続・姫待ち。魔王を倒したチート魔術師は、放っておかれたい

在江

文字の大きさ
33 / 39

33 第二の人生

しおりを挟む
 「参りました!」

 木剣で斬り伏せられた若者が、必死の声を上げた。倒した方は、若者が立ち上がるのを手助けしてやった。伸ばされた手は、金属製の義手である。

 「基礎はよく出来てきた。フェイントに引っかかるのは、実戦を重ねるうちに減らせるだろう。引き続き、精進しよう」

 「はい。ありがとうございます、師匠!」

 「よし。次!」

 ウェズリーは、疲れも見せず、新たな若者の相手を始めた。

 「不具合は、なさそうだな」

 「義手の、全く問題がない」

 俺と並んで稽古を見るアデラが応じた。

 アデラの開いた道場にいる。彼女は騎士団長を勇退した後、王都郊外に土地を購入し、剣技を教える場所を作ったのだ。

 そこに何故、かつて彼女を襲ったウェズリー元ゴールトが師匠と呼ばれ、教えているのかと言えば、二人が夫婦同然だからである。

 何がどうしてそうなったのか、聞いてもよくわからなかった。
 俺が、ウェズリーに義手を作ってやった時には、そんな仲ではなかったと思うのだが。

 「女性騎士を育てたかったんだが」

 義手について含みのある回答をしたアデラが、問わず語りに始める。

 「またぞろハーレムを作りそうだったんで、男性に入門を限っている。性能が良過ぎるのも問題かもしれん」

 「良過ぎるとすれば、ベイジルの腕が良かったんだろう」

 ドワーフの昔仲間である。ウェズリーの腕を両方切り落としてしまった俺が、義手の製作を依頼した。

 自業自得と言えばそれまでなのだが、剣技しか取り柄のない男が貴族から平民に落とされて、両手なしでは更生も難しかろうと思ったのだ。
 逆恨みで、もっと酷いことを計画されても、迷惑である。

 「そういえば、ベイジルの作だったな。一度、あの猫人の性奴隷を抱かせれば、次回作に活かせるぞ」

 「ゾーイは性奴隷じゃないって」

 魔力もほとんどないが、一応は元魔王である。俺たちが討伐した筈なのに、しぶとく生き残っていた。
 魔王の記憶はなく、成り行きで俺と主従契約を結んでいる。

 いまだにアデラには、この事実を教えていない。騎士団を退いたとはいえ、教え子が騎士になったりと、王宮との関係が続いているのだ。俺の出自も含め、彼女を、あんまり面倒臭い事に巻き込みたくない。

 「じゃあ、結婚してやればいいじゃないか」

 「そっちこそ。ウェズリーと結婚すればいいじゃないか」

 二人して、黙り込んだ。それぞれの元恋人だった姫と勇者は政略結婚し、王位に就いた。二人の子である王女を後継者に指名すれば、退位は可能である。

 しかし、いつか約したように、元のさやに収まるのは、現実的ではない。アデラも理解しているからこそ、ウェズリーを側に置いているのだ。
 そして、正式に結婚しないことで、約束を守ってもいる。俺の解釈である。

 「今回は、差し詰め聖女の件か?」

 アデラが話を逸らした。
 俺が王都へ出てくる理由は、ほぼ勇者アキからの呼び出しである。

 「何も聞いていない。泊めて貰えて助かった。留守中、ゾーイのことを頼む」

 俺も魔王みたいな存在だったと知った後、ゾーイを王宮へ連れて行くべきか、相当に悩んだ。
 同じような存在なのに、俺だけ王宮への出入りが自由で、彼女に行動の制限をかけるのは不公平と思ったのである。

 結局アデラに預けたのは、今は女王の座にいる姫の視線を気にしたためだ。我ながら、小心者なことだ。
 アデラは、ぐっと顔を俺に近付けた。

 「彼女さえ良ければ、3Pしても大丈夫かな?」

 嫌に決まっている。しかし、ゾーイがアデラとの百合プレイを我慢できるかは、難しいところであり、内縁の夫であるウェズリーが、妻に百合プレイだけ許すとも思えない。

 「一応、説明はしておく。無理強いはさせないでくれ。案外、純粋なんだ」

 性欲に忠実な辺りが、との言葉を呑み込む。
 俺に気付いたウェズリーが、陽気に金属製の手を振った。この距離からは、普通の手に見えた。


 アデラの家から馬車を出してもらい、王宮へ出向いた。騎士団長を務めたアデラの威光は数年経っても衰えず、馬車ごと中へ通された。

 応接室で待たされた後、案内された先は、庭の東屋だった。アキは既に席に着いていた。謁見えっけん抜きである。

 「堅苦しい挨拶は、なし。給仕も下げた」

 護衛も、距離をとって配置されている。ここまで親しく扱われると、たとえ安全が保証できたとしても、道義的にゾーイを連れ込むべきでない、と感じる。

 異世界から召喚されたアキは、何年経ってもほとんど外見が変わらない。貫禄かんろくがついて見えるのは、多く衣装のなせる技である。
 今日会ってみたら、ヒゲまで生やしていた。

 「これか? 少しでも年相応に見せようと思って。姫も、アンヴィル化粧品の効果で随分若返ったのだけれど、まだ年の差夫婦に見える、と気にするから」

 「似合っているよ」

 アンヴィル化粧品は、魔物から抽出した成分を使った、アンチエイジングに効果的な美容製品である。

 もう何年も前の話だ。シルヴァン伯爵家の元家庭教師、クインシー=アンヴィルの発見が始まりで、密かに新しい美容術が流行した。
 彼の発見を悪用しようとした勢力を潰すために、俺も一枚噛んだ。

 その後、王家はシルヴァン家と協力してアンヴィルの研究を援助し、平和理に美容成分を取り出したり、副作用の少ない調合を編み出したりして、化粧品の商品化に成功したのだった。

 アンヴィルの教え子であるマクシミリアン=シルヴァンは、王宮で魔術師として働いているが、化粧品には関わっていない。

 元はと言えば、彼がハルピュイアの世話を放置したのが、アンヴィルの研究開発に繋がったのだ。
 当時、一度飼うと決めた生き物には、最後まで責任を持つように、と上司から叱責処分を受けたマクシミリアンだったが、こうなるとまたかもしれない。

 「ザカリーも、全然年を取らないな。エルフみたいだ」

 「ところで、今日はお茶会のために呼んだ訳じゃないんだろう?」

 俺の生母は、エルフである。隠すほどのことではない。しかし、父を問われたら、どこからどこまで話すべきか。俺は心を決めかねていた。

 「キューネルンで、聖女が誕生した話は、知っている?」

 アキは、俺が話を逸らした事には触れず、本題に入った。

 「知らない」

 聖女は、三つの国の承認により、正式に名乗ることができる称号である。三つの承認のうち、一つは王家、一つは神殿から受ける必要がある。
 必ずしも、特殊な能力の顕現けんげんを必要条件とはしないのだ。

 歴史的には、悪政打倒の旗印として、あるいは大勢を救った功績を後世まで讃えるために、認定された例がある。

 直近では、姫が魔王を倒すために聖女の認定を受けた。彼女の場合、王族でありながら、回復魔法に優れた才能を発揮したこともあって、討伐隊に加わるために聖女となった節がある。

 その先にある王位が真の狙いだったかどうか、恋仲だった俺にもわからない。
 ともかく、複数の国から賛同を得なければならず、簡単にはなれない。

 「キューネルンとドワーフが認めて、最後の一つを我が国の神殿に求めてきた」

 「それなら、王宮は手出しできないだろう。大体、何が気に入らない?」

 姫が聖女とされてから、二十年以上経過している。今や彼女は女王となり、子供まで持つ身である。
 明確にきまりはないのだが、歴代の聖女は、独身処女である。つまり、結婚すれば聖女ではなくなるのだ。

 現在、他に聖女と呼ばれる存在はない。
 前代より間が空いていない感はあるものの、粗製濫造そせいらんぞうそしりを受けるほどでもない。

 「聖女候補は、キューネルンの第二王子とイザベルの娘だ。当方の神殿には、ミラベル元妃が贖罪の名目で、厚い寄付を続けている」

 姫に毒を盛って廃妃とされた、前国王の妃である。数年前の魔物が関係する事件にも、関与が疑われたが、証拠は出なかった。当時も今も、幽閉中である。

 「仮に、神殿が賄賂に負けて偽の承認を与えたとしても、後々ダメージを受けるのは神殿だ。放っておくしか、なかろう」

 人々の信仰を一手に集める神殿の権威は大きく、時に王権をしのぐ。姫が聖女となるために頭を下げたのは、この権威を得るためでもあったと思われる。

 キューネルン王国は、国境を接する大国である。第二王子がミラベル元妃と手を組んで、この国を乗っ取る心配も、なくはない。
 第一王子の地位が盤石ばんじゃくゆえに、他国に活路を求めるのである。

 元妃は由緒あるケニントン公爵家の出であり、国内に一定の支持者がいる。姫が彼女を軽々に処刑できない理由の一つであった。

 「それでは遅い。打てる手は打ちたい」

 アキは、にこやかに微笑んで、菓子をつまんだ。見守る護衛に対するアピールである。
 王配ともなると、護衛にも気を遣う。俺も、護衛から攻撃されないよう、口角を上げて茶を飲んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...