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16 いざ、突入!
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門が開くと、道いっぱいに広がっていた人々が、さーっと傍へ避けた。
午後もまだ、日のあるうちである。夕食前の街は人出が多い。
アデラは騎馬行列の先頭に立って、馬を進めた。人のないところでは、足を早める。気持ちとしては、逸っていた。
やがて、貴族の屋敷が立ち並ぶ地区の外れまできた。長い塀に取り付けられた、木製の門の前で馬を止める。
「解錠しろ。扉も開けられれば、なお良い」
逆らう余地のない言い方だった。俺は、アデラの命令に従った。
後ろからついてきた部下には、門番が自ら扉を開いたようにでも見えただろう。実際には、誰もいなかった。
そこは、裏門らしかった。
「魔術師がいる筈だ。逃げられぬよう、出口を押さえて囲め」
アデラが部下に命じると、続々入り込んだ騎士たちが、荷馬車から降りて散った。馬上の騎士は、彼女と一緒に、そのまま移動を続ける。
「工房の位置は掴めるか? 魔術師本人でも良い」
俺は、マクスウェルを想定して探索する。ちなみに、魔法を使ってのことである。
今いる場所は、シルヴァン伯爵の屋敷であった。
見つからない。
考えてみれば、彼は王宮に出勤中であった。シルヴァンの名を聞いた時から、あの少年魔術師を思い描いていたのだが、尋ね人は別人のようだ。
大体が、この屋敷には、人の気配がほとんどない。
半分、打ち捨てられた状態であった。
そういえば、引退した父親も当主も、領地へ引っ込んでいる、と聞いた覚えがある。
誰かが勝手に入り込んで、使っている可能性もあった。
それを踏まえて探してみると、今度はそれらしい存在を感知できた。
「あっちだ」
アデラに伝え、馬を向ける。部下も数人従った。
手入れを怠った植木は伸び放題、雑草も茂っている。邸内に走る小道も、無秩序に生えた草で消えかかっていた。
騎乗し、武装した騎士が、大勢立ち入ったのである。黙っていても、相当に騒がしい。
生い茂る木々の間、遠くに見える屋敷から、人が出てくる気配はなかった。まさか、マクスウェルがたった一人でここに住んだり、王宮のあの部屋に泊まり込んでいるとも思えない。
最小限の人数しか置いていないのだ。
そして、見つけた魔術師は、俺たちが完全に包囲して踏み込むまで、全く異変に気付いていなかった。
油断もしていただろうが、彼は何より実験に夢中だったのである。
魔術師には、得てしてありがちなことであった。
「えっ、えっ、えっ?」
「あっは~ん‥‥ぎょえええええええっ!」
今となっては、懐かしい声が聞こえた。一瞬だけ。
俺たちが踏み込んだ時、その魔術師は、ハルピュイアに人工陰茎を差し込みつつあった。ところが驚いた拍子に、取り落としてしまったのだ。
人頭鳥身のハルピュイアは、男と見れば襲いかかる性質がある。快感時にはエロく響く鳴き声も、普段は濁って汚く、聞くに堪えない。
男臭い騎士団に囲まれたハルピュイアが、メスながら雄叫びを上げて翼を広げる。大興奮である。
バサバサバサバサッ。
細い鎖は、いとも簡単に引きちぎられた。
「うわっ、痛タタタタ!」
「こっちへ来るな!」
「だ、団長! 斬っていいんですよねっ!」
狭い建物の中である。やたらと剣を抜けば、同士討ちだ。騎士たちは、ハルピュイアの求愛とも取れる攻撃を防ぎつつ、団長に指示を仰いだ。
「鳥は、斬って良し」
ザシュッ。
アデラが言い終えるまでに、ハルピュイアは落ちた。
一緒にいた魔術師は、頭を抱えて床に蹲っており、逃げようともしなかった。
自分が捕まるとは、夢にも思っていない。
建物の外では、また別の騒ぎが持ち上がっていた。
「気をつけろ、ラミアがいるぞ!」
「うわっ、アルラウネがっ!」
蛇女や蜘蛛女の魔獣が、飼われていたのである。知らずに小屋の扉を開けた騎士が、うっかり逃がしてしまったらしい。
優秀な騎士団は、最終的にはそれらを退治した。最初から死体で保管されている魔物も、多くあった。
騎士団が逃げ出した魔物と格闘する間に、アデラは屋敷の方へ赴いて、責任者と会っていた。
留守居役の執事は、本来なら引退するような年齢で、あれだけの裏手の騒ぎにも気付いていなかった。
敷地が広いことに加え、普段から時折魔物の鳴き声が聞こえることもあったため、またか、という程度の認識だったそうな。
シルヴァン家当主は領地におり、王都の屋敷はマクスウェル少年一人のために開けてあった。
彼は社交もしないため、ほとんど使用人を置いていなかった。執事も、隠居生活のついでのような形で世話を引き受けたのである。
こうして山盛りの魔物を荷馬車へ積み込んだ騎士団は、大半が帰還した。アデラは、シルヴァン伯爵屋敷に、数人を残した。
すると、夜になって、リーナが訪ねてきたのである。彼女は捕縛され、騎士団へ連れてこられた。
彼女がチッチナであることは、何とラッセル副団長が証言した。となると、ジョイナの証言も、彼が発掘したと思われる。あくまでも匿名だが。
めちゃめちゃ綺麗な女ではあった。あまりに綺麗すぎて、人間を通り越した魔物みたいな印象を受けた。
「クインはどこに行ったのよ? あたし、あいつに用があるだけなのよ。早くしないと、あたしの体がダメになっちゃう」
クインというのは、シルヴァン家にいた魔術師である。
本名を、クインシー=アンヴィルという。男爵家の出で、マクスウェル少年の魔法の師匠に当たる。
少年が王宮に採用された褒美のような形で、役割を終えた後も、引き続き住まわせてもらっていたという。生活が不規則なため、屋敷とはほぼ没交渉だった。
彼が美容術を開発し、施術も行っていたのであった。但し、話を持ちかけ、普及活動を行ったのは、別の魔術師である。
多分、儲けたのも。こちらの方は、行方不明だ。それでリーナが、クインシーを直接訪ねてきたのだった。
「定期的に成分を補充しないと、元の状態へ戻ってしまうのです。ただ彼女の場合、物理的にかなり弄っているので、本人には劣化の印象が強く感じられるかもしれません」
取り調べで、リーナの発言について尋ねられたクインシーは答えた。
生命に危険はない、との回答を得て、騎士団では手当をしないことにした。
押収した物品の中に、彼女の肌を回復できそうな物品はあったのだが、彼女にだけ与えるのは不公平、と判断したのである。
他にも同様の術を受けた貴族が、どれだけ存在するか知れないのだ。大事な証拠品でもあった。
あの書記官ホワイティも、行方不明の魔術師と連絡をとっていたと思われる。逃げ足の速さから推して、騎士団の中にまだ内通者がいるのは明らかだったが、残念ながら引っかかったのは彼だけだ。
彼は魔術師との連絡も、仲間がいることも、頑として認めなかった。内通者が、それぞれ独立して存在することはありうる。
ホワイティは引き換えのように、ウェズリーにアデラの動きを流していたことを認めた。
「運悪く除籍されましたが、ゴールト伯爵家の血筋ですからね。たかが平民出の、虎女なんかに」
と宣って、同じ騎士団の取調官に殴られかけたそうである。これは、その時立ち会った書記官が言っていたことだ。
すっかり忘れていたが、アデラは見た目がまるっきり人間の、獣人なのである。
ちなみに、クインシーが美容に良い成分を発見したきっかけは、世話をしたハルピュイアだったという。
元々は、マクスウェル少年が買ってきたのだが、すぐに飽きて、執事に処分を丸投げした。困った執事が、クインシーの存在を思い出して、引き取ってもらったのが始まりである。
そのハルピュイアとクインシーは、良好な関係を築いていたらしい。
「ナオミは、いい女でした」
追憶に浸る彼の瞳には、涙さえ浮かんでいた。騎士団に襲いかかった鳥とは、別物である。ナオミ=ハルピュイアは、寿命を全うして亡くなったのだ。やり過ぎたのかも知れない。
もちろん、マクスウェル少年も、騎士団に呼び出され、オーディントン副団長から説諭された。
少年と言っても、王宮に職を得て、一人前に働いているのだ。
貴族として、屋敷で起きた事には監督責任がある。
とはいえ、クインシーを罪に問うのは実のところ、微妙だった。行方不明の魔術師に至っては、なおのこと難しい。
魔獣を原材料に使うこと自体は、違法ではない。慣習として、人面タイプ、直立二足歩行タイプに対しては、他の魔獣に比べて、人間に近い扱いをしているだけである。端的には、その肉を食べない。
クインシーが最初に使った材料は、ハルピュイアの愛液なのだが、研究を進めるにつれて、血液や肉も用いるようになっていた。
実質、食べているようなものである。新発見を、大々的に宣伝しなかった理由の一つと思われる。
患者には説明していたと言うが、毎回ではない。そもそも、一回摂取したら、定期的に補充しないと効果が続かないと言う説明も、施術前に必ず行っていた訳ではないようだった。
クインシーと彼らの間では、施術時に書面の契約を取り交わしていなかったのだ。
そこで、アデラは、医療行為における説明義務違反と、無許可で危険生物を飼育していたことを理由に、処罰する書面を作成した。思いっきり、後付けである。
「あの時点では、まず証拠を押さえる必要があった。ホワイティ以外にも、ネズミがいて、先回りされたら終わりだった。現に、ヒンクリーには、逃げられた」
「あれは、ウェズリーが捕まった時点で逃げていたのだろう。その時点で逃げなかったのだから、アンヴィルの方は、もっとゆっくりでも良かったのでは?」
ジョナサン=ヒンクリーは、クインシーに美容手術をやらせた魔術師で、コンクエスト卿の弟子筋に当たる。
あまり能力は高くなかったようだが、貴族出身の人脈を駆使して顧客を増やしたのだ。
能力の低さゆえに、リストからは漏れていた。だが、元王妃側と接触した可能性がある。
アデラがシルヴァン邸を急襲したのは、そちらが真の狙いであった。
ミラベル元妃が、幽閉されて大人しくしているとは、姫もアデラも考えていないのだ。
ゴールトを焚き付けてアデラを襲わせたのも、あわよくばアデラを引退させて、姫の勢力を削ろうとの思惑、と思っている。
俺が思うに、アデラを引退させたいのは、元王妃だけとは限らないのだが。彼女の団長歴も相当に長い。
「本人が逃げずとも、消されたかも知れない。若干、拘束根拠が薄弱ではあるが、やって良かったと思っている」
そう言われれば、なるほどとも思う。
魔術師の実験小屋など、火の気の宝庫だ。俺たちが入っても気付かれないのだから、放火で全焼してもバレないだろう。
午後もまだ、日のあるうちである。夕食前の街は人出が多い。
アデラは騎馬行列の先頭に立って、馬を進めた。人のないところでは、足を早める。気持ちとしては、逸っていた。
やがて、貴族の屋敷が立ち並ぶ地区の外れまできた。長い塀に取り付けられた、木製の門の前で馬を止める。
「解錠しろ。扉も開けられれば、なお良い」
逆らう余地のない言い方だった。俺は、アデラの命令に従った。
後ろからついてきた部下には、門番が自ら扉を開いたようにでも見えただろう。実際には、誰もいなかった。
そこは、裏門らしかった。
「魔術師がいる筈だ。逃げられぬよう、出口を押さえて囲め」
アデラが部下に命じると、続々入り込んだ騎士たちが、荷馬車から降りて散った。馬上の騎士は、彼女と一緒に、そのまま移動を続ける。
「工房の位置は掴めるか? 魔術師本人でも良い」
俺は、マクスウェルを想定して探索する。ちなみに、魔法を使ってのことである。
今いる場所は、シルヴァン伯爵の屋敷であった。
見つからない。
考えてみれば、彼は王宮に出勤中であった。シルヴァンの名を聞いた時から、あの少年魔術師を思い描いていたのだが、尋ね人は別人のようだ。
大体が、この屋敷には、人の気配がほとんどない。
半分、打ち捨てられた状態であった。
そういえば、引退した父親も当主も、領地へ引っ込んでいる、と聞いた覚えがある。
誰かが勝手に入り込んで、使っている可能性もあった。
それを踏まえて探してみると、今度はそれらしい存在を感知できた。
「あっちだ」
アデラに伝え、馬を向ける。部下も数人従った。
手入れを怠った植木は伸び放題、雑草も茂っている。邸内に走る小道も、無秩序に生えた草で消えかかっていた。
騎乗し、武装した騎士が、大勢立ち入ったのである。黙っていても、相当に騒がしい。
生い茂る木々の間、遠くに見える屋敷から、人が出てくる気配はなかった。まさか、マクスウェルがたった一人でここに住んだり、王宮のあの部屋に泊まり込んでいるとも思えない。
最小限の人数しか置いていないのだ。
そして、見つけた魔術師は、俺たちが完全に包囲して踏み込むまで、全く異変に気付いていなかった。
油断もしていただろうが、彼は何より実験に夢中だったのである。
魔術師には、得てしてありがちなことであった。
「えっ、えっ、えっ?」
「あっは~ん‥‥ぎょえええええええっ!」
今となっては、懐かしい声が聞こえた。一瞬だけ。
俺たちが踏み込んだ時、その魔術師は、ハルピュイアに人工陰茎を差し込みつつあった。ところが驚いた拍子に、取り落としてしまったのだ。
人頭鳥身のハルピュイアは、男と見れば襲いかかる性質がある。快感時にはエロく響く鳴き声も、普段は濁って汚く、聞くに堪えない。
男臭い騎士団に囲まれたハルピュイアが、メスながら雄叫びを上げて翼を広げる。大興奮である。
バサバサバサバサッ。
細い鎖は、いとも簡単に引きちぎられた。
「うわっ、痛タタタタ!」
「こっちへ来るな!」
「だ、団長! 斬っていいんですよねっ!」
狭い建物の中である。やたらと剣を抜けば、同士討ちだ。騎士たちは、ハルピュイアの求愛とも取れる攻撃を防ぎつつ、団長に指示を仰いだ。
「鳥は、斬って良し」
ザシュッ。
アデラが言い終えるまでに、ハルピュイアは落ちた。
一緒にいた魔術師は、頭を抱えて床に蹲っており、逃げようともしなかった。
自分が捕まるとは、夢にも思っていない。
建物の外では、また別の騒ぎが持ち上がっていた。
「気をつけろ、ラミアがいるぞ!」
「うわっ、アルラウネがっ!」
蛇女や蜘蛛女の魔獣が、飼われていたのである。知らずに小屋の扉を開けた騎士が、うっかり逃がしてしまったらしい。
優秀な騎士団は、最終的にはそれらを退治した。最初から死体で保管されている魔物も、多くあった。
騎士団が逃げ出した魔物と格闘する間に、アデラは屋敷の方へ赴いて、責任者と会っていた。
留守居役の執事は、本来なら引退するような年齢で、あれだけの裏手の騒ぎにも気付いていなかった。
敷地が広いことに加え、普段から時折魔物の鳴き声が聞こえることもあったため、またか、という程度の認識だったそうな。
シルヴァン家当主は領地におり、王都の屋敷はマクスウェル少年一人のために開けてあった。
彼は社交もしないため、ほとんど使用人を置いていなかった。執事も、隠居生活のついでのような形で世話を引き受けたのである。
こうして山盛りの魔物を荷馬車へ積み込んだ騎士団は、大半が帰還した。アデラは、シルヴァン伯爵屋敷に、数人を残した。
すると、夜になって、リーナが訪ねてきたのである。彼女は捕縛され、騎士団へ連れてこられた。
彼女がチッチナであることは、何とラッセル副団長が証言した。となると、ジョイナの証言も、彼が発掘したと思われる。あくまでも匿名だが。
めちゃめちゃ綺麗な女ではあった。あまりに綺麗すぎて、人間を通り越した魔物みたいな印象を受けた。
「クインはどこに行ったのよ? あたし、あいつに用があるだけなのよ。早くしないと、あたしの体がダメになっちゃう」
クインというのは、シルヴァン家にいた魔術師である。
本名を、クインシー=アンヴィルという。男爵家の出で、マクスウェル少年の魔法の師匠に当たる。
少年が王宮に採用された褒美のような形で、役割を終えた後も、引き続き住まわせてもらっていたという。生活が不規則なため、屋敷とはほぼ没交渉だった。
彼が美容術を開発し、施術も行っていたのであった。但し、話を持ちかけ、普及活動を行ったのは、別の魔術師である。
多分、儲けたのも。こちらの方は、行方不明だ。それでリーナが、クインシーを直接訪ねてきたのだった。
「定期的に成分を補充しないと、元の状態へ戻ってしまうのです。ただ彼女の場合、物理的にかなり弄っているので、本人には劣化の印象が強く感じられるかもしれません」
取り調べで、リーナの発言について尋ねられたクインシーは答えた。
生命に危険はない、との回答を得て、騎士団では手当をしないことにした。
押収した物品の中に、彼女の肌を回復できそうな物品はあったのだが、彼女にだけ与えるのは不公平、と判断したのである。
他にも同様の術を受けた貴族が、どれだけ存在するか知れないのだ。大事な証拠品でもあった。
あの書記官ホワイティも、行方不明の魔術師と連絡をとっていたと思われる。逃げ足の速さから推して、騎士団の中にまだ内通者がいるのは明らかだったが、残念ながら引っかかったのは彼だけだ。
彼は魔術師との連絡も、仲間がいることも、頑として認めなかった。内通者が、それぞれ独立して存在することはありうる。
ホワイティは引き換えのように、ウェズリーにアデラの動きを流していたことを認めた。
「運悪く除籍されましたが、ゴールト伯爵家の血筋ですからね。たかが平民出の、虎女なんかに」
と宣って、同じ騎士団の取調官に殴られかけたそうである。これは、その時立ち会った書記官が言っていたことだ。
すっかり忘れていたが、アデラは見た目がまるっきり人間の、獣人なのである。
ちなみに、クインシーが美容に良い成分を発見したきっかけは、世話をしたハルピュイアだったという。
元々は、マクスウェル少年が買ってきたのだが、すぐに飽きて、執事に処分を丸投げした。困った執事が、クインシーの存在を思い出して、引き取ってもらったのが始まりである。
そのハルピュイアとクインシーは、良好な関係を築いていたらしい。
「ナオミは、いい女でした」
追憶に浸る彼の瞳には、涙さえ浮かんでいた。騎士団に襲いかかった鳥とは、別物である。ナオミ=ハルピュイアは、寿命を全うして亡くなったのだ。やり過ぎたのかも知れない。
もちろん、マクスウェル少年も、騎士団に呼び出され、オーディントン副団長から説諭された。
少年と言っても、王宮に職を得て、一人前に働いているのだ。
貴族として、屋敷で起きた事には監督責任がある。
とはいえ、クインシーを罪に問うのは実のところ、微妙だった。行方不明の魔術師に至っては、なおのこと難しい。
魔獣を原材料に使うこと自体は、違法ではない。慣習として、人面タイプ、直立二足歩行タイプに対しては、他の魔獣に比べて、人間に近い扱いをしているだけである。端的には、その肉を食べない。
クインシーが最初に使った材料は、ハルピュイアの愛液なのだが、研究を進めるにつれて、血液や肉も用いるようになっていた。
実質、食べているようなものである。新発見を、大々的に宣伝しなかった理由の一つと思われる。
患者には説明していたと言うが、毎回ではない。そもそも、一回摂取したら、定期的に補充しないと効果が続かないと言う説明も、施術前に必ず行っていた訳ではないようだった。
クインシーと彼らの間では、施術時に書面の契約を取り交わしていなかったのだ。
そこで、アデラは、医療行為における説明義務違反と、無許可で危険生物を飼育していたことを理由に、処罰する書面を作成した。思いっきり、後付けである。
「あの時点では、まず証拠を押さえる必要があった。ホワイティ以外にも、ネズミがいて、先回りされたら終わりだった。現に、ヒンクリーには、逃げられた」
「あれは、ウェズリーが捕まった時点で逃げていたのだろう。その時点で逃げなかったのだから、アンヴィルの方は、もっとゆっくりでも良かったのでは?」
ジョナサン=ヒンクリーは、クインシーに美容手術をやらせた魔術師で、コンクエスト卿の弟子筋に当たる。
あまり能力は高くなかったようだが、貴族出身の人脈を駆使して顧客を増やしたのだ。
能力の低さゆえに、リストからは漏れていた。だが、元王妃側と接触した可能性がある。
アデラがシルヴァン邸を急襲したのは、そちらが真の狙いであった。
ミラベル元妃が、幽閉されて大人しくしているとは、姫もアデラも考えていないのだ。
ゴールトを焚き付けてアデラを襲わせたのも、あわよくばアデラを引退させて、姫の勢力を削ろうとの思惑、と思っている。
俺が思うに、アデラを引退させたいのは、元王妃だけとは限らないのだが。彼女の団長歴も相当に長い。
「本人が逃げずとも、消されたかも知れない。若干、拘束根拠が薄弱ではあるが、やって良かったと思っている」
そう言われれば、なるほどとも思う。
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