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帝国編

在りし日、胡蝶之夢

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 かつて見知った者達や物が辺り一面に散らばる様は何ともはや・・・乱雑な光景なのです。
 一度通り過ぎた現実も数秒単位で過去の出来事、端的にこれは昔の記憶・・・なのですかね。
 私が歩いた筈の道であるのに、現在までにこれを辿った現実味が全くないのです・・・これがいわゆる前世の記憶、というのが今の私による主観なのです。
 中肉中背の男性、顔は真っ黒な影がかかり判別できませんが・・・青年なのか中年なのかも見る人の主観で変わる絶妙な年齢に加え、身体的に特別な特徴もないのです。
 記憶の剥離感が強く出ているこれは体感的には夢のよう、付随している感情は希薄ながらも存在しているようなのです。
 自分で体感したはずなのにどこか他人事のように感じるのは前世と今世の違いなのですかね、リア曰わく、元々の波長が真逆というのが原因かもしれないのですが。
 とは言え前世の意識のまま私は過ごしていた気がするのですが、いつの間にやら前世という記憶として捉えているのです・・・何ともおかしな話なのです。
 記憶を分離的に認識してしまうからこその感覚・・・どうやら前世の私はただの虚無主義者だったようですが、それこそおかしな話なのです。
 虚無と『主張』した時点で、他と大差のない方向性が違うだけの他者の思想に過ぎないのです。
 己という存在を強調しているそれは表層の意思、どこかの誰かの意志を主張し、誇張し、吹聴したもの、自身の根幹とは別の意志を刷り込んだものなのです。
 権威や金による力の拘束、愛や憎悪・・・喜怒哀楽の感情による呪縛・・・どうあっても人は何かしらに縛られていないと気が済まない生き物のようなのです。
 恐らくそれは生物的な知性の萎縮を代償にした、社会的知能の肥大による弊害・・・なのですかね、不必要に考え過ぎた結果自らで生み出した固着観念・・・概念にすら雁字搦めとはもはや自縄自縛なのです。
 前世での未練がないという嘘も筒抜けなのです、自分の根底意思の強調、ただそれだけのことを成せなかったという義憤・・・その記憶に付随している感情が無意識の未練を物語っているのです。
 私フィオナ・ウィクトールの経験と五感で体感した結果での意識、自身の主観を自分都合で解釈したものが私の視ている現実・・・結局、人とはそういう生き物に過ぎず、自ら生み出した創造の思想概念で誤魔化し、己の意思すらまともに直視できない知能肥大化生命体というだけなのです。
 転生なんて奇跡を体現していながら、前世の思想に束縛されるのだから手に負えないのです、既に記憶と化してしまいましたが・・・己自身の強調なんて、産まれた時点で叶っているというのに。
 母様から生を享けたのは自分の意志でなくとも、以降は私の意思で生きる・・・私にできるのは、己のクオリアで判断した、私という世界を強調し続ける・・・それだけなのです。
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