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1-3 勧誘

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「やあご無沙汰だね、新入生かな」
 OBの男が挨拶してきた。そういえばこのイケメン君は先輩だったんだ。今更だけど気づいた。
「こんにちは、シンジさん、こちらは今、見学中の新入生です」
「よ、よろしくお願いします」
 一応、挨拶しなくちゃと思い言葉を交わす。
 シンジさんは見た感じでは30代くらいだろうか。真面目を絵に描いたようは見た目と話し方をする人だと感じた。
 その後は、高校時代の三者面談の様な形で他愛のない世間話を行った。

「週末の金曜、新歓があるんだ。参加費はたったの300円で飲み食いし放題、どうだ、来ないか?」
 そうシンジさんに誘われた。イケメン君はい行くようだった。何でもこのサークルの人たちの新歓飲み会とのことだった。
 私は迷ったが友達も優子しかいないし、その優子も金曜はサークルあるって言ってたし、いってみようかと思った。女子も何人かいるとのことだったし。
「わかりました。い、行ってみます」
「ありがとう、それじゃ佐野君ときてくれ」
 このイケメン君は佐野俊介というそうだ。
 そしてシンジさんは用があるからと帰っていった。

「よかった?嫌だったら大丈夫だよ?」
「い、いえ、私は平気です」
 イケメン君もとい佐野さんが気を遣ってくれている。でも一緒に行けるなんて夢みたいだった。
「この後、暇?」
「と、特に何もないですけど」
「そしたらご飯食べて帰ろうよ、奢るからさ」
 心臓が跳ね上がった。ご飯?一緒に?本当に夢みたいだった。

 そして学校を出て、近くのファミレスへと入った。
 身の上話などを聞いて1時間ほど話した。上手く喋れなかったけど佐野さんはいい人だと感じた。興味が湧いてしまっていた。

「それじゃ、またね。金曜日サークル室で待ってるから」
 そういい帰っていく背中を見つめてしまっていた。ダメダメ、まだ相手の事よく分からないんだし。そう言い聞かせ気持ちに少し蓋をして私も帰路に着いた。

 家に帰ってゴロゴロとしてたら優子から連絡が来ていた。サークルどうだったといった内容だった。私は今日会ったことを話した。イケメン君と新歓に行けるなんて羨ましいと言われた。そんな事ないのに。

 そして4月18日、金曜日 朝
 今日は新歓のパーティがあるので少し早めに起きて、気合を入れてメイクをして少しおしゃれなワンピースで家を出た。
 いつもパーカーなどばっかりだから何だかそわそわしちゃう。でも佐野さんと少しでも一緒に入れるならと妄想が止まらなかった。
 教室棟へ着くと優子が待っていてくれた。
「あれ、なんか雰囲気変わった?この前のワンピースいいじゃん」
「あ、ありがとう」
 優子に褒めてもらえるのは嬉しかった。優子はいつも私から見るとお洒落でメイクもとっても上手だったからだ。
 2人で授業を受けて、午後は暇だったことを思い出した。
 優子はサークルへ行ってしまうとのことで、ひとりぼっちだ。
 夕方まで図書館で時間を潰す事にした。
 人と話すコツ、会話が苦手なあなたへなど書いてある本を少し読んでいたらうとうとしていた。ふと我に帰るがまだ2時過ぎだった。
 課題もあったのでやっていると不思議と4時ごろになっていた。
 待ち合わせは4コマ終わりの4時半だった。少し早いけどサークル棟に行ってみようと思い、荷物をまとめて席を立つ。

 サークル棟からバンドの演奏音や吹奏楽の楽器の音など聞こえてくる。その奥の階段を登り3階の突き当たりの部屋、慈愛の会の部屋の前まで着いた。
 中から話し声が聞こえるが、入る勇気が出ない。後15分くらいならと思い、少し離れて外で待っていると中から人が出てきた。
 
「あ、あのー、新入生さんですか?」
 私に聞いてるよね。こっちみてるし。
「は、はい、あの佐野さんを待ってて」
「佐野先輩のお知り合いなんだ、もしかして新歓行くの?」
「は、はい」
「そうなんだ、あたし里美っていうの、よろしくー、私も佐野さんに誘われたんだ」
 里見は私よりもやや小さめな子で、肩までかかる黒髪が綺麗な子だ。
 眼鏡が似合う文学少女といった見た目であった。
 
 私の中でなぜか浮かれてた気分が沈む音がした、そうだよね、新入生増やしてただけだし別に特別な何かある訳でもないんだし。
「そ、そうなんですね」
 なんか適当な返事になってしまった。里美に中に案内され待つ事になった。
 結構いるのかと思ったが、そんなに人はいなかった。現地集合する人が多数とのことだった。

 そして約束の時間、部屋のドアが開く。
「お待たせ、みんな、行こうか」
 佐野さんだ、爽やかで格好いいなって思ってしまう。里美含めた新入生の子何人かと近くのお店へと向かった。

 少し大きめの居酒屋に辿り着いた。予約してあるみたいだ。すでにOBの様な方も含め10人程度は集まっている。
 緊張して少し萎縮しちゃうな、あんまり経験ない場の雰囲気だった。

 主催のサークル長が挨拶の音頭をとり、みんなで乾杯した。まあ私は未成年なのでオレンジジュースだが。
 たまたま隣の席になった里見が話しかけてくれた。
「ねえ、あんたは何でここに入ろうとしたの?」
 うーん、正直、佐野さんに惹かれてしまったから以上の理由がなかったが、正直にいえないが声をかけられた経緯を語った。
 今更だが慈愛の会って怪しいネーミングの割にボランティアサークルという説明だけでそれ以上の詳しいことは知らなかった。
「へえ、佐野先輩に直接声かけられたんだ。ラッキーね」
 里見は少し含みのあるニュアンスでそう言う。私も聞いてみた。
「里見ちゃんは、ど、どうして入ったのですか?」
「敬語じゃなくていいよ、同期じゃん。私はボランティアしてみたかっただけだよ。人の助けになることをずっとして見たかったの」
 なんていい子なんだろうと思った。里見ちゃんは見た目は私と似てるっていうと失礼かもしれないが少し地味系だが話す時はハキハキしている。なんていうか芯がある感じがする。
 2人でしばらく話していて、席が遠いこともあり佐野さんとは話せなかった。
 周りの新入生とも自己紹介を済ませ、先輩たちが一人一人、自己紹介をした。
 そんな形で進んでいき、気づけば2時間があっという間に過ぎ終わりが近づく。2次会がまた別な会場で行われるみたいだが、佐野さんは帰るらしいので、私も素直に今日は帰ろうと思った。
「茉莉花、帰っちゃうの。また大学であったら声かけるね!」
 里見は2次会に行くみたいなので、そう言われ別れた。

 家に帰ると、どっと疲れが出てきた。ベッドに横たわる。
 見上げた天井に今日起きたことを描くように思い返した。
 今までの人生の中でもあまりない刺激的な1日だった。
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