても心が痛くなった。

「わたしが主役になったの、あんまり気に入らなかったのかなあ……」

 ぽつりと、春風さんが眉を八の字に曲げてそう呟いた。

 当然といえば当然だけと、主役は春風さんになった。

 主役決めの投票で、二番目に票の多かった小川さんと大差をつけて、主役は春風さんに決まった。なのでそのことへの当てつけ……という線もありえなくはなかった。

「小川さん、今度読モの仕事で学校休んだ時の補習があるはずだから、その時に話してみようよ。まだ、そんな焦るじきでもないし」

 大助がそう言うと、春風さんは「そう、だね」と少し無理したように笑みを浮かべた。

「それに小川さん、そんな悪い人じゃないと思うんだ」

 大助は、なぜか練習をサボっている小川さんを庇うようなことを言う。

「おまえ、自分の小説をつまらなかったらどうするのかって難癖つけたやつになんでそう言い切れるんだ」
「それはそうだけど……。だって彼女、ぼくの小説が面白いかどうかの多数決取る時、すぐに手をあげてくれたから。あの発言も、悪意はなかったんだよきっと。実際つまらなかったら困るわけだしさ」

 まぁ、そうなんだけどさぁ。なんだか釈然としない気分だ。

「だから、彼女が休んでるのは春風さんのせいってわけじゃないよ、絶対」
「……うん。ありがとうね、大助くん」

 春風さんは、さっきよりはいくらかマシな笑顔を浮かべた。

 大助の励ましで、落ち込んでいた春風さんもすこし持ち直したようだった。

 まあ、今から役を変えたとしても本番には十分に間に合うだろう。だから大助の言う通り、あまり焦ることでもないかもしれない。むしろぼくが今焦っているのは……

「ねえ西宮くん。ここのセリフ、どんな感じで演じればいいの?」
「えっと、そこの心情はね……」

 こいつらのことである。せっかく物理的に距離が縮まって、会話も発生するようになったというのに、関係にまったく進展が見られないのはどういうことか。大助のやつ、へらへらとしやがって。

「大助トイレ行こうぜ」

 適当な理由をつけて、大助を教室から連れ出した。
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