雌伏浪人  勉学に励むつもりが、女の子相手に励みました

在江

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第二章 棗

8 警察がやってきた

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 帰省休みはあっという間に終わり、俺は母に持たされた大量の荷物と共に、自分の部屋へ戻ってきた。

 アパートに着いた翌日には、母から段ボールが郵送されてきた。
 たちまち俺の冷蔵庫は満杯になった。缶詰や米などはよいが、畑で採れたという大量の野菜、生で食べられない芋類などは、自炊をろくにしない俺には、ありがた迷惑であった。

 いきなり捨てるのも勿体ないのでとりあえず冷蔵庫に仕舞ったものの、いずれ腐らせるだけで、処分に困るのは目に見えていた。俺はエイミに処分をたくすことにした。

 「料理した時に、お持ちしましょうか」
 「じゃあ、平日の夜だけ頼むよ」
 「はい、そのように致します」


 警察の訪問を受けたのは、野菜がきた頃であった。
 来訪を予告する電話も何もなかったので、ドアの前に立つ目つきの悪い2人組の男を見たとき、俺はナンパで逮捕されるのかと思った。

 「フジノユーキさんですね」

 警察手帳を見せられ、参考までにお話を伺いたい、と丁寧に言われる。
 隙のなさを感じさせる物腰に、怪しまれるのは承知で警戒心しか感じない。

 それでも戸口で問答すると目立つので、俺は2人を部屋へ通した。狭い1人暮らしのアパートで、男3人が窮屈きゅうくつに向かい合う。

 「長居美月ながいみづきをご存知ですね」

 刑事の口から名前が出て、俺はあっと声を上げた。
 青少年健全育成条例か何かに違反したかど、要するに淫行いんこうで逮捕されるのだ、と思った。反射的に腰が浮く。
 エイミに連絡しないと、と思った。母に知られる前に。

 「まあ、落ち着いてください」

 穏やかな口調とは裏腹に、ひどく力強い腕が俺を席に押し戻した。エイミを呼ぶのはあきらめた。
 世間的には、エイミも未成年である。保護者として同席を認められる可能性はない。

 どのみち事情聴取を受ける時は一人ずつだ。俺は既に取り調べ室へ入ったような心地で、刑事に相対あいたいした。

 「そない緊張せんでもええみゃあ」

 俺の様子から心情を察したのか、刑事が可笑おかしそうに言った。緊張をほぐそうとして、わざとくだけた言葉で話しかけたのであろう。さきほどから話をするのは1人の刑事だけで、もう1人はメモ帳片手にペンを握り、不動の姿勢で横にいる。

 刑事の言葉は嘘ではなかった。
 美月と江里と依子の3人は、俺たちのような後腐あとくされのなさそうな男を捕まえては、小金を巻き上げていたのであった。小金? 札束の言い間違いだろう。

 依子と江里に美月が従うように見せかけて、本当は美月がリーダー格だったという。
 ある被害者が警察に届けて事件が発覚するまでに、俺たちを含めて数十人もの男が金を奪われていた。

 手口はいつも同じらしく、従って『』という美月の言葉も嘘だった。

 俺は話を聞くうちに、そのことを察した。散々痛がっていたのも演技だったのなら、そこは良かったと思う。

 もう一つ、依子は未成年だったが、江里と美月は成年に達していた。俺たちより年上だったのである。
 あの時名前を挙げたお嬢様大学にも無縁むえんで、学生ですらなかった。もとより、職にもいていない。全然気付かなかった。

 警察は美月たちの余罪の裏付捜査のため、俺の話を聞きにきたのであった。

 俺は親元へ連絡が行くことだけは避けたかった。
 警察もその辺りの事情を呑みこんでくれたのは幸いだった。

 これが人命に関わる事件だったり、俺が逮捕されるような事件であったら、母に連絡されるのはまぬがれなかっただろう。

 俺たちの一大事も、彼女たちの山ほどある余罪の中の1つに過ぎなかった。


 翌日予備校へ行くと、先に来ていたフタケとコトリがそろって俺の元へやってきた。

 「聞かれた?」
 「うん。ふうたとタカの所へも?」
 「来た来た。親が先に顔合わせたから、後で言い訳するのが大変だったよ」

 自宅から通うフタケは、軽く笑った。こいつはまだりていないぞ、と俺は確信した。
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