ぼくと彼女が自殺をやめた理由

ジェロニモ

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エピローグ

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girlfriendside 


「妹から聴いたけど、学校で暴れたらしいね」

 まるでわたしが野蛮人かのような言い方にいらっとした。

「それもおまえのせいだから」
「それは流石に責任転嫁が過ぎるんじゃないか?」
「だって、前におまえが言ったんだよ。クラスメイトに全部ぶちまけてみれば?って。それを実行しただけだよ」
「あー」

 彼は間抜けな声をあげた。

「まさか、忘れてたの?」

 そう聞くと、彼は決まりが悪そうにこくりと頷いた。

 ……本当に忘れているというのか!こっちはそのセリフが頻繁に脳裏をよぎって死ぬほど苦労したというのに!そのセリフに救われたというのに!

「忘れていた責任を取ってわたしのことちゃんと幸せにしろ!」

 わたしをそう叫んで、彼の肩を殴りつけた。

「責任も何も、最初からそのつもりだし」
「……なら、いいけど」

 そうだ。わかっているなら、いいのだ。

「ねえ、橙子の誕生日っていつ?」
「5月1日」
「ふーん。じゃあ私がお姉ちゃんだ」
「それ、妹には言うなよ。あいつ、そういうどうでもいい上下関係でムキになるやつなんだから」

 彼の返答にわたしはため息をついた。

「そこは「ところで君の誕生日は?」って聞くところでしょ。わざわざ聞くタイミング作ってあげたのに」
「ところで君の誕生日は?」
「オウム返しでなんだか癪に障るから教えない」

 わたしは口を尖らせる。彼はどうしたもんかという風に首をさすった。

 あーあ。わたし面倒くさい女になってるなと思いながらも、こいつならそんなわたしも受け入れてくれるだろうなという安心感があった。だから、わたしはどんどん面倒で嫌な女になっていく。けどそんな自分が、今のわたしは結構好きだ。

 ピピピピと、彼のスマホからアラームが鳴る。

「じゃあ、帰るか」

 じゃあねと、踵を返そうとする彼をわたしは「ちょっと」と呼び止めた。

「家まで送ってよ。か弱い彼女に夜道を一人で歩かせるのは、彼氏としてどうなの?」

 彼は首をかしげた後「ああ、なるほど」と頷いた。

 ……こいつ、か弱いの部分に首をかしげていたんじゃないだろうな、とわたしは邪推する。


 しばらく会話もなく歩いていると、「よし、手をつなごう」と、彼の口から出た突然の提案に、わたしは目をしばたたかせた。

「いきなり?」
「付き合うとかよくわからないから、せめて形から入ろうかなと」

 彼なりに距離を近づけようと色々考えてくれているらしい。

「じゃあ、はい」

 そういうことならと、胸を高鳴らせながらわたしは自分の手を彼に差し出した。彼がそれを握る。違う違う。お互い正面を向けながら握り合ってどうする。これじゃただの握手じゃないか。

 わたしも、そして彼も、そんな当たり前の判断ができないくらい緊張しているようだった。
 
 ……まあ、恋愛なんてそういうものだろう。

 今度は正しく手を握り合って、わたしたちはぎこちなく歩き出した。
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