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第3章 外国出張
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ルフェルニアはホテルで、明日の帰国に備えて荷物を纏めていた。
昨日の夜に、学園の教員たちとの食事会があったため、後は帰るだけだ。
ヘレンのおすすめのパティスリーで職場へのお土産も、自分への御褒美も購入済みだ。
まだ寝るには早いが、今から馬車を呼びつけるのも忍びない、とルフェルニアが名残惜しそうに窓の外へ目を向けると、外に大きな黒塗りの馬車が停まっていた。今は明るい街灯に照らされているが、暗がりでは闇に溶け込んでしまいそうだ。
あんなにも大きな馬車を持っている貴族もこのホテルに泊まるのかと、ルフェルニアが窓に近づいて馬車を見ようとしたところ、扉からノックが聞こえた。
「シラー様、夜分に失礼いたします。お客様がお見えです。」
(こんな時間にお客様?ヘレンとも最後の挨拶を交わした後なのに…どなたかしら?)
ルフェルニアが扉の鍵を外して扉を開くと、フットマンの後ろに、馬車のように真っ黒な装いに身を包んだギルバートが立っていた。
「ギル!こんな時間にどうしたの?」
ルフェルニアはさすがに部屋に招き入れるわけにもいかず、その場で要件を聞いた。
「突然で申し訳ないのだが、今から出発することはできるか?」
「出発は明日の朝じゃなかったかしら?何かトラブルがあったの?」
「いいや。そういうわけではないが、ノア公国の公都に寄ってみないか?
今日、騎士団に少し顔を出したら、ルフェの往路の護衛をしたという騎士から、君が公都に行ってみたいと言っていたと聞いた。今出れば、少しだけなら案内ができるだろう。1日到着が遅れても良ければ、ちゃんと案内できるのだが…。」
ルフェルニアは思ってもみなかった提案に目を輝かせた。
「本当に良いの?とっても嬉しいわ!もう荷物は纏め終わっているし、到着予定日の次の日はお休みだから、1日到着が遅れたって大丈夫。迷惑でなければぜひお願いします。」
ギルバートは、突然の提案にルフェルニアが気分を害すのではないかと心配して少し顔を強張らせていたが、ルフェルニアが本当に嬉しそうにするのを見て、頬を緩めた。
「では、公都で1泊しよう。ガイア王国に行く前に少し公都の屋敷に寄りたいと思っていたから、丁度よかった。」
ギルバートはそう言うと、ルフェルニアに荷物を触ってよいかを尋ねてから、フットマンに荷物を運ぶよう指示をした。
「ギル、本当にありがとう。」
馬車に乗るためにホテル内を移動している途中、ルフェルニアは心の底からそう口にした。
「別に、俺にも都合が良かっただけだから、気にするな。」
「公都に寄ることだけじゃないわ。貴方がテーセウス王国のことを色々と教えてくれたから、残りの講義が上手くいったの。」
ギルバートは少しだけルフェルニアの方を振り向くと、優しく瞳を細めた。
今まで見せてくれた笑みは揶揄うようなものばかりだったので、初めて見る表情だ。ルフェルニアは何だか気恥ずかしい気分になった。
「俺は本にも書いてあるような事実を伝えただけさ。ルフェの頑張りが、生徒に伝わったんだろう。」
優し気な表情とは裏腹に、ギルバートは素っ気なく返すとまた前を向いてしまった。
ルフェルニアは、少し前を歩くギルバートの耳の後ろが少し赤くなっているのを見て、同じように赤くなってしまう。
(ギルって物語に出てくる騎士様みたい。)
ルフェルニアはドキドキしながらギルバートの後ろをついていった。
昨日の夜に、学園の教員たちとの食事会があったため、後は帰るだけだ。
ヘレンのおすすめのパティスリーで職場へのお土産も、自分への御褒美も購入済みだ。
まだ寝るには早いが、今から馬車を呼びつけるのも忍びない、とルフェルニアが名残惜しそうに窓の外へ目を向けると、外に大きな黒塗りの馬車が停まっていた。今は明るい街灯に照らされているが、暗がりでは闇に溶け込んでしまいそうだ。
あんなにも大きな馬車を持っている貴族もこのホテルに泊まるのかと、ルフェルニアが窓に近づいて馬車を見ようとしたところ、扉からノックが聞こえた。
「シラー様、夜分に失礼いたします。お客様がお見えです。」
(こんな時間にお客様?ヘレンとも最後の挨拶を交わした後なのに…どなたかしら?)
ルフェルニアが扉の鍵を外して扉を開くと、フットマンの後ろに、馬車のように真っ黒な装いに身を包んだギルバートが立っていた。
「ギル!こんな時間にどうしたの?」
ルフェルニアはさすがに部屋に招き入れるわけにもいかず、その場で要件を聞いた。
「突然で申し訳ないのだが、今から出発することはできるか?」
「出発は明日の朝じゃなかったかしら?何かトラブルがあったの?」
「いいや。そういうわけではないが、ノア公国の公都に寄ってみないか?
今日、騎士団に少し顔を出したら、ルフェの往路の護衛をしたという騎士から、君が公都に行ってみたいと言っていたと聞いた。今出れば、少しだけなら案内ができるだろう。1日到着が遅れても良ければ、ちゃんと案内できるのだが…。」
ルフェルニアは思ってもみなかった提案に目を輝かせた。
「本当に良いの?とっても嬉しいわ!もう荷物は纏め終わっているし、到着予定日の次の日はお休みだから、1日到着が遅れたって大丈夫。迷惑でなければぜひお願いします。」
ギルバートは、突然の提案にルフェルニアが気分を害すのではないかと心配して少し顔を強張らせていたが、ルフェルニアが本当に嬉しそうにするのを見て、頬を緩めた。
「では、公都で1泊しよう。ガイア王国に行く前に少し公都の屋敷に寄りたいと思っていたから、丁度よかった。」
ギルバートはそう言うと、ルフェルニアに荷物を触ってよいかを尋ねてから、フットマンに荷物を運ぶよう指示をした。
「ギル、本当にありがとう。」
馬車に乗るためにホテル内を移動している途中、ルフェルニアは心の底からそう口にした。
「別に、俺にも都合が良かっただけだから、気にするな。」
「公都に寄ることだけじゃないわ。貴方がテーセウス王国のことを色々と教えてくれたから、残りの講義が上手くいったの。」
ギルバートは少しだけルフェルニアの方を振り向くと、優しく瞳を細めた。
今まで見せてくれた笑みは揶揄うようなものばかりだったので、初めて見る表情だ。ルフェルニアは何だか気恥ずかしい気分になった。
「俺は本にも書いてあるような事実を伝えただけさ。ルフェの頑張りが、生徒に伝わったんだろう。」
優し気な表情とは裏腹に、ギルバートは素っ気なく返すとまた前を向いてしまった。
ルフェルニアは、少し前を歩くギルバートの耳の後ろが少し赤くなっているのを見て、同じように赤くなってしまう。
(ギルって物語に出てくる騎士様みたい。)
ルフェルニアはドキドキしながらギルバートの後ろをついていった。
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