ぼくと彼女が自殺をやめた理由

ジェロニモ

文字の大きさ
上 下
21 / 23

そうしてぼくは心というものの難解さを痛感する

しおりを挟む
 
 夜、彼女が選んだ場所は、彼女と最初に出会ったあの橋だった。それほど経っていないのに、あの日のことが、もう遠い昔のことみたいに感じる。

「わたしがもう自殺する気がないって、知っちゃったんでしょ?」
「……ああ、妹が話したのか」

 彼女にバレなければ、知らないふりをしていられたのになと、ぼくはついそう思ってしまった。それはあまり良い思考ではないだろう。嘘で続く関係など、それこそさっさと終わらせてしまった方が良いと思うから。

 そう考えると、最初に彼女と出会ったこの橋は、最後にはぴったりだった。

「参考までに、なんで自殺するフリを続けてたのか、聴いてもいい?」
「おまえが好きになったから」

 彼女の答えに、ぼくは自分の耳を疑った。思わず、「ごめん、もう一回言ってくれる?」と言いそうになったが、彼女の顔が真っ赤になっているのを見てやめた。聞き間違いでは無さそうだ。

「なにか答えてよ」

 状況を必死に咀嚼していると、彼女はぼくを責めるように睨んだ。声からは多量の怒気を感じた。何もしてないのに、なぜぼくは怒られているのだろうか。いや、むしろなにもしてないかえら、彼女は腹を立てているのか。

「……一体どこに好きになる要素があったんだ」

 嫌われるようなことしかした覚えがないし、逆に、嫌われると思うような悪態をつかれた記憶しかない。

 ようやく絞り出したぼくの疑問に、彼女は「そんなのこっちが知りたいよ。なんでこんなのを好きになったんだって自分でも疑問に思う」と、ぼくを睨む瞳をよりいっそう鋭くした。

「でも好きになったものはしょうがないでしょ。だから、付き合ってあげる」

 彼女の常に半ギレな態度とその提案がまるで噛み合って無くて、その真意を探ってぼくの脳は処理落ちしそうだった。

 人の心というのは、どうしてこうも難解なのだろうか。彼女の心も、そして自分の心も。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仮の彼女

詩織
恋愛
恋人に振られ仕事一本で必死に頑張ったら33歳だった。 周りも結婚してて、完全に乗り遅れてしまった。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

一夜の男

詩織
恋愛
ドラマとかの出来事かと思ってた。 まさか自分にもこんなことが起きるとは... そして相手の顔を見ることなく逃げたので、知ってる人かも全く知らない人かもわからない。

一目惚れ、そして…

詩織
恋愛
完璧な一目惚れ。 綺麗な目、綺麗な顔に心を奪われてしまった。 一緒にいればいるほど離れたくなくなる。でも…

現在の政略結婚

詩織
恋愛
断れない政略結婚!?なんで私なの?そういう疑問も虚しくあっという間に結婚! 愛も何もないのに、こんな結婚生活続くんだろうか?

処理中です...