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帝国編

話すより聞く方が楽なのです

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 (・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
 宙に浮いたような感覚、真っ暗な周囲に音も聞こえず・・・しかし意識は明瞭で自身を見ようと試みる。
 見慣れた身体はそこにはなく、ただただ黒一色の空間だけが広がっている。
 心の声として己が何を言ってるかは認識できるが、発声は起きず、見回す感覚はあれど変わらない景色と無き肉体は動かせたのかどうかも分からない。
 (ーー・・・ーーー・・・)
 耳鳴りのようにキーンとする感覚が起こる、身体がないのに耳というのも変な話だが・・・ここは夢の中というわけでもないらしい。
 距離感を識別できないがうっすらと青紫の光の点が明滅する、夜空にたった1つだけ輝く星のように・・・・・・・・・
 覚悟など、それこそ傲慢に過ぎなかったのだろう・・・きっと、初めからそうするべきだったのだ。


 光の点から無数の青紫の線がジグザグに全方位へと一瞬で広がり、刹那、見慣れない木製の天井が視界に映ったのです。
「ここは・・・あれ、声が出せ・・・るのは当然として」
 首を上げ、下に視線を動かすと確かに存在する自分の体、上半身を起こし周囲を見回すと姉様にシーツを剥ぎ取られたミリーの姿が・・・少し寒そうにしてるのです。
 右の手元付近でしわくちゃになっていたシーツを広げてミリーに掛け、立ち上がって背を伸ばす。
「確か見張りは任せてゆっくり休んでと、浜辺付近の小屋で休養・・・・・・夢を見ていたようなそうでもなかったような・・・」
 生まれてから17年間、どこか鈍かった身体の動きは軽く、重石がなくなったかのよう・・・小柄だから当たり前なはずなのですが。
 戦闘が一晩で済んだからいいものの、着替えも用意せずに遠征は準備不足と言うほかないのです・・・帰ってお風呂にでも入りたいのです。
 この小屋と食堂の間辺りに井戸があったのを思い出し、皆を起こさないように扉を静かに開ける事にするのです。

 水を汲み髪に少しずつ流し洗い、タオルで拭いていると浜辺の方から戦闘を行っている音が聞こえる・・・定期的に出没しては討伐される魔物も儚い存在なのです。
 杖を転送し横乗りで浜辺に飛行し様子を眺めてみると、鰐人型2体と交戦しているよう・・・魔導師組も数人攻撃するも外皮で防がれているのです。
 ルスカ・カリーナ戦での国級魔導術の際にラニールさんへの供給で枯渇してるのも相まって、近接組でほぼ抑えてる状態のよう・・・名前を知らない剣士2人が爪の攻撃を弾き、飛び退いた所でエクレさんの2本の剣による斬撃が首を切り飛ばしたのです。
 空が徐々に明るくなってきていることから朝も近い、徹夜で戦っている上、私達がアーシルに到着する前からの疲労も重なっているとなると・・・呑気に寝ていたのは少々甘えすぎたかもなのです。
「一旦後退!油断は禁物よ!」
「救援に来てくれた子達は本当に学生上がりなのか?俺の剣でも簡単には攻撃が通らんぞ・・・」
「魚人型の対処は慣れたが、やっぱ鰐人型はきついぜ!」
 硬い代わりに動き自体は速くないことを生かし、距離を離し息を整えているよう・・・加勢するならこのタイミングが邪魔にならなそうです。
 刃先無き短剣を4本転送、レーザーブレード展開後に飛来させ、鰐人型の両腕両足の関節に刺し動きを封じて浜辺へと下り立ち更に別に転送しておいた、使いどころに困っていたチャクラムの刃部分をレーザーで覆い高速で回転させてみるのです。
「加勢するのです、御厚意に甘え過ぎたのです」
 レーザーを纏った回転する輪っかが鰐人型の首を飛ばすが、同時にチャクラムもバラバラに砕ける・・・形ある物は壊れる、物質も儚いのです。
「接着が甘かったようなのです・・・回転中に刃先が飛び散らなかっただけ良しとするです」
「フィオナちゃん!休んでいたはずじゃ・・・でも助かったわ」
「随分と簡単に倒してくれるな・・・あんな化け物を相手にしていただけはあるな」
「どうもです、皆さんもお疲れの様子なので・・・手助けができて何よりなのです」
 乾ききっていなかった髪を再度拭きつつ言葉を返す、ここにいる人達の冒険者ランクが高いとは言えど連日で戦場にいるのは大変なのです。
「しかしなぁ、イートから聞いた話とかなり印象が違うぜ・・・ああイートっていうのは俺の知り合いでなぁ」
「そうだな、冒険者ジオの正体が女の子とは思わなかったぞ・・・あいつも知らなかったんだろうな」
 この2人の剣士の知り合いの冒険者らしいがイートという名前は聞き覚えが・・・と思った所で同行依頼に誘われ疑われた時があった・・・気がするのです。
「いきなりだったな、俺ぁコーグだ。こっちは相棒のシーク、王都出身だから嬢ちゃんがよく空飛んでるのは見てたぜ」
「武器まで飛ぶのは初めて見たぞ、あんな自在に操れるものなのか?」
「2人共・・・フィオナちゃんが困ってるわ、私も気にはなってるけれど」
 強面な2人の男に言い寄られていた所をエクレさんが止める、見た目の印象よりお喋りな人達だったのです。
「わりぃついな、もう1つ気になってたのは勝利の宴中に作ってたあの鉄の箱みてぇなやつは・・・いったい何に使うんだ?」
「あ、はい。あれは空中輸送用の乗り物として使うのですよ」
「なるほど、意味が分からんぞ・・・いや空を飛ぶんだろうが、普通ではないな」
 人の会話を聞くのはいいのですが、自分で話し続ける状態はちょっと・・・ミリー達が早く起床しないかとそわそわしてしまうのです。
 そう思いながら小屋の方に目を向けると、ミリー達が外に出ているのが視界に入り冒険者の皆に会釈しつつ、その場を去るのでした。
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