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第3章 外国出張
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出発した日は深夜に1泊を、次の日は終日馬車を走らせ、さらにその翌日の昼時にノア公国の首都に到着した。
王国の中の1国だと思っていたが、随分と広く、そして綺麗に整備されていた。
往来の人は道を開けると軽く頭を下げたり、手を振ったりしていて、想像以上にフレンドリーな雰囲気だ。
ルフェルニアは、”恐ろしい”という噂を信じてはいなかったが、全く逆の雰囲気に大変驚いた。あの噂は、やはり王都での騎士団長の仕事が尾を引いているに違いない。
「皆さんの表情から幸せな気持ちが伝わってくるような、活気のある明るい都ね。」
ルフェルニアが心の底から褒めると、ギルバートは嬉しそうに目元を緩めた。
「ありがとう。ルフェの言葉には裏表がないな。」
「私がギルを煽てても、出世に繋がらないもの。」
少し気恥ずかしくなったルフェルニアは冗談交じりに返す。
「そんなの、わからないじゃないか。仕事は続けないのか?」
「結婚したら、さすがに辞めるわ。既に随分と出遅れているけれどね。」
「時期はいつごろ?」
ルフェルニアは、ギルバートの婚約者がいる前提の問いに口元をひきつらせた。
「…お相手が見つかり次第?」
「…そうか、すまない。」
よっぽどルフェルニア自身に瑕疵があるか、婚約破棄などのトラブルか、聞けば藪蛇になりそうだったので、ギルバートはそれきり口つぐんだ。
「ギルのご家族は?」
ルフェルニアは、大公となったギルバートは当然既に結婚しているだろうし、もしかしたら子どももいるのでは、と思った。
「…婚約者すらいない。」
「…ごめん。」
変な沈黙が流れる中、マーサが呆れたように口を開いた。
「先代は、ギルバート様がご結婚されてから退位なさるはずだったのですよ?それなのに、ギルバート様ったら、『即位前は、騎士団長として働いた方が民のためになる。仕事は王都でもできる。』などといって全然帰っていらっしゃらないし、地方への遠征ばかりで婚約者もお決めにならないのですから。」
「…じっとしているのが性に合わないんだ。」
「でも、大公様なら、すぐに良いお相手が見つかるでしょうね。若くって可愛くって、守ってあげたくなるようなちょっぴり天然な女の子に違いないわ!」
ルフェルニアが一時期読み込んでいた物語を思い出して笑うと、ギルバートは苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「そんな女、お断りだな。」
「どうして?」
「そういうのは、性根の悪い計算高い女か、本当のバカしかいない。」
ギルバートのあんまりの言い草に、ルフェルニアは絶句したが、すぐに初対面の時に鋭い眼光で睨まれたことを思い出した。
(きっと女性関係でいろいろあったのね…。)
「格好いい男性って、大変なこともあるのね。」
「ルフェは俺を格好いいと思っているのか?」
「ええ、そうよ。その顔面で、嫌味ね。」
「君は会った時から、ちっとも俺の顔に興味がなさそうじゃないか。」
「それは弟に似ていたし…それに、とっても美しくて格好いい顔を見慣れているからかしら?」
ルフェルニアはユリウスを思い浮かべた。
あの顔面と日頃対峙していれば、大抵の美しい顔には衝撃を受けない。
「そういえば、君の国には大層美しい公爵令息がいるじゃないか。」
「十中八九、ミネルウァ公爵家のユリウス様のことでしょうね。」
ユリウスはガイア王国の中で有名なのだと思っていたが、外国にも名を轟かすほどの美丈夫だったようだ。
「知っているのか?」
「いろいろあって、幼馴染なの。」
「なるほど。一度どこかの集まりで顔を見たが、あれをずっと見ていたら目が肥えてしまいそうだな。」
「今では上司、部下の関係だけれど、いまだに目が潰れそうになるわ。」
ギルバートは納得したように頷いた。
王国の中の1国だと思っていたが、随分と広く、そして綺麗に整備されていた。
往来の人は道を開けると軽く頭を下げたり、手を振ったりしていて、想像以上にフレンドリーな雰囲気だ。
ルフェルニアは、”恐ろしい”という噂を信じてはいなかったが、全く逆の雰囲気に大変驚いた。あの噂は、やはり王都での騎士団長の仕事が尾を引いているに違いない。
「皆さんの表情から幸せな気持ちが伝わってくるような、活気のある明るい都ね。」
ルフェルニアが心の底から褒めると、ギルバートは嬉しそうに目元を緩めた。
「ありがとう。ルフェの言葉には裏表がないな。」
「私がギルを煽てても、出世に繋がらないもの。」
少し気恥ずかしくなったルフェルニアは冗談交じりに返す。
「そんなの、わからないじゃないか。仕事は続けないのか?」
「結婚したら、さすがに辞めるわ。既に随分と出遅れているけれどね。」
「時期はいつごろ?」
ルフェルニアは、ギルバートの婚約者がいる前提の問いに口元をひきつらせた。
「…お相手が見つかり次第?」
「…そうか、すまない。」
よっぽどルフェルニア自身に瑕疵があるか、婚約破棄などのトラブルか、聞けば藪蛇になりそうだったので、ギルバートはそれきり口つぐんだ。
「ギルのご家族は?」
ルフェルニアは、大公となったギルバートは当然既に結婚しているだろうし、もしかしたら子どももいるのでは、と思った。
「…婚約者すらいない。」
「…ごめん。」
変な沈黙が流れる中、マーサが呆れたように口を開いた。
「先代は、ギルバート様がご結婚されてから退位なさるはずだったのですよ?それなのに、ギルバート様ったら、『即位前は、騎士団長として働いた方が民のためになる。仕事は王都でもできる。』などといって全然帰っていらっしゃらないし、地方への遠征ばかりで婚約者もお決めにならないのですから。」
「…じっとしているのが性に合わないんだ。」
「でも、大公様なら、すぐに良いお相手が見つかるでしょうね。若くって可愛くって、守ってあげたくなるようなちょっぴり天然な女の子に違いないわ!」
ルフェルニアが一時期読み込んでいた物語を思い出して笑うと、ギルバートは苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「そんな女、お断りだな。」
「どうして?」
「そういうのは、性根の悪い計算高い女か、本当のバカしかいない。」
ギルバートのあんまりの言い草に、ルフェルニアは絶句したが、すぐに初対面の時に鋭い眼光で睨まれたことを思い出した。
(きっと女性関係でいろいろあったのね…。)
「格好いい男性って、大変なこともあるのね。」
「ルフェは俺を格好いいと思っているのか?」
「ええ、そうよ。その顔面で、嫌味ね。」
「君は会った時から、ちっとも俺の顔に興味がなさそうじゃないか。」
「それは弟に似ていたし…それに、とっても美しくて格好いい顔を見慣れているからかしら?」
ルフェルニアはユリウスを思い浮かべた。
あの顔面と日頃対峙していれば、大抵の美しい顔には衝撃を受けない。
「そういえば、君の国には大層美しい公爵令息がいるじゃないか。」
「十中八九、ミネルウァ公爵家のユリウス様のことでしょうね。」
ユリウスはガイア王国の中で有名なのだと思っていたが、外国にも名を轟かすほどの美丈夫だったようだ。
「知っているのか?」
「いろいろあって、幼馴染なの。」
「なるほど。一度どこかの集まりで顔を見たが、あれをずっと見ていたら目が肥えてしまいそうだな。」
「今では上司、部下の関係だけれど、いまだに目が潰れそうになるわ。」
ギルバートは納得したように頷いた。
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