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11 団長のハーレム
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当たり障りのない事実だけを答えつつ、俺は頭の中で忙しく整理する。
ホレスは隊長で、恐らく昨夜の当直責任者だった。
オーク目撃談を軽く見て、マーゴを派遣したのは彼である。
そして、勤務明けに娼館へ行きたいがため、部下の帰還を待たず、副団長に引き継ぎをした。
今の話だと、ホレスはマーゴとリタを派遣したことになる。
実際リタが現場にいなかったことは、俺がよく知っている。ホレスは知らないままのようだ。
メイナードは、リタが仕事をサボったことを、少なくとも現場に来た時点で知った筈だ。
それなのに、ホレスにそのことを指摘せず、従って罰してもいない。
警備を司る騎士団として、あり得ない態度であった。
リタと団長は恋愛関係にある。だから、戻らない二人を心配した副団長が、自ら探しに来たのかもしれないし、出動する時点で既にリタの居場所を知って、後始末のために来たのかもしれない。
新人騎士のマーゴが戻らない以上、オーク出現情報は本物の可能性があった。
そこに、俺がいた。
最初は金で適当に追い払おうとした。ところが名前を聞き、オークの切り口を見て、アデラの知り合いと知ると、強引に本部へ連れてきた。
素人の俺がちょっと見ただけで、騎士団の規律が緩んでいることはわかる。
アデラは王都騎士団の副団長である。俺には休暇で来た、と言っていたが、実は別の目的があったのか。
だとしても、単なる知り合いの俺に、わざわざ目撃させて、どうしろと?
接待して口添えでも頼むつもりか。俺に、そんな力はない。
まさか、口封じ?
結果的に、オーク退治を新人騎士一人に任せたことは、騎士団の失態である。リタがサボったことを隠蔽したかったのだろうか。
他にも色々な問題がありそうだ。
俺の知ったことではないのに。アデラの知り合いというだけで、誤解されている。
王都騎士団に告げ口されないよう、別の場所で始末し、死体を隠したら、行方不明を口実に調査団を派遣されるかもしれない。
騎士団内で、大勢の目撃者の前での病死を装えれば、領主側の調べも逃れられる。
先ほどメイナードが団長室へ行ったのは、俺の暗殺計画を相談するためかも。
俺は何の権力も持っていないのだが。
余程、勝手に帰ろうか、と思った。
これが全部俺の妄想だったら、平民が一人宴会を辞退したところで、残る騎士に魔獣料理の取り分が増えるだけだ。
まさかの真実だったら、逃がしてもらえない。
「ホレス隊長、ご案内ありがとうございました。私は、そろそろお暇しようかと思います」
「おっそうか? じゃあ、上に言っとくわ。また、マダム・ヤンのところで会ったら、よろしくな」
ホレスは、あっさり俺を解放した。暗殺計画が存在したとしても、騎士団ぐるみではなさそうだ。
俺は、ほっとして出口へ向かった。
マーゴがいた。徹夜してその後の書類仕事で食事も抜いている筈なのに、俺を見た途端、元気に駆け寄ってきた。若さと体力の成せる技である。
「ザックさん、決裁間に合いました! ご協力ありがとうございました。バジリスク、食べて帰りますよね?」
両手を握り、上下にぶんぶん振り回す。徹夜ハイという奴だ。
「いや、私はもう帰ろうかと」
「え~そんなあ。もうちょっとで、夕食の時間になるのに。あ、そうだ。私の剣捌きをお見せします。夜のオーク相手は、ちょっと無理だったけど、本気を出したら、私も結構できるんですよ。何なら、お相手してくださっても」
もはや、酔っ払いと同じである。
「そんな。私のような素人が、騎士様のお相手など務まりません」
「マーゴ。ザック殿の手を離して差し上げろ。ザック殿、お待たせしました。もうすぐ夕食の準備が整います。それまで、私がお相手致しましょう」
水牛人がにこやかに登場した。暗殺決定である。
食堂のテーブルと椅子は、ホレスに案内された時と違って、蹄鉄型に並べられていた。
中央に、骨付き鶏もものローストが山盛り。バジリスクである。他にも茹でたササミや、唐揚げが並ぶ。
その周囲を、パスタやパン、果物なんかが取り巻いていた。酒樽もあった。
宴会仕様である。
ゴールト団長も出席した。リタが側にベッタリと侍っている。
そればかりではない。
少し離れてはいるものの、団長の周辺は、全員女騎士で占められていた。マーゴも、女性陣の中では一番離れた席ではあるが、一応団長の取り巻きのような位置に座っていた。
「今日は、オークを退治した上に、バジリスク肉が大量に手に入ったことを祝う宴だ。大いなる貢献を果たした騎士マーゴに、最初の一口を味わう褒美をやろう。こっちへ来い」
マーゴは自分の皿とフォークを持ち、大回りして、団長の正面から近付いた。
各自の席の前には、それぞれバジリスクステーキ一切れとカップの酒が用意されていた。彼女の皿にも肉は載っている。
うっすらと失笑が起きた。俺の思うに、手ぶらで良かったのではないか。嫌だけど。
ゴールト団長は、近付くマーゴを見てニヤリと笑った。
「おいおい。俺にも食べさせてくれるのか。団長思いだな」
「え? あ、はい」
マーゴは徹夜ハイの効果が切れてきたようだ。ぼんやりとした返事をした。
団長は構わず、自分の皿にフォークを突き立てた。ステーキの一切れを、マーゴの口へ押し付ける。
本能で齧り取るマーゴ。およそ一日ぶりの食事なのだ。徹夜明けで起きたままでもある。周囲の喧騒の意味など、理解できないだろう。ただ、目の前にぶら下がった肉を食べたい一心だ。
「よーし。次は、お前が食べさせる番だ」
団長が突き刺したフォークを使う手もあった。そうすれば、マーゴの肉は齧られずに済む。しかし、彼女は両手が塞がっていた。自分の皿にある肉を差し出すしかない。
マーゴが肉を差し出すと、団長はフォークを掴む手の上から握り込み、ステーキを食いちぎった。
「待たせたな。乾杯といこう」
マーゴの手は握ったままである。団長はそのまま乾杯し、宴会に突入した。その隣でリタがマーゴを睨んでいる。
「団長。お酒のお代わりいかがですか? ちょっと、マーゴどいてくれるかな。団長の邪魔になっているじゃないの」
頭が熊の女騎士が、ピッチャーを持って団長の前に来た。そう言えば、彼女は俺たちの近くに座っていた。こうして全身を見るまで、女だと気付かなかった。
「あら、マリイ。気が利くじゃない。マーゴ、どきなさいよ」
反応したのは、リタだった。両側から女に迫られ、団長は渋々マーゴの手を離した。
熊騎士が酒を注ぐ間に、彼女は席へ戻る。途中でササミを仕入れていった。徹夜とプチ断食明けは、あっさりした物が口に合うのかもしれない。
「団長、私もお肉を食べさせてください」
「私のお肉を食べさせて差し上げますわ」
「団長~」
マリイが離れると、近くの席に座る女騎士が、次々と皿やカップを持って団長に寄ってきた。リタがあからさまに不機嫌な顔を見せるが、彼女たちは気にしない。
「おお、お前たちも気が利くなあ」
団長もまた、女騎士に機嫌よく応じる。酒や肉のやり取りが始まった。
俺は、彼らを眺めながら、うっかりバジリスクを口に入れてしまった。
乾杯の時は、飲んだフリで誤魔化したのに。しかも、肉の焼き加減、味付け共に、絶妙である。あああ、と思ううちに、咀嚼して飲み込んでしまう。
美味い。毒どころか、力がみなぎる気さえする。
そういえば、魔物の肉を食べるのは、随分と久しぶりのことだった。
急いで自分の酒と皿をスキャンした。
どこにも毒は入っていなかった。ほっとした。
「ご心配なく。毒は入れていません」
二口目のステーキを齧った俺に、メイナードが囁いた。俺は咽せそうになった。
「副団長様は、魔法をお使いになりますか?」
「形程度です。相手が魔法を使う時に、攻撃パターンを読む参考として習得したので、自分ではほとんど使えません。ザック殿が、相当の使い手であることは、何となくわかります」
すると、暗殺する気はないのだ。少なくとも食事中は。
「私には、何の権限もコネもありませんよ」
「お言葉通りでないことを期待します」
メイナードは、毒など入っておりません、とアピールするように、ステーキをむしゃむしゃ平らげた。頭が水牛でも、食事は人間なのだ。
「休暇で立ち寄られたアデラ殿にも訴えました。あの方も、特に約束はなさいませんでした」
立ち上がって、お代わりのローストバジリスクを何本か持ってきた。俺はそこから一本分けてもらう。
「組織は、上下の別が守られねば成り立ちません。私にも、妻子という守るべきものがあります」
副団長の目線の先は、団長に向いていた。俺もつられて目を向け、ギョッとする。
ステーキの端と端を、ゴールトと女騎士がそれぞれ口で咥えていたのだ。その脇で、リタが豊満なおっぱいを押し付けると、団長が手で鷲掴みにした。口は肉を咥えたままである。
「今は、ぎりぎり職務に当たっている状態ですが、早晩それも崩れるでしょう。魔王が倒されたというのに最近、魔物の出現が増えている実感があります。辺境騎士団の防御が外れるということは、国、つまり国民の安全が無防備にさらされるということです」
バジリスク料理は、見る間に減っていく。酒樽の中身も半分以上なくなっている。酒の追加を求めてきた騎士が、上半身を乗り出すようにして、ピッチャーをそのまま突っ込んでいた。
左右の騎士は、とうに酔っ払っていた。
「私としては、組織の機能を保つため、上司に逆らわない範囲で、正常化に向けて努力をしているつもりです。どのような小さなきっかけでも、可能性があれば、試してみる価値はあります」
団長と女騎士の間にあるバジリスク肉は、見る間に半分以上縮んだ。
俺は、リタの手が、テーブルの下で怪しい動きをしていることに気付いた。
テーブルの上では、団長が最後の一口を女騎士の唇と共に奪ったところである。
リタの手は、細長い物を握って摩るような動きをしていた。
皆、酔っ払っている。メイナードと俺以外。
「なるほど」
俺は言った。
マーゴは、テーブルに突っ伏して眠っていた。口からステーキの切れ端がはみ出ていた。
ホレスは隊長で、恐らく昨夜の当直責任者だった。
オーク目撃談を軽く見て、マーゴを派遣したのは彼である。
そして、勤務明けに娼館へ行きたいがため、部下の帰還を待たず、副団長に引き継ぎをした。
今の話だと、ホレスはマーゴとリタを派遣したことになる。
実際リタが現場にいなかったことは、俺がよく知っている。ホレスは知らないままのようだ。
メイナードは、リタが仕事をサボったことを、少なくとも現場に来た時点で知った筈だ。
それなのに、ホレスにそのことを指摘せず、従って罰してもいない。
警備を司る騎士団として、あり得ない態度であった。
リタと団長は恋愛関係にある。だから、戻らない二人を心配した副団長が、自ら探しに来たのかもしれないし、出動する時点で既にリタの居場所を知って、後始末のために来たのかもしれない。
新人騎士のマーゴが戻らない以上、オーク出現情報は本物の可能性があった。
そこに、俺がいた。
最初は金で適当に追い払おうとした。ところが名前を聞き、オークの切り口を見て、アデラの知り合いと知ると、強引に本部へ連れてきた。
素人の俺がちょっと見ただけで、騎士団の規律が緩んでいることはわかる。
アデラは王都騎士団の副団長である。俺には休暇で来た、と言っていたが、実は別の目的があったのか。
だとしても、単なる知り合いの俺に、わざわざ目撃させて、どうしろと?
接待して口添えでも頼むつもりか。俺に、そんな力はない。
まさか、口封じ?
結果的に、オーク退治を新人騎士一人に任せたことは、騎士団の失態である。リタがサボったことを隠蔽したかったのだろうか。
他にも色々な問題がありそうだ。
俺の知ったことではないのに。アデラの知り合いというだけで、誤解されている。
王都騎士団に告げ口されないよう、別の場所で始末し、死体を隠したら、行方不明を口実に調査団を派遣されるかもしれない。
騎士団内で、大勢の目撃者の前での病死を装えれば、領主側の調べも逃れられる。
先ほどメイナードが団長室へ行ったのは、俺の暗殺計画を相談するためかも。
俺は何の権力も持っていないのだが。
余程、勝手に帰ろうか、と思った。
これが全部俺の妄想だったら、平民が一人宴会を辞退したところで、残る騎士に魔獣料理の取り分が増えるだけだ。
まさかの真実だったら、逃がしてもらえない。
「ホレス隊長、ご案内ありがとうございました。私は、そろそろお暇しようかと思います」
「おっそうか? じゃあ、上に言っとくわ。また、マダム・ヤンのところで会ったら、よろしくな」
ホレスは、あっさり俺を解放した。暗殺計画が存在したとしても、騎士団ぐるみではなさそうだ。
俺は、ほっとして出口へ向かった。
マーゴがいた。徹夜してその後の書類仕事で食事も抜いている筈なのに、俺を見た途端、元気に駆け寄ってきた。若さと体力の成せる技である。
「ザックさん、決裁間に合いました! ご協力ありがとうございました。バジリスク、食べて帰りますよね?」
両手を握り、上下にぶんぶん振り回す。徹夜ハイという奴だ。
「いや、私はもう帰ろうかと」
「え~そんなあ。もうちょっとで、夕食の時間になるのに。あ、そうだ。私の剣捌きをお見せします。夜のオーク相手は、ちょっと無理だったけど、本気を出したら、私も結構できるんですよ。何なら、お相手してくださっても」
もはや、酔っ払いと同じである。
「そんな。私のような素人が、騎士様のお相手など務まりません」
「マーゴ。ザック殿の手を離して差し上げろ。ザック殿、お待たせしました。もうすぐ夕食の準備が整います。それまで、私がお相手致しましょう」
水牛人がにこやかに登場した。暗殺決定である。
食堂のテーブルと椅子は、ホレスに案内された時と違って、蹄鉄型に並べられていた。
中央に、骨付き鶏もものローストが山盛り。バジリスクである。他にも茹でたササミや、唐揚げが並ぶ。
その周囲を、パスタやパン、果物なんかが取り巻いていた。酒樽もあった。
宴会仕様である。
ゴールト団長も出席した。リタが側にベッタリと侍っている。
そればかりではない。
少し離れてはいるものの、団長の周辺は、全員女騎士で占められていた。マーゴも、女性陣の中では一番離れた席ではあるが、一応団長の取り巻きのような位置に座っていた。
「今日は、オークを退治した上に、バジリスク肉が大量に手に入ったことを祝う宴だ。大いなる貢献を果たした騎士マーゴに、最初の一口を味わう褒美をやろう。こっちへ来い」
マーゴは自分の皿とフォークを持ち、大回りして、団長の正面から近付いた。
各自の席の前には、それぞれバジリスクステーキ一切れとカップの酒が用意されていた。彼女の皿にも肉は載っている。
うっすらと失笑が起きた。俺の思うに、手ぶらで良かったのではないか。嫌だけど。
ゴールト団長は、近付くマーゴを見てニヤリと笑った。
「おいおい。俺にも食べさせてくれるのか。団長思いだな」
「え? あ、はい」
マーゴは徹夜ハイの効果が切れてきたようだ。ぼんやりとした返事をした。
団長は構わず、自分の皿にフォークを突き立てた。ステーキの一切れを、マーゴの口へ押し付ける。
本能で齧り取るマーゴ。およそ一日ぶりの食事なのだ。徹夜明けで起きたままでもある。周囲の喧騒の意味など、理解できないだろう。ただ、目の前にぶら下がった肉を食べたい一心だ。
「よーし。次は、お前が食べさせる番だ」
団長が突き刺したフォークを使う手もあった。そうすれば、マーゴの肉は齧られずに済む。しかし、彼女は両手が塞がっていた。自分の皿にある肉を差し出すしかない。
マーゴが肉を差し出すと、団長はフォークを掴む手の上から握り込み、ステーキを食いちぎった。
「待たせたな。乾杯といこう」
マーゴの手は握ったままである。団長はそのまま乾杯し、宴会に突入した。その隣でリタがマーゴを睨んでいる。
「団長。お酒のお代わりいかがですか? ちょっと、マーゴどいてくれるかな。団長の邪魔になっているじゃないの」
頭が熊の女騎士が、ピッチャーを持って団長の前に来た。そう言えば、彼女は俺たちの近くに座っていた。こうして全身を見るまで、女だと気付かなかった。
「あら、マリイ。気が利くじゃない。マーゴ、どきなさいよ」
反応したのは、リタだった。両側から女に迫られ、団長は渋々マーゴの手を離した。
熊騎士が酒を注ぐ間に、彼女は席へ戻る。途中でササミを仕入れていった。徹夜とプチ断食明けは、あっさりした物が口に合うのかもしれない。
「団長、私もお肉を食べさせてください」
「私のお肉を食べさせて差し上げますわ」
「団長~」
マリイが離れると、近くの席に座る女騎士が、次々と皿やカップを持って団長に寄ってきた。リタがあからさまに不機嫌な顔を見せるが、彼女たちは気にしない。
「おお、お前たちも気が利くなあ」
団長もまた、女騎士に機嫌よく応じる。酒や肉のやり取りが始まった。
俺は、彼らを眺めながら、うっかりバジリスクを口に入れてしまった。
乾杯の時は、飲んだフリで誤魔化したのに。しかも、肉の焼き加減、味付け共に、絶妙である。あああ、と思ううちに、咀嚼して飲み込んでしまう。
美味い。毒どころか、力がみなぎる気さえする。
そういえば、魔物の肉を食べるのは、随分と久しぶりのことだった。
急いで自分の酒と皿をスキャンした。
どこにも毒は入っていなかった。ほっとした。
「ご心配なく。毒は入れていません」
二口目のステーキを齧った俺に、メイナードが囁いた。俺は咽せそうになった。
「副団長様は、魔法をお使いになりますか?」
「形程度です。相手が魔法を使う時に、攻撃パターンを読む参考として習得したので、自分ではほとんど使えません。ザック殿が、相当の使い手であることは、何となくわかります」
すると、暗殺する気はないのだ。少なくとも食事中は。
「私には、何の権限もコネもありませんよ」
「お言葉通りでないことを期待します」
メイナードは、毒など入っておりません、とアピールするように、ステーキをむしゃむしゃ平らげた。頭が水牛でも、食事は人間なのだ。
「休暇で立ち寄られたアデラ殿にも訴えました。あの方も、特に約束はなさいませんでした」
立ち上がって、お代わりのローストバジリスクを何本か持ってきた。俺はそこから一本分けてもらう。
「組織は、上下の別が守られねば成り立ちません。私にも、妻子という守るべきものがあります」
副団長の目線の先は、団長に向いていた。俺もつられて目を向け、ギョッとする。
ステーキの端と端を、ゴールトと女騎士がそれぞれ口で咥えていたのだ。その脇で、リタが豊満なおっぱいを押し付けると、団長が手で鷲掴みにした。口は肉を咥えたままである。
「今は、ぎりぎり職務に当たっている状態ですが、早晩それも崩れるでしょう。魔王が倒されたというのに最近、魔物の出現が増えている実感があります。辺境騎士団の防御が外れるということは、国、つまり国民の安全が無防備にさらされるということです」
バジリスク料理は、見る間に減っていく。酒樽の中身も半分以上なくなっている。酒の追加を求めてきた騎士が、上半身を乗り出すようにして、ピッチャーをそのまま突っ込んでいた。
左右の騎士は、とうに酔っ払っていた。
「私としては、組織の機能を保つため、上司に逆らわない範囲で、正常化に向けて努力をしているつもりです。どのような小さなきっかけでも、可能性があれば、試してみる価値はあります」
団長と女騎士の間にあるバジリスク肉は、見る間に半分以上縮んだ。
俺は、リタの手が、テーブルの下で怪しい動きをしていることに気付いた。
テーブルの上では、団長が最後の一口を女騎士の唇と共に奪ったところである。
リタの手は、細長い物を握って摩るような動きをしていた。
皆、酔っ払っている。メイナードと俺以外。
「なるほど」
俺は言った。
マーゴは、テーブルに突っ伏して眠っていた。口からステーキの切れ端がはみ出ていた。
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