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帝国編

じょ、冗談じゃ・・・

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 姉様の赫炎剣(かくえんけん)・・・私が勝手に仮称している赤々とした光も収まり、共鳴音の落差で静さも際立つのです。
 激しい音だった割に残響音も感じないのです、耳がキンキンすることもなく驚きの静寂・・・これはもしかして鼓膜破れちゃったです・・・?
「ミリーは大丈夫だったです・・・?ミリー?」
 両耳を抑える仕草をしているミリーは微動だに、というよりぴくりとも動かないのです、人ってこんな完璧なまでの静止ができるものなのですかね・・・私はプルプルしてしまいそうなのです。
「ふむ、お主はやはり動けるようじゃな」
「はあ・・・それはどういう・・・?」
 周囲を見渡すと様子がおかしいのに気が付いたのです、1メートル程の高さがある舞台上の姉様は両手で剣を正面に振り下ろした体制でじっとしているのです・・・まばたきすらしないのです。
「ユラがフィアさんの後ろを飛んだ状態で静止しているのです、もしかしなくてもこれって・・・」
「時間を止められておる、妾がいる上で干渉してくるとはとんでもない無作法者じゃな・・・頭上を見よ」
「黒い羽根が舞っているのです・・・あれは・・・・・・な、そんな・・・あんなものが浮いて・・・!」


 舞台上空に浮かぶその姿は露出度高めの白いドレスを纏って、黒い翼を左右に大きく広げた紫がかった銀髪の女性だったのです。
「もはや半裸なのです・・・もうあれは痴女なのです完全に!」
「俗に言う履いてる履いてないの部分は回避できてはおるが、あからさまでは少々下品とも・・・」
「あんさんらやかましいわぁ!!好き放題言いおってからに!」
 えぇ・・・冗談が過ぎるのです、その天使みたいな外見で・・・いわゆる方言的な言語が発せられるとは思っていなかったのです。
「そのような言語でなくとも妾とフィオナは認識できる故、こやつの記憶を参考にせんでも伝わるのじゃ」
「どうして誰も彼も私の記憶を参照するのです・・・読み取りやすいのですかね・・・?」
 私の知見的に方言は乏しいのでそんなことをすれば、滅茶苦茶な言語が出来上がっちゃうかもなのですが。
「そうなんか・・・まあええわ、そんなことより、ようもやってくれたな・・・神器をくだらんことに使ってからに!」
「そういうことか・・・どういうことじゃ・・・?」
「私に聞かれても・・・その理屈であれば私達共に、神器を使うどころか触ってすらいないのです」
「妾は噛まれたから触った事になるのかのう、神器に齧られるというのも意味不明な事じゃが」
 時計の針が物理的に動かないとは違う時間の停止・・・超常現象に立ち合えるとは感激ではあるのですが。
「うちの力を超常現象扱いとは非常識な奴や・・・いやそもそも、なんでこの幼女動けるんや?」
「体感130はあると思っているので幼女言わないでほしいのです・・・・・・自分でそう言っておいてあれなのですが、幼女と少女の基準ってどこで判定されるのですかね・・・」
「妾を避けておった高次存在が地上まで介入してくるのは珍しいのう、こやつが動けるのは日頃から高純度のコーザル領域変換に慣れておるのが要因じゃろう、更に言うならコーザルクオリアによる高次認識が・・・」
「もうええもうええ!意味不明な用語使ってはぐらかそうって魂胆かいな!」
 憤慨している天の使いさん、時止めまでできる存在のようですが・・・視えるということは高次元体とも違うのですかね・・・
「因みにリアはこの人・・・?とお知り合いだったりするです?」
「この世界に降り立った時点で天陽に引きこもっていた種族・・・人族の歴史から忘却している、人語の表現を用いると神話的な存在、と言った所じゃな」
「神話・・・歴史好きなミリーからですら聞いたためしがないのです、この世界の創造神様なのですか?」
「星で例えるとお隣さんと言った所かのう、天陽の民がこの地上に叩き落としたのが魔族の祖先達・・・光月の民、言うなれば最寄りの異世界住人じゃな」

 私達がいるのが地上世界・・・普段何気なく見上げていたあの2つの恒星は別の異世界だったよう、ずっとそこに存在していたのか、導きのげっ・・・光月よ、なのです。
「サラッと流しかけたですが、魔族って言ったです・・・?」
「せやな、うちらの世界・・・天陽が大昔に衝突した光月の成れの果てや、正確には急接近した際の争いで3分の1くらい欠けたんやけど」
「はあ・・・魔族が異世界種族と考えた事はなかったのです、まだ直接対面もしていないですけど」
「悪いとは思ぉてんねんで?お詫びに神器を3つ地上に贈ったんや、ヘーリオス様に感謝してええんよ?」
「それっていわゆるマッチポンプ・・・問題を起こした側の救済処置が図々しいのですぅ」
「地上に降りる前に妾が来てしまった結果、深追いしなかったのじゃな・・・タイミングが悪かったのう」
 喋り方のせいか、つい軽口叩いてしまってるのですが、リアを避けていた存在が単身で乱入とはよっぽどの事なのですかね。
「話が逸れたわ、我等が天陽の神、ヘーリオス様から神器を託され、うちが調整して光月から贈ったというのに・・・私闘で行使するようなら回収するで!」
「押し付けた贈呈を徴収とはケチくさいのう、妾とだけ対話して穏便に済ます予定だったようじゃが・・・感情が先走った行動も堕天した影響なのかのう?」
「光月の管理を任されていたうちと部下共々黒くなってん、好きでこの色の翼になったんちゃうわ・・・堕天言わんといてぇな」
「神器を回収・・・姉様とフィアさんはどうなるのです・・・レイブン?」
「?レイブンってうちのこと言うてるんか、悪くない響きや・・・魂と連結してる以上、生命活動の保障はできへんなぁ」
「それは・・・本当に冗談が過ぎるのです、姉様の使った経緯はともかく、神器であるレイちゃん自身が承認しているのですよ?」
「レイちゃん・・・?神器にけったいな名前まで付けたんか、そろそろ怒ってええか?」
 最初っから怒っ・・・むむむ、話が通じないのです・・・言語自体が伝わっても、意思疎通を図れるかはどうかはやはり別だったようです。 
 リアが今傍に居ることで強行手段に出てないのは幸いですが、知性や理性が高くても、感情を御する事ができるかは別なのです。
「地上の生体能力で壊れる筈もない神器を損傷どころか消失やで、アイギスも無事とは言い難いしなぁ・・・それにしても、リアと呼ばれてるあんさん、何者や?」
「リアの存在を知らないのです・・・?これはどういう事なのです・・・」
「高次元体でないと領域の概念は認識できぬのじゃから無理もない、魔海でのコーザル体も恐らく認識していないであろう」
 高次存在ではあっても高次元体ではないということですかね・・・私もその区別はつかないのですが。
「地上の様子を静観しておったのなら必要なかろう、妾はヴェルガリアという、異世界の龍じゃ」
「ほんまか?ただの龍にあんな力があるとは思えへんのやが・・・あんさん相手に気安く喋っとるチビっ子も不可解やけどな」
「なるほどのう、メーインティヴの例外を除けば・・・フィオナの肉体と同化したアストラル体は感知できぬのか」
「なんや分からへんけど独特な気配の正体やろか、天陽からの交信でもチビっ子に関してはなんも聞かされてへんのやけど・・・あんさんは神器の回収に反対なんか?」
「命に別状がなければ肯定も否定もしないのですが・・・神器が認めた人ということではダメなのですか?」
「それはもう否定してるんよ、邪魔立てするんなら容赦できへんけど、リアはんはどうや?あんさんと事を構えるんわ避けたい所や」
「妾が手を出すまでもない、どのような選択をしようと見届けてやろう・・・レイブン」
「リ・・・リアが薄情なのです、見殺しだなんて人の心が・・・・・・人じゃなかったのです」
「ええんか?多少特殊な力があろうと人族やで?退化した光月魔族如きに苦戦していた種族がうちに勝てるん思・・・」
「妾にとっては些末でもレイブン・・・お主は既に重大な事象を体現しておる、退き際を見誤れば足を掬われるぞ」
「言うやないか・・・そこの幼女、フィオナやったか?諦めてくれれば無駄な殺生も減るんやけどな」
「あのぅ・・・姉様とフィアさんに影響が出ないように神器を外す方法とかは・・・」
「残念やわぁ、うちはあんさんの事別に嫌いやないのにな・・・せめてもの手向けや、自信作を披露したる!」
 口を開かなければ美しい堕天使の右手が天に向け掲げられ、欠如の月・・・光月からレイブンへと一筋の閃光が走ったのです。
「うーん?見覚えのある剣なのです、ほろ苦い記憶も何故か蘇って・・・」
 ミリーが嬉々として歴史を話している姿が脳裏をよぎったのです・・・あれはその時に見た・・・となると、嫌な予感がするのです。
「うちが模倣して完成させたディケオスィニのレプリカっちゅうことや、後悔しても遅いで」
 複製品とはいえ聖剣・・・じょ、冗談じゃ・・・リアの方に視線を向けると宿に常設されてあった椅子をいつの間にか転送して、優雅に腰をかけていたのでした。
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