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帝国編

有力冒険者は行方不明

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 特殊個体ルスカの特徴から私が想像したのはサメの頭に巨大イカがくっついたのが印象的だった、海の魔物クラーケンに近い造形をしているみたいだ。
 これはあくまで過去に確認されたものだが、今回出現している特異個体ルスカ・カリーナは少し異なっているらしい。
「沖で確認されてる大きさが約3倍であることに加えベンタルミナ・・・魔石が露出してる事から結晶種で間違いないようです」
「図書館で確認しましたが、触手が生えているみたいですわね・・・・・・虫型よりはまだ許容範囲ですわ」
 ミリーにとっては虫型以外ならマシ判定のようだ、30メートルの虫型とかならミリーでなくてもご遠慮したいところではあるが。
「頭部の下に半透明な膜で覆われているとも、どういう役割があるのかまでは不明との事です」
 サメにイカにクラゲと、海洋生物のキメラみたいな姿とでも言うべきか。
 外形がはっきり確認されているなら、現象化しているコーザル体で間違いないようだ。
 私がコーザル領域の力で現象化させている魔導術擬き同様、この世界の魔力で干渉できるのであるなら・・このルスカ・カリーナも例外ではないだろう。
「・・・魔物の核とも言える魔石が見えてるなら・・・国級魔導術で狙ええたりしない?」
「術式にもよりますが、可能性は示唆されていますね・・・正式認定されている国級魔導術を使える者が限られている事が問題ですが・・・」
 大型ムカデの時は魔力が阻害されていたが、魔海ではそういった制限もないことから射程や威力も大きい国級魔導術での先制攻撃は妥当と判断しているようだ。
「国級の術式を構築できる宮廷魔導師が戦線に出向くなど大戦以降なかった事態です。」
「宮廷魔導師が国外に出向くともなれば、それこそ国民に大戦と同等の事が起きてると公言するようなものですわね、ディオール級の魔導師でも使えるとは限りませんし」
 国級魔導術は基本複数人で使う事を前提としている、術式構築自体は1人で行い、魔力量の問題を複数の魔導師でカバーするといったもの。
 それを個人で行えるのは宮廷魔導師でも一部、王都ではキルス・ハイアット・・・クレイの祖父がその1人。
「ハイアット様もお年を召されておりますから、前線に向かうのも国級を使うのも厳しいでしょう」
「冒険者ランク、ドラグーン級の魔導師を召集するというのはどうです?」
「・・・冒険者ランクが高いのと、国級を使える魔導師はまた違うと思う」
 いっそ龍族の方々にと言うとさっきの宮廷魔導師が出向く事態と大差がなく、寧ろ龍族が相手する必要があるとなれば大戦以上の局面に瀕した状況と言っても過言ではない。
 やはり冒険者での討伐というのは、個人でチマチマやっている方が気楽なのかもしれない、あーだこーだと言っている皆を眺ながら感慨に耽るのであった・・・。

 現在話し合っている状況から、私達が向かった段階で戦闘を始めそうな流れなのだが・・・こういう時、現場との連絡手段が早馬飛脚みたいな方法くらいしかない。
 電磁波問題があろうとやはり携帯電話は便利であった、とそんなことを考えていると。
「少し前にクルス商会から試作中のつうしんき?というものが文書とともにギルドに届いているのです」
 ヒュージさんが引出から長方形の箱を机に置く、上下に丸いフィルターのようなものが付いており・・・受話器や初期型の携帯にも見えなくはない。
「対となるものをアーシルに届けると・・・これによりアーシルとの連絡が可能とのことですが、どういう意味なのでしょうね・・・・・・?」
「いつかやるとは思ってたのです、寧ろ意図的に実装を遅らせていたとも・・・離れた場所の音を繋げる道具だと思うのです」
 電波塔もないことで、他の製品のようにこの世界での模倣は難しかったのだろうか。
「相変わらず、フィオナはクルス商会の作る物には鋭いですわね」
 アーシルに届き次第連絡がくる手筈ということらしいが、だとすれば討伐隊の現地編成も大方整っているのだろうか。
「王都から有力な冒険者が来るという話もあったのですが、ジオという名前の方ですが・・・皆さんはご存知でしょうか?」
「ええ・・・そう・・・ですわね・・・・・・実地訓練の時にお世話になりましたわ」
「・・・私も実地訓練の際に共闘したことなら、今は確かミスリルの冒険者だと」
 ミリーは言い淀み、ユラは堂々と・・・嘘は言ってない分2人の反応は対称的だった。
「確かフィオナちゃんが大森林の時会ったことあるって言ってたな、特殊な魔導具を譲り受けたと・・・短剣の取っ手にしか俺には見えねえが・・・」
「そうだね、意識がなくても反撃する熱線を放つ短剣型の魔導具とか?どうやって作ったんだろうね?」
 バードナーはともかくレナは知ってて言っている、ジオの姿形を知っているのはミリー達だけではあるが。
「全身鎧で長身、背中に独特な長物といった人物という特徴・・・誰かしら目撃しててもいいはずなんですが・・・」
 嘘に嘘を重ねた結果どんどんややこしくなっていた、始まりがただの年齢詐称だったとは理解されずらい事だろう。
「居場所に心当たりがあるので、少々お時間いただくのです」
 試験運用を思案していた遠隔操作も、ついでに試みる・・・面倒な事になった。

 部屋の外に一旦出て、周囲に人が居ないのを確認しジオの鎧を転送する・・・いつもなら鎧の中に入るが、そのまま普段通りに全身鎧を動かすイメージをする。
 今更だが鎧に魔力を通して動かしてるつもりだったからこそ、鎧の中にいる意味が実はないのだと。
 魔力が通ってもいなければディオールのように領域の力を鎧が認識しているわけでもない・・・なら何故動くのか。
 思考操作は鎧の外からでもできるのだろう・・・鎧を自分の身体を含めて動かしていたという錯覚に近いのやも。
 意識を向けジオとして動作させると、中身がいないはずの全身鎧の腕は構えを取る。
 私の腕は動いていないことから中に居たときは鎧に引っ張られていただけのようだ、左目だけジオ頭部の視界をイメージすると・・・小さな少女が映る。
 視界に鏡とは別の形で自身が見えるのは不思議な気分である、感覚的には片目だけVRゴーグルをつけているようなものだろうか。
 数十分試し、できる事を再確認してみると、ジオと私の身体を別々に動かせはするが同時にとまではいかない・・・マルチタスクの際の同時に処理するのではなく右脳と左脳が高速で切り替わるといったものだろう。
 片方をスムーズに動かせばもう片方はぎこちなく動く、これで戦闘を行うのは難しいだろう。
 残念ながらこれは天才的な頭脳の処理能力でもないと実現は無理、私が黙っている間ジオを意識して喋れば鎧頭部から声が出る・・・ということで個別に存在するという錯覚を起こさせる程度。
 考えた末、大人しく正体を明かす事に決めたのであった。
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