ぼくと彼女が自殺をやめた理由

ジェロニモ

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こうしてわたしは秘密を打ち明けた

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girlside 


 後日、三角巾で腕を吊るして教室に来たわたしを見てクラスがざわめく。痛い痛いと思っていたら、どうも肩を脱臼していたらしい。

 理由を正直に話すわけにもいかず、「ジャングルジムで遊ぼうとした時にぐきりとやってしまった」と照れたように言うと、クラスが笑いに包まれた。他人事だと思って気楽なやつらだ。もっとも心配するような顔をされたところで、わたしは他人のくせにと思ってしまうのだろうけど。

 放課後、図書委員の仕事から戻ると以前と同じように相浦が教室で独りポツンとしていた。もしかしたら彼女の醸し出すオーラが他のクラスメイトを追い払ってくれているのかもしれない。

「なあ、あれ嘘だろ」
「えっと、なんのこと?」

 相浦が急ににそう話しかけてきて、わたしは戸惑った。

「ジャングルジムがどうたらってやつ。話してるとき、なんか顔が嘘っぽかった」

 やはり、不思議と彼女にはわたしの腹の底がわかってしまうらしい。

「相浦は人と関わらないくせして、人のことよく見てるんだね」

 スルッとため息とともに口から出てきた嫌味に、相浦は目を見開いた。たぶん、わたしも同じような顔をしていたと思う。自分でも、驚いた。

「おまえって、そういうの心の中で思っても、絶対外には出さないやつだと思ってたわ」

 やっぱり彼女は、わたしの性質をよく理解していた。少なくともクラスの友達面しているやつらよりもずっと。

「わたしも、つい最近までそう思ってたんだけどね」

 本性がバレてしまったというのに、不思議とわたしの心は穏やかだった。

「この肩。自殺しようとして、助けられた時に脱臼したんだ」
「それは……さすがに予想外だな」

 戸惑う相浦に、わたしはちょっと気分を良くした。

「まあ本当は、足を滑らせちゃっただけなんだけどね」

 一度話始めると、あとはペラペラと口が勝手に動いてくれた。

「じゃあ自殺じゃないだろ」

 相浦はもっともなところをついてきた。

「なんというか、わたしにもよくわからないんだよ。自殺しようとしたのは本当だけど、土壇場で怖くなったんだ。自殺に失敗してからは、もっと怖くなった。だから、わたしはもう死ねないと思う」
「ふーん。よかったじゃん」

 彼女は他人事のように答える。まあ他人だから当然か。

「でもわたしはもう死ねないけど、死のうとしなきゃいけないんだよね」
「……おまえ、頭大丈夫か?」

 相浦は目を細めて自分のこめかみをトントンと叩く。

 気持ちはわかる。わたしも彼女の立場だったら同じ反応をしただろう。わたしの場合、心の中でだけど。

 あの男がわたしに関わるのは、わたしが自殺をしようとしてるからで、あいつがそれを止めようとしているからだ。じゃあ、わたしがもう自殺できなくなったと知られたらどうなるか。そんなのは簡単だ。きっとあの関係は終わって、あいつは次の自殺志願者でも探しに行ってしまうのだろう。

 それが、わたしにはたまらなく嫌だった。だからわたしは、死のうとしていると、そう思われなくちゃいけないのだ。

 なにを血迷ったのか、わたしは今までのことをすべて彼女に話してしまった。自殺のことも、止めようとする男のことも。自分の本性のことでさえ。それはもう隅から隅まで。

 彼女は興味の無さそう顔で「ふーん」とわたしの話を聴いていた。その冷たい反応に、なぜだかわたしは心がすっと軽くなった。

 冷たい反応をしたくせに、彼女はなにかを考え込むように眉間にシワを寄せた。

「……おまえさ、勉強得意なんだろ?」
「う、うん。得意といえば得意だけど」

 自慢じゃないが、わたしの成績は学年一位だ。彼女もそれを知っているのだろう。しかしまさか今そんなことを聞かれるとは思っていなかったので、それはもうぎこちない返事になってしまった。

「なあ、わたしに勉強教えてくれないか?」

 わたしは自分の耳を疑った。孤高。そんな彼女がわたしに頼み事をしてきたのだから。もちろん答えは即答でイエスだ。心の底からのイエスだった。


 
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