12 / 71
第一部 第二章 エウドクシスの大難
7 山頂の屋敷
しおりを挟む(今頃、リィウス様は……)
娼館で淫猥で残酷な主や調教師たちによって、男に抱かれるべく手ほどきを受けているのかと想像すると、アンキセウスは己のうちに昂ぶるものを感じた。
そして、出口をもとめるその昂ぶりを発散させるべく、ナルキッソスの左脚を引っぱりあげる。
「ああ……!」
あられもなくナルキッソスは衣の裾を乱した。すでに準備ができているようだ。
(淫乱め)
最初にこのことに気づいたのはいつだったか……。アンキセウスはどこか奇妙なものを彼に感じていた。
歳の割に大人びたところがあったが、ふとした瞬間に、アンキセウスに色目を使ってくることがあったのだ。流し目を見せたり、科をつくってみせることもあった。最初は、冗談かふざけているだけだと思っていたが、それがだんだん高じてきた。
十歳になったころには、すでに幼娼婦の片鱗をナルキッソスは見せていた。両親と兄は気づいていなかったかもしれないが。いや、もしかしたら母親の方はうすうす気づいていたかもしれないが、彼女は病弱だったせいで、あまり口出ししなかった。もともと解放奴隷あがりなので、その出自に劣等感があったのか、万事に控えめだった。それはアンキセウスも同様だ。
もったいない待遇を受け、奴隷の身分から解き放たれたとしても、それで本当の自由民になれるかといえば、話は微妙だ。奴隷ではないが、正当なローマ市民でもないという特殊な身分で、どちらにも入れず、どちらからも白い目で見られて生きるのが解放奴隷という立場の人間だ。幸か不幸かアンキセウスは有能なので、前の家令からはひどく妬まれた。ささやかないやがらせは日常茶飯事だ。下働きの奴隷からは、うまくったやった奴と妬まれ、やはり距離を置かれていた。
(結局、俺たちは同類ということか)
この少年も、いくらプリスクス家の次男として優遇されたところで、元奴隷、奴隷の子という烙印は一生消せないのだ。もしかしたら、それが彼をいっそう歪めさせたのかもしれない。
アンキセウスは、熱する身体をもてあましながら、それでいて冷めた頭の隅でそんなことを考えながら、ナルキッソスの太腿をつかみ、己の欲望を、若い、というよりまだ幼い身体に注ぎこんだ。
「うっ、ああっ、アンキセウス!」
相手に名を呼ばれ、達する瞬間、アンキセウスは目を閉じた。閉じた瞼の裏にリィウスの露に濡れたような蒼玉の瞳が浮かんだ。
娼館で淫猥で残酷な主や調教師たちによって、男に抱かれるべく手ほどきを受けているのかと想像すると、アンキセウスは己のうちに昂ぶるものを感じた。
そして、出口をもとめるその昂ぶりを発散させるべく、ナルキッソスの左脚を引っぱりあげる。
「ああ……!」
あられもなくナルキッソスは衣の裾を乱した。すでに準備ができているようだ。
(淫乱め)
最初にこのことに気づいたのはいつだったか……。アンキセウスはどこか奇妙なものを彼に感じていた。
歳の割に大人びたところがあったが、ふとした瞬間に、アンキセウスに色目を使ってくることがあったのだ。流し目を見せたり、科をつくってみせることもあった。最初は、冗談かふざけているだけだと思っていたが、それがだんだん高じてきた。
十歳になったころには、すでに幼娼婦の片鱗をナルキッソスは見せていた。両親と兄は気づいていなかったかもしれないが。いや、もしかしたら母親の方はうすうす気づいていたかもしれないが、彼女は病弱だったせいで、あまり口出ししなかった。もともと解放奴隷あがりなので、その出自に劣等感があったのか、万事に控えめだった。それはアンキセウスも同様だ。
もったいない待遇を受け、奴隷の身分から解き放たれたとしても、それで本当の自由民になれるかといえば、話は微妙だ。奴隷ではないが、正当なローマ市民でもないという特殊な身分で、どちらにも入れず、どちらからも白い目で見られて生きるのが解放奴隷という立場の人間だ。幸か不幸かアンキセウスは有能なので、前の家令からはひどく妬まれた。ささやかないやがらせは日常茶飯事だ。下働きの奴隷からは、うまくったやった奴と妬まれ、やはり距離を置かれていた。
(結局、俺たちは同類ということか)
この少年も、いくらプリスクス家の次男として優遇されたところで、元奴隷、奴隷の子という烙印は一生消せないのだ。もしかしたら、それが彼をいっそう歪めさせたのかもしれない。
アンキセウスは、熱する身体をもてあましながら、それでいて冷めた頭の隅でそんなことを考えながら、ナルキッソスの太腿をつかみ、己の欲望を、若い、というよりまだ幼い身体に注ぎこんだ。
「うっ、ああっ、アンキセウス!」
相手に名を呼ばれ、達する瞬間、アンキセウスは目を閉じた。閉じた瞼の裏にリィウスの露に濡れたような蒼玉の瞳が浮かんだ。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる