35 / 90
第2章 過去のふたり
35
しおりを挟む
ユリウスは宣言どおり、ルフェルニアから一時も離れなかった。
暫くはミネルウァ公爵夫婦とシラー子爵夫婦と共に挨拶に来る人と顔を合わせていたが、ユリウスが毎回相手の爵位と名前をこっそり耳打ちしてくれるので、ルフェルニアはとても心強かった。ただ、挨拶の相手が令嬢を連れているとルフェルニアは毎回精神を削られるような思いになる。
ミネルウァ公爵とシラー子爵の仲は社交界でも良く知られているので、この場でサイラスに縁談をちらつかせるような貴族はいなかったが、令嬢たちは決まってルフェルニアを見て鼻で笑うと「今日は可愛い妹さんを連れているのね」と言うのだ。
それに対してユリウスが「そう、可愛いでしょう?」と言ってルフェルニアの腰を毎回引き寄せるので、ユリウスにくっついて緊張するやら、令嬢からの怒りの視線が痛いやらで、ルフェルニアの心拍数が上がりっぱなしだった。
それに、ユリウスが肩ではなく腰に手を回すので、引き寄せられるたびにルフェルニアの背中がユリウスの胸にぴったりくっついて、後ろから抱きしめられているような形になるのだ。ルフェルニアは挨拶が終わるたびにさりげなく少し距離を取ろうとするが、その度にユリウスに引き戻されていた。
ルフェルニアは、自分自身が緊張するのはもちろん、他人に見られるのも恥ずかしいが、何よりユリウスの両親とルフェルニアの両親に生暖かい目で見られるのが一番堪えた。ユリウスはそんな視線もお構いなしだ。
ミネルウァ公爵夫婦とシラー子爵夫婦と一緒に王族の挨拶の列にも並び、ひととおり挨拶が終わったところで、ワルツが流れ始める。
「ルフェ。今日、この場で一番可愛いお嬢さん。僕と踊ってくれますか?」
ユリウスがルフェルニアの前に跪いて手を差し伸べる。
ルフェルニアだって女の子だ、物語のヒロインに憧れはある。
正直なところ、ルフェルニアのタイプは勇猛果敢な騎士だが、このときのユリウスはさながら物語の王子様のようで、ルフェルニアは周りの目線が気にならないほど、ときめいてしまう。
「はい、よろこんで。」
ユリウスがルフェルニアの手を引いて踊りの輪の中に入ると、ルフェルニアの視界はユリウスで遮られ、この場にルフェルニアとユリウスしかいないような錯覚に陥った。
ユリウスの瞳はずっとルフェルニアだけを映している。それだけで、先ほどまでの挨拶の疲れが飛んでいくようだった。
1曲終わって、踊りの輪から抜けると、すぐに第三王子が近づいてきた。先ほど王族へ挨拶に行った際にはいなかったはずだ。
「ユリウス、踊れないなんてやっぱり嘘だったんじゃないか。」
第三王子のアスランはユリウスと同学年で、学園の同級生だ。ルフェルニアも手紙でそのことは聞いていた。
「最近、踊れるようになったのです。こちら、ルフェルニア・シラー嬢です。」
「第三王子、アスランだ。君のことはユリウスからよく聞いているよ。こんな夜会に全く興味はないが、今日は君が来ると聞いてね、会えて嬉しいよ。私は授賞式の日に会えなかったからな。」
「第三王子殿下に御挨拶申し上げます。ルフェルニア・シラーでございます。お目に掛かれて光栄です。」
ルフェルニアが緊張気味に礼を取ると、「そういうのはよいよい」とアスランは顔を上げるように言った。
「ここに来るまで、何人かに君たちの様子を聞いたが、ユリウス。ずっとルフェルニア嬢にくっついているようじゃないか。窮屈な思いをさせているんじゃないか?」
「私の一番大事な人はルフェだし、ルフェも僕が一番大事だから何も問題ありません。ねぇ、ルフェ。」
ユリウスが優しくルフェルニアに声をかけたが、ルフェルニアは肯定をせずに曖昧に微笑んだ。
確かに、ずっと一緒に居てくれるのは心強いが、ずっと独占していては、そろそろどこかの令嬢の本当に刺されてしまいそうだからだ。
今も、次にユリウスと踊ろうとする女性たちに少しの距離を置いて囲まれている。さすがに第三王子がいては会話に割り込みづらいのだろう。
「ほら見ろ、ユリウス。少しは解放してあげたらどうだ。君がルフェルニア嬢から離れたくないことはわかるが、すまない、少し仕事の話しがしたい。」
アスランが控室のある方を指さす。恐らく、他に聞かれたくない話なのだろう。
ユリウスが不機嫌そうにするので、ルフェルニアは慌てて口を開いた。
「ユリウス、私は大丈夫。」
「…ルフェ、ひとりで残していくなんて心配だ。本当に大丈夫?」
「きっと大事な話なのでしょう?私は王宮のスイーツでもいただいて過ごしておくから、すぐに戻ってきてね。」
「すぐに戻ってきてね」に少しだけ気を良くしたのか、ユリウスはルフェルニアに大人しくしているように言うと、アスランと控室の方へと消えていった。
暫くはミネルウァ公爵夫婦とシラー子爵夫婦と共に挨拶に来る人と顔を合わせていたが、ユリウスが毎回相手の爵位と名前をこっそり耳打ちしてくれるので、ルフェルニアはとても心強かった。ただ、挨拶の相手が令嬢を連れているとルフェルニアは毎回精神を削られるような思いになる。
ミネルウァ公爵とシラー子爵の仲は社交界でも良く知られているので、この場でサイラスに縁談をちらつかせるような貴族はいなかったが、令嬢たちは決まってルフェルニアを見て鼻で笑うと「今日は可愛い妹さんを連れているのね」と言うのだ。
それに対してユリウスが「そう、可愛いでしょう?」と言ってルフェルニアの腰を毎回引き寄せるので、ユリウスにくっついて緊張するやら、令嬢からの怒りの視線が痛いやらで、ルフェルニアの心拍数が上がりっぱなしだった。
それに、ユリウスが肩ではなく腰に手を回すので、引き寄せられるたびにルフェルニアの背中がユリウスの胸にぴったりくっついて、後ろから抱きしめられているような形になるのだ。ルフェルニアは挨拶が終わるたびにさりげなく少し距離を取ろうとするが、その度にユリウスに引き戻されていた。
ルフェルニアは、自分自身が緊張するのはもちろん、他人に見られるのも恥ずかしいが、何よりユリウスの両親とルフェルニアの両親に生暖かい目で見られるのが一番堪えた。ユリウスはそんな視線もお構いなしだ。
ミネルウァ公爵夫婦とシラー子爵夫婦と一緒に王族の挨拶の列にも並び、ひととおり挨拶が終わったところで、ワルツが流れ始める。
「ルフェ。今日、この場で一番可愛いお嬢さん。僕と踊ってくれますか?」
ユリウスがルフェルニアの前に跪いて手を差し伸べる。
ルフェルニアだって女の子だ、物語のヒロインに憧れはある。
正直なところ、ルフェルニアのタイプは勇猛果敢な騎士だが、このときのユリウスはさながら物語の王子様のようで、ルフェルニアは周りの目線が気にならないほど、ときめいてしまう。
「はい、よろこんで。」
ユリウスがルフェルニアの手を引いて踊りの輪の中に入ると、ルフェルニアの視界はユリウスで遮られ、この場にルフェルニアとユリウスしかいないような錯覚に陥った。
ユリウスの瞳はずっとルフェルニアだけを映している。それだけで、先ほどまでの挨拶の疲れが飛んでいくようだった。
1曲終わって、踊りの輪から抜けると、すぐに第三王子が近づいてきた。先ほど王族へ挨拶に行った際にはいなかったはずだ。
「ユリウス、踊れないなんてやっぱり嘘だったんじゃないか。」
第三王子のアスランはユリウスと同学年で、学園の同級生だ。ルフェルニアも手紙でそのことは聞いていた。
「最近、踊れるようになったのです。こちら、ルフェルニア・シラー嬢です。」
「第三王子、アスランだ。君のことはユリウスからよく聞いているよ。こんな夜会に全く興味はないが、今日は君が来ると聞いてね、会えて嬉しいよ。私は授賞式の日に会えなかったからな。」
「第三王子殿下に御挨拶申し上げます。ルフェルニア・シラーでございます。お目に掛かれて光栄です。」
ルフェルニアが緊張気味に礼を取ると、「そういうのはよいよい」とアスランは顔を上げるように言った。
「ここに来るまで、何人かに君たちの様子を聞いたが、ユリウス。ずっとルフェルニア嬢にくっついているようじゃないか。窮屈な思いをさせているんじゃないか?」
「私の一番大事な人はルフェだし、ルフェも僕が一番大事だから何も問題ありません。ねぇ、ルフェ。」
ユリウスが優しくルフェルニアに声をかけたが、ルフェルニアは肯定をせずに曖昧に微笑んだ。
確かに、ずっと一緒に居てくれるのは心強いが、ずっと独占していては、そろそろどこかの令嬢の本当に刺されてしまいそうだからだ。
今も、次にユリウスと踊ろうとする女性たちに少しの距離を置いて囲まれている。さすがに第三王子がいては会話に割り込みづらいのだろう。
「ほら見ろ、ユリウス。少しは解放してあげたらどうだ。君がルフェルニア嬢から離れたくないことはわかるが、すまない、少し仕事の話しがしたい。」
アスランが控室のある方を指さす。恐らく、他に聞かれたくない話なのだろう。
ユリウスが不機嫌そうにするので、ルフェルニアは慌てて口を開いた。
「ユリウス、私は大丈夫。」
「…ルフェ、ひとりで残していくなんて心配だ。本当に大丈夫?」
「きっと大事な話なのでしょう?私は王宮のスイーツでもいただいて過ごしておくから、すぐに戻ってきてね。」
「すぐに戻ってきてね」に少しだけ気を良くしたのか、ユリウスはルフェルニアに大人しくしているように言うと、アスランと控室の方へと消えていった。
113
お気に入りに追加
2,783
あなたにおすすめの小説

【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
藍生蕗
恋愛
子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。
しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。
いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。
※ 本編は4万字くらいのお話です
※ 他のサイトでも公開してます
※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。
※ ご都合主義
※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!)
※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。
→同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~
Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。
だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと──
公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、
幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。
二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。
しかし、リリーベル十歳の誕生日。
嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、
リリーベルを取り巻く環境は一変する。
リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。
そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。
唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。
そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう……
そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は───
※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』
こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。
めちゃくちゃチートを発揮しています……

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう
おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。
本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。
初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。
翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス……
(※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
2025.2.14 後日談を投稿しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる