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帝国編

取り繕っても外面は覆えないようでした

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 闘技場からの帰り際、カフェ・フレイアでの打ち上げにノアちゃんが誘ってくれたのです。
 臨時休業中のお店に入るのは何とも不思議な気分なのです、閑散としているのとはまた違う静かな空気感なのです。
「因みに、未だ満腹感が続いているのですが、姉様の食べっぷりを見ていると尚更収まらないのです」
「フィオナ食欲ないの?珍しいね!」
(宿では何かしら、串物かじってる印象があるのだわ!)
「暇ができたらと言った方がいいかもしれませんわね・・・大遅刻したのはやっぱり買い食いしていたからですのね?」
 正確には無償提供されたようなものなので買ってはいないのですが、食事していて遅刻したのは事実なのです。
「ミリーちゃん達が参戦しているから、てっきりフィオナちゃんも出場しているものだと思ってたよ~」
「ココちゃんも学院以来なのです~、対人戦は辞退したのです」
 ジオで参戦はしていたのですが、カーム君含め学院の頃の仲良し3人組には正体は明かしていなかったのです。
「それにしてもジオさんいつの間にかいなくなってたっす!もっといろんな話を聞きたかったっすよ・・・」
(フィオナに聞かないっちゅうことは知らんねんな、友人でも話せへん基準あるんかいな?)
(どうもその頃の私はクラスメートと友人は別、という思考だったようなのです、面倒が嫌いと言えば言うほど面倒事をしちゃうものなのですかね・・・逆張り精神旺盛なのです)
 そして現在打ち上げの最中、リアが闘技戦の映像を投影し、二次会ならぬ二次観戦中なのです。
『これはぁぁ勝負あぁぁりぃぃいっ!』
 にしても驚きなのです、姉様が兄様に負けるとは思いもよらなかったのです。
 魔力量もそうですが性質とその強度からして、兄様には分が悪い試合なのです・・・動きを見るに文字通りの身内読みが功を奏していたのです・・・後、龍人様の声量がすっごいのです。
 勝敗にあまりこだわりがない姉様でも多少なり悔しそうなよう・・・どうやら階級闘争の心理というのは、人という形態である限りは生じてしまうのですかね。
 てっきり前世の世界の概念かと思っていたのですが、物事の勝ち負けと結果に意識が向くと争う行為そのものに疑問を抱かなくなる・・・こんな記憶はまあ間違いなく、前世の私が抱いていた感情なのでしょうけど。
(そういうことかいな、通りで最初に読み取った記憶が滅茶苦茶やなぁと・・・うちが使ってる言語も前世のやったちゅうことか)
(そうなるのですが、レイブンのは若干ハイブリッド化してる気がしなくも・・・認識できるので問題はないのです)
「妾も存分に観戦を楽しめたのじゃが、フィ~・・・ではなく、冒険者ジオとやり合ってる者はやたら奇抜な戦闘法じゃな」
 あのゼーン副団長殿の事ですかね、おおよそ初めてみる剣の使い手でしたが・・・と、兄様が話に加わったのです。
「ゼーン副団長は唯一、獣人族で騎士団に入った方だからね、アーシルに向かう前に聞いていた話だけど」
「え・・・あの副団長さん・・・・・・獣人族だったんだ」
「ノヴァは一切お構いなしに寝かましていたわね、立ったまま寝れるの、呆れを通り越してもはや感心するわ・・・」
「うん・・・ありがと・・・アージュ」「褒めてないわよ」
 なるほど、野性的な戦い方とは思っていたのですが、獣人族特有の身体技能だったのですね。
 とは言え、試合後半まったく戦闘部分に意識は向いてなかったのですが、リアの投影している映像を改めて見ると余計・・・レーザーシールドを展開させた記憶はないのです。
 それはそれと、ユラが何か考え込んでいるように見えるのですが、疲れたのですかね・・・熱狂に当てられ過ぎて逆に冷めちゃった、とも違うようですけど。
「それにしても器用に吹き飛ばしましたわね、とても無意識で展開したような攻撃には見えませんけれど」
「あの爆発無意識だったんだ!?」(危なっかしい妹ちゃんなのだわ!)
 身に覚えがない以上、実に耳の痛い話なのです・・・高次領域の力を使うときは周りをよく確認する事を心掛けるのです。
(やっぱり使わないっちゅう選択肢はないんやな)
 思い思いに過ごしていた打ち上げも、二次観戦を見終わる頃合いで解散の流れになったのです・・・色んな意味で疲れたので私も今日は大人しく、早寝することに決めたのでした。


 〔夜が更け、深夜の宿屋にて〕
「・・・フィオナ・・・・・・フィオナ・・・流石に真夜中に起こすのも悪いかな・・・?」
 リアも構わず話し掛けてくれるな・・・今の俺には時間など、もはや関係がないと言えばないのではあるのだが。
「リア、俺にはあまり深夜も早朝も変わりがない・・・・・・のだが・・・・・・?」
 違う、この背中のベッドの感覚・・・この重力感、物質的な触感・・・ジオを動かした時とは別の明確に感じるこれは・・・。
「・・・その言葉遣い、ジオの時以外では聞いた事ない・・・何ならジオの時でも普段の話し方が漏れていたのに」
 ゆっくりと目を開いてみると、話し掛けてきていたのはユラだったよう・・・その事自体が問題ではなく、俺がフィオナの肉体で言葉を発したのが問題だった。
「寝ぼけていた・・・かもです、夢の中でジオを動かしてた故に・・・なのかもですね」
「・・・かなりはっきりリアさんの名前を口にしていたけど・・・・・・真夜中が関係ないと、私の言葉に返していたよね?」
 面倒なことに・・・なった・・・この状態の見当は大体想像がつく、つまりはフィオナが熟睡して意識がないから肉体の主導権が俺に移っている・・・そんなとこだろう。
「・・・この不思議な懐かしさ、私も言葉にしづらいのだけれど・・・闘技戦でのジオにも途中からこの感覚があったんだよ、飛んできた時にはなかったはずなのに」
 ユラの鋭い直感は、かなり的確に俺とフィオナの時との違いを無意識レベルで判別できているようだ。
 もしかすると付き合いの長いミリーにも近い感覚があったのかもしれないが、反射的にジオを動かしたのはやはりまずかったか・・・フィオナも言っていたが無意識とは実に怖いものだな。
「例えば、俺はフィオナの心に巣喰う悪魔と言えば、ユラは信じるか?」
「・・・あくま?がまず何なのかがさっぱりだけれど、度々意味不明な言葉を使うのは、ある意味いつも通りな気がするよ・・・普段の声のままでジオ喋りは、若干の違和感があるけど」
 まあそうだろう、成長していくこの姿を風呂場で俯瞰して、人と話すときどうするか悩んだ結果、なのです口調が無難と最終的に判断した。
「悪魔については忘れてくれ・・・ついでに今の俺の事も」
「・・・とりあえず、誤魔化そうとする事を前提にするのやめない?喋り方が変わってもフィオナはフィオナなんだから・・・追求されると話を逸らそうとするの癖なのかな?」
「ユラはそもそも深夜に何故、フィオナを起こそうとしたんだ?」
「・・・闘技戦でのジオの動きが気になっただけなんだけれど、副団長さんの刺突をシールドで防いだのを横目で見た時・・・合同戦で私の斬撃を止めたフィオナがチラついたんだよ」
 なるほど・・・?フラッシュバック、というのとは違うのだろう・・・それはどちらかといえば俺に起きるものだ。
 刃物恐怖症になったから刃先を引っ剥がしていたわけではない決して。
「お主ら夜中に痴話喧嘩にもなってないことで、地味に五月蠅いのじゃ・・・フィオナもこの際だから白状するのじゃ」
「リア、最初から起きていたな・・・そういう反応だ」
「・・・やっぱりリアさんは何か知ってるんですね?フィオナが変なのはいつものことだけど、ここまでではなかった・・・はず?」
「ふむ、迷うのもまあ無理はなかろうて、今のこやつとずっと一緒にいたのじゃからな、ユラもよく知っている大馬鹿者なのじゃ」
 変に見られないように少女を演じていたはずなのだが、どうやら外面はどう取り繕ってもボロが出るらしい。
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