ぼくと彼女が自殺をやめた理由

ジェロニモ

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こうしてわたしはストレスを解消する

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「彼方って好きな人とかできた?」

 放課後、さっきまでパンケーキ美味しいねという話をしていたのに、可奈子は話の舵を大きく切った。

 こういう時、女は好きな人を知りたいのではなくて、自分の好きな人を宣言したいだけなのだ。心底くだらないと思いながらも、「えーはずかしいよ」と答えを焦らして時間を稼ぐ。願わくば話が迷子になってくれることを祈って。

「えー教えてよ。わかった。じゃあわたしの好きな人も教えるから!そしたら教えて?」

 案の定、彼女はそんなことを言い出した。ほら見たことか。わたしはおまえの好きな人なんぞ欠片も興味ないんだよと思いながらも、「えーだれだれ!?」と、わたしはぐいぐいとその身を寄せた。

「えっとねえ、野球部の広瀬くん」

 と彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめた。こちらとしては「ふーん、で?」という感想しか出てこない。

「えーなんで好きになったの?接点なくない?」
「その、クラスで話してる時とか、部活してるときとか、かっこよくない?」

 好きになる理由、あっさ。付き合っても3ヶ月持つかどうかだろうなと勝手に当たりをつける。夏休み前に付き合って、秋には静かに別れてそうだ。その時、彼氏が如何に悪かったかを彼女からネチネチと聞かされるのかと思うと嫌になる。それまでには自殺しないと。

「ほら、わたしは言ったんだから、彼方も好きな人教えてよー」

 再度矛先がこちらに向けられた。

「えー誰にも言わないでよ?」
「大丈夫だよ絶対誰にも言わないから!」

 無論その言葉への信用も、言葉を発した本人への信頼もゼロだ。しかしあまり焦らしてイライラされても面倒なので、そろそろ誰かの名前を出さなくちゃいけない。そう思って、わたしは同学年や後輩の姿を思い浮かべる。悪口なら一人残らず浮かんだが、魅力的な部分はまったく浮かばなかった。

「サッカー部の吉野くんかな」

 結局わたしは女子から人気のあるイケメンの名前を出した。イケメンといっても、この学校の中だとそれなりというだけだけど。

「えー、彼方、意外と面食いじゃん」

 とくに性格の言及なく、かっこいいという理由だけで人を好きになるおまえにだけは言われたくない。

「顔だけじゃなくて、よく笑うところとか、よくクラスのみんなを笑わせようとしてくれるところとかも好きだよ」
「へー」

 と、外見だけじゃなくて中身も見てますよーと忘れずアピールしておく。実際は声でかでかとつまんねえことをわめく奴ぐらいの印象しかないけど、物は言いようだ。

 その後は「告白とかしないの?」とか、根堀葉掘り聞かれて、「百合と宗一くんが付き合い始めたんだって」とうんざりするほど知りたくもない彼女の恋心やらクラスの恋愛事情やらを語られながら甘いパンケーキを食べた。吐き気がするのが甘ったるいケーキのせいなのか、彼女の話のせいなのかは定かじゃない。


※                    ※                    ※


「可奈子!おまえよく裏であんなこと言っといていけしゃあしゃあと友達面できるな!おまえなんてもう友達じゃないんだよ!」「隣の席の松本ぉ!息が臭えんだよ話しかけんな!」「重田。おまえの俺はわかってるからな、みたいな振る舞いがいちいちキモいんだよ!」

 クラスメイトや家族に対する悪態を書き溜めたノートを開きながら、森の中にぽつんとある古井戸に向けてそれを叫ぶ。それがわたしの休日のルーティーンだった。

 最初にこの古井戸を見つけたのは中学生のときだった。最初の頃はおっかなびっくりと小声だで言っていた悪口も、今まで一度も他人と遭遇したことがなかったこともあって、声のボリュームはだんだんと大きくなっていった。
 今ではすっかり叫んでると言っても差し支えないだろう。喉を潰す勢いで悪態を叫ぶ気持ちよさを知ってしまったので、いまさらボリュームを落とせと言われてもたぶん無理だと思う。

「こんな森の中に入って自殺でもするのかと心配したけど、ずいぶんと愉快なことをしてるみたいだね」

 誰もいないばずの、わたしだけの秘密の場所。そこにパチパチと気の抜けた拍手をするあの男が現れたのだった。自殺を邪魔する、クソ野郎。

 ここはわたしにとっての神域だった。そこを汚されたような気がして、自殺スポットに先回りされる何倍もムカムカした。
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