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タイムスリップ編

希望的観測

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 教師という言葉を彼女から聴いて、僕はふと思った。彼女が教師を目指すきっかけになった人って、もしかして僕なんじゃないのかなって。

 出会ったばかりの、超トゲトゲしていた彼女に対して僕が馬鹿みたいに絡んでいけたのは、もちろん最初だけだけではあれど、未来を変えてしまったかもという危機感があったからだ。

 人を避けていたような節があった彼女に対して、他の高校生が、そう積極に関わりにいけただろうか。

 それに、僕以外の高校生というと、あのテニス集団しか該当しないわけだが。そもそもあの集団はあの公園に定期的にテニスをしにきているという口ぶりだった。  

 にも関わらず、テニス集団と液体窒素さんは関わりがあったようには見えなかった。多分、彼女は意図的にテニス集団というか人がいる時は公園を避けていたんじゃないだろうか。

 それなのに、急に友達になるっていうのは違和感しかない。

 で、結局それ以外で彼女と関わりそうだった高校生というのはいないのだ。
 残ったのは僕だけとなる。実際、彼女は僕と関わったことで、教師について興味を持ったような発言をしていたわけだし。

……まぁ友達かどうかと聞かれると沈黙してしまうが、少なくとも僕は友達になりたいと思ってるし。

 つまり、僕が過去に来たから未来が変わったのではなく、僕が8年前にタイムスリップしたからこそ、星野みおという中学生は教師を目指したのかもしれないということだ。

 そうなると、僕が小学二年生の時、僕の知らないところで、未来から来た16歳の僕がえっちらおっちら奮闘していたのかもしれない。

「世界線が分岐しない系のタイムトラベルなのかな」

 と、当然答えはない。いい加減にヘンテコな現象を懇切丁寧に説明してくれる頭の良い学者の友人が欲しくなってきた。
 まぁ、実際に僕の不思議体験を話したら鼻で笑われる可能性が高いけども。

 所詮これはただの願望である。僕が彼女の邪魔をしたのではなく、手助けをできたのだと思いたくてつい考えついただけの、希望的観測というやつだ。
……ただありえないというわけでもない。

 そういえば、未来で彼女は、公園で出会ったという友達とは8年前から会っていないと言っていたのを思い出した。

 さっきの考えが正しかった場合、僕は長く見積もっても一年以内に彼女の前から消えるということになる。

 その理由が未来に戻ったからか、何処かでのたれ死んだからか、はたまた時空の狭間にでも落っこちたからかは分からないが。……とりあえず後ろの2つは避けたいところだ。
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