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第8章 襲来
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「それは随分と急だな。」
「私の故郷はとても田舎なので、首都宛ての手紙の集荷が毎日ではないんです。もしかしたら家族はそれを知らないのかも…。でも、日付を見ると来るのは明日になってて…。所留めだと私が取りに行くまで読まれないからここに直接送ってきたのかも…。」
「わかったから、落ち着け。」
「すみません…。」
あわあわと話を続けるユミルに、レインはユミルの肩の辺りを少しだけ優しく叩いた。
「先ほど言ったとおり、休んでもらって構わない。だから、そう慌てるな。」
「ありがとうございます。」
未だに落ち着かない様子のユミルを見て、レインは少しだけ考えるようにじっとユミルの様子を窺った。
「他に慌てる理由があるのか?」
「……。」
気まずそうに目線をそらすユミルに、レインは少しだけ溜息を吐いた。
「あるんだな。」
「…はい。」
レインが黙って先を促すので、ユミルは観念したように口を開いた。
「…家族は私が首都に部屋を借りていると思っているんです。」
「それで?」
「…明日は私の部屋に泊まると言うので、急いで宿を手配しなければなりません。だから、今日、今から外出しても良いでしょうか?」
今日は終日休暇だし、レインも邸宅に居るので、この後ユミルが緊急で呼び出される可能性は低いだろう。それに、宿であれば、夜間もずっと受付にひとりは立っている。首都の宿は予約が埋まりやすいので、ユミルは明日の朝まで待たずに手配をしてしまいたかった。
「それはダメだ。」
レインはぴしゃり、と少しの反論もさせないような声音で言い切った。
「…でも、今日はお休みで…。」
「私は雇い主として、君の身の安全を確保する必要がある。」
「でも…。首都の宿は予約が取りづらいんです。急がないと泊まる場所が無くなってしまいます。」
「君のところに泊まると言っているのだろう?じゃあ、ここに泊まればいい。」
「えっ?」
ユミルは虚を突かれたような顔をして、一時停止した。
レインがあまりにも当然のことを言うように話すので、ユミルは一瞬、無意識に頷いてしまいそうになる。
「いやいやいやいや!そんな御迷惑はおかけできません!」
「別に構わない。」
「…母だけじゃないんです。末の2人を連れてくるらしくて…。」
ユミルの5人の兄弟は、ユミルを長女に、長男、次男、三男、四男、次女の順番だ。
四男と次女は双子で、ユミルとは12歳も年が違う。そろそろ分別が付き始めてきたところだが、まだまだ外で騒いでしまうようなお子様だ。レインの邸宅に入れて、何か粗相があったら、たまったものではない。
「部屋は余っている。何日滞在するんだ?」
「明日を含めて、3日間の予定です…。」
「その程度の期間、屋敷の中が煩くなろうが、文句を言う者はいないだろう。それから、3日間は家族と過ごすと良い。緊急の時は、いつもの通信機で呼ぶから、忘れずに持参してくれ。」
「…ご配慮に感謝いたします。でも…、」
「今から外に出るのは絶対に認められない。」
ユミルが断ろうと口を開くと、レインはそれを遮るように再度否定の言葉を口にした。
ユミルはレインが心配してくれているのだと思うと、それ以上強く言うこともできない。それに、今から宿を回っても予約が取れる確証はないので、ありがたい申し出であることに間違いはない。
「想像以上に、騒々しいと思いますよ?」
「気にしないさ。」
「何か調度品を壊してしまうかもしれません。」
「壊れて困るようなものは置いていない。」
「…本当に、ほんっとうに、良いんですね?」
「ああ。明日朝に、バロンに部屋を用意するよう言っておく。」
「ありがとうございます。お言葉に甘えたいと思います。」
最終的には、ユミルが申し訳なさそうに頭を下げると、レインは満足そうに口の端を上げた。
最近、ユミルがレインから何かを受け取る時によく見る表情だ。
ユミルは再び胸がざわざわとし始めるので、それを誤魔化すように、明日からのプランを頭の中で組みたてた。
「私の故郷はとても田舎なので、首都宛ての手紙の集荷が毎日ではないんです。もしかしたら家族はそれを知らないのかも…。でも、日付を見ると来るのは明日になってて…。所留めだと私が取りに行くまで読まれないからここに直接送ってきたのかも…。」
「わかったから、落ち着け。」
「すみません…。」
あわあわと話を続けるユミルに、レインはユミルの肩の辺りを少しだけ優しく叩いた。
「先ほど言ったとおり、休んでもらって構わない。だから、そう慌てるな。」
「ありがとうございます。」
未だに落ち着かない様子のユミルを見て、レインは少しだけ考えるようにじっとユミルの様子を窺った。
「他に慌てる理由があるのか?」
「……。」
気まずそうに目線をそらすユミルに、レインは少しだけ溜息を吐いた。
「あるんだな。」
「…はい。」
レインが黙って先を促すので、ユミルは観念したように口を開いた。
「…家族は私が首都に部屋を借りていると思っているんです。」
「それで?」
「…明日は私の部屋に泊まると言うので、急いで宿を手配しなければなりません。だから、今日、今から外出しても良いでしょうか?」
今日は終日休暇だし、レインも邸宅に居るので、この後ユミルが緊急で呼び出される可能性は低いだろう。それに、宿であれば、夜間もずっと受付にひとりは立っている。首都の宿は予約が埋まりやすいので、ユミルは明日の朝まで待たずに手配をしてしまいたかった。
「それはダメだ。」
レインはぴしゃり、と少しの反論もさせないような声音で言い切った。
「…でも、今日はお休みで…。」
「私は雇い主として、君の身の安全を確保する必要がある。」
「でも…。首都の宿は予約が取りづらいんです。急がないと泊まる場所が無くなってしまいます。」
「君のところに泊まると言っているのだろう?じゃあ、ここに泊まればいい。」
「えっ?」
ユミルは虚を突かれたような顔をして、一時停止した。
レインがあまりにも当然のことを言うように話すので、ユミルは一瞬、無意識に頷いてしまいそうになる。
「いやいやいやいや!そんな御迷惑はおかけできません!」
「別に構わない。」
「…母だけじゃないんです。末の2人を連れてくるらしくて…。」
ユミルの5人の兄弟は、ユミルを長女に、長男、次男、三男、四男、次女の順番だ。
四男と次女は双子で、ユミルとは12歳も年が違う。そろそろ分別が付き始めてきたところだが、まだまだ外で騒いでしまうようなお子様だ。レインの邸宅に入れて、何か粗相があったら、たまったものではない。
「部屋は余っている。何日滞在するんだ?」
「明日を含めて、3日間の予定です…。」
「その程度の期間、屋敷の中が煩くなろうが、文句を言う者はいないだろう。それから、3日間は家族と過ごすと良い。緊急の時は、いつもの通信機で呼ぶから、忘れずに持参してくれ。」
「…ご配慮に感謝いたします。でも…、」
「今から外に出るのは絶対に認められない。」
ユミルが断ろうと口を開くと、レインはそれを遮るように再度否定の言葉を口にした。
ユミルはレインが心配してくれているのだと思うと、それ以上強く言うこともできない。それに、今から宿を回っても予約が取れる確証はないので、ありがたい申し出であることに間違いはない。
「想像以上に、騒々しいと思いますよ?」
「気にしないさ。」
「何か調度品を壊してしまうかもしれません。」
「壊れて困るようなものは置いていない。」
「…本当に、ほんっとうに、良いんですね?」
「ああ。明日朝に、バロンに部屋を用意するよう言っておく。」
「ありがとうございます。お言葉に甘えたいと思います。」
最終的には、ユミルが申し訳なさそうに頭を下げると、レインは満足そうに口の端を上げた。
最近、ユミルがレインから何かを受け取る時によく見る表情だ。
ユミルは再び胸がざわざわとし始めるので、それを誤魔化すように、明日からのプランを頭の中で組みたてた。
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