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帝国編

無益有害かは見極めるものなのです

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 古龍神殿にて、来訪者を待つ、その間に気が付いたのは・・・静かな時間を過ごす事それ自体が久しぶりだったという。
「静寂な空間は逆に落ち着かない、この神殿、意外にも遮音性に優れているようだね」
「アキ、意外は余計ですよ。確かに不思議ではありますけど・・・構造以上に外部の音を遮断していますから」
「かつてヴェルガリア様がいらっしゃった神聖なる場所だ、故に神域・・・略さず古龍ヴェルガリア神殿と呼ばれよ」
 一般人も気軽に入れるような場所が、神域であるものかと・・・思わず口に出しそうになったけれど、言うと高確率でエクタシス君はヴェルガリア布教に熱が入るだろうから黙ることにするかな。
「それはそうと、エクタシス君にドレイク宰相、君達まで僕に付き合う必要はないよ?」
 長いマントが特徴的な、この神殿の為の正装を身にまとうエクタシス君だけど、わざわざ騎士団長と副団長まで同伴させて・・・。
 いや違うか・・・彼等は僕ではなく、古龍ヴェルガリアに会う為に同行してきたのか。
 ギィィ と、神殿の扉が開く音がした、思ったより早く来たようだと入り口を見る。
「戻ったのにゃ!」「ソーラ、紛らわしいよ・・・彼女達かと思ったじゃないか」
 神殿内での食事は厳禁ということで出掛けていた、猫獣人ソーラは御満悦のよう、自由なことだね。
「すんすん・・・懐かしい匂いがするのにゃ、これは・・・おにいの匂いなのにゃ!」
 おにい・・・?兄のことなんだろうけど、この場に獣人族は居ないけれども・・・?
「聞き間違いではなかったようですねソーラ、アキ殿と同行しているということは共和国に身を置いているのですか?」
 アムレト団長がマントを受け持ち、ゼーン副団長がソーラの方に歩み寄りながら縦長の兜を取る・・・猫耳の生えたイケメンとはね、尻尾は器用に鎧の背中の方に伸ばして納めているよう。
「そうなんだにゃ!雇ってもらって衣食住も完璧なのにゃ!」
「なるほど・・・それなら安心だけど、その語尾がなんなのかは気になりますが、元気そうでなによりです」
 深く追求されずに済んだよう、僕の個人的都合で言わせているのは流石に申し開きするべきかと悩んでしまうね・・・流してくれるならそれでいいけれど。
 ソーラの嗅覚が鋭敏ではあっても人の多かった闘技場では分からなかったようだね、兄妹という以前に、体臭で個人を識別する感覚は僕には理解が及ばないけどね。
「それにしても、ゼーン君は獣人族だったのかい?気がつかなかったよ」
「直接素顔で対面することがありません故、失礼しました」
「構わないよ、身を守る為の装備だからね、無益有害な装飾で顔が隠れてるわけでもないしね」
 正しく使えば有益でも、用途を誤れば無益となるのはどんな物でも共通している・・・与太話はここまでにして、彼女達が来たようだね。


 この先、神殿があるぞと盛大に道中を省略し目的地に到着なのです。
 マースチェルさんの露店で買ったいつもの串焼き片手に、神殿に入る直前でミリーに肩を掴まれたのです(正確には扉への階段を上がる前ですが)。
「神殿内での飲食はダメという話らしいですわ、耐えてください」
「神殿内という事は・・・ここなら大丈夫という解釈でいいです?」
「ふむ、妾は400年前この神殿で食っちゃ寝しておったんじゃがの、つまり妾が定めた事ではないのじゃ」
「・・・フィオナの返答に、耐えるという選択が欠片もなかったことに突っこむべきなのかな・・・まあいいや」
 食いしん坊みたいに思われてるのはとても遺憾なのですが、基本的に食べたい時に食べる精神なだけなのです。
「それで、私達は何で呼ばれたんだろう?」
 レナが槍の石突を地面に当てながら疑問を述べたのです、杖をつく容量で取った行動なのでしょうが・・・町中ではそれなりに危ないのです。
「商会関係の人を寄越すのとは違いますものね、商会長が自ら出向くのですから、世間話をわざわざしに来たとは考えにくいですわね」
「もぐもぐ・・・存外、ただ世間話をしに来た可能性も無きにしも、なのです・・・闘技戦中に盛大に邪魔、もとい何気ない会話だけしていったのです」
 何が言いたいかというと、猫獣人可愛いということなのです・・・なるほど、これが一種の執着なのかもですね。
 前世では自然に触れていたという記憶があるにもかかわらず、私自身はまったくというほど小動物に懐かれないのが寂しく感じる要因だと思うのです・・・レイブンのお陰である程度落ち着けはしますが。
「カァァ!?」「カラスさん苦しそうだよ!フィオナ!?」
「そういえばそのカラスって、いつからフィオナの傍に?」
(最近強い魔力は感じると思っていたのである、そのカラス、並みの個体ではないのである)
「唯一、懐いてくれている友人なのです・・・是非ともあの時の猫獣人さんとも仲良くなりたいところなのです」
(懐いているというのはまたちゃうねんけどな・・・それと、猫獣人を小動物として見るのやめーや)
(ち、違うのです・・・猫耳を見ると触りたくなる衝動に駆られるだけなのです何故か、おおよそ見当はついていますけど)
「ここ神殿の方に駆けていくのを見かけましたわ、一目で分かりますわね」
「・・・王都同様、帝都でも珍しいからね・・・・・・食べ終わった?フィオナ?」
「あ、やっぱり待っててくれてたのです?先に行ってくれてもよかったのですよ」
「約束の時間まで余裕がありますから構いませんわよ、緊急の案件であるなら昨日呼び出していたでしょうから」
 魔海での一件を除けば私達は一介の冒険者に過ぎないですし、どういう要件なのか定かでないですが・・・・・・可能性の1つ、もしくは2つとしては姉様の神器とレナのヴェルトールが挙げられるのです。
 客観視すれば恐らく、この2つの力がもっとも目に見えて強大な力だと言っても過言ではないはずなのです・・・大きすぎる、修正が必要だ案件だとしたら面倒な事になりそうですが。
(神器がらみならうちが容赦せえへんで、と、多分ちゃうんちゃう?昨日の兄ちゃんらフィオナに話しかけてきおったしな)
(確かにジオに興味を持っていたようではありますが・・・シオン嬢に鉄と銅素材のハリボテを見抜かれてるですし)
 闘技戦をサボってるように見えたというのが濃厚そうですが、あれは仕方なかったのです・・・満腹状態で激しく動いたら確実に逆流しちゃってたですし。
「神殿の扉開いたよ!お邪魔しまーす!」
「フィオナ、考え事しながら歩いていると危ないですわよ?」
「大丈夫なのです、つまずくまではノーカンなのですよ」
 机上の空論を述べるなら、物理的であろうと人生だろうとつまずいたら受け身を取ればいいだけなのです・・・どちらにしても痛みは伴いますが。
(フィオナが良くても、うちを抱いたままは勘弁やで)
 誰かを巻き込んで倒れるのは論外のようです・・・レイブンの言葉を肝に銘じつつ神殿に入るのでした。
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