異世界でロリッ子魔導師になりました

帝国編

平均基準は当てにならないのでした

　帝都の北西城下町、商業が盛んな町ではあるけど、正確には職人の居住率が高い区画と言えるかな。
　結果的に商業地域となっているけど彼等（もしくは彼女等）は金銭が目的というより、自身で作った物を使ってほしいというある種の自己顕示欲のようなものに近いね。
「やらされている、と、自ら好んでやるのとでは雲泥の差があるかな、結果としては気質がプロレタリアートなのだけども･･･人間という種の性（さが）なのかねぇ」
「シオン、アキはいったい何を言ってるんだにゃ？」
「そうですね、こういう時はおまいう、と伝えるといいですよ」
「わかったにゃ！アキ、おまいう、なのにゃ！」
「ソーラに妙な事を吹き込むのやめてもらえる？その通りだけども･･････さて、とりあえず北西城壁門近辺の宿が空いていたからいいものの」
　公共交通機関なんてものはないから街中の移動だけでも時間がかかるねぇ･･････フィオナ・ウィクトールが空を飛ぶ発想に至ったのも、ただの移動手段としてなのだろうね。
「昨日今日の様子を見て分かったのは、なんというか･･･あのウィクトール姉妹は揃って呑気な印象しかなかった、本当に僕が意味もなく警戒していただけなのかねぇ･･･」
　遺伝的には姉妹で似るのはわかるのだけども、フィオナ・ウィクトールが転生者なのであれば中身は別なはずだし･･･肉体年齢に精神が引っ張られるというのは筋違いだろうからね。
「同じ老け方をした６０代でも、精神年齢の方は明確な差が出るしね、あの姉妹に至っては性格というより雰囲気が似ている、ともなれば･･･」
「転生前が単純に楽天的であった可能性もありますけれど、その少女考察は宿に入ってからにしてもらえませんか？公共の場ですので」
「そうなのにゃ！２日後には一緒に行動するのにゃ！気になるなら直接聞けばいいにゃ！･･････シオン、てんせいってどういう意味なのにゃ？」
「端的に二度目の人生とも言えますが、その事象を可能にする方法は説明のしようがないですね、解明できてませんので」
「分からないのにシオンはそれがある前提で喋ってたのにゃ！どういう事なのにゃ！？」
「その事象を体現したものを観測できても、解析する手段がありません、言うなれば事後報告を確認しただけの状態ですね･･････ソーラから見て、あのロリッ子にどういう印象を持ちましたか？」
「抱きかかえてみたいくらいの可愛さだにゃ！正直に言うと古龍様の気配でそれどころではなかったのにゃ！」
　あの子達が神殿に入ってきたところでゼーン君の後ろに隠れてしまったのもそういうことか、とりあえず宿に戻るとしようか。


　彼女等に２日後出立と伝え神殿を後にし宿へと戻り、計測していたデータを纏めつつシオンやソーラと雑談をする。
「少女達のデータを集めるとか、いよいよ言い訳の余地がありませんが？」
「君が収集した計測情報なんだけどね･･････このデータバグってないんだよね？魔力測定器に設定してある階級基準が意味を成していないんだけど」
　共和国在住の様々な年齢別の人族に獣人族、龍族から魔族に協力してもらい過去の文献からメタアナリシス的に出した基準ではあったのだけども･･････フィオナ・ウィクトールと古龍以外は龍級を軽く超えているねぇ。
「種族毎に内包できる魔力量には限界点があるはずなんだけども、結果として内包しきれていない魔力は体外に排出されていく･･･このデータからだと内包量にはまだ余力があるという結論になるかな」
　その中で一番奇妙なのはフィオナ・ウィクトールだけれど、内包量に反して魔力の排出量が大きすぎるんだよね･･･魔力測定器は内包量の限界値を示すものだからこれだと数値化してもまったく意味がない。
「アキが言っている事が全っ然理解できないのにゃ！」
「そうだねぇ、フィオナ・ウィクトールを例にするとあの子は魔力を周辺へ余剰に撒き散らしている状態となる･･･つまり魔物の生息圏に近付くと最優先で狙われる、とは言え他の子達も相当量排出しているから分散はするだろうけどもね」
「我々が鉱山での調査をするにあたり、彼女達がいれば余程の数の魔物が押し寄せない限りはこちらにターゲットが向かない、少女を囮にするなんて最っ低ですね」
「人聞きの悪い事を言わないでもらえる？結果的にそうなるだけだよ、同行に強制はしてないんだから」
　法的強制力はなくても世論誘導だけで自らの行動に制限を掛ける状態を作る、と、そこまで悪質な事はしてないんだから僕を咎めるのは勘弁してほしいね。
「ソーラ、お使いを頼まれてくれるかい？君が食べてきた串焼き、僕達も食べてみたいんだ、はいお金」
「分かったのにゃ！私のも買ってきていいにゃ？」
「あるだけ使っていいよ、在庫があるかは･･････行ってしまったね、さて･･････あの古龍は、どこまで僕達に気づいているのかねぇ？」
「この世界の人間でないことは確実に知られているでしょう、その段階であればフィオナ・ウィクトールが既に話しているかもしれませんが」
　推測の域を出ないとはいえ、古龍ヴェルガリアがフィオナ・ウィクトールを転生させたと仮定すれば当然とも言えるね。
「人の記憶を読めるともなれば、あの古龍に嘘は通じない･･･それがこれからついて来るというのが想定外だった、規格外の存在はそうそう表舞台に立つものではないよまったく」
　鉱山調査で魔物の囮にする事を前提なんてしてた場合は筒抜けだったということになるね、怖い話だ。
「この世界に無いはずの技術である疑似体組織の言葉を口にしましたね、原理を知られた所で再現は困難ですけれど」
「まあ再現するにはボソンアクチベートメッセンジャー、それを制御する量子コンピューターに電気細菌と何かと不足しているからね、興味を持たれても困るけれど･･･それに」
「長命な種には必要性がない、そういうことですね」
「細胞寿命を気にするような生物ではないだろう、どの期間生息しているかこの世界の人間すら知らないのであれば尚更ね」
　そもそもミトコンドリアのＡＴＰ産生の一部を魔力で可能にしているこの世界の人族ですら長命なのだから、遺伝子設計図を書き換えて電気エネルギーで産生を起こすのを利用している疑似体組織など不要だろうからね。
「幼女と古龍の例外はとりあえず除くとして、ユラ・ブライト、あの子はこの世界の人族にしてはかなり疑り深い、警戒心が強いのとはまた違う感じがしたねぇ･･･いやまあそれが普通ではあるはずなんだけれども」
「憶測で言いますと、ミラーニューロン的にフィオナ・ウィクトールの影響を受けているのかもしれません」
「その論理でいくと、呑気な雰囲気が伝染しそうだけども･･･魔海での映像から察すると確かに影響は受けているだろうね、レーザーブレードを真似ているような動きに見えるし･･････ん？ちょっと待てよ」
　タブレットから動画を再生し再度確認してみる･･･なるほど、大事の中に小事なしとはよく言ったものだね。
「ミリー・シュタッドとユラ・ブライト、この２人も魔力の使い方が少々異なる･･･魔力にはまだ僕達の知らない法則性があるのかもしれない、退屈しない世界だねまったく」
「よかったですねアキ、しばらく彼女達と行動を共にするのですから、視線先によっては別な意味で警戒されるかもしれませんので注意してください」
「御忠告どうも、既に秒で法則性の１つは見当がついたよ･･･属性だろうね、問題はどう発生させているかだけれど」
　魔力の活性化で伴う可視化で個人差があるのは考慮していたけれど、個々の特性によって生じるなら属性が関係しているというのも一度は思慮したものの･･･確証はなかったからね。
「謎を解明しても更なる謎が増える、過去から未来まで変わらない事実だ･･･楽しみが増えたと割り切るかねぇ」
　あの古龍が言ったように、世界はそこまで単純ではないという事か･･･承知の上ではあるけれど、どう言い換えようとも人という生き物は傲慢なのだからね。