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帝国編

異様と感じる、人の心理尺度

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『貴殿の作製したこのつうしんき、と言う魔導具は一種の革命であるな』
「活用していただけているようで何より、国家間のやり取りも書状を介する必要があるのは面倒・・・時間が掛かりますからね」
 外気魔力をネットワークとしての応用も上々、帝都の結界アーティファクトで遮断されないのを確認できたからこそだけど。
『ギルドにある試作の物で円滑に事が進んだ、素晴らしい功績と言えよう』
「届けた矢先に事態悪化するとは思わなかったけどね、聞くところによるとあの若者達は君がクロウディル王に要請していたと・・・実力を知っての事なのかい?」
『あそこまでとは思っておらんよ、流石はヴェルガリア様の認めし者達である・・・導きの古龍様は恒久の時を・・・霊峰山にて見守っていてくださったのですね・・・素敵だ・・・』
 ちょっと何言ってるのか分からないけど、相も変わらず古龍の話が混ざると様子がおかしくなる人だね・・・エクタシス君は今なんて言った?
「古龍・・・様だって?どういうことだい・・・いやそもそも、実力に関して見たかのように話しているようだけど、魔海での戦闘は報告で聞いたとかではないのかい?」
 市場に出した映像投射器で撮影したのかもしれないけど、夜間で使うにはまだ改良する必要があるから、まともに映ってるとも思えない。
 古龍が認めたという発言も本人から聞いてないと出てこないだろう、400年前の生物が生きているだけでも驚く部分ではあるけど・・・この世界の人間は100歳過ぎてても見た目では気付きにくいからなんとも。
『ヴェルガリア様の御力が戦場の光景を映して見せたのだ・・・貴殿の発明を参考にしたとの事、未来永劫誇るといい・・・映像投射器も喜んでいるだろう』
「龍族の力はデタラメだね本当に・・・そんなことまでできるのか」
 人族と龍族で魔導術の規準は異なるとの想定は間違いないようだが、構造を無視して再現できる程とはね。
 非活性状態の魔力を魔導術として行使している人族と、直接活性化させて扱える龍族や魔族の差もあるのか?
 死者の蘇生等は不可能とのことだから、自然の摂理は機能しているのだろうが・・・崇拝される存在故の不条理な力と捉えるべきか。
『かの者達の実力は闘技戦で直に観戦するとよいだろう、もしくは先にこちらに出向いてヴェルガリア様の御力を拝謁するのも・・・』
「映像はこちらでも確認する手段はあったのでね、存じていますとも・・・こちらの使者も体感済みさ」
『ほう・・・その事を貴殿は他の者達に話したりは、しておらぬよな?』
「隠し事があると言っているようなものだよそれは、さて何が問題なのか・・・空中戦を容易に行える魔導師とか、かな?」
 崇拝している古龍が現在進行形で帝都にいるよりマズいもの、考えても本当に分からないから困ったものだよ・・・制空権的には空飛ぶ魔導師は問題になりそうなものだが。
 この世界の常識で照らし合わせれば、魔力で飛んでいるのなら当然魔力切れが起こる・・・それ故に脅威足り得ないのかもしれないが。
『12年前から王都を飛び回っていたと、プロードス・クロウディル王から聞いておる、貴殿が問題視する事でもないであろう』
 シオンの調べではフィオナ・ウィクトールは17と・・・5歳の時点で飛べているだと、というより、そこは重要ですらないのか・・・異世界人の感性も分からないな。
「上空から一方的な戦術を行使する・・・と聞いてエクタシス君は危険因子になる可能性を危惧しないのかい?」
『歴史的に見れば翼付きの魔族に苦戦を強いられていたともあるが、今の時代に同族を警戒しても致し方なかろう』
 同族で争う想定が薄い人達だな・・・僕達の世界が異常なのかと勘違いしそうになるが、異様なのはこの異世界の方か。


『現存している神器は獣人国の1つだけであるが、現在はこの帝都内にある・・・実際は帝国も関係ないのではあるが』
「剣と盾と宝玉の神器と文献には記されていたけど、魔海での映像を漏洩されると困ると・・・あの場で神器が使用されていたとはね」
 獣人国セリオルには何度か足を運んだし、獣王に懇願して実物も拝見したが・・・占い師が使うような水晶を二回り大きくした物くらいにしか思えなかったな。
 しかしあんな宝玉を持っている人物は1人も居なかったが、どのタイミングで行使しているのか・・・神器と言うからには人智で及ばない力と考察する。
「そうなると、アイリ・ウィクトールの大津波を掻き消したあれか、鍛錬や才能による力なのかとも思案したが・・・神器の力だとして、宝玉を所有している様子は・・・」
 国級魔導術に匹敵する力に該当するなら、魔力の斬撃で災害規模の水害を打ち消したあの少女だが・・・懐に忍ばせれるサイズではない宝玉を肉眼で視認していなければ確信を持てるのだけど。
『神器メーインティヴは霊狐の姿になっているようだ、意思を持つ神器とヴェルガリア様が仰っておられた』
「シオン、アイリ・ウィクトールは霊狐を飼っていたと聞いていないが・・・普段は連れていないのか?」
 ソファーでコーヒーを優雅に飲み、職務放棄しているメイド服に問う。
「はい?」「あからさまな呆れ顔やめてもらえる?」
「いえずっと首回りにいますので、映像で確認済みと思っていました」
 タブレットに高解像拡大化したものが表示される・・・遠目だとマフラーのようだな、セリオル女王の使役している霊狐との色違いか。
 神器が使用者を選定した後に、姿が変わったとでもいうのか、宝玉は待機状態の形状だった・・・?
「40年でこの世界の常識に慣れたかと思いきや、非常識な事が次々と・・・国の方針や人々の観念がどうあれ、個人が神器なんてものを所有しているのに、囲わないものかね」
 国級魔導術を理論上行使可能な人物を宮廷魔導師として迎えるというのも方便なのだろうか、広範囲に影響を与えれる力を持つ個人を国内に留めるものと認識していたが・・・どうも意図したものではないらしい・・・困った世界だ。
「このミリー・シュタッドという少女が発動させているのは国級で合ってる?」
「術式規模から推定してそうでしょう、再現してみましょうか?」
「やめてもらえる?」「ただ・・・経緯が逆ではありますが」「?」
「効果範囲を狭める際、意図的に構築・・・結果、術式規模が広くなっているようです」
「抑制した上でこの前方竜巻と、それ以前に、術式を独自で組み上げている・・・だと?」
 わざわざそんな面倒な工程を挟んで威力を抑えるのもそうだが、それは古代文字を理解していなければ実行もできない・・・
「もしかしなくてもこれは国級指定を改良したものですらないのか、抑制なしだとどうなる?」
「不思議な事に上級程度の術式規模になります、術者の魔力量に比例するとはいえ、大半の魔導師が全力を賭しても、この威力への到達は困難でしょう」
「熟練の剣士に見られる魔力活性化を魔導術に適用してると考えれば・・・直感的でなく意識的に扱う前提でならあるいは・・・」
 それともこの杖に何か仕込まれているのか・・・フィオナ・ウィクトールが所持していた杖のようだが、アーティファクトの一種と仮定すれば納得が・・・・・・と、エクタシス君との話の途中だったな。
『貴殿の働きかけで鎖国気味の国交が改善しつつある、私としても刺激はしたくないのでな・・・内密で頼むぞ、アキ・クルス』
「獣人国の神器が人族を選んだというのも皮肉な話だね、留意はしておくよ・・・エクタシス皇帝陛下殿」
 通信を切り、静寂な中でコーヒーを啜る音が響く、僕も飲むかと思慮した所でシオンが用意してくれた。
「僕は共和国の統括者でもないのだから、迂闊に話し過ぎだよエクタシス君、侵略を企てる・・・なんて支配欲持ってたらどうするのさ」
「共和国在住者の認識ではクルス商会・・・アキを国家主席と認知していますけれど、事実上、企業が国を牛耳っている状態と言えなくもありません」
「共和制はどこにいったんだろうね、これだと君主制・・・まあ、民主主義が呼称に過ぎなく、国民の支持も機能してない全体主義よりはいいが」
 他国言いなりの名ばかり主権国家の母国も大概だったが、1人の商人に主導権譲渡は論外だよまったく。
「扁桃体と基底核の構造が少し違うだけでこうなるとも思えないが、感情回路的に支配欲がないとしか・・・」
「松果体や視床下部に魔力回路と位置付けている器官も確認しているでしょう、思考回路が異なるのも必然かと」
「疑似体組織と魔力集積回路を利用して血液系に作用させたにもかかわらず、僕が魔力操作できない要因だな・・・脳だけは・・・まずい」
「十分キチガイですけど」「一言で纏めないでもらえる?」
 シオンによる量子断層解析の精度でも、自分の脳を弄るのは流石に断念した・・・極小器官の体組織形成に必要な設備がないという理由だけども。
「それはそうと、ジュベレール所有の鉱山で確認した魔物の調査兼討伐はどうなっているんだい?」
「共和国内ギルドの調査依頼報告も複数上がってきてますが、一部は抗戦して討伐できてますね」
 スライム相手に苦戦はしないか、とはいえ魔物は元々が野生動物の変異体・・・この世界では未確認生物に該当する形状だね。
「歴史文献で確認されてない魔物を、さもいましたかのように依頼出してよかったのですか?」
「結晶種の時とも違うからね、造形すら未確認だと新種程度に収めれない」
「隠蔽の次は過去捏造と、どの世界でも権力は人を変えるようですねー」
「傀儡に持たせておくから権力なんだけども・・・変わったのではなくそれが本性なだけだよ、一緒にしないでもらえる?」
「誰かを指した言葉でもないのですが、そんなことより、魔物の名称を伝えてはありますが・・・必要ありましたか?」
「不定形型の魔物というのもね、レプリカーゼと名前だけ共通認識させておけばいいだろう」
 スライム、でもよかったけどね、特異個体ほど仰々しく名付ける必要もないだろうと冷めたコーヒーに口をつけた。
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