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帝国編

騙して悪いが・・・最終決戦なのです

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 静寂が流れている魔海をその場にいた全員が唖然と眺め、事の実態を把握できずにいた。
 魔力拡散の起こる海での危険を伴う海上戦を行う救援冒険者(私達)、国級の域を超えた大爆発からの町を崩壊させかねない大津波・・・からの強大な魔力の奔流がそれを打ち消す。
 魔物の殆どが跡形もなく、巻き込まれたであろうルスカ・カリーナが原型を保っていたくらいだが・・・表面は焼きただれ鮫頭と胴体が切断されていた。
「・・・あれで生きていたら本当に化け物だね・・・それにしても・・・」
「事が同時に起こりすぎて、現状の意味が不明ですわ・・・」
「言葉遣いが可笑しいことになってるのですミリー、姉様・・・その姿はいったい・・・?」
 全身が激しく燃え上がっているように見えるが、近くへ寄っても熱を感じず・・・・・・は遠隔操作の弊害かもしれないが、アイリから狐の耳と尻尾が生えある種の神々しさを覚える。
「レイちゃんがね、なんだっけ・・・領域の接続?がどうとかで・・・え、私尻尾生えてる!?」
「聞き間違いでなければ、君はメーインティヴと言っていたな?・・・神器と同じ名称だが・・・」
 その少し前に核を穿ち砕いたのはヴェルトールではあるが、話がややこしくなるので黙っていよう。
「・・・レイちゃんってアイリさんの肩に乗っていたはずだけど、姿が見えずにその耳と尻尾と考えると・・・」
 どうやら、神器の核となっているメーインティヴそのものが霊狐の姿でいたらしい。
 フィアの持つアイギスも魂に連結されていることから、神器と呼ばれているそれ自体に形の意味はないようだ。
「万象を無視できる程のコーザル領域の力を物理的に発生させる・・・と、メーインティヴの神器特性なのです・・・かね?」
「発言の意味が不明でしてよ・・・口調が戻っ・・・まあ、もはや些末な事ですわね」
 魔力の性質を解放した結果の炎、それを大量の水に干渉をさせたら熱現象くらい起きそうだが・・・あれはそんなものガン無視で掻き消していた。
 どのような世界であっても一定の自然摂理を伴うだろうがお構いなしだ、魔導術擬きのように物質界の法則に囚われない現象化などこの世界ではコーザル領域を経由しないと実現は難しいと判断する。
「あ、でもすっごく疲れる・・・もう無理ぃぃ」
 全身の炎が霧散しへたり込む、この様子だとアイリ自身の魔力を直接変換して使ってるようだった。
「ラニールさんの言葉を借りるなら、理屈ではないと・・・過程がどうあれ結果として現実になったのです」
「ジオさんの喋り方どこかで・・・あ、フィオナちゃんがそんな感じで話してたわね」
「・・・今更だけど、ジオはフィオナの分身みたいなもので・・・」
 ユラがエクレさんに遠慮無しに暴露しつつ、どうにでもなれと魔海を見渡すと・・・いつぞやの違和感を覚える。

 排除 排除 排除 排除 排除 排除

 ルスカ・カリーナを間近にした時、後方の霧は本体から出ているわけではなかった・・・魔海の自然現象というのなら、今なお発生している霧は問題ではないだろう。
 頭に明確な排除という言葉が響いてる、声とも違うまるで思念のような・・・・・・だとすればあの大型ルスカは本体ではない・・・?
 霧の中に突如光が集束し始める、大型ルスカの残骸・・・その頭上後方から小さな太陽と思えるほどの強い光が発生する。
「な、何なんですの!あの光は・・・!?」
「あれは・・・・・・まずい・・・!!」
 流石に自意識過剰かと意識しないようにしていたが・・・あれの狙いは初めから私だったらしい、リアがこの世界にいる上で顕現したくらいに、目障りな存在を排除するかのように。
 事の騒動は徹頭徹尾マッチポンプだった気がしないでもないが、深く考えないようにした。
 ジオで前進し空に浮く、瞬間・・・痛烈な光線が前方に集中させたバリアーに直撃する。
 バチィィィィィィィィーーーー!!
 左腕を前へと掲げ、掌からレーザーシールドを重層的に複数展開させるも、次々に弾け飛んでいく・・・寧ろコーザル領域の直接攻撃で貫通されなかったのは僥倖と言わざるを得ないが・・・。
 光線の余波がシールド越しに襲いかかり、肘から下の左腕がひしゃげ弾け飛び、頭部と胸部装甲の左半分が吹き飛んだ所で照射された光は収束していき意識が引き戻された。


 視界が食堂を映し、慌てて左腕を確認するが支障はないよう・・・ジオ越しにやられていたら反動で骨は逝ってたであろう。
 直接鎧を装着していてもジオの肘から下は私の腕が届いていないけれども、頭部と胸部装甲は直接ダメージを受けていた可能性が高かった。
 部屋を見渡してもティシーさんは居ないよう、浜辺の様子を見に行ったのだろう・・・・・・私も食堂を離れ杖に跨がり浜辺へと飛行する。
 キュァァァァォォォォォンッ
「鮫頭が胴体に戻りながら叫んでる・・・再生能力を持っていたのか・・・?」
 だとしたら触手を斬り飛ばした時点で再生していただろうが、強烈な特大レーザーは霧内から照射されていた事から恐らく、本体が魔物を回復させてるのだろうか。
 ミリー達の傍に着地し周りの様子を見る、冒険者達は慌てるのを通り越し呆然と復活を遂げた大型ルスカを眺めていた。
「フィオナ!無事のようですわね!」
「わわ、ミリーが取り乱すのは珍しいのです・・・」
「・・・鎧の中にいなかったとはいえ、驚くよ・・・鎧は引き揚げたけど、よくこれで済んだね」
 意識を飛ばされるのがもう少し早かったらこの一帯が吹き飛んでいたのかもしれない、頭部と胸部装甲の左半分が剥げ内側を覗かせているが・・・動かすのに支障はない・・・いやまあ問題はあるけれども。
「あんな状態から回復するなんて聞いてないよ!私魔力もうないよ!!」
「国級で倒しきれなかったという次元ではないな、自然治癒どころか・・・時間が巻き戻ったかのようだ」
 ミリーが私の頭を胸元に抱きながら、大型ルスカを眺める・・・本体の方をカリーナと仮定するとして、問題はその姿が視えないことだ。
 コーザル体は元から現象化などしておらず、大型ルスカを使役した状態だった・・・ともすればあの霧は偶発的に発生したわけではないか。
「あんな攻撃、魔物が使えるようなものには思えませんわ・・・フィオナとリアさんが以前話していたのはこういうことですの・・・?」
「・・・高次領域がどうという話だったけど・・・フィオナが常識を無視できる事に納得はできたよ」
「私はあんなことできないのです・・・首が飛んだら普通に逝くのです。2人にだけ話すと、恐らくあの大型ルスカとは別に本体がいるです」
 こればかりは話を大きくしても仕方がなく2人にだけ言う、高次元体を直視する事ができない時点でどうしたものかと。
「・・・視えない本体、それがルスカ・カリーナを再生させていると・・・」
「本体の方をカリーナと仮称するとして、倒そうにも視えない以上、攻撃のしようがないので厄介なのですよ・・・」
「仮にも本体を倒せたとして・・・それであの大型ルスカがそのままだったとしたら、余力を残す必要までありそうですわね・・・・・・」
「プランD・・・所謂ピンチなのですが、分かっている事と言えば私を狙う事くらいなのです・・・なので・・・・・・」


 戦略は無し、申し訳のない程度の作戦もミリーとユラ頼みの後陣任せによる、私を狙いコーザル体が攻撃してくる事が大前提の特攻。
 これも前世の因果なのか、後先を考えない行き当たりばったりな人生は・・・一度死んでも治らなかったようだ・・・と、どんな言い回しをしようと見苦しいだけだろう。
 言い訳したところで状況は変わらず、高次領域以前に、現実も直視できないようであれば救いようはない。
 転生したことでフィオナ・ウィクトールを乗っ取った上に、本来なら問題のない世界に災厄を持ち込み友人他人まで巻き込むなど・・・これで幻想空想に逃げるようなら滅ぼされても文句は言えない。
 大型ルスカの頭上を半壊のジオで飛び越え、狙い通り霧から複数本のレーザーが飛んでくる・・・全方位バリアーで軌道を反らすが先程とは違い防げるよう。
 ノーチャージプラズマレールキャノンを数発霧に撃ち込むが手応えはない、やはり認識していなければコーザル体にはかすりもしないようだ。
 大型ルスカの触手が下から伸びこちらを襲うが、ユラの斬撃で射出されたプラズマブレードが切り裂き難を逃れる・・・距離を離す前に右側頭部で視界を遮られてる事で反応が遅れる。
 生身での視界ではやはりジオ視点の時のようにはいかない、視覚投影による処理も防御に回したのは仇になったが、圧縮された風の刃が右から迫る触手を切断する。
 浅瀬からディオールの杖が光を放つ、触媒結晶の輝きはミリーの魔力をしっかり反映させていた。
 ここまで2人に御膳立てされてるのだ、魂を賭けてでもコーザル体を止める・・・そう決めた以上無様な姿をさらし続ける訳にはいかない。
 コーザル体からしたら私がこの世界のイレギュラーなのかもしれないが、私個人のエゴを貫かせて頂く・・・みんなとただ一緒に居たいだけという私の我儘に許しは請わない。
   だからこそ・・・・・・きっと・・・このままで居続けるのは・・・・・・・・・雑念を振り払う。
「ここが!この世界こそが・・・私の魂の場所なのです!」
 青紫色に光る何かが私の周囲を漂い、それは一直線に濃霧を指す・・・・・・突如その先に巨大な黒い球体が出現した。
 闇夜の暗い空にぽっかりと丸い穴が空いたようなそれは、まるで周囲を飲み込むブラックホールのようだ・・・肉眼で観たことはないがそんな感想を抱く。
 直径20メートルはありそうな黒球だが、空間に穴が空いた異様な光景を大型ルスカを相手取っているユラがこれに気づかないはずはない・・・・・・だとすればこれが本体なのだろう。
 再生し続ける触手を延々と斬るユラとミリーの表情には余裕がある、ミリー達でも視えないのであればこれがコーザル体と確信した矢先・・・黒球の中心に光が集束していた。
 トンファーガンブレード長銃形態を構え、こちらもエネルギーを集束させる・・・銃身の上下刃先の間を青紫の雷撃が無数に行き来し、次第に雷球が形成されていく。
 プラズマレールキャノンのチャージは間に合わず、前方の黒球中心の光輝が放たれ直撃しようとした瞬間・・・・・・青紫のエネルギー膜が遮る。
 コォォォァァァァァァ
 黒球から放たれた光線の余波を一切感じないそれは私の意思によるものではない・・・が気にする間を惜しみプラズマレールキャノンを最大出力で照射し、青紫の光が衝突する。
 コァァァァァォォォォンッ
 常闇に一筋の光が走り漆黒の穴へと吸い込まれるかのように到達し・・・青紫の煌めきが黒い球体を覆い、一点へと光は集束していき世界から霧散していった。
 
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