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第四章 富百合
11 脱出してみた
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エイミが、ポケットからkasuga飴をひと掴み、取り出して放り投げる。ひとまず、この場での追及を諦めたらしい。
霞は器用に両手で全部受け止めた。上目遣いでエイミを見る。ふたりの間に火花が散った、気がした。
「ここから出るには、体力が必要よ。足手まといにならないで」
「恩には着ないわよ」
霞は手早く飴の包み紙を2、3個剥き、まとめて口に入れた。みるみる栄養が行き渡るのがわかった。
残りをポケットに入れ、霞は俺の腕を取った。
「行きましょう」
「え、おい」
俺はエイミを振り返ったが、エイミは後ろから行くつもりのようであった。完全に、切り替えている。
いろいろ聞きたいことがあった。尋ねる隙もない。
霞は、俺と腕を組んだまではよかったものの、その先は無計画だった。
3人がいる部屋には、出口がない。入り口はとうに閉まっている。
様子を観察していたエイミが、壁に手をついた。
すると、溶接の跡と思っていた線が、ぱかっと開いた。
クローゼットである。フルフェイスのヘルメットと銀色のポンチョが、並んで収納されている。エイミがポンチョを取り出して上に羽織り、ファスナーを閉めた。
「それ、着るのか」
「着ないと出られません」
霞が、ポンチョに飛びついて引っ張り出す。俺も、腕が自由になったところで、支度をした。
全員で、フルフェイスのヘルメットを被る。
最初は真っ暗で、何も見えなかった。
チュイーン。
パソコンの電源音が微かに聞こえた。
数秒待つと、灯りが点いたように、部屋の中が見えた。
霞もエイミもヘルメットを被ってポンチョを羽織っている筈なのに、着用前の姿である。
霞が俺の腕を取ろうとして、ぎこちない動きになった。
現在見えている景色は、ヘルメットを通して見せられている、現実と異なる世界のものだ、と理解した。仮想空間である。
「行きましょう」
部屋の一方に、出口が開いていた。
霞は、俺を引っ張るようにして、出口へ向かう。エイミは黙って後ろにつく。
部屋を出ると、見慣れたエンブレムのついた、国産の黒塗り高級車があった。何故か車体の上に自動織機の模型が載っている。タクシーのマークよりも、2回り大きい。
「ユーキが運転して」
「俺、免許持っていないよ」
助けを求めて振り返るが、エイミはさっさと後部座席の扉に手をかけた。霞が助手席へ回り込んだ。
仕方なく、俺は運転席の扉を開けて、乗り込んだ。遥華の実験空間よりも、進歩したのだろうか。あの時、移動手段は徒歩だった。しかし、人間を再現する方が技術的に難しそうだ。
運転席は、見たところ本物らしかった。運転免許を持たない俺には、最初にどこを触ったものか、見当もつかない。
「シートベルトをしてください」
合成音が聞こえたので、全員シートベルトを締める。
途端に、自動車が勝手に動き始めた。前方の壁が持ち上げられると、トンネルのような一本道が、向こうへ伸びている。自動車はトンネルに突っ込んだ。
「きゃああ! 楽しい! でも、もっとスピード下げて」
「勝手に走っているんだよ!」
ジェットコースターのように、右へ左へカーブを描き、上り下りする。トンネルで良かった。落下の心配がない。車は、ぐんぐんスピードを上げて突き進む。
急に、体が後ろへ引っ張られたかと思うと、ぐるっと一回転した。間違いなく、道路上を走っている。その道路は、ほぼ垂直に見える下り坂へ続いていた。
「きゃあははは! 車じゃないみたい!」
「うわあああ」
車は、最後に1回転した後、停止した。何も操作する必要はなかった。
俺は、下りる時に目眩を覚えてふらついた。
霞の方は、まるで平気な顔をして、俺の腕を取りにきた。
「面白かったあ。次行こう、次」
エイミはといえば、運転席に首を突っ込んでいる。
「何しているんだ」
「トランクを開けます」
「いいから、早く行こうよ」
霞に促されて、俺は扉の前に立った。
手をかける前に、自動で開いた。
今度は、大理石模様の部屋である。
角柱がランダムに立ち、奥まで見通せない。視界の端で、何か動いた。
「きゃあ! 何あれ」
霞も気付いて悲鳴を上げる。
それを合図にしたように、にょろにょろと姿を現したものがある。
白く尖った頭に、とってつけたような目鼻を持ち、手足は藁色。
灰色と黒の迷彩服を着ている。膝丈ほどの、小人である。
「コメだわ。コメが軍服を着ている」
霞の言葉で、俺は有名な中古ブランド品販売店を思い出した。
「コメの兵だ」
米の兵隊は、わらわらと俺たちを取り囲んだ。
俺は、取り付いた1匹を両手で掴んで引き剥がし、遠くへ放り投げた。また次の奴が取り付く。
霞がおろおろして俺にしがみつくため、効率よく剥がせない。
バンバン、と爆竹でも鳴らすような音がした。米の兵隊が吹き飛ばされる。
振り向くと、エイミが拳銃を構え、俺を狙っている。
「うわ、やめろ」
「動かないでください」
俺はぴたりと止まった。
バンバンバン。
と、エイミは正確に兵隊を狙い撃ちした。しかし1発で1匹である。相手の数が多過ぎる。
「あれえ」
霞が、米の兵隊に御輿のように持ち上げられ、連れ去られた。
エイミはそちらにも銃を向けたが、すぐに大理石の柱へ隠れられてしまい、姿を見失った。
無限と思われた米の兵隊もまた、それを潮に、柱の陰へ隠れながら消えてしまった。俺はエイミと部屋に取り残された。
「磯川が攫われたぞ」
「ユーキ様がお助けなさるおつもりでしたら、お手伝いします」
「どうなっているんだ」
俺は、エイミの嫌味を無視して尋ねた。尋ねたいことが山ほどあった。
「3人以上のグループで参加する場合、コンピュータの負担を軽減するため、参加者を間引く設定だそうです。あちらはあちらで、別の角度からゲームを楽しめるでしょう。後で合流する筈です」
「いや、そこじゃなくて」
「何です」
エイミは慣れた手つきで拳銃の弾を入れ替え、入ってきたのとは反対側の壁に移動する。話しかける隙がない。
俺は後を追う。磨りガラスで出来た扉があった。前に立つと、これも自動で開く。
今度の部屋も大理石模様だが、柱は中央に2本しかなく、しかも三角形を形作るように、斜めに立っていた。
「ええと、何から聞けばいいんだ」
エイミが天井を見上げたかと思うと、俺に体当たりするように後ろへ飛んだ。壁に背中が叩き付けられる。
抗議の言葉は、地響きにかき消された。
巨大なサバイバルナイフが、大理石の床に突き立てられていた。
砕かれた大理石が、煙のように舞い上がり、きらきらと光る。ナイフの柄は、巨大な手に、しっかりと握られている。手の持ち主を上へと辿ってみた。
「セブンちゃんだ」
いつもは駅前の待ち合わせ場所に立つ、巨大なマネキンであった。丸裸である。駅前の彼女も、しばしば真っ裸で立っている。
ぎぎぎ。
きしむような音を立てて、首が、俺のいる場所へ向けられた。陰影だけの目鼻立ちなのに、ばっちりロックオンされた、とわかった。その口元は、能面のように微笑んでいる。
じゃりじゃりっ。
サバイバルナイフが引き抜かれた。頭上まで振り上げられると、距離が遠過ぎて、一条の光としか認識できない。
エイミが目を凝らして行方を追っている。腰に手を回された。何を思う間もなく、横に飛ばされる。
直前までいた場所に、過つことなく巨大な刃が、突き刺さった。大理石の破片が、避けた場所まで飛んできた。エイミが拳銃を構えた。
バンバンバンバンバンバン。
あっけなく、セブンちゃんの右手首は、もげた。
「うぎゃあああ!」
耳をつんざくような悲鳴を上げながらも、セブンちゃんはサバイバルナイフを、もげた右手ごと左手で掴んだ。
エイミが素早く銃弾を入れ替える。
バンバンバン。
ナイフが、大理石の破片をまき散らしながら、床から引き抜かれた。
バンバンバン。
今度も、セブンちゃんの左手首は、あっけなくもげた。
ナイフを握った手首が、ごろりと転がった。地響きが起きた。
「ぐわあああ!」
セブンちゃんは痛みに悶え、壁に頭を打ち付けた。振動で大理石がはげ落ちる。
幸いなことに、セブンちゃんの脚は床から生えていた。もし動けたら、俺達は踏みつぶされていたに違いない。
見る方が辛くなるような、セブンちゃんの苦しみぶりを横目に、エイミは平然と弾をこめ直していた。
淡々と狙いをつける。
バンバンバン。
3発連続して、こめかみの同じ位置に、弾を撃ち込んだ。セブンちゃんは壁に頭をつけたまま、静かになった。
思わず合掌した。
バリバリ。
サバイバルナイフが、縦に割れた。中から、鞘に納まった日本刀がでてきた。
「どうぞ」
エイミが引っこ抜いて俺に手渡した。
ずしりと重みを感じた。俺は柄を持って、鞘から引き出してみた。
きれいな刀身であった。試し斬りをしたくなるほどである。
「それで、何のお話でしたか」
今頃になって問われても、困る。
「何だったっけ。思い出したら、また訊く」
エイミは軽く頷くと、セブンちゃんの股下をくぐり、反対側の壁へ向かった。俺は何となく股下を避けて、脇から奥へ行った。
とにかく先へ進むより他ない。
壁には扉がなく、切れ目があるばかりであったが、前に立つと切れ目から開いて次の部屋へ行けた。
今度は、赤茶色の木目板が、張り合わされた部屋であった。
前の部屋と同様、天井が高い。高過ぎて暗闇に見える。
奥には、南部鉄器のように黒々とした、重厚な両開きの扉がある。
2人が入ると、背後で扉が閉まった。エイミはその場で銃を構えた。
「抜刀して構えてください」
言われた通りに刀を抜くと、天井の暗がりがきらりと光った。と思う間もなく、2匹の黄金の魚が襲いかかってきた。城の屋根に載っている、例の物である。
「シャチホコじゃないか」
霞は器用に両手で全部受け止めた。上目遣いでエイミを見る。ふたりの間に火花が散った、気がした。
「ここから出るには、体力が必要よ。足手まといにならないで」
「恩には着ないわよ」
霞は手早く飴の包み紙を2、3個剥き、まとめて口に入れた。みるみる栄養が行き渡るのがわかった。
残りをポケットに入れ、霞は俺の腕を取った。
「行きましょう」
「え、おい」
俺はエイミを振り返ったが、エイミは後ろから行くつもりのようであった。完全に、切り替えている。
いろいろ聞きたいことがあった。尋ねる隙もない。
霞は、俺と腕を組んだまではよかったものの、その先は無計画だった。
3人がいる部屋には、出口がない。入り口はとうに閉まっている。
様子を観察していたエイミが、壁に手をついた。
すると、溶接の跡と思っていた線が、ぱかっと開いた。
クローゼットである。フルフェイスのヘルメットと銀色のポンチョが、並んで収納されている。エイミがポンチョを取り出して上に羽織り、ファスナーを閉めた。
「それ、着るのか」
「着ないと出られません」
霞が、ポンチョに飛びついて引っ張り出す。俺も、腕が自由になったところで、支度をした。
全員で、フルフェイスのヘルメットを被る。
最初は真っ暗で、何も見えなかった。
チュイーン。
パソコンの電源音が微かに聞こえた。
数秒待つと、灯りが点いたように、部屋の中が見えた。
霞もエイミもヘルメットを被ってポンチョを羽織っている筈なのに、着用前の姿である。
霞が俺の腕を取ろうとして、ぎこちない動きになった。
現在見えている景色は、ヘルメットを通して見せられている、現実と異なる世界のものだ、と理解した。仮想空間である。
「行きましょう」
部屋の一方に、出口が開いていた。
霞は、俺を引っ張るようにして、出口へ向かう。エイミは黙って後ろにつく。
部屋を出ると、見慣れたエンブレムのついた、国産の黒塗り高級車があった。何故か車体の上に自動織機の模型が載っている。タクシーのマークよりも、2回り大きい。
「ユーキが運転して」
「俺、免許持っていないよ」
助けを求めて振り返るが、エイミはさっさと後部座席の扉に手をかけた。霞が助手席へ回り込んだ。
仕方なく、俺は運転席の扉を開けて、乗り込んだ。遥華の実験空間よりも、進歩したのだろうか。あの時、移動手段は徒歩だった。しかし、人間を再現する方が技術的に難しそうだ。
運転席は、見たところ本物らしかった。運転免許を持たない俺には、最初にどこを触ったものか、見当もつかない。
「シートベルトをしてください」
合成音が聞こえたので、全員シートベルトを締める。
途端に、自動車が勝手に動き始めた。前方の壁が持ち上げられると、トンネルのような一本道が、向こうへ伸びている。自動車はトンネルに突っ込んだ。
「きゃああ! 楽しい! でも、もっとスピード下げて」
「勝手に走っているんだよ!」
ジェットコースターのように、右へ左へカーブを描き、上り下りする。トンネルで良かった。落下の心配がない。車は、ぐんぐんスピードを上げて突き進む。
急に、体が後ろへ引っ張られたかと思うと、ぐるっと一回転した。間違いなく、道路上を走っている。その道路は、ほぼ垂直に見える下り坂へ続いていた。
「きゃあははは! 車じゃないみたい!」
「うわあああ」
車は、最後に1回転した後、停止した。何も操作する必要はなかった。
俺は、下りる時に目眩を覚えてふらついた。
霞の方は、まるで平気な顔をして、俺の腕を取りにきた。
「面白かったあ。次行こう、次」
エイミはといえば、運転席に首を突っ込んでいる。
「何しているんだ」
「トランクを開けます」
「いいから、早く行こうよ」
霞に促されて、俺は扉の前に立った。
手をかける前に、自動で開いた。
今度は、大理石模様の部屋である。
角柱がランダムに立ち、奥まで見通せない。視界の端で、何か動いた。
「きゃあ! 何あれ」
霞も気付いて悲鳴を上げる。
それを合図にしたように、にょろにょろと姿を現したものがある。
白く尖った頭に、とってつけたような目鼻を持ち、手足は藁色。
灰色と黒の迷彩服を着ている。膝丈ほどの、小人である。
「コメだわ。コメが軍服を着ている」
霞の言葉で、俺は有名な中古ブランド品販売店を思い出した。
「コメの兵だ」
米の兵隊は、わらわらと俺たちを取り囲んだ。
俺は、取り付いた1匹を両手で掴んで引き剥がし、遠くへ放り投げた。また次の奴が取り付く。
霞がおろおろして俺にしがみつくため、効率よく剥がせない。
バンバン、と爆竹でも鳴らすような音がした。米の兵隊が吹き飛ばされる。
振り向くと、エイミが拳銃を構え、俺を狙っている。
「うわ、やめろ」
「動かないでください」
俺はぴたりと止まった。
バンバンバン。
と、エイミは正確に兵隊を狙い撃ちした。しかし1発で1匹である。相手の数が多過ぎる。
「あれえ」
霞が、米の兵隊に御輿のように持ち上げられ、連れ去られた。
エイミはそちらにも銃を向けたが、すぐに大理石の柱へ隠れられてしまい、姿を見失った。
無限と思われた米の兵隊もまた、それを潮に、柱の陰へ隠れながら消えてしまった。俺はエイミと部屋に取り残された。
「磯川が攫われたぞ」
「ユーキ様がお助けなさるおつもりでしたら、お手伝いします」
「どうなっているんだ」
俺は、エイミの嫌味を無視して尋ねた。尋ねたいことが山ほどあった。
「3人以上のグループで参加する場合、コンピュータの負担を軽減するため、参加者を間引く設定だそうです。あちらはあちらで、別の角度からゲームを楽しめるでしょう。後で合流する筈です」
「いや、そこじゃなくて」
「何です」
エイミは慣れた手つきで拳銃の弾を入れ替え、入ってきたのとは反対側の壁に移動する。話しかける隙がない。
俺は後を追う。磨りガラスで出来た扉があった。前に立つと、これも自動で開く。
今度の部屋も大理石模様だが、柱は中央に2本しかなく、しかも三角形を形作るように、斜めに立っていた。
「ええと、何から聞けばいいんだ」
エイミが天井を見上げたかと思うと、俺に体当たりするように後ろへ飛んだ。壁に背中が叩き付けられる。
抗議の言葉は、地響きにかき消された。
巨大なサバイバルナイフが、大理石の床に突き立てられていた。
砕かれた大理石が、煙のように舞い上がり、きらきらと光る。ナイフの柄は、巨大な手に、しっかりと握られている。手の持ち主を上へと辿ってみた。
「セブンちゃんだ」
いつもは駅前の待ち合わせ場所に立つ、巨大なマネキンであった。丸裸である。駅前の彼女も、しばしば真っ裸で立っている。
ぎぎぎ。
きしむような音を立てて、首が、俺のいる場所へ向けられた。陰影だけの目鼻立ちなのに、ばっちりロックオンされた、とわかった。その口元は、能面のように微笑んでいる。
じゃりじゃりっ。
サバイバルナイフが引き抜かれた。頭上まで振り上げられると、距離が遠過ぎて、一条の光としか認識できない。
エイミが目を凝らして行方を追っている。腰に手を回された。何を思う間もなく、横に飛ばされる。
直前までいた場所に、過つことなく巨大な刃が、突き刺さった。大理石の破片が、避けた場所まで飛んできた。エイミが拳銃を構えた。
バンバンバンバンバンバン。
あっけなく、セブンちゃんの右手首は、もげた。
「うぎゃあああ!」
耳をつんざくような悲鳴を上げながらも、セブンちゃんはサバイバルナイフを、もげた右手ごと左手で掴んだ。
エイミが素早く銃弾を入れ替える。
バンバンバン。
ナイフが、大理石の破片をまき散らしながら、床から引き抜かれた。
バンバンバン。
今度も、セブンちゃんの左手首は、あっけなくもげた。
ナイフを握った手首が、ごろりと転がった。地響きが起きた。
「ぐわあああ!」
セブンちゃんは痛みに悶え、壁に頭を打ち付けた。振動で大理石がはげ落ちる。
幸いなことに、セブンちゃんの脚は床から生えていた。もし動けたら、俺達は踏みつぶされていたに違いない。
見る方が辛くなるような、セブンちゃんの苦しみぶりを横目に、エイミは平然と弾をこめ直していた。
淡々と狙いをつける。
バンバンバン。
3発連続して、こめかみの同じ位置に、弾を撃ち込んだ。セブンちゃんは壁に頭をつけたまま、静かになった。
思わず合掌した。
バリバリ。
サバイバルナイフが、縦に割れた。中から、鞘に納まった日本刀がでてきた。
「どうぞ」
エイミが引っこ抜いて俺に手渡した。
ずしりと重みを感じた。俺は柄を持って、鞘から引き出してみた。
きれいな刀身であった。試し斬りをしたくなるほどである。
「それで、何のお話でしたか」
今頃になって問われても、困る。
「何だったっけ。思い出したら、また訊く」
エイミは軽く頷くと、セブンちゃんの股下をくぐり、反対側の壁へ向かった。俺は何となく股下を避けて、脇から奥へ行った。
とにかく先へ進むより他ない。
壁には扉がなく、切れ目があるばかりであったが、前に立つと切れ目から開いて次の部屋へ行けた。
今度は、赤茶色の木目板が、張り合わされた部屋であった。
前の部屋と同様、天井が高い。高過ぎて暗闇に見える。
奥には、南部鉄器のように黒々とした、重厚な両開きの扉がある。
2人が入ると、背後で扉が閉まった。エイミはその場で銃を構えた。
「抜刀して構えてください」
言われた通りに刀を抜くと、天井の暗がりがきらりと光った。と思う間もなく、2匹の黄金の魚が襲いかかってきた。城の屋根に載っている、例の物である。
「シャチホコじゃないか」
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