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第1章 就職と解雇
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―拝啓 お父さん、お母さん
やっぱり私には魔法局勤めは無理でした。
ユミル・アッシャーは大きく「不採用」と書かれた紙を見て天を仰いだ。
ユミルは今春、魔法使いを養成する魔法学園を卒業するため、就職活動に勤しんでいた。
魔法使いたるもの、ユミルの第一志望も当然魔法局だった。
魔法局は魔法のすべてを所管する機関で、名の通った魔法使いはすべてここに所属している。魔法局に所属することが栄誉そのものなのだ。
しかし、魔法局に所属できる魔法使いは極僅か。その他は町の魔法道具屋だったり、治療院だったりに勤めるか、冒険者ギルドに入るのだ。
ユミルが魔法局を選んだ理由は栄誉云々ではない。理由はただひとつ。
給料が他と比べてべらぼうに良い。
ユミルは田舎にある実家に、両親と5人もの弟と妹がいる。貧乏な家なので、家族への仕送りが必要だ。あとは飼っているケットシーの“フク”の食事代もかかる。
兎にも角にも、高給取りの仕事に就きたかったのだ。
しかし今、魔法局からの不採用通知が手元にある。
(まぁ、魔法を使えると言っても、魔力の量はドベに近かったからな…。当然と言えば当然か。)
魔法は誰にでも使えるものではなく、使える人の割合としては100人に一人程度で、特に貴族の家系に多い。
ユミルは田舎町の平民で、親族に誰も魔法を使える人がいないのに、なぜか魔法を使うことができた。
人間の子どもは、5歳になるころに一番近所の魔法局の分館に連れていかれ、そこに所属する“鑑定士”という職の魔法使いから、鑑定を受ける。そこで、その子供が魔法を使えるか否か、わかるのだ。魔法を使う力、所謂魔力は生まれつきのもので、後天的に生じることはまずないとされている。
また、その鑑定の際に、魔法の使える子供は、魔法使いの3本目の腕とも言われる“魔法の杖”の材木を指示されて、数日後に初めてその材木で作られた“魔法の杖”を受け取るのだ。
ユミルが魔法を使えることがわかった瞬間、周りの大人は大層喜んだ。小さい町全体がお祭り騒ぎになるほどだった。
ユミルの両親は、その後5人もの子供をつくったが、そのうち誰一人も魔法を使うことはできなかった。もしかしたらその次も…という思惑があったのかもしれない。両親は少し落胆した様子だったが、ユミルが超レアケースなのだ。
両親は子どもたちに分け隔てなく接してくれたが、ユミルのことを「将来は魔法局勤めになる天才」とその活躍を期待して、貧乏ながらもユミルを魔法学園へ送り出してくれた。当然、それを見ていた弟や妹も、姉ユミルは超エリートなのだと信じて疑わない。
ユミルはそれが重荷に感じてしまうこともあったが、長女として責任感を持って、ひとり、王都にある魔法学園へ進学した。
(実は、私もちょっと、自分のことを天才だと思っていた時期がありましたよ。だって、町全体で私を持ち上げるんだもん。入学後すぐに鼻をへし折られたけどね。)
魔法学園はひと学年150名ほどで、入学直後から上位50名には能力の順位“ナンバー”が書かれたバッチが付与される。テストや実習などで加点されて、卒業までことあるごとに順位が変動するが、ユミルは魔法学園の5年間、一度もそのナンバーを手にしたことはなかった。
ユミルは平民の中でたまたま魔法を使えただけで、血統の良い貴族に比べると、ごみカス程度の魔力量だった。魔法学園入学後すぐに知ることになり、ユミルは田舎町で大きな顔をしていたことを大いに恥じることになる。
(でも、家族とフクのためにも、何とかして稼がないと。)
ユミルは魔法局からの不採用通知をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱へと投げ入れた。
やっぱり私には魔法局勤めは無理でした。
ユミル・アッシャーは大きく「不採用」と書かれた紙を見て天を仰いだ。
ユミルは今春、魔法使いを養成する魔法学園を卒業するため、就職活動に勤しんでいた。
魔法使いたるもの、ユミルの第一志望も当然魔法局だった。
魔法局は魔法のすべてを所管する機関で、名の通った魔法使いはすべてここに所属している。魔法局に所属することが栄誉そのものなのだ。
しかし、魔法局に所属できる魔法使いは極僅か。その他は町の魔法道具屋だったり、治療院だったりに勤めるか、冒険者ギルドに入るのだ。
ユミルが魔法局を選んだ理由は栄誉云々ではない。理由はただひとつ。
給料が他と比べてべらぼうに良い。
ユミルは田舎にある実家に、両親と5人もの弟と妹がいる。貧乏な家なので、家族への仕送りが必要だ。あとは飼っているケットシーの“フク”の食事代もかかる。
兎にも角にも、高給取りの仕事に就きたかったのだ。
しかし今、魔法局からの不採用通知が手元にある。
(まぁ、魔法を使えると言っても、魔力の量はドベに近かったからな…。当然と言えば当然か。)
魔法は誰にでも使えるものではなく、使える人の割合としては100人に一人程度で、特に貴族の家系に多い。
ユミルは田舎町の平民で、親族に誰も魔法を使える人がいないのに、なぜか魔法を使うことができた。
人間の子どもは、5歳になるころに一番近所の魔法局の分館に連れていかれ、そこに所属する“鑑定士”という職の魔法使いから、鑑定を受ける。そこで、その子供が魔法を使えるか否か、わかるのだ。魔法を使う力、所謂魔力は生まれつきのもので、後天的に生じることはまずないとされている。
また、その鑑定の際に、魔法の使える子供は、魔法使いの3本目の腕とも言われる“魔法の杖”の材木を指示されて、数日後に初めてその材木で作られた“魔法の杖”を受け取るのだ。
ユミルが魔法を使えることがわかった瞬間、周りの大人は大層喜んだ。小さい町全体がお祭り騒ぎになるほどだった。
ユミルの両親は、その後5人もの子供をつくったが、そのうち誰一人も魔法を使うことはできなかった。もしかしたらその次も…という思惑があったのかもしれない。両親は少し落胆した様子だったが、ユミルが超レアケースなのだ。
両親は子どもたちに分け隔てなく接してくれたが、ユミルのことを「将来は魔法局勤めになる天才」とその活躍を期待して、貧乏ながらもユミルを魔法学園へ送り出してくれた。当然、それを見ていた弟や妹も、姉ユミルは超エリートなのだと信じて疑わない。
ユミルはそれが重荷に感じてしまうこともあったが、長女として責任感を持って、ひとり、王都にある魔法学園へ進学した。
(実は、私もちょっと、自分のことを天才だと思っていた時期がありましたよ。だって、町全体で私を持ち上げるんだもん。入学後すぐに鼻をへし折られたけどね。)
魔法学園はひと学年150名ほどで、入学直後から上位50名には能力の順位“ナンバー”が書かれたバッチが付与される。テストや実習などで加点されて、卒業までことあるごとに順位が変動するが、ユミルは魔法学園の5年間、一度もそのナンバーを手にしたことはなかった。
ユミルは平民の中でたまたま魔法を使えただけで、血統の良い貴族に比べると、ごみカス程度の魔力量だった。魔法学園入学後すぐに知ることになり、ユミルは田舎町で大きな顔をしていたことを大いに恥じることになる。
(でも、家族とフクのためにも、何とかして稼がないと。)
ユミルは魔法局からの不採用通知をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱へと投げ入れた。
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