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帝国編

比喩であれば誰でも言えるのです

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 闘技戦閉幕の儀を後目に皇城へと向かい、僕とシオン、ソーラの3人を宰相ドレイクが城最上階にある王の間に通してくれる。
「皇帝は現在闘技戦を観賞中ぞ、いつ戻るかは把握しかねる」
「僕達も先程まで闘技場にいたからね、そこまで時間も掛からないかと・・・それにしても龍族が宰相を務めている事がずっと気になって仕方ないねぇ」
「来訪する度に言ってるぞ・・・その言葉、流石に聞き飽きている」
「本当ですね、国々でその言葉の意味、役割から変わるものですよ」
 まあそうなんだけどね、未だにこの世界の王族貴族等々・・・僕達の世界の基準とは異なるものだから。
 ヴェルガリア帝国での最高権力者が皇帝とそれは勿論分かっているけど、そこじゃなく単純明快・・・生物的な力の差、そこに尽きるんだよね。
「龍族信仰の国ならいっそのこと、君達龍人貴族が皇帝の座につけばと考えずにいられないんだよね」
「?エクタシスがいるのだから皇帝を変わる必要ないぞ、変わった人族だなアキ・クルス」
 龍族からしたら僕は変人扱いなのか、異世界の価値観は理解するのも難しい事だね。
「いえ、アキはずっと昔から変人でしたので、今に始まった事でもありませんが」
「ことある事に心を抉るのやめてもらえる?」
「にゃうぅぅ、やっと耳がすっきりしてきたのにゃ・・・特にあの鎧の人がやった爆音が効いたのにゃ!」
 獣人族の聴力だと人混みの喧騒は苦手だろうねぇ、それにあの範囲爆撃も相当なもの・・・直面しても何も分からないとはね。
「ちなみに宰相、君達龍族は魔力の感知範囲が広いけど、今し方瞬時に爆発的な魔力増強は感じられたかい?」
 文字通り舞台で爆発していたが、あれほどの威力であれば流石の龍族でも警戒くらいするとは思えるのだけど。
「先程響いてきた音はそれぞ?言うほどの強い魔力は感じられなかったが」
「いや、そんなはずは・・・シオン、どういうことだい?」
「高エネルギー反応とは言いましたが、魔力反応と伝えてはいないはずですが?」
 揚げ足取りはやめ・・・シオンの表情は至って普通だ、ということは言葉の通り・・・魔力ではないのか?
「術式でどのような属性に変換しても、魔力であることは本来変わりはしない、電気エネルギーに変えても同質量の魔力が検出されるはず・・・シオン、映像記録を転送してくれるかい?」
「アキは何言ってるんだにゃ?」「最近の人族の言葉は小難しいぞ」
「申し訳ありません、言いくるめる事もアキの生業ですもので・・・転送は完了しています」
「余計な事も含めありがとう・・・生業とは言い過ぎだけどね、必要以上の研究費は騙し取るかかすめ取るかの二択なのだから・・・余談も過ぎたね」

 闘技戦の映像を再生し、宰相からの反応を待つ・・・人族に関わる龍族は基本的に娯楽を好むね、ある意味で日本人に通じる部分を感じるよ。
「皇帝から話は聞いていたが、実に面白いぞ、流石はアーティファクトを生み出した種族と言うべきか」
「で、どうだい?龍族から見て、この爆発規模なら十分に魔力を感知できると踏んでいたのだけども」
 威力に関してはついでだけども、僕の想定が悉くずれていくものだから個人的な気分転換も兼ねて話を振る。
「なるほど驚きぞ、これなら確かに魔力は感知できるはずだが・・・それにしてもリンドヴルムが騒がしい」
 この審判龍人も変わらないねぇ、喧騒でもお構いなしに響かせる声量・・・映像越しの音でもソーラが耳を塞ぐ程に。
「直接尋ねるのは今まで機会がありませんでしたが、龍人の方々でも、人族の力に驚く事があるのでしょうか?」
「ヴェルガリア様を除いて、龍族の中で吾(われ)は最も長い生を堪能しているぞ、正直、純粋な『力』に驚いたのはその生でも一度くらいのものだ」
 龍族は特に見た目で判別できないねぇ・・・ドレイク宰相が最高齢の龍族だったとは、そうであるならもう少し老人の姿であってほしいものだけども。
 それはともかく、威力自体は上級魔導術で再現可能であるにも関わらず、宰相は純粋な力と称した・・・。
「次元断裂事変、その時と同質だということになる・・・のですか?」
「何故、急に敬語になるぞアキ・クルス?」
「恐らく、宰相様の年齢が思っていた以上に上だった事で、言葉遣いを改めてしまったのでしょう」
「冷静に分析するのやめてもらえる?龍族が長寿なのは存じ上げておりましたが、最高齢とまでは思い至らず・・・」
「その話し方はやめるぞ、無駄に聞き取りづらくなる」
「本当だにゃ!凄い長生きって言ってるだけなのにゃ!」
 ボケたわけでもないのにここまで突っ込まれるなんてね・・・形式に沿っただけの言葉は逆効果にもなりうるという事か。
「あの『力』の感覚は、人族の表現で言う鳥肌が立つというやつぞ、吾も人族も鳥ではなかろうに」
「比喩表現だから気になさらず、主観で見た印象をそのまま言ってるだけだしね」
 社会的病名と大差がないね、混乱した人にパニック障害と、そのまま称するなど誰にでもできるのだから・・・この世界の者達には無縁のようだけども。

 エクタシス君が闘技場から戻り、宰相ドレイクとの雑談を中断する・・・皇帝の表情は実に晴れやかだね。
「戻られたか皇帝、清々しい表情ぞ」
「うむ、久々に滾ってしまってな、存分に楽しめたのである」
「よくもまあ身長より大きい得物を軽々と扱えるものだね、感心するよ・・・あの爆発に巻き込まれて無事なのもそうだけど」
 危険行為で即退場ということもなく試合は終了していたし、日常茶飯事の範疇ではあるだろうけども。
「余でもあの最後の一撃はまったく反応できなんだわ、流石はヴェルガリア様のご友人であるな」
「失礼を承知で言うのだけど、何でもかんでもヴェルガリア様で済ませるのは見識を狭くしてしまうよエクタシス君?」
「一言も二言も余計に言う癖も、どうかと思いますよアキ」
「僕の性分だからねぇ、それに実際、あれは魔導術や魔導具ではもはや説明もつかないよ?」
「余も前々から気になっておったのだが、アキ殿は何故、フィオナ・ウィクトール、もしくは冒険者ジオを危険視しておるのだ?」
「それはアキがロリコ・・・」「ひたすらに刷り込もうとするのやめてもらえる?」
 たまたまあの子が幼女であっただけで、むしろその見た目で周囲の認識が甘くなっているまである。
 『力』を持つ見た目が幼女には過去、自称ブルーブラッドの彼女を思い起こさせるゆえに警戒してしまうのが個人的な理由だけどもね・・・まあこの世界では関係ないからそれはいいとして。
「確かに試合中に話し掛けて邪魔をしても、特に怒ったりといった感情を出すことはなかった・・・内心ではどうなのかまでは分からないけどね、理由なき力というのはとても危ういものだよ」
 理由が明確で猛威を振るうのも問題だけどねぇ、そういう意味では、言語機能を持つ誰もが使える言葉の錯覚が最も厄介ではあるけども。
 綺麗事と御託で整えた『命を助ける(もしくは守る)行動』という言葉を紐解けば、現れる言葉は『命を捧げよ』となるように、人の脳の認識に錯覚を引き起こせば大衆は自ら潰し合う・・・恐怖を知ったとき勇気を示すか無謀と散るかはその人の判断次第。
「彼女達には鉱山への同行を申し出る予定だけど、人となりを確認するいい機会でもあるね」
「アキ、耄碌する前に自身を見つめ直すことを強くおすすめします」
「二の足を踏むことはあっても同じ轍は踏まないよ、傲慢の押し付けはしないさ」
 物も力も扱い方で善性と悪性は変わるものだけども、概ね人が絡むとろくな使い方はされないのが常だねぇ。
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