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そうしてぼくは心というものの難解さを痛感する
しおりを挟む夜、彼女が選んだ場所は、彼女と最初に出会ったあの橋だった。それほど経っていないのに、あの日のことが、もう遠い昔のことみたいに感じる。
「わたしがもう自殺する気がないって、知っちゃったんでしょ?」
「……ああ、妹が話したのか」
彼女にバレなければ、知らないふりをしていられたのになと、ぼくはついそう思ってしまった。それはあまり良い思考ではないだろう。嘘で続く関係など、それこそさっさと終わらせてしまった方が良いと思うから。
そう考えると、最初に彼女と出会ったこの橋は、最後にはぴったりだった。
「参考までに、なんで自殺するフリを続けてたのか、聴いてもいい?」
「おまえが好きになったから」
彼女の答えに、ぼくは自分の耳を疑った。思わず、「ごめん、もう一回言ってくれる?」と言いそうになったが、彼女の顔が真っ赤になっているのを見てやめた。聞き間違いでは無さそうだ。
「なにか答えてよ」
状況を必死に咀嚼していると、彼女はぼくを責めるように睨んだ。声からは多量の怒気を感じた。何もしてないのに、なぜぼくは怒られているのだろうか。いや、むしろなにもしてないかえら、彼女は腹を立てているのか。
「……一体どこに好きになる要素があったんだ」
嫌われるようなことしかした覚えがないし、逆に、嫌われると思うような悪態をつかれた記憶しかない。
ようやく絞り出したぼくの疑問に、彼女は「そんなのこっちが知りたいよ。なんでこんなのを好きになったんだって自分でも疑問に思う」と、ぼくを睨む瞳をよりいっそう鋭くした。
「でも好きになったものはしょうがないでしょ。だから、付き合ってあげる」
彼女の常に半ギレな態度とその提案がまるで噛み合って無くて、その真意を探ってぼくの脳は処理落ちしそうだった。
人の心というのは、どうしてこうも難解なのだろうか。彼女の心も、そして自分の心も。
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