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16 魔族の契約 *

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 食事を終えて宿へ戻ると、女主人がニコニコと手招きした。

 「見てください。お腹いっぱいになって、眠っちゃったんです。可愛い」

 膝の上で丸くなる様は、どう見ても猫である。毛の艶が良くなっていた。

 「よほど良い物を食べさせてくださったんですね。ツヤツヤしている」

 「これは、洗ってあげたんです」

 ええっ。と俺は驚いて女主人を見た。普通に生きている。ゾンビ化したり、取り憑かれたりもしていない。

 「引っ掻かれたりしませんでしたか?」

 俺は、恐る恐る訊いた。女主人は嬉しそうに猫を撫でた。

 「ゾーイちゃん、とても賢いですね。ちゃんと私の言葉を分かって、大人しくしてましたよ。奮発して、干し肉なんかも食べさせちゃいました。お代は結構ですからね」

 「ご親切に、ありがとうございます。ちょっと、シャワーを浴びてきてしまっても大丈夫でしょうか?」

 女主人が、猫から離れがたそうだったので、俺は提案してみた。

 「どうぞどうぞ」

 喜んで送り出された。そのまま宿屋の看板猫になればいいのに。


 だが、俺がシャワーから戻ると、黒猫は起き上がって待っていた。俺は仕方なく引き取って部屋へ行く。
 部屋の扉を閉めるなり、猫を放り投げた。魔族は猫らしく、ベッドの上へ着地した。

 「乱暴はよせ」

 黒猫が言った。

 「話の続きだ。お前、何を企んでいるか、素直に吐け」

 「前にも言ったが、オレは記憶を取り戻したくてお前に頼ったんだ。オレが魔族だって言うなら、オレはもうお前と主従関係になっているぞ」

 「何だって?」

 「さっき、オレに名前つけただろう。オレはお前によって、ゾーイという存在になったんだ。魔族の名付けには、そういう意味がある、という知識も思い出した。やはり、お前と一緒にいて正解だ。もう、嫌でも離れられんが」

 「俺に従属しているなら、命令すれば離れられるだろう」

 「うわあ、勘弁してください。なんでも言うこと聞きますから」

 急に言葉遣いが丁寧に変わった。猫の顔で、人間みたいに泣きそうな様子を見せる。

 「それなら、俺が死ねって言ったら死ぬのか?」

 黒猫は、ガタガタ震え出した。

 「命令、なさるので?」

 「今は、聞いているだけだ。正直に答えろ」

 ここの女主人の猫好き度合いを見るに、明日の朝になって猫が死体で見つかったら、宿を追い出されるだけでなく、要注意人物の回状が発行されそうだ。

 「死ぬと思います。そういう場面を見た記憶を思い出しました」

 「分かった。必要なら命じる」

 「ふええ」

 猫が腰を抜かした。俺がベッドへ近付くと、前足だけで必死に逃れようとする。

 「俺はそこで寝る。邪魔だ、どけ」

 「は、はい」

 腰が抜けて思うように動けないようだ。俺は放り出そうと猫をつまみ上げ、止めた。

 もふもふだった。

 思わず撫でてしまいそうになる。撫でたって死にやしないが、負ける気がする。俺は、布団へ潜り込んだ。

 「おやすみ」

 「え? お、お休みなさいませ」

 戸惑った猫の声を聞き、しまった、と思う。つい、習慣で言ってしまった。今更取り消せない。
 久々の布団の心地よさに、俺はたちまち眠りへ引き摺り込まれた。


 木の上で眠っていたら、枝に絡まった。狭い。重い。鬱陶うっとうしい。

 俺は目を開けた。

 黒髪の少女が絡まっていた。

 脳内を目まぐるしく記憶が駆け巡る。

 ゾーイだ。寝る前に、黒猫だった奴だ。こっちが本体なのか。人型魔族となると、ヒエラルキーの上位にいそうなものだが、魔力をほとんど感じない。サキュバスにしては、色気もない。

 「う~ん。むにゃん」

 猫だか人だかわからない寝言を言いながら、ゾーイが絡めた手足に力を込めた。自然と体が密着する。
 俺は、目覚めたばかりである。奴は、全裸だ。俺の息子が奴の割れ目を擦ってしまったのは、不可抗力であった。

 「あんっ」

 思いもかけずエロい声を耳元で出され、俺の腰がびくりと反応した。

 「あっ」

 ゾーイがあそこを押し付けてきた。擦られた俺の陰茎が、一層固くなる。胸をまさぐってみたが、大きくなる気配はない。やっぱり淫魔の類ではなさそうだ。

 「はあっ、はあっ」

 彼女の息が荒くなる。うっかり乳首をいじっていた。小指の先ほどの小さな乳首が固く尖り、俺の指先にまとわりつく。

 「うあ?」

 ゾーイの手が、俺の勃起したモノを掴み出した。そのまま割れ目に当て、ディルドみたいにグイグイ性器へ押し当てる。

 しかし、ここまでやってまだ寝ぼけているのか、単に不慣れなのか、膣には入らない。

 俺は、下へ手を伸ばし、クリトリスをいじってみた。たちまち膨れる感触があった。粘り気のある液体が指を濡らす。

 「はあん。ご主人様、挿れて欲しいです」

 ゾーイが薄目を開けていた。俺は我に返った。

 「それなら、うつ伏せになれ。声を抑えろ」

 彼女は素直に従った。俺は、高々と突き出された小さな尻に、イキリたった俺自身を埋め込んだ。

 「あうう~んんっ」

 にゅっぽりと根元まで呑み込んだ膣をヒクヒクさせて、嬌声を必死に堪えるゾーイ。
 中はじっとりと濡れている。俺は、慎重に出入りした。

 危なかった。うっかりキスするところだった。相手は魔族だ。キスで吸血とか吸精をされるかもしれないし、首筋を噛まれるかもしれない。

 そんな相手に挿入して大丈夫か、という問題はあるが、そこは成り行きである。警戒しつつ、小刻みに膣内を刺激してやるうちに、蜜が溢れ、吐息に艶が増した。

 「んむっ、はあっ、あっ」

 シーツを掴み、懸命に堪えていたゾーイの快感が、高まってくるのを感じた。俺は、思い切り奥へ突き入れた。


 「おはようございますう、って、あれ? 誰もいない」

 女主人が勢いよく扉を開けた時、俺たちは猫と服を着たその飼い主に戻っていた。

 「おはよう、ございます?」

 俺は、戸惑いつつも、挨拶を返した。もうチェックアウトの時間なのだろうか。そこで思い出した。

 「ちょうど良かった。しばらく、ここへ連泊したいのですが、よろしいでしょうか?」

 あのフクロウが戻るまで、この街に滞在することにしたのだ。部屋は早めに押さえておきたい。

 女主人は、躊躇ためらった。黒猫姿のゾーイが、なーご、と絶妙な甘え声を出す。
 ハッとした女主人は、猫を抱き上げ、尻を覗き込んだ。

 「さすがに、それはないか」

 「何がです?」

 さっきまでじゅぽじゅぽ出し入れしていた穴は、今は猫らしく閉じている。
 平静な口調と表情を保つ陰で、俺はどきどきしていた。

 女主人は、猫を床へ下ろし、咳払いをした。

 「ええっと。うちは、連れ込み禁止です。娼婦とか」

 「はい」

 「ご自分でなさる時は、声を抑えてくださいね」

 「え? はい」

 「ベッドのきしみがうるさいって、階下のお客様から苦情がありまして」

 やっと事情がわかった。次回は立位にしよう。もしかして、獣姦を疑っていたのか。ある意味、間違ってはいないのだが。

 「連泊は可能ですか?」

 俺は、事務的に尋ねた。

 「はい。支払いは一泊毎になります」

 と、女主人は手を出した。


 フクロウは、数日で戻ってきた。

 「お連れ様も、ご同行願います」

 意外な伝言だった。それまでに、ゾーイと俺は何発もヤリまくっていて、多少の情が湧いていなくもなかった。
 弱々しく見えても、従属の契約が成立していると言われても、殺すとなれば、簡単にはいかない気がする。
 フクロウの伝言は、俺にも都合が良かった。

 「わかった」

 「では、あちらでお待ちしております」

 言うだけ言って、さっさと飛び立つフクロウ。指定地点までは、自力で行けと言うことだ。
 俺は、翌朝宿を発った。

 「ザックさん。また、お立ち寄りくださいね」

 連泊中に、女主人とも一発ヤッていた。俺とゾーイの声に聞き耳を立てて、興奮してしまったらしい。
 最後まで彼女は、俺が一人エッチで二人分の声色を使うのだと信じていた。ゾーイが人間の姿を見せないようにしていたし、猫姿になると尻の穴が閉じる。その辺りが妥当だとうな解釈だろう。

 俺は曖昧あいまいに微笑んだ。

 「みゃあ」

 ゾーイが毛を逆立てて威嚇いかくした。こちらは、俺が女主人を抱いてから、彼女に抱かれるのを嫌がるようになったのだ。

 この状態が長く続いたら、宿を追い出されたかもしれない。
 潮時しおどきだった。
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