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帝国編

無意識の行動は認識し辛いのでした

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 しかしながら・・・どうしてこうなったのやら、こうしてまた自分でジオを動かすことになろうとは。
 巧みに二本の直剣を扱うこの副団長、ゼーンと名乗っていただろうか、深層意識内から記憶を辿った限りでは、どうやら神殿で会ってはいるらしい・・・俺だったら危うくバケツヘッドと口走っていたかもしれない。
「実に見事です・・・未だに一撃も与えられないとはっ」
「・・・・・・」「集中しておるようだ・・・本気を出させたのは僥倖であるな」
 俺は深層意識の最奥から干渉している事から一応・・・フィオナの無意識には違いないだろう、かと言って、フィオナがまったく思考していない行動をすると認知的不協和を与えてしまいそうだ。
 皇帝の大斧を左籠手のシールドで防ぎつつ、右籠手レーザーブレードでゼーンの流麗な剣撃を捌く・・・肉体を意識する必要がない事でジオへの操作に集中できるのは幸いだが。
 フィオナが猫耳に気を取られた瞬間、完全にジオの主導権がこっちに移ったな・・・気持ちは分かる、俺のままでもそうなったことだろう。
ザンッ! ギィンッ「ぐっ、何という斬撃!?」
 皇帝の大斧を押し返した所でユラがゼーンに居合い切りで奇襲、防がれたものの後方に飛ばされたよう。
「・・・失礼・・・フィオ・・・ジオ、大丈夫?」
「・・・・・・・・・」「・・・?・・・フィオナ?」
 ジオ頭部内で低音域を発生させて・・・できるのか?
「・・・・・・ああ、大丈夫だ・・・生身の方が少々立て込んでいてな」
 できたようだ、というより、問題なく高次領域の力が使えてしまう方が問題な気がしてきたな・・・。
(元はアストラル体の権能じゃからな、肉体が意識していない間はお主に主導権が戻っておるのじゃろう・・・ある意味、それが本来の状態ではあるのじゃ)
(不測の事態に変わりがないな・・・長引くとフィオナの潜在意識に影響が出そうだ)
(ふむ、それで何をするつもりじゃ?)
 簡単な話フィオナが意識せざるを得ない状況にすればいいだろう、端的に言うと力の暴走を装うような感じか。
「ユラ、ミリー達に舞台から離れるよう伝えてもらえるか?」
「・・・唐突だね・・・いつもの事ではあるけど、分かったよ」
 妙な納得のされ方だが、細かい事はこの際置いておく、残滓に過ぎない俺が出しゃばる場面でもなし・・・皇帝達には悪いが付き合ってもらうとしよう。
 全方位バリアー展開、エネルギー集束・・・・・・舞台内の効果範囲で周囲に衝撃波を放つ・・・舞台付近の特設席にいるアスト達にも多少、それなりに巻き込みそうではあるが恐らく大丈夫だろう。


 コォォォォ・・・・・・ドオォォォンッ!!
「な、なんだ!?」「前触れなく爆発が起きたぞ!!」
 びっくりしたのです・・・急に舞台の方で爆音が発生したのです・・・?
「シオン、何が起きたんだ・・・?」
「ジオを中心に高エネルギー反応を確認した直後、衝撃波が発生しました・・・フィオナ・ウィクトール、とんでもない荒技を使いましたね?」
 ん・・・?ジオを中心にって言ったのです?私そんな事をした覚えは・・・獣人族のソーラさんの猫耳を見ていただけなのですが・・・。
「耳がキーンってなったのにゃ!」
 むしろジオにまったく意識が向いてなかったのです、戦闘中に無防備にしてしまったのは迂闊なのです・・・実戦ではないからと気が緩んでしまったのですかね・・・?
(高次領域の力が暴発したようなのじゃー、無意識の防御が衝撃波に変わったようじゃー)
(急にジオの操作を手放してしまったから、ということです?・・・・・・リアの棒読みが少し気にはなるのですが・・・)
 確かに今まで高次領域の力を使ってる最中に意識を外したことはなかったのです、無意識で展開させる全方位バリアーが衝撃波を伴って発動しちゃったのです?
(ふむ、そういう見方になる・・・・・・何でもないのじゃ、高次領域で物を動かす際は気をつける事じゃな)
 一旦ジオ視点で周囲を確認してみるのです・・・・・・副団長さんが皇帝陛下の下敷きになっていたのです、ミリー達の方は舞台から離れて風の障壁で衝撃を打ち消していたよう・・・突発的な事態を防ぐとは流石なのです。
 兄様達と他の冒険者の方々も無事のようです、大事には至ってないのが幸いだったのです。
「魔導術の兆候もなしにぃぃ強力な攻撃であるぅぅぅう、勝負ありぃぃい!」
「・・・魔力を纏うだけで受け流す、龍人貴族様も見事だね・・・」
「ユラが退避を促すから何事かと思いましたわ、フィオ・・・・・・ジオにしては珍しく強引な手段でしたわね?」
 文字通りの誤爆をしてしまったのです、被害が少なかったのはいいのですが・・・爆破範囲内の闘技場舞台にクレーターができていないのが不思議なのです。
「集中力を欠いてしまってな・・・気がつけばこの有り様、なのです」
「・・・生身がどうと言っていたけど、誰かに話し掛けられたとか?」
「クルス商会の人達なのです、獣人族の方との初対面だったものでつい意識が逸れ・・・私何か言ったのです・・・?」
「・・・生身が立て込んでいると、私達には大体伝わるとはいえ・・・かなり意味不明な言葉だよね」
 ジオでユラに何かしら話した覚えがないのですが、起きていながら寝言を口走った的なやつですかね・・・無意識って怖いのです。
「あの衝撃波って意識的に発動させた攻撃じゃないんだ・・・というと大森林で眠った時と同じ感じ?」
「そうなるのです、恐らく・・・全方位バリアーを広範囲で一気に展開しちゃったのかもです」
「・・・?その割には・・・・・・冷静だと思ったのは私の気のせい・・・?」
 そうこうしている内に、審判の龍人様が参戦者達を舞台の方へと手招きしていたのです。

 善戦祝いの言葉を皇帝陛下が告げ、参戦者達への報酬が支払われ闘技戦は閉幕・・・まあ私は大遅刻かましたので体感時間は短かったのですが。
 観戦者の人達も闘技場から離れていく者、世間話に花咲かせる者と後の行動は様々なのです。
「ん?シオンさん達がいつの間にかいないのです・・・試合中だったからゆっくりとはいかなかったですね」
(フィオナが闘技場に意識向けた辺りで立ち去っていったで、あの全身鎧を動かしてるのを認知してる感じやったなぁ)
「先程の白衣を羽織ったお兄さんがクルス商会を立ち上げた人だったとは予想外なのです、想像よりかなり若いのです」
 直接帝都にまで足を運ぶというところも意外ではあるのですが、お祭り好きなのですかね・・・それはそれとして。
(聞きそびれていたのですが、リアはもしかしてずっと話し掛けてきていたです?)
(気のせいじゃろう、無意識にそう感じたのかもしれぬの)
 心なしか食い気味で返された気がするのですが、リアもイベントでテンション上がったとかなのです・・・?
 と、ジオの方に副団長さんが声を掛けているようなのです。
「私と皇帝陛下を相手取っての見事な立ち回り、流石の一言」
「それはどうも・・・最後の攻撃に関しては失礼した、お二人の強さに切り札を思わず使ってしまった」
 無意識的な防御という意味では確かに最終手段なのかもしれないですけど、不敬罪とかは勘弁してほしいのです。
「流石はヴェルガリア様のご友人・・・力の片鱗を垣間見たと言えるであろう」
「いきなりジオが爆発したからびっくりしたよ!」
(本当なのだわ!危うくアタシ達も力を使うところだったのだわ!)
 神器の使用も勘弁なのです・・・レイブンがまた怒っちゃうかもなのです、そんな話をしていた所に魔導師の少年が話し掛けてきたのです。
「お久しぶりっす!ジオさん、俺のこと覚えているっすか?カームっていうんっすけど!」
「おおカーム君なので・・・・・・ごほん、いつぞやの実地訓練の時の少年か」
 学院卒業してからそこまで年月は経っていないはずですが、しっかり男の顔つきになっているのです。
「やっぱりジオさんの戦い方かっこいいっすね!俺も精進するっす!」
「ありがとう、私も気に入っているが・・・最後の一撃は参考にしないでくれ」
 私自身が把握していないもの・・・とは言いませんけど、自爆系は危ないですし・・・まあ誤爆だったんですが。
「城に戻る前に・・・ミリー殿に友人方、余の客人が明日会いたいとのことでな・・・よろしいかな?」
「構いませんけれど・・・皇帝陛下の客人とはどなたなのでしょう・・・?」
「余の友人でもあるアキ・クルスであるのだが、詳しくは明日神殿にて話すとのことだ」
「フィオナが喋っていた相手って、クルス商会の人じゃなかった?もしかして・・・」
「ああ、そのアキ・クルスだったようだ・・・後で気付いたんですけどね」
 そうなると観戦がついでで私達に用があったと・・・なんだか面倒な事になりそうな気がしてならないのですが。
 そんなこんなでこの場を解散し、打ち上げも兼ねて闘技場を後にするのでした。
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